おばあちゃんの秘密

波間柏

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17.連休初日に

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「あ~疲れた」

 私は、玄関に靴を脱ぎ散らかしたまま畳の部屋に荷物を置きエアコンのスイッチを入れ畳に転がった。

 そのままゴロゴロ転がり窓に近づいて上下に動く障子の下部分を上げて外を眺めた。

 今日は土曜日でお盆休みの始まりだ。暑いけど、さっそくショッピングへ行った。気に入った服も手に入り満足なんだけど、歩き回って足が痛いし暑くて体力を消耗した。

 エアコンの機械的な音とカラスの鳴き声をバックミュージックにまだ動けない。

 汗でべたべただし、シャワーを浴びないとなぁ。

 窓越しから見る外は夕方なのに、まだとても明るかった。今年は異常に暑いせいか、大葉の葉も枯れてしまった。でも、向日葵は元気に黄色い花を咲かせていて時折ぬるい風に葉を揺らしていた。

 最近はプランターサイズの小さな向日葵も出回っていて植えやすい。我が家といっても、お一人様だけど、それに漏れず小さな向日葵をチョイスした。

「う~ん。何本か部屋に飾ろうか。暑くて外でたくないなぁ。でも」

やっぱり部屋に飾りたくなり腕に力をいれ気合いで起き上がり、縁側のある窓から日差しで温まったサンダルに足をいれ庭に出た。

「うわっ、やっぱり暑い」

 とたんに生温い空気が身体にまとわりつく。

さっさと済ませよ。

「暑いのに君達は凄いね~。二本ほどもらうね」

 ちょっと可哀想になり、つい向日葵に話しかけてしまう。

 最近独り言が増えお一人様生活にも年季がはいり磨きがかかっている自覚はある。

 特にお兄が今年の秋には結婚するから余計に感じていた。

「だってね~。彼氏って作ろうと思ってもなかなかな難しいんだよ。一人も楽なんだよなぁ。あれ?」

 一人愚痴りながら縁側から上がってみれば、山になっている買い物袋の間に埋もれているバッグから着信音が。音の主はお父さんだと告げている。

「何かあったのかな?」

 お父さんは、滅多にメールは来ても電話をかけてくる事はない。

 慌ててバッグをとったので荷物がドミノのように倒れていき、木のミニ箪笥まで横倒しになった。

でも、電話が先だ!

「あ~、中身もでちゃった。もしもし!」
「ああ、出た」

 騒がしいなあと緊迫感のない声を聞き、緊急ではないと察知した私は力を抜いた。

「久しぶり。電話なんて珍しいね。どうしたの?」
「早めに伝えておこうと思ってな。10月に貴史たかしが結婚するのは聞いているだろう? それでな、おばあちゃんの家に住んでもらおうと思う。今のままだと大きな地震がきたら危ないしな。土地はあげるから建物は自分達で建てるように言ったよ。まあ来年の春までには新しくすると言っていたが」

私の察知能力はあてにならない。

いきなり家なし?
アパート探すの?

 今日、調子に乗って沢山買っちゃったよ…。

「お前もいつまでもそこに一人で住んでいるのもな」
「でも」
「家を立て直す資金なんてないだろ? 思い入れが強いのはわかるがな。ああ、着信だ。また連絡する」
「えっ、ちょっ」

一方的に電話は切れた。

「なんでよ! もう八年も暮らして今更だよ…」

 でも、何処かで分かってる。これはもう決定なんだって。

 お父さんは、ああ言ったらよっぽどの事がない限り変更なんてない。

「引き出しまで開いてる」

 片手に向日葵を掴んだまま、力なく携帯をテーブルに置き飛び出た引き出しを掴んだ。ふと中から飛び出た薄い木の箱に目がいき開けてみたけど何も入っていない。

いや、まてよ。

「これ、確か…真珠の髪飾りが入っていたような。ん? 底に紙がある?」

 底に敷いてある薄紙の下に違和感を感じてめくってみれば。

「これ…おばあちゃんの字だ。懐かしいなぁ。しかも私宛になっている。いつのだろう?」

 綺麗なグリーンの封筒は少し黄ばんで、中の便箋を取り出して開いてみれば、紙はパリパリしていたけれど字は読める。

『ゆいちゃん、きっとゆいちゃんが、これを読んでいる時には、おばあちゃんはそこにはいないだろうね。この手紙を書くのは、とても悩んだよ。でも、もしかしたらゆいちゃんは、あの世界に触れる事ができていたら遺しておいたほうが良いと思ってね』
「あの世界? 何の話だろう」

 続きが気になり座り直してちゃんと読む事にした。

『詳しく書くことができないけれど、これだけは言える。おばあちゃんは、あの世界に触れて後悔はしていない。大樹さんも大切な人だったけれど、友達としてとても大切な人達ができた。ラグナス、ラナ、そしてまだ小さいけれど大きな力を持つラスティ。皆に出会えた事は私の宝物。ゆいちゃん、これを読んで意味がわからなければこの手紙を捨てておくれ。でも、もしも分かったら、あの世界に渡っていたら、伝えておくれ。幸せだったって』
「なんだっけ? 何か聞き覚えがある名前…」

ポケットが温かい?

 変な感じがして、右手でポケットの中を探り小さな巾着袋を振ると中身が出てきた。

「やっぱり温かい」

 気のせいじゃい。何故か温かくて微かに光っているそれは、昔この部屋で目が覚めたら握っていた指輪。

 とても綺麗で。でも、見ていると悲しい気持ちになった。普通なら知らないうちに持っていた物なんて気持ち悪いかもしれないけれど、なんとなく御守りのように、いつも持ち歩いていた。たまに触れて、サイズはブカブカなんだけどはめてみたりしていたラベンダー色の指輪。

「あつっ」

いきなり熱くなった。

 そう思ったら、今度はきらきら光始めた。

…私、この光を知ってる。
なんだっけ? 

「眩しっ」

 考えているうちに私の身体は光に包まれ、眩しくて目を開けられない。思わず目を閉じたら、浮遊感と共に頭に何かが流れこんできたような感じがする。

 光がおさまり目を開けば、そこは一面の花畑。

 私は、一気に頭がクリアになったような感覚を受けていた。そんな爽快感とは裏腹に。

「あれ? 何で?」

ほっぺたを触れば濡れている。
勝手にあとから流れる涙。

 そして、ぼやけた視界の先には、背の高い男の人がいた。その人の目は見開いている。ラベンダー色の宝石みたいな瞳に綺麗なプラチナブロンドの髪。

──思い出した。

「久しぶり…ラスティ君」

 今、私の顔、上手く笑えなくて変な顔になってるな。

 涙を手の甲でこすってやりやおし。

「元気?」

今度は上手く笑えた。

──こうして私とラスティ君は、約八年ぶりに再会したのだった。



 
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