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第一部
第二十四報◉楽しく遊べばいいんです
しおりを挟む本当に久しぶりの再会だった。
「長谷川さん!! 今までどうしてたんですか。おれ、心配で心配で。ああでも元気そうで良かった。また会えて良かった……!」
小林の心から心配していたのが伝わる表情に思わず春子はウルッとなる。
「小林先生ごめんなさい、心配かけて。実は私、骨折しちゃって。歳取るとだめね。骨は弱いし治りは遅いしで。でも、もう大丈夫だから」
「そうだったんですか。それは災難でしたね」
「ほんとよ。ほんの小さな段差に躓いただけだったのに、まさか骨が折れるとは思わなかったわ」
「もう復帰できるんですか?」
「それがね。私、ちょっとボケちゃったみたいでね。前みたいにパッパパッパ選べないのよ。何回も試してみたけど、だめね。認めるのは悔しいんだけど、私は老人性の記憶障害が始まったみたい。もう… フリーでは…… 遊べないわ………」
「ええっ?」
「今日はコレだけ渡して帰るつもりで来たの。ハイ、これ。小林先生にプロデビューおめでとうございますのプレゼント」
春子は小林に綺麗にラッピングしたプレゼントを手渡した。
「え、知っていたんですね、おれのプロ入りを。これは、なんだろう。今開けてもいいですか?」
「どうぞ」
小林はラッピングの紙を破かないように丁寧に開けていった。きっとこの紙ひとつとっても春子さんはじっくり考えて選んでくれたと思うと破いて開くことなんかできなかった。
「わぁ! 三元牌カラーのニットネクタイ!」
「さすが、すぐに気付いてくれて嬉しいわ。うちの旦那は『イタリア?』とか言って気付いてくれなかったけど」
「これ、春子さんのことだから手編みですよね。タグも無いし。まるで売り物みたいだなあ。いや、上手だ。ありがとうございますー」
そう言われて春子は嬉しそうに照れ笑いした。やっぱり作ってよかったなと心から思った。
「ネクタイ。明日のリーグ戦に着けていってほしいな」
「もちろん! 絶対着けて行きますよー。ところで今日は本当に打たないんですか?」
「今日はって言うより、もう、打てないのよ。言ったでしょ。ボケが始まったって」
すると話しを聞いていた手前の卓で打っていた達人級の腕前のお爺さんが話しかけてきた。
「なあ、おれの対面にいるこの石田のジジィはさ、おれとはもう半世紀以上の付き合いでよ。ここの店もオープンの時から一緒に打ってる腐れ縁だ。切るのおっそいし、別に強くはないよなあ」
「小田さん、なんの話ですか?」
「まあ、聞けよ。でもな。このジジィは20年前までは渋谷で1番強い雀士だったよ」
「「ええっ!!」」
「誰も知らないだろ。このジジィ、実は衰えてんのよ。それなりに打てるからまさかって思うよな。昔は鬼のように強くて憧れたもんだよ。なあ、石田さん」
「ああ~。もう昔の話だねぇ」
「おれは勝手についてった。弟子みたいなもんだ。結局、石田さんには勝てないまま、石田さんが衰えるって形で世代交代したが、おれは昔の石田さんほど強くはなれてない。気付いたらおれももうジジィだ」
「おだくんも歳取ったね~。髪真っ白になって」
「お互いな! でな、おれが言いたいのは、石田さんがなんかボケたんかな? ってなった時。みんな、びっくりしたけど、ただ、誰も嫌がらなかったんだ。今だって、みんな一緒に打ってくれる」
「ははは、ありがたいよ」
「そうですよ! 春子さん。記憶力が衰えたからってなんだっていうんですか。ここは遊び場です。鉄火場じゃないんだから。みんな楽しく遊べばいいんです。わからないことは教えてもらえばいいんです。ねえ!」
「そういうことよぉ! 春子さんが遅いとしてこの店の誰も文句言わないし、苛立つこともないんだからぁ」
「春子、私たちは本当にいい人たちに巡りあえたな。こう言ってくれてるんだ。また、ここで打とうじゃないか。先生の麻雀教室だって、たとえ覚えられないとしても、きっとその時は面白い。なら、それでよくないか?」
「そっスよ。ウチなんて低レートの遊びなんだから。なんも気にしないでいんスよ」そう言いながら神戸緋呂斗は卓の電源を入れた。もう春子を卓に入れる気だ。有無を言わさぬ手際の良さ、仕事ができる。
「皆さん…… ありがとう」
そう言うと瞳に涙をためながら春子は卓に着いた。
『ゲームスタート』
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