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第四局【プロ雀士編】
10巡目◉前の持ち主
しおりを挟む井川ミサトはあえて自転車通学をすることで肉体を鍛えていた。電車とバスで行けばいいものを常に自転車で行動して肉体強化トレーニングを日々の暮らしの習慣に取り入れていた。
高い守備力は高い集中力から生まれる。集中力を欠かさないためにはまずは体力だというのがミサトの出した答えであった。守備のスペシャリストである【護りのミサト】の点箱は金庫と言われる程、一度手にした点棒は出さない。ミサトから引き出すにはツモるしかないと皆がそう思うくらいにはミサトの守備は堅かった。
ある夜、ミサトがトレーニングで走っていたらカオリがいた。バイト帰りだろうか。
話しかけようとしたが、カオリは誰かと話していた。ケータイで通話中だろうかとも思ったが両手は上着のポケットだしイヤホンもしてない。
(誰と何を話してるんだろう)
なんだか怖くなって聞けなかった、それにカオリは楽しそうに話していたので放っておくのが一番かもと思って空気の読めるミサトは見なかったことにした。
でも、いつかはこの日のことを教えてもらおうと思ったのだった。
————
カオリはその日、赤伍萬キーホルダーの前の持ち主のことをwomanに聞いていた。
「ねえwoman。あのキーホルダーを私にくれた彼はどんな人だったの?」
《ああ、彼はねえ。面白い人でしたよ。とっても足が速くてね。麻雀も速度と手数で勝負するタイプでした。韋駄天なんて呼ばれてて。麻雀も人間性も良かったです》
「へぇ。好きだったんだ」
《ちょ、カオリ。私は付喪神ですからね? でも、まあ。うん…… 少し考えが足りない所やヤンチャな部分もありましたが、基本的にはとても善良で、虫も殺さないくらい優しくて。そんな彼が…… うん、大好きでした》
womanの姿は見えない。だが、カオリには自分の隣に恋する乙女がいるように思えた。
《彼に会うまでは私はただの牌でした。魂は宿らず、そこに遊びの道具としてただ居た。1枚の牌》
「そうなんだ」
《でも、私がいた店は閉店してしまうんです。それでそこのマスターが彼に私をキーホルダーに加工して店とのお別れの時に、この『仲間』という意味を持つ『伍』の牌を選んで渡してくださいました。マスターは元は国語教師でしたからこの字の持つ意味を知っていたんでしょうね。そういう思い出の牌だったんです》
「そんな大切なものを貰って良かったのかな」
《彼は麻雀を広めたいという思いを持っていましたのでカオリに託したんじゃないでしょうか。いい勘をしてますよね。完全にバトンを受け取っているじゃないですか。おかげでカオリは麻雀をするようになったし、付喪神を顕現させる程カオリは私を大切にしてくれました。彼だって私を顕現はさせてないのに》
「ふふふ、帰ったらまた綺麗に磨いておくね。神様」
《ありがとうございます、カオリ》
womanの過去を知り今まで以上に牌を大切に丁寧に管理するようになったカオリなのであった。
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