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第四局【プロ雀士編】
9巡目◉生きがい
しおりを挟む《最近腕を上げてきましたね。カオリ》
「そうかな、私には分からないけど」
《うまくなってきてますよ。相手の癖なども把握しているし対応力が付いたように見えます。カオリは敵戦力を見極める目を持っているんですね》
「褒め過ぎだよ」
バイトあがりの帰り道、上着のポケットに入れた赤伍萬を握りながら歩く。
雀荘には赤の予備牌がたくさんあるのでマスターに断って1枚貰った。素直に「赤伍萬が好きなので1枚貰っていいですか」とお願いした。「たくさんあるから別にいいけど、1枚だけあっても仕方ないだろ」と言われたが「部屋に飾ります」と言いごまかした。本当は1人の帰り道に一緒に話す友達が欲しかったのだ。まあ、womanは友達というか神様なんだけど。
《今日のチーなんて素晴らしい発想でしたよね。アガリに向かうつもりではない鳴きをするなんて》
「ああ、親の一発消したやつね。あれはだってああでもしないと……」
《わかりますよ、仕掛けていた下家を応援したんですよね》
「そう! さすがwoman!」
《親のリーチの一発にはさすがに勝負は効率が悪いとし仕掛けた下家がオリを選択してしまうというパターンになることを嫌ったんですよね。そこでカオリが一発消し。あのチーからは下家への(一発は私が無理矢理消したからアナタはオリないで頑張って! お願い! 一緒に戦って!)という願いが聞こえるようでした》
「womanは全部わかってくれるんだね」
《ふふ、神様ですからね》
「そうでした」
カオリは夜道を歩く時はこうしてwomanとずっと話しながら歩いた。その方が誰かと話していると思われれば変質者対策としても機能し安全だとも思ったし、何より神様との麻雀の会話は本当に楽しかった。
————
一方、その頃。スグルの方は店が大盛況していて日暮里の2号店に続き3号店をオープンさせようかという話があった。スグルは目の回るような忙しさというものを初めて体験して、大変な思いをしていたが、同時に仕事にやりがいを感じてもいた。
「萬屋さん、おれこの仕事場、やりがいがあって好きかもしんないです」
「そうか、やりがいね」
そう言うと萬屋マサルは少し嬉しそうに笑った。
「萬屋さんも、この仕事が好きなんすか?」
「そうだな、おれはこの仕事にやりがい以上のものを感じている」
「やりがい以上?」
「ああ、言うなら“生きがい“だな。おれは自分の仕事に“生きがい“を感じている」
落雷のような衝撃。仕事に対して生きがいを持つ。そんな人がここにいるという事実。ただの雀荘の、いちメンバーがである。
佐藤スグルにはその一言が強烈なインパクトだった。
おれもいつか、自分の仕事を生きがいだと言える人になりたい。
そう思ったスグルだった。
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