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第十二局【雀聖位編】
1巡目◉邂逅
しおりを挟むマナミの対局相手は現雀聖位の左田純子だった。彼女は出版社で働く傍ら休日は趣味で競技麻雀もやり、好きが高じてプロになり、出版社での仕事も評価され、今や編集長にまでなった凄い女性だ。彼女には『自分じゃなきゃ作れない雑誌を作りたい』という大きな夢があり、漠然とだがそのためにはまず編集長にはならないとと思っていたので、こうして編集長になった今、次の課題は(どんな雑誌がいいだろうか?)ということだった。
何となくだが、自分が上手く書けることは結局麻雀のことになるのではないだろうか? そんな思いがありながら、売れるものを作れる自信はイマイチなくて、その案は提案出来ないでいたのだ。
ちなみに、プロリーグに無関心なマナミでも左田純子の名は知っていた。去年の雀聖位戦の優勝で『現代麻雀』の巻頭カラー&インタビューになって6ページほど使われていたからだ。それは長年編集者として『現代麻雀』を支えていた人物だから特集されたのかもしれないし、それとは関係無いのかもしれない。でも、その記事が面白かったのは覚えていた。物書きができる人はトークも面白いのかー。と思いながら読んだものだった。
(対面のこの人… 左田純子だ。雀聖と対局か… 上家は竹田慎一… 聞いたことあるけどなんだっけ…… 一般からの推薦選手か…………… あっ!! アンのいとこだ! プロ棋士の! こんな所で会うなんて。下家はプロ推薦枠から勝ち上がった人か…… 佐々木剛太? 名前だけは知ってるけど、まるで金剛力士像みたいな人ね。強そうだわ… ふふ、ふふふ、燃えるじゃないの。さすが、雀聖位戦の準決勝ね! 最高よ!)
試合開始
東家 佐々木剛太
南家 左田純子
西家 竹田慎一
北家 財前真実
東1局の4巡目にマナミに選択の時があった。
北家
マナミ手牌
二三六八②③④⑤⑥⑦46西 南ツモ ドラ⑤
一見するとなんて事ないリャンシャンテンだ。ここに南なんて不用牌でしかない。しかし、その時にマナミの目がギラリと光る。
東家第二打西
南家第一打南
西家第一打北
マナミの選択
打西
(西家が第一打に北を切るのは非常に当たり前だ。でも、南家が最初っから自分の風を切り出すのは危険信号! 少なくとも西家よりはいい配牌が入っているはず。いきなり攻めてくる可能性が高いのは西家より南家だから残数は同じでも南家の現物の南を残しておくのがこの場面の正解! 親の現物は無いわけじゃないし。それに多分親は遅いでしょ)
ラーシャは思った
(〈こんな細かい選択もきちんと迷わず正解するようになったんですね… マナミ、本当に強くなって…〉)
5巡目
南家
左田手牌
二四四④⑤⑥⑦⑧⑨46西西 5ツモ
(バッドタイミング! 直前で西が枯れてしまったか。1枚残ってればこのドラ1リーチは西が拾えそうな手だからリーチしたのに… やるわね、小娘)
左田は仕方ないから打四のダマを選択。三色変化も見つつの手だ… しかし。
6巡目
左田
ツモ四
(カッチーーーン! あの西さえ見えてなければ一発ツモだったじゃないのよ! 頭来たー! ……なんて、熱くなってツモ切りしてるようじゃあ素人なのよねー。私は違うわ)
左田は冷静に手の内の四を摘んできた。
そしてそれをそっと横向きに置いた。
「リーチ」
手出し四の2枚落とし。
(これなら三は死角になるんじゃない?)
マナミは(やっぱり来たか)とばかりに打南として一発を回避。
佐々木がそこに2巡後打三で放銃
「ロン。2600」
左田手牌
二四④⑤⑥⑦⑧⑨456西西 三ロン
静かな、たった2600点の横移動に見えるかもしれない。しかし、その内容は凄まじい精度の手順と読みが交じり合った高度な1局からスタートしたのだった。
この半荘はまるで、やっと巡り会えた恋人のような。千年の時を超えてついに目覚めた愛のような。そんな感動すらした勝負だった。それがこの西→南の切り順であったと後に左田純子は牌譜を読み返して自分のエッセイで語ることになる。
さらにそれは偶然ではなく理論的に解析しての選択であったとマナミに聞かされた時は驚きと尊敬のあまり、マナミの麻雀に惚れてしまった。この西がきっかけとなり左田は財前姉妹や麻雀部に興味を持つようになる。
たった一打が熱い! ただ一巡が輝いている! そんなことがあるのが麻雀ーーそれを教えてくれたのはまだ19歳の女の子でした。
左田純子『邂逅~雀聖位戦の記憶~』より
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