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第伍局【少女たちの挑戦編】
6巡目◉戦術書
しおりを挟むその日、バイトから帰ってきたカオリは家に誰もいないことを確認するとキーホルダーをツンとつついた。
「ねえwoman」
《なんですか?》
「マナミが伸び悩んでる感じがするんだけど、何かアドバイスできないかな」
《ラシャの付喪神様は無言みたいですからね。ちょっと間違ってるとお知らせしてくれるだけで基本的にはマナミさん自身に任せてますよね》
「何か効果的な練習メニューとかないの?」
《そうですね、私なら……》
「私なら?」
《自分オリジナルの戦術書を作ります》
「自分で?! そんなこと出来ないよ!! 未熟も未熟。私たちはまだ素人みたいなもんなのに!」
《何言ってるんですかカオリ。あなたもマナミさんも今はもう競技団体に所属している、まごうことなきプロなんですよ。忘れたんですか?》
「そ、それはそうだけどぉー」
《やってみればカオリには出来るはずです。カオリは文章を書くのは得意じゃないですか。マナミさんにも書き方のコツを教えながら2人で作ってみたらいいんです。やり始めればきっと楽しいですよ。日記だってカオリは楽しそうによく書いてるじゃないですか》
「例えばどんなことから書いたらいいかな」
《そ……
(あ、消えた)
カオリは再びキーホルダーをツンとつつく。
「で、例えばどんなことから書いたらいい?」
《そう言うのはまず自分で考えるから意味があるんですよ、カオリ。でも、強いて言うならまずは基礎からじゃないですか? 私ならスタートは基礎から。確実で、それでいて出来ていない人もたくさん居そうな。そんな自分の中で一番気をつけてる『構え』から入るかもしれませんね》
(ふむ、なるほど)
「ありがとう、woman。マナミと一緒にちょっと考えてみる!」
《これでマナミさんが一皮剥けるといいですね》
「うん!」
するとロフトの奥から〈ありがとう…ございます〉と艶のある、womanとはまた違う別の声が聞こえてきた。
「もしかして、ラシャさん?」
〈はい。はじめまして。私はラシャの付喪神です。カオリさん、あの子をどうかよろしくお願いします。超能力とかは好まない子なので私は出しゃばることは出来ません。でも…… あの子に勝って欲しい…。優しい、私の大好きなあの子に〉
「まかして! 私もマナミのことは大好きだから!」
〈ありがとう〉
「……そう言えばwomanと違っていつでも喋れるのね」
《あ、本当だ》
〈私も初めて話したいと思ったら話せただけなんで、仕組みは分かりません…〉
《私は伍萬だけの付喪神ですから。付喪神の中でもかなり弱い力しか持たないのかもしれませんね。考えたこともなかったですけど》
「ふうん。私の愛情が足りないのかと思った」
《カオリの愛情は充分だと思います。大事にして頂いてとても感謝しておりますよ》
「そっか、へへ」
————
その日から、カオリとマナミの麻雀戦術書作成がスタートした。
これが少しずつ形を変えて最後には後の世に永遠に語り継がれる最強の戦術指南書になっていくとはこの時はまだ誰も予想もしていなかったのだった。
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