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壱.【工藤家の怪異①】オンライン除霊の章
助けてほしい
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「ぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱ」
歩望が白目を剥いて、ぽっかり口を開けて、こわれたスピーカーみたいに声を出す。
ゴロンと転がって「ぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱ」と声を出し続ける。
「歩望ぅ!」
あたしは弟のちいさな体を抱き起こした。
気持ち悪いくらいひんやりとした、イモリやカエルみたいな感触の体。
「歩望、歩望ってば!」
頬を叩いて呼びかけても正気に戻らない。
あたしは弟を抱きしめた。胸のあたりがこそばゆい。口元を押さえられても歩望はあの声を出し続けている。
(やめて、もうやめてよぉ……!)
あたしはボロボロ泣きながら、ひたすら弟を抱きしめた。
……一時間後。
リビングで、もう一度ビデオ通話を起動させた。
腕の中には気を失った歩望。
片手でリモコンを持って音声で操作する。
通話の相手が映った。
申し訳なさそうな顔の、拝み屋が。
『工藤さん。さっきは本当に失礼しました……どうしました?』
「……桃吾くん」
両目から涙が勝手に出てくる。歩望の青白い顔にしずくが落ちた。
「ごめん、お願い、ごめん……」
『工藤さん?』
「助けて……!」
心霊現象のこと、両親には言えない。
命を懸けて病気の人たちを助けるふたりに、余計な心配をかけたくない。
あたしが守らなきゃ。
弟も、家も、あたしが、あたしの責任で——
(でも、あたしだけじゃ、無理だ)
どうか助けて、と頭を下げるあたしに桃吾くんは優しく言った。
『工藤さん。顔を上げて、どうか謝らないでください。あなたは何も悪くない。幽霊に取り憑かれたのはあなたたちのせいじゃないんです』
静かだけど、力強い声。桃吾くんがあたしを励ましてくれる。
『今の僕のすべてを総動員して、あなたたちを助けます』
はっきりと断言されて涙が止まった。
信じてもいいんだろうか。
ううん、信じるしかない。
「うん、分かった——」
『——お待ちください、兄上!』
突然会話に割り込んだ声が、あたしの返事を遮った。
画面に、あたしと桃吾くんの他にビデオ通話の三人目の参加者がいる。
え? 誰?
その人のカメラはオフになってるのか、姿は表示されない。
『……李夢か?』
その人の画面下に、『塔李夢』と書いてあった。
『そうです。ご無沙汰しております、兄上。そしてお初にお目にかかります、工藤さん。兄上、どうか考え直してください。オンライン除霊など成功するはずがない!』
桃吾くんの妹、李夢ちゃんは、えらくカタいというか、武士みたいな口調でお兄さんに言った。
『うまくいくかどうかは、やってみなければ分からないだろう』
『火を見るよりも明らかです。除霊に重要なのは幽霊の正体を見極めることなのに、それをせずにただ追い祓うなんてできる道理がありません』
『だが、一刻も早く手を打たないと、状況は悪化するばかりだ』
『それは承知しておりますが、とにかく自分は反対です!』
当のあたしを放置して、桃吾くんと李夢ちゃんは言い争いはじめた。
えー……何これ。
もしかして、この霊媒師兄妹……
仲、悪い?
歩望が白目を剥いて、ぽっかり口を開けて、こわれたスピーカーみたいに声を出す。
ゴロンと転がって「ぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱ」と声を出し続ける。
「歩望ぅ!」
あたしは弟のちいさな体を抱き起こした。
気持ち悪いくらいひんやりとした、イモリやカエルみたいな感触の体。
「歩望、歩望ってば!」
頬を叩いて呼びかけても正気に戻らない。
あたしは弟を抱きしめた。胸のあたりがこそばゆい。口元を押さえられても歩望はあの声を出し続けている。
(やめて、もうやめてよぉ……!)
あたしはボロボロ泣きながら、ひたすら弟を抱きしめた。
……一時間後。
リビングで、もう一度ビデオ通話を起動させた。
腕の中には気を失った歩望。
片手でリモコンを持って音声で操作する。
通話の相手が映った。
申し訳なさそうな顔の、拝み屋が。
『工藤さん。さっきは本当に失礼しました……どうしました?』
「……桃吾くん」
両目から涙が勝手に出てくる。歩望の青白い顔にしずくが落ちた。
「ごめん、お願い、ごめん……」
『工藤さん?』
「助けて……!」
心霊現象のこと、両親には言えない。
命を懸けて病気の人たちを助けるふたりに、余計な心配をかけたくない。
あたしが守らなきゃ。
弟も、家も、あたしが、あたしの責任で——
(でも、あたしだけじゃ、無理だ)
どうか助けて、と頭を下げるあたしに桃吾くんは優しく言った。
『工藤さん。顔を上げて、どうか謝らないでください。あなたは何も悪くない。幽霊に取り憑かれたのはあなたたちのせいじゃないんです』
静かだけど、力強い声。桃吾くんがあたしを励ましてくれる。
『今の僕のすべてを総動員して、あなたたちを助けます』
はっきりと断言されて涙が止まった。
信じてもいいんだろうか。
ううん、信じるしかない。
「うん、分かった——」
『——お待ちください、兄上!』
突然会話に割り込んだ声が、あたしの返事を遮った。
画面に、あたしと桃吾くんの他にビデオ通話の三人目の参加者がいる。
え? 誰?
その人のカメラはオフになってるのか、姿は表示されない。
『……李夢か?』
その人の画面下に、『塔李夢』と書いてあった。
『そうです。ご無沙汰しております、兄上。そしてお初にお目にかかります、工藤さん。兄上、どうか考え直してください。オンライン除霊など成功するはずがない!』
桃吾くんの妹、李夢ちゃんは、えらくカタいというか、武士みたいな口調でお兄さんに言った。
『うまくいくかどうかは、やってみなければ分からないだろう』
『火を見るよりも明らかです。除霊に重要なのは幽霊の正体を見極めることなのに、それをせずにただ追い祓うなんてできる道理がありません』
『だが、一刻も早く手を打たないと、状況は悪化するばかりだ』
『それは承知しておりますが、とにかく自分は反対です!』
当のあたしを放置して、桃吾くんと李夢ちゃんは言い争いはじめた。
えー……何これ。
もしかして、この霊媒師兄妹……
仲、悪い?
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