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第十二局【雀聖位編】

11巡目◉Aの住人

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「ロン」
「っぐ!」

左田手牌
二二二三四伍⑥⑥45567 6ロン ドラ7

「3900は5400」

 左田のダマが炸裂。河野の放銃だ。

 南場になりついにこの半荘初のアガリが発生した。というのも東場はリーチ主体で大きく攻めてリードを手に入れて、南場はアガリの確実性を重視したダマを多用していくというのは麻雀のセオリーであるので南場にロンアガリが出るようになるのは必然的なことであった。
 ただのタンヤオドラ1だが親で五本場で供託4000点だったので9400点の加点(内リーチ棒2本は自分が出しているのだが)このアガリはとても絶妙だった。親でリャンメンだしリーチで構わないと思いながらも(いや! 五本場で供託5000なんてなれば親リーチの圧をかけてもムダ。全員なんとしても取りに来る! そういう奴らだ。なるべく静かに… 悟られずに… 確実にこれをアガるんだ。ここは、意を決してダマ…!)

 左田純子はこのファインプレーにより2回戦はトップ。2着にはユウが滑り込み、3着マナミ。ラスは河野という並びになった。この次元の麻雀になると一度凹んだやつはなかなかアガらせてもらえない。ラスはラスのままになっておけ、と言われてるような扱いを受けてしまう。南1局に放銃したほんのザンクの失点が河野勇一郎の2回戦を決めた敗着となるのだった。


 休憩を挟んで3回戦。

トータル順位は

財前真実
佐藤優
左田純子
河野勇一郎

の並びとなっていた。

  この3回戦にトップを取れなければ河野の優勝はまずない。もはや崖っぷちに立たされている。しかし、それで焦るような河野ではなかった。そこはさすがのA1リーガー。
 愚形を払い、上家から鳴けるドラが打たれるが焦った仕掛けはせず、じっくり作っていく。

「リーチ」

(落ち着いて、いつもと同じことをしていくのが一番強い。それこそ、最強。なぜなら俺は日本プロ麻雀師団のA1リーガーだからだ)という自信があった。

「ツモ」

河野手牌
三四⑤⑥⑥⑦⑦⑧34588 二ツモ ドラ5

「2000.4000」


(フゥン。焦りを見せないわね。そこはさすがと言ったところかしら。河野プロ。名前くらい覚えておいてあげるわ)とユウは思った。準決勝では名前も顔も覚えなかったが、改めてなかなかやる。と決勝まで来て肌で感じた。

《鳴ける牌をスルーしてのこの満貫は大きいですね。ドラチーしてのテンパイは取りそうなものですが》
(さすがはAの住人ってことかしら。Aリーグは魑魅魍魎ちみもうりょうの棲家って言うからね)

「…なんか。不思議だな」と野本夏実の父が言った。
「何が?」
「いや、おれはさ。なんだろうな、おれの価値観だとさ、麻雀って暗いし、ギャンブルだし、基本的には悪い事に属するもので。趣味は? と聞かれて『麻雀です!』とは言えない。大好きだけど秘密。そんな内緒の遊びなんだよ。でもさ、ここに集まってる人達からはアスリートのそれにも似た熱を感じるし、おれの知ってる小博打の麻雀とは世界が違うっていうか。こんな人達が居たんだなぁって。もう、言葉にならない感動をしたよ。今日は付いてきて良かった。競技麻雀… とんでもなく熱いな!」

「そうでしょ! アスリートに似てるっていうかアスリートなのよ。実際私なんか2時間も麻雀すると半日ご飯を食べてないくらいの空腹感に襲われるわ。とにかく、もっと広まるべきなの競技麻雀は! お父さんも分かってくれて嬉しいわ」

「…応援するよ、これから。お父さんが手伝えることはできる限りアシストする。今日、気付いたよ。麻雀の可能性。もっと競技麻雀を広めような!」


「…ツモッ!」

 オーラスも河野がツモアガり3回戦は河野がトップ。こうなると全員に優勝の目がある。

 ついに決勝4回戦。最終ゲームが最も熱い展開で始まろうとしていた。
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