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第十四局【師団名人戦編①】

17巡目◉橘の恩返し

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 準々決勝の左田純子は圧倒的だった。
(ジュンコさん絶好調じゃない。強すぎるなぁ。これが決勝じゃなくて良かった)
《今は二着でも良いわけですからね。なんとかして猿山プロをまくりましょう》
 左田純子はプロ歴は長いがほんの数年前までノンタイトルだった。それがこの数年間で雀聖位を含めた数々のタイトル戦で好成績を残し、仕事の方では編集長になり、更に自分の趣味を目一杯詰め込んだ新しい雑誌『月間マージャン部』まで作るという夢も叶えて、今まさに左田純子の人生は絶好調だった。
(積み重ねてきた努力がやっと形になって返ってきた)と左田は最近そう思うことが多いと感じていた。
 この半荘は『純全帯么九ジュンチャン』を東場に2回もアガってあっという間に場を制圧。
 左田は三色が得意である他にも純チャンが好きという傾向もある正真正銘の手役派雀士だった。
『純子の純チャン』が決まる時、左田の勝ちを防げる者は居なかった。ましてそれが2発ともなれば。
 二着争いは大接戦の数千点差の攻防を繰り広げる財前カオリと猿山和寿。一応、現状二着は猿山だ。カオリとの点差は1100点。

 左田はもう準決勝進出確定の持ち点を持っているのでアガりに来なくてもいい。二着争いを眺めているだけでいいのだ。だがしかし、またしても左田の手が倒された。

「ロン」

一一一一二四四六七八九九九    ドラ九

「16000」

「メ… メンチンドラ3…」

 放銃したのは橘浩樹だ。ついに橘は持ち点がマイナスに突入。しかし、残酷なようだがこの大会にハコ割れ終了ルールはない。ルールのおかげでカオリはまだ二着逆転のチャンスが残った。そして迎えたオーラス。

橘手牌
一一六七八②③④⑤⑥789 ドラ一

 ピンフドラドラの3面待ちだ。絶好のテンパイではあるが、意味はまるでない。これをリーチして一発と裏ドラ2枚があるとしても二着逆転にはならないのだ。橘の師団名人戦はここでおしまい。しかし、

(まだ、やれることはある。おれはもうおしまいだけど、誰を二着にするかはコントロールできるんだぜ、猿山ァ!)

カオリ
打①

 橘はこれをスルー。
(財前さん、これで貸し借りなしです。おかげで初めて参加した大会でこんなに上まで勝ち上がれて楽しかったです。ありがとうございました)

──数巡後

「ツモ」

一一六七八②③④⑤⑥789 ④ツモ

「1300.2600」

 猿山プロは2600の親っ被りで200点差三着に転落。

(橘、コイツ…)
(へっ、口は災いの元ってな。恨まれた自分がわりーんだぜ、先輩)



財前カオリ、左田純子
準決勝進出決定!
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