6 / 6
西団地いちの漫画オタク
最終話◉ヒロイン
しおりを挟むユウは引っ越して行った。
別れ際に最後強く抱きしめた。ユウの家族が見てた、兄さんの視線がすごかったけど、もう最後だからそんなの気にしてられなかった。
ユウは僕の胸の中で泣いてた。丁度いい所にオデコがあったので僕はオデコにキスをした。初めて自分の方からしたキスだった。
僕の方からキスしてきたのでユウが驚いて、そのあとちょっと微笑んだ。勇気を出した甲斐があった。
僕らの別れ際の言葉はさよならでもありがとうでもなかった。そんな大人みたいなセリフは出てこなかった。車の窓から顔を出してユウはスゥっと息を吸い込むと大声で
「天馬くーーーん!! 好きーーーーー!!」と思い切り叫んだ。こんなに大きな声を出したユウは初めて見た。
僕も思い切り
「僕もーー!! 好きだーーーーー!!」と叫んでた。涙を堪えながらだったから声が震えてた。
ユウを乗せた車はすぐに見えなくなった。僕はその場から2、3歩動くとフラフラっと道の脇のレンガ作りの壁に寄りかかってズルズルとしゃがみ込み膝を抱えたまま10分くらい動けないでいた。
それから5年後
僕は無職だった。佐藤家の倉庫で出会った麻雀漫画がきっかけとなり高校時代に麻雀にハマり自分は麻雀を仕事にしたいと思って進学せずに雀荘に就職したが、やりたかった雀荘での仕事もオーナーの考えに1ミリも同意出来ないのが辛すぎて半年ももたないで辞めていた。 次はどうするかとボンヤリ考えながら池袋の喫茶店でナポリタンを食べていたらユウを見かけた。
あちらも見つけてくれて近寄ってきたが僕は嬉しすぎたことや突然のことに動揺してしまい何を喋ったかわからない。
ユウは忙しそうだったので時間もなかった。連絡先交換くらいしておくんだったとその時すごく後悔して、その日は只今無職真っ最中のくせにすぐに適当な名刺を作成した。
牌戦士 泉天馬
*麻雀の仕事引き受けます*
こんな感じのに連絡先が書いてあり、名刺の裏に『牌戦士とは──麻雀に関する仕事なら全て引き受け、麻雀関連の仕事のみを生業とする者』とだけ書いてある、本当に適当な名刺だった。もし次に会った時サッと出せればなんでもいいと思った。
この喫茶店はユウが利用するのかと知ってバイト探しをしてた僕はそんな理由からそこで働いた。長くは続かなかったけど。だってそんな簡単に会える訳ないから。あとで冷静になった時自分はバカなことしてるなと思って辞めた。そもそも僕は牌戦士だ。畑違いな仕事はバイトであれやるべきじゃなかった。
だけどいまでも思い出す。あの日。もう中学生じゃないんだからケータイもあったのに連絡先交換すらしない慌てぶり。本当に悔しい。人生最大のミスだ。ユウに至っては最初から忙しそうに慌ててた。乗り換え電車に間に合わないとか。そりゃ仕方ないわ。
ただ、会えて良かった。変わらず綺麗だったのも嬉しい。それだけで、もう。
僕らはきっと同じくらい好きだった訳じゃないし、今はもっと夢中な何かがあるのかも知れない。
彼女にとっては二度と会えなくてもいいんだろう。実際、僕だって会えるなんて思ってなかったけどそれは何も問題無いことだ。
そんな中で偶然会えただけでも奇跡だし、その姿はまだ美しいままで、ありがとうとしか言葉はない。
もう、逢えないとしても。嬉しかった。
ありがとう、西団地のヒロイン
僕の心の、ヒロイン
了
11
お気に入りに追加
2
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
約束~牌戦士シリーズ短編~
彼方
恋愛
これは田舎の駅前雀荘で伝説化するほどの戦績を上げた男の、麻雀とは関係のないほんの1日を切り取ったもの。
よーく読んでみると牌戦士シリーズ2と繋がっています。
作画:野村カスケ
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました
加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる