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不適切な友達 4
しおりを挟む「右肩の打撲と右手首の捻挫。後は擦過傷ね。全治一週間って所だね。はいもう一回眼を見せて」
眼鏡をかけた救護教諭の顔を見るのもこれで三度目だ。わずか三ヶ月の間でだからすっかりここの常連だよね。
ハヤナとやり合って、階段から落ちてしまった俺。途中の踊り場があるからそこで身体は止まった。その段数、僅か十二段だ。右半身を擦りながら階段を転落して右手首もおかしな方へ捻ってしまって正直痛い。でもそこ以外の痛みはほとんど無いから、大騒ぎするほどの落下じゃない。
上半身を起こして階段を見上げるとハヤナが目を見開いて俺に投げ出された格好のままこちらを見て固まっていた。
良かった。無事だ。
ハヤナに何かあればまた因縁をつけられる所だったかもしれないし、前回と同じ未来を辿るような真似は断じて御免だもんね。
ホッとしたのも束の間、周囲に居合わせた学院生達が騒ぎ出してしまい、大事になってしまった。
指導教諭の主任が駆けつけて俺とハヤナに説明を求めてきた。
「足を滑らせて落ちそうになったアルトバイム君を助けるつもりが不甲斐ない結果になっただけです」
「直前にお前達は言い争っていたと聞いたが?」
あんなところで揉めていたんだから他の人が興味を持って当然か。
「ただの行き違いです。俺は彼とは何も関わりはありません」
それでも俺はハヤナと無関係だと主張した。主任教諭は信じてなさそう。俺たち二人を見比べた後、怪我のないハヤナは生徒指導室へ行くように指示をされ、俺は主任教諭によって救護室に連行された。
という顛末で手当を受けることになったのだ。
「うん、異常無し。君が意外と頑丈な事は証明されたね」
診察が終わると同時に救護室の扉が勢いよく開かれる音と急ぎ早やな足音。こちらに近づいている気配に顔を向けると同時に仕切りの衝立ての向こうから取り乱した顔のラゼルが姿を現した。
「ラゼル⁈」
診察用の椅子に座る俺を見て表情を緩めたのも一瞬でまた険しい顔をする。
「彼氏君、心配して来てくれたの? 大丈夫。怪我はあったけどどれも深刻なものじゃないし、頭も打ってないから命に関わる事も無さそうだ」
先生は安心させるように説明をするがラゼルの顔は強張ったままだ。そしてどういったことか、俺と先生の間に体を割り込ませた。
「それはどうも。後は俺がやります。そこから離れて下さい」
俺に背を向け先生に立ち塞がるラゼル。ラゼルの素っ頓狂な行動に俺は目を白黒させるだけだ。
「ちょっと⁈ ラゼル? 何してるの⁇」
「やだなぁ。診察してただけだよ」
いつもの調子で答える先生。それを冷ややかな視線で見下ろすラゼル。
「近すぎます」
丁寧な言葉だけどそこはかとなく漂う険。
「そうは言ってもこれも仕事だからねぇ」
「ラゼル! 失礼な事言うなよ!」
先生の含み笑いに俺は慌ててラゼルを嗜める。
「お前が可愛い顔をして大人しく服を脱がされているのがいけない」
…何言ってるのかな。救護教員の立場から身体に異常がないか調べるのは当たり前じゃないか。
怪我の治療で俺は上半身裸だ。右肩に湿布とその上から包帯を巻いてもらった。
以前のラゼル過激派時代の俺だって医療行為に、俺に触るなこの身体は的自意識過剰を発動するほどのトンチキじゃなかったぞ。むしろ今のトンチキはラゼルだ。
「ははは。大丈夫。私は大人だから分別はついてるよ。いくらヴァレリア君がそこらの女の子より可愛くても生徒には手を出さないから安心して。手当は役得と思ってるけどね」
先生⁉︎
火に油を注ぐ発言。
ラゼルは一瞬で威嚇の態勢に入る。
ちょっと、待って! その人、先生だから! ここじゃ逆らっちゃダメな人だから~!
二人のやり取りに血の気が引いた。ラゼルがこんな軽率な行動を取るところを見るのも初めてで狼狽えてしまう。
ラゼルを止めなきゃと思うけど、こっちも動揺して咄嗟に言葉が出てこない。
「……っぷ! ごめん! 揶揄った。あんまり必死だったから。ベルン君はヴァレリア君の事になると年相応になるんだね」
先生はたまらず吹き出して目尻を指で拭ってる。
…この先生、虫も殺さないような柔和な雰囲気のくせにアルファ相手にふざけるなんて中身は豪胆。
まあ、アルファって言っても所詮は子供なんだろうな。
巻き戻し前はラゼルの事大人って思ってたけど、一旦三十過ぎまで生きてきた記憶がある今は、ラゼルも大人の手の上で転がされているなってたまに可愛く思うこともあるんだよね…。
まさかそんな日が来ようとは。俺はしみじみと感慨深くなったのだった。
「失礼します。トワ様、お迎えにあがりました」
何度も断ったけどラゼルの手によって強引に制服を整えられている途中で、アスターが救護室まで俺を迎えに来てくれた。
この嬉しいような拷問の時間がやっと終わってくれて助かった。
「馬車まで歩けますか? 手のお怪我だけと伺ったので私一人で来たのですが」
「大丈夫。先生、手当てありがとうございました」
「念の為にきちんとお医者様に掛かってね。はい、報告書。ご両親にちゃんと見せてね。学院の方からも別途連絡が入るはずだから事前にご夫妻にあらましを説明しておいてくれると助かるよ」
綺麗に封蝋で閉じられた書類を受け取る。いつもお手数おかけします。
「わかりました。じゃあ失礼します」
そばに置かれた自分の鞄を手にしようと屈んだらフワッと身体が持ち上がった。突然の浮遊感に唖然とする。ラゼルが俺を横抱きにして抱えている。
「ラゼル⁈ 俺、歩けるよ! 怪我は手だけって説明したよね⁉︎」
「アスター、トワの荷物を頼む」
聞いてない…。
「ラゼル、降ろして。その、恥ずかしいから」
あと舞い上がってしまうくらい嬉しいから。駄目だ。ラゼルがちょくちょく俺の心を掴んでくる。
嘆願するけれどラゼルは当然のように取り合わず、俺を抱えたまま学院内を闊歩する。右手首に力が入らない為抵抗もろくすっぽ出来ず、俺はラゼルのなすがままになるしかない。
車寄せまで運ばれる最中、すれ違う学院生からの生暖かい目。以前は触れてはならない領域に関わらないよう目を逸らされる事が多かったのに今はなんでか受け入れられているような気がするんだよね。謎。
ラゼルもラゼルで周りの目を全く気にしてない。強心臓。
気絶した俺をラゼルが同じように横抱きにして運んでくれた時、意識がないことを悔しがったけど、いざ意識がある状態でこの状況になれば、とてもじゃないけど恥ずかしすぎて顔があげれない。
昔の俺なら涙を流して喜んでいたんだろうな。あ! あの魔法で無くしたのは羞恥心だったのかも。今ならあの魔法を時間限定でかけ直して欲しい…。
問答無用で俺を馬車まで運んだラゼルはそのまま自分も乗り込む。
「え? うちの馬車に一緒に乗ってどうするの⁇」
嬉し恥ずか死の俺は一気に現実に戻った。ラゼルの挙動がいちいち予想外なのだ。
「今日のことを公爵夫妻に説明してアルトバイムへ抗議してもらう」
怪我をしてしまったからもみ消すことはできないけどなるべく穏便に済ませようと思ってたんだけど。それにどうしてラゼルが当事者みたいな事を言ってんだろうか…。
「それは俺が自分で。ていうか、なんで膝の上に俺を乗せるの?」
通学用の小回りの効く小型の馬車だが、乗車するのは小柄な俺とアスターだ。ラゼルが加わったくらいではまだ座席に余裕はある。横とか対面とか他に座る場所はあるのに。
「馬車の揺れが傷に響くからだ」
「いや、響かないよ⁈」
俺、どんだけひ弱だと思われてるの⁉︎
「騒ぐな。興奮して怪我が悪化する」
しない! てか興奮させてるのお前だから!
この前の膝枕といい俺を萌え殺すつもりか!
鼻血吹きそう。
薬、ちゃんとしたのに変えて良かった。以前のハーブティーだったら間違いなく発情始まるところだった。
「ア…アスター、窓、開けて」
それでも家まで持たないかも知れないから念のため、隅っこに控えるアスターに言葉を詰まらせながらお願いした。
「なんだ? また俺の匂いで発情しそうなのか」
楽しそうに言うな! いじめっ子か!
しかも子供の前でなんつー破廉恥な事を!
「ラゼル! あんまり調子に乗らないでよ! そんなことばっかり言ってると、も、もぅお前の名前呼んであげないからな?」
苦し紛れの噴飯物の啖呵。いい脅しがすぐに思い浮かばなかったにしてもお粗末すぎた。言ってしまった後から恥ずかしさで顔は熱くなるし目尻にじんわり涙が滲んでしまっている。それでもラゼルに振り回されているのが悔しくて俺は睨んでやった。
「それは困る。もう揶揄わない。けどこのまま膝で大人しくしてくれ。出来るだけお前の身体に負担をかけたくないんだ」
やっぱり揶揄ってたのか。
ていうか、名前呼ばないって言われたくらいでしょんぼりすんな! 可愛いじゃないか!
「わ、わかったから。ラゼルもあんまり変な事言わないで…」
大切にされてる実感。
なんでだろう。
諦めるって決心したのに。そんな扱いしないでよ…。
それからはしばらく沈黙が続いた。車内に規則正しい蹄の音が響くばかりだ。アスターの前だし膝に乗せられた俺はお尻の辺りにラゼルの体温を感じて流石に身の置きどころがなくなってそわそわしだした。昔の俺、よくもまあ、この至近距離で平然とできていたものだな‼︎ 何か話題は無いかな⁉︎ 黙っているのは耐えられない。この空気を変えたい!
「…俺が休んでいる間、どうしてた?」
あたふたする俺にラゼルがぽつりと聞いてきた。そんな事を聞いてくるのも意外ですぐ近くのラゼルを見れば、ラゼルは俺とは反対方向の窓の方へ視線を彷徨わせている。
バツが悪そうに見えるのは俺の気のせいかな。
俺のことだからラゼルの家へ押しかけてるくらいは想像されてたんだろう。
でも俺は耐えた。
関係を再構築する為には、少しでも執着を見せちゃいけないんだと、それは必死に。
ラゼルの事を考える時間を作らないために予習をしたり、体力作りの鍛錬、それに加えて将来一人暮らしをする時に備えて家の料理人から料理の基本を習ったりしてつとめて忙しくしていた。おかげで俺の料理の腕は格段に上がったのだ。手際も良くなり得意料理も出来た。屋敷の人に振る舞って高評価を得た。才能があるのかも。最近の昼用の持ち込み軽食はほぼ俺の自作だったりする。
「それは普通に暮らしてたよ。ラゼルの事は気になってたけど俺が押しかけても迷惑だろうと思って自粛してた」
「そうか」
それだけ聞くとラゼルはまた黙り込んでしまった。
ラゼル的には不満なのだろうか。
あれほどすげなくしていた相手でも、自分への気がなくなったら面白くないのかな。でもやっぱりラゼルがそんな幼稚な男だとは思えないけど。
※ ※ ※ ※
「先輩」
「どうしたの? この棟まで」
昼時間になっていつもの場所へと昼食の入った荷物を抱えて教室を出たところで待ち伏せしていたハヤナに呼び止められた。
学院は学年ごとに棟が分かれているから他学年が迷い込むと目立つのだ。だからあまり自分の学年棟以外へはみんな行きたがらない。それなのにハヤナがここにいるのが不思議で立ち止まる。
「先輩に謝罪にきました。あと謝罪が遅くなってすみません。朝イチに来るつもりでしたけどベルン先輩がずっとそばにいたから近寄れなくて」
ハヤナは俺に向かって頭を下げた。
そうなのだ。
ラゼルは怪我をした俺を気遣ってか、今朝は早くから公爵邸まで来て、俺を大公家の馬車に無理やり押し込んだ。
本当はお見舞いのつもりだったらしい。昨日の今日だから休むものかと思い、俺の様子を確認しに来たのに、俺が登校する気満々だったことに眉を顰め、大事をとって休めと頭ごなしに叱りつけた。
捻挫した手首は疼くけど、昨日よりは痛みは引いている。熱も出る事はなかったし、他はピンピンしてるのだ。こんな軽症で学院を休む選択は俺の中で無かったから普通に起きて普通に身支度を済ませたのだ。
ラゼルは最終的に俺の意思を尊重してくれたけど学院に着いたら着いたで俺の荷物を自分の分と一緒に持って、この教室まで送ってくれるという世話焼きっぷり。ラゼルってこんなんだったっけ?
利き手の捻挫だから不便はあるけどそこまでしてもらうほどじゃないんだけどな。
「謝罪なら君のお父上からきちんとして貰ったよ」
昨日の夕刻、アルトバイム公爵が俺の怪我の謝罪をしたいとウチを訪ねてきた。俺を溺愛の父上は厳重な処分を要求するラゼルに感化されたのもあり、アルトバイム公の話を聞く耳を持とうとしなかった。そんな父上に貸しを作ったと思って手を打って欲しいと俺は頼み込んだ。俺としてはこれ以上ハヤナと揉めて不必要な接点を持ちたくなかったから必死に怪我の代償で生まれる利益を強調し父上になんとか折れてもらった。
けどこうやって謝りに来た人間を拒絶するのも今の俺には無理だ。
「それは家同士の筋の話でしょ。僕は個人的に先輩に謝りたいんです。怪我をさせてすみませんでした」
「俺もごめんね。場所も考えずに揉めてしまって」
「先輩は何も悪くありません。僕が一方的に突っかかっただけですから。先輩の言うようにあの人の反応がまるでなくて、でも兄たちから急かされて焦ってしまって。そんな時に何くわない顔をしている先輩を見たらむしゃくしゃして傷つけてやりたいって八つ当たりをしたんです」
意外と素直な一面もあるようだ。こうやって自ら頭を下げに来たこともだけど、この子は普通の環境で育っていれば極まともないい子に育ってたんだろうな…。
「わかった。怪我って言っても手首をちょっと捻っただけだし、俺も全然悪くないって言えないし、今回のことはこれで水に流そう?」
俺も行き過ぎた言動をしたから、お互い様だ。今のハヤナに前回の責任はないと言うのに、当時の恨みを加味して加減をしなかった俺も同罪だ。
「先輩って意外に良い人ですね。そんな風に言ってくれるなんて。公爵家の高飛車お姫様の噂はあてになりませんね。先輩が僕との事もうまく言ってくれたお陰で学院からはお咎めなしですみました」
「そう。でも家で大丈夫だった? お父君に叱られたんじゃない?」
フリュウに取り入る計画がおじゃんになったのだ。ハヤナの立場はますます苦しいものになったんじゃないかな…。もともと上の兄二人には歓迎されてなかったようだし。
「あの人たちは僕のこと手駒にしか思ってないし、その手駒が使えない不良品じゃ見限られもしますね」
「ハヤナ…」
親が無条件で子供を愛するとは限らない。身につまされる話だ。…俺がロゼアラにそうだったように。
「でもスッキリしました。先輩にあの時言われたこと、図星を突かれて、むきになって喚き散らしたけど、こうなってみて肩の力が抜けたって言うか、どうしてあんなにこだわっていたのかわからないくらいです。…父が僕に興味を向けてくれた事が嬉しかったんです。ろくでもない男だってわかってますけどそれでも血を分けた親だと思えば、父が喜んでくれるならなんでもしようって。我ながらガキですね」
ハヤナは諦めたように肩を落とす。親への期待、そんなの子供なら普通に待ってる当たり前の感情だ。
「君には随分と酷い事を言った。言い過ぎた部分もあるから反省しているよ」
「貴族ってもっと鼻持ちならない人種かと思ってました。あなたは特に。兄さんから聞かされた話じゃあなたはとんでもない人間みたいに言われていたから。けどそうじゃないんだ…」
俺も色々あったからなぁ。酸いも甘いも経験した前回の人生。人間、一つの側面だけで評価できないしハヤナの生い立ちには同情しか感じない。
「君の過去を詮索した事、それに関して中傷した事、謝罪するよ。本心じゃなかった。言葉の応酬の上での行きすぎた表現だった」
「気を使わなくていいですよ。僕は言われ慣れているし実際この身体は汚れてますから」
ハヤナは吹っ切れたようだ。自分の過去を暴かれて隠すものが何もなくなった清々しさだろうか。全てを信頼するにはまだ早いかもしれないけど、でもこの子はもう何もしてこない気がした。
「君は必死に生きていただけだよ。自分を卑下しないで」
「本当に大丈夫ですって。みんな優しいからそう慰めてくれるけど、でも僕なんかに触れられるのは気持ち悪いでしょう? いろんな人間の垢が付いてるんです、この身体は」
自虐的に笑うハヤナのふわふわ頭に俺は手を乗せてよしよしするように撫でる。ハヤナはぽかんと目を見開いた。
「君はまだ子供だから大袈裟に捉えちゃうんだろうけど世の中は君が思っているほど綺麗でも清らかでもないよ。みんな体面を気にして本当のことを曝け出さないけど、それこそ、そこかしこにいる普通の人達だって内面は見るも呆れる性癖だらけだよ。誰にだって人に隠しておきたい秘密はあるって事。それが普通なんだ。君は何も誰に対しても引け目を感じる必要はないんだ」
ハヤナの頭を撫でていた手を今度はぽんぽんとして元気づける。小さい子をあやすような俺にハヤナは子供扱いするなと怒るかな。
けどハヤナは少し照れたようにされるがままになっている。
「そう言ってもらえると気持ちが楽になります。計画は失敗しちゃったけど父は僕をあの家から追い出すつもりはないみたいで、この学院にも通わせてくれるようです。きっと有力な権力者の元へ輿入れさせる為なんでしょうけど、政略結婚なんて貴族は普通のことだし、アルトバイム家の為になるのなら一肌脱いでもいいかなって思っているんです」
ハヤナの父親のアルトバイム公爵はいうほど薄情な人物ではないのだろう。一旦受け入れたハヤナを再び見捨てるような酷なまねはしないようだ。フリュウの事を諦めてもハヤナの価値を他で使うところはあれだけど。でもまあ、それは貴族に生まれた子供の宿命みたいなものだ。どれだけ家に貢献できるかが判断基準だからね。
「そう。でも君にちゃんと好きな人ができたらそうも言ってられないんじゃないかな」
「そんな人が現れてくれると良いんですけどね。僕、意外と理想が高くて」
ふふっとハヤナは微笑んだ。
綺麗だな。顔立ちの整った子だから余計にそう見えるのかな。
今のハヤナだったらラゼルも好印象だろう…。
フリュウとのことがなくなった今、ハヤナは自由だ。
自分で決めた事なのに、前回と同じ未来を引き寄せてしまって胸がずくずく痛む。これから先、俺は二人が恋に落ちるところを見ることになるのだろうか。その時俺は平静でいられるのだろうか。
「君の運命の相手とはもう出会っているかもしれないね…」
頭の中でラゼルとハヤナが隣同士で幸せそうに会話する前回の場面が蘇って、運命に抗えないのかとポツリと呟く。二人が出会うのは時間の問題だ。今ですらフリュウと俺を介してお互いを認識し始めているのだ。本格的に知り合うタイミングはすぐそこまで近づいているんじゃないかな…。
「そんな心当たりありませんよ。運命の相手ってお互い一目惚れしあうんですよね。残念ながらそんな経験した事がありません」
「でも君の理想って、ラ…ラゼルみたいなのでしょ…?」
これ見よがしに仲の良さを自慢してきた前回。今回のフリュウと違って前回は純粋にラゼルに惚れていた。
「ベルン先輩ですか? 無いです。僕、ベルン先輩は全然タイプじゃないです」
え?
「確かに格好いいとは思います。でもここだけの話ですけど頭硬そうだし、融通効かなそうですよね。四角四面って言うんですか? なんだか面白みのなさそうな人ですよね。上官としてなら頼りになりそうですけど、恋人としては味気なくて僕には無理です」
全否定しやがった。
俺のラゼルを。
そりゃ今は経験不足で子供っぽいところもあるけど大人になったラゼルはそれはもう仕事のできる完璧ないい男だったんだぞ? それをここまでこき下ろして、こいつ何様だ!
じゃない。憤慨してる場合じゃなかった。
どうして?
前回は目障りなくらいラゼルの周りにひっついていたのに、今回はまるで興味も無さそうだ。まだその時期じゃないからといえばそうなんだけど、でもこの時点でも俺のラゼルに興味がないなんてどうかしてる。
「あ、ベルン先輩には内緒にしてくださいね。不敬罪で投獄なんて洒落こきたくないです~」
思った以上にこの子、逞しい。
花も恥じらうような外見を見事裏切っている。
「それにベルン先輩はちょっと苦手です。ヴァレリア先輩に怪我させてしまったから仕方ないですけど、僕を見る目が厳しいんです。朝に先輩の事を見かけた時にベルン先輩には気づかれたんだけど、鬼の形相で睨まれましたよ。近寄るなって、目で語ってました。だから朝は諦めたんです。僕、ベルン先輩には何もしてないけど先輩の事で敵認定されちゃったみたいですね」
あっけらかんと笑い飛ばすハヤナ。
口ではラゼルを恐れているようなことを言ってるけど、真剣味が足りない。どちらかというと全く意識してないよね、この態度。太々しいくらいのハヤナに俺は困惑するしかなかった。
どうして前回とこんなにもラゼルへの気持ちの向け方が違うの? まだ恋に発展してなくても、何かしらの感情は生まれているものじゃないの?
ハヤナがラゼルを好きになる素地がぜんぜん見当らないんですけど⁈
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