上 下
141 / 297
第八局【運命の雀荘編】

10巡目◉ダイヤモンド

しおりを挟む

 井川ミサトが今日は『ひよこ』に打ちに来た。
「お、いらっしゃいませ新人王さん。最近来てなかったじゃない、珍しいね」と店長に話しかけられた。
「もう、新人王はやめてください。ここではただの井川美沙都です。今日はバイトが14時までだったので半端に時間出来ちゃったんです」
「あー、そういえば小宮山君の所でバイト始めたんだっけ? 大丈夫? 頑張ってね♪」
「ありがとうございます。割と楽しくやってますので大丈夫ですよ。みなさん良い人なので」

「それなら良かった」

 そう言うと店長は卓におしぼりを用意して、電源を入れた。

『ゲーム、スタート』
 卓の電子音声が早く始めろとばかりにスタートだと声を上げる。

「じゃ、とりあえずやろっか!」
「そうですね」

————

 一方、麻雀部では野本ナツミの参入以来三人麻雀が流行っていた。
 近頃では4人集まっても三人麻雀サンマをする程のハマりっぷり。更にそこに白ポッチ(ジョーカーのような役割をする牌。白にハンドドリルで穴を堀り、穴を赤く塗ったものを使用)を入れるなどもして様々なルールを楽しみながら研究した。麻雀は公式の王道ルールと言えるものが存在せず、公式ルールブックなどはないし、もしそれを作った所で個人店がそれに従う必要はないため浸透しないのは分かりきっている。なので様々なルールがあり、それがまた麻雀を奥深いゲームにしている。
 そして、麻雀部は研究することを常に意識していた。ただ麻雀するのではない。遊びながらも新たな考え方、発見されていない道。今あるものの欠点などを探ることをやめない。そういう研究をする会なので今まで触れていなかった三人麻雀には新しい発見がたくさんあり面白かったのだ。

「今日のルールは白ポッチ永遠制でやろう」とユウが提案した。
「永遠制?」
「そう、いつもの白ポッチはリーチして一発目のツモ番のみオールマイティになるルールでしょう? でもね、リーチ後はいつツモってきてもオールマイティに取れる永遠制というルールもあるのよ」
「麻雀ってほんとに色々なルールがあって研究に終わりが来ないね」
「ほんとね」


東家 野本ナツミ
南家 佐藤ユウ
西家 中條ヤチヨ

抜け番 三尾谷ヒロコ

東1局から大物手がヤチヨに入る。

「ツモ!」
ヤチヨにしては力強い発声

ヤチヨ手牌
②②②③③④④④567西西 西ツモ ドラ西

「リーヅモ西シャー三暗刻サンアンコードラ3… 裏3!」

「なにそれ! いきなり三倍満?! まあでもサンマじゃあることか」
 親被りをしたナツミはそれでも冷静に次局は仕掛けて白ドラ1の2000をユウから出アガる。

 次の局はユウがヤチヨからメンホン赤の満貫をアガる。そして迎えた南1局。ナツミの配牌は揃っていた。

ナツミ手牌
②②⑧⑧22448899白発 ドラ②

 配牌で既にチートイツドラ2のテンパイをしている。第一打でリーチを宣言出来る『ダブルリーチ』状態である。問題はどちらに受けるか。普通ならハツ単騎にすべきだ。なぜならこのルールでは白ポッチ永遠制を採用しているのだからハク待ちにしてしまうと待ち牌の枚数がツモの時に限り1枚少ないということになる。発単騎にしたら発3枚+白ポッチの4枚がアガリ牌となるのだ。その1枚差は大きい。

 と言うことくらい理解するのはわけないのがこの麻雀部という面々だということをナツミはもう分かっていた。
 
 なのでそこでナツミの選んだ単騎は…

「リーチ」

打発

 裏をかいての白単騎!

(リーチに少しの間があったわね。待ち選択かしら? ダブリーはリーチかダマかで悩むことは少ないし。テンパイ理解に時間がかかるような素人でもないし、そして発切りリーチということは単騎選択の可能性が高そうね… 悩ましいけど発よりもいい待ちかな? と思えそうな待ちとは? 中張牌チュンチャンパイのノベタンとかかな? なんにしても…)
「これだけは無い!」

打白ポッチ

「ロン!」

ナツミ手牌
②②⑧⑧22448899白 ポッチロン

「裏2で24000!」

「なっ?」
「セオリーを理解する人には絶対に安全に見えましたよね。そう読むだろうと信じてました」

 この作戦は絶妙だった。リーチ判断の時の選択の『間』の取り方。相手の雀力や守備判断力。そして、ツモ損するルールという点も加味した出アガリの為の身を切る罠。

「こういう罠を思い付くこと、今までは無かったです。相手のレベルも要求されますし。本当にこの麻雀部に入って良かった。今までよりもっともっと麻雀が楽しいです!」

 輝く天性の才能同士がぶつかり合ってお互いを磨いていた。それはさながらダイヤモンドがダイヤモンドでしか削れないような。最上の選手同士の手合わせでしか誕生しない高等戦術が水戸の片隅にある民家で人知れず生み出され続けていた。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

秘密のキス

廣瀬純一
青春
キスで体が入れ替わる高校生の男女の話

奇妙な日常

廣瀬純一
大衆娯楽
新婚夫婦の体が入れ替わる話

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

兄の悪戯

廣瀬純一
大衆娯楽
悪戯好きな兄が弟と妹に催眠術をかける話

処理中です...