コバヤシ君の日報

彼方

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第一部

第二十八報◉後付け読みの三元副露

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「速報見たわよぉ! ケンちゃんすごいじゃない!! 暫定首位なんて」
「まあ、そうは言っても1回戦のトップ以外は小さいし2着に至ってはヘコんでる2着だから役満やった割にはたいしたことないけどね」
「役満やったの!?」
「うん、四暗刻」
「そんな情報はどこにも無いわよぉ。代わりにものすごくマニアックな部分は記事にされてるけど」
「どんなこと?」 


 プロ麻雀師団リーグ戦速報

"新人プロ『小林賢』ギャラリー大勢背負う。

 今日から始まったリーグ戦でひときわ目立つ多くの観戦者を背負う選手がいた。小林賢。聞いたこともない名だ。
 調べてみたら今期からの新人だという。5人ほど後ろ見してる人がいるが? C2リーグの新人プロにギャラリー5人なんてかつて見たことのない光景だった。私だってそんなに背負ってたことないのに。
 どんな麻雀をするのか興味があり、私は6人目の観戦者になった。
 

南1局

小林手牌 北家
23456中中(発発発)(二チー四) ドラ①

 発のみの1000点。待ちはいい。このまま固定で押せば2副露して連チャンしようとしてるラス目の親を蹴るのに最適な手だ。あとはアガるのみというこの手格好から──

「ポン!」
打6

(何?!)

 11枚待ちの1000点を6枚待ちの2000点にしてどんな意味がある。この局の目的は親のアガリを邪魔することにあるはずだ。しかし。2副露してる親の手牌を覗き見て私たちギャラリーは完全にこの鳴きの意味を理解した。
 親の手牌はハク後付あとづけなのだ。
 確かに、親は焦った仕掛けをしたことで役がある程度限定されていた。しかしそれを白であると看破して三元牌を2種晒すことで白が絶対に打たれない場にしてしまうのはすごい。これでは親の連チャンは相当厳しい。後付け読みの三元副露。こんな戦略があるなんて。
 これを見て偶然だと思う人は多分このギャラリーの中にはいなかった。私自身もそうだ。それはこの小林という打ち手の所作。選択の正確性から、只者ではないことがヒシヒシと伝わるから。
 結局、白が鳴けない親はノーテンでラスのまま。その後もゲーム終了するまで浮上はできなかった。全てはあの中ポンである。
 
 プロリーグというのは天才の集まりであるが、では実際どんなものか、アマチュアとそんなに大差があるのかと言われると痛いところもある。しかし、見てくれ、この小林選手を。こんな戦略思い付く人あなたのまわりにいますか? これがプロなんだよ。と堂々と言える麻雀を見せてくれました。"

文:工藤強

「ほんとだ。こんなポンを取り上げるなんてかなりマニアックだね。でもまあ、書いてある通りだよ。ていうか、そんなにギャラリー居たんだな。集中してて気付かなかった」
「ケンちゃんはイケメンだからねぇ~。スキンヘッドのおっさんよりはギャラリーも背負ってて当たり前よね~」
「スキンヘッドのおっさん?」
「この記事書いてる人のことよ~。上野店には何度か来たことあるから知ってるわ。新人王も獲った実力ある競技プロよ。まあ、私の方が強いケド~」

(そういえばスキンヘッドのヤクザみたいなのいたな。場違いな奴がいると思ったんだけど、まさかあのナリで競技プロだったとは)

 小林はその後、工藤が仕切っている勉強会『工藤組』に参加しないかと誘われるが、なんとなくヤクザの構成員にならないかと言われてる気がして(勉強会の名前的に)忙しいのでまた今度。とやんわりと断るのだった。



 

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