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12.眠るわたし
しおりを挟む「私は言いましたよね? まさか忘れてませんよね?たった数時間程前の事ですし」
「えっと」
怖い。
イケメンの圧が怖すぎる。な、なんだっけ?
今日の事を必死に思い起こす。
『俺の妻に』
「…あ」
「遅い」
早い切り返しが飛んできて、今度は左の耳たぶを触られた。そうだ。さっき変な音がしていた。
「ミオリ、待つつもりだったんですよ?」
そう言いながら、デュイさんは、私の耳たぶに触れている手とは反対の手で自分の耳に、また私が聞いた鈍い音がし、デュイさんの耳には黒く丸い石のピアスが。
「俺から離れようとした貴方が悪い」
今つけたの? 確かデュイさんってピアスをつけていなかった。
穴を開けた?…さっきの音は。
「やっぱり!」
デュイさんの触れている手をはがし、自分の耳たぶを触ってみたら。これ、後ろに通ってる!
「勝手に何してくれちゃってるんですか?!」
ピアスは可愛いデザインがあるし、ずっとしたかったけれど痛いのが怖くてできなかった。
あっそういえば。
「痛くない?」
「痛みはないようにしましたよ」
「えっ、ラッキーなのかな? ありがとうございます?」
痛みも、その後の消毒の必要もないと聞き、嬉しくなる。あっでも片方だけだ。右もお願いしよう!
「どうせなら右もお願いします!」
「よいのですか? 両方つけたら婚約ではなく婚姻を結んだ事になりますけど。勿論、俺は嬉しいですけど」
「…はい?」
このイケメン、今、何を言った?
「外して下さい」
「嫌です」
即答だ。
それにまた、耳に手がのびてきて触られた部分が一瞬熱をもったように熱くなった。
「今、何を」
「見えないと思いますが、ミオリがしているのは俺の瞳と同じ色の石です。片方で婚約、両方つけると婚姻した証です」
どこから取り出したのか、デュイさんと同じ瞳の色の石がついたピアスを見せられた。
ついじっくり見てしまう。綺麗な色だな。そして高そう。
「ちなみに、これはベイに特注して更に精度を上げ、ミオリが離れた場所にいてもだいたいの居場所が掴め、また強い感情を抱いた時、俺のコレに伝わるようになっています。これは両方つけると、更に感知しやすいそうです」
デュイさんは、自分の耳につけた私の瞳と同じ黒い石を撫でた。いや、ぼーっとしている場合じゃない!
婚約も衝撃的だけど、居場所を感知?
私の感情の振り幅まで?!
「なおさら外して下さい!」
「耳、切り落とすしかないのですが」
「…え?」
「外れませんよ。一生」
「嘘?」
デュイさんは、まるで自分が苛められているかのように悲しそうな顔をした。
いやいや!
私だよ被害者は!
「ミオリ、数時間前に決めましたよね?」
「あっ、ちょっ」
抱えられ、縦抱き、腕に私のお尻が乗っている!それと顔も近い!
でも、バランスがとりづらくてしがみつくしかないよ!
「顔がっ近い!」
「当たり前ですよ。わざとですから」
嫌がらせなの?! さらに睫毛が数えられるくらい近づかれ、たまらずのけ反れば、背中を固定された。
「あぁ、貴方と話をしていると何故か方向がずれてしまうんですよね。話を戻しますけど選択しましたよね?
「それは」
「私を殺さないで残る事を選んだ。すなわち私の妻になるという事ですよね?」
えっと。
そういう事になるの?
私、なんか流されてない?
「ああ、外す方法が他に一つだけあります」
「教えて下さい!」
つい大声を上げた私に、デュイさんは、もの凄く意地悪そうな顔をして。
「心の底から拒否をして下されば、俺のことが本当に嫌なら外れます。試されては?」
「…」
私は、耳に両手で触れて「嫌い嫌い…外れて」と念じながらピアスのバックピン部分をひっぱった。
「どうですか?」
「…」
もっと力をいれてみる。
うう。
外れないよ。
「ミオリ」
「…なんでしょうか?」
渋々返事をしたら、だいぶ放置していた為に長くなっていて目が隠れるくらいの前髪を長くて、でもゴツゴツとした指で後ろにすき流してくれた。
遮る髪がなくなり、しっかりと目と目が合ってしまう。その視線は今までで一番優しく感じた。
「本当は、体調が回復するのを待って求婚したかったのですが貴方があっさり飛んで行ってしまいそうだったので。つい退路を塞がせてもらいました」
今度は手の甲じゃなくて掌で頬に触られた。
「外れなかったという事は自惚れてよいのでしょうか?」
うう。
駄目だよそんな目で見ないでよ。
…そうだよ。
嫌なはずないじゃない。
一番に私の話す言葉を覚えようとしてくれた。駄目な時はちゃんと注意もしてくれて。
ふと帰りたい気持ちが、孤独が増す時もあった。でも泣き叫ぶことも誰かにぶつける事もできなくて。
そんな時、ただ何も言わず普段なら立って後ろにいる彼が隣に服が触れるくらい近くにいてくれた。
いつも自分はこの人に護られていた。
「…右に…両方は待ってもらえますか?」
デュイさんを見てられなくて、彼の肩あたりに顔をうずめてみれば。自分とは違う匂いや硬さを強く意識してしまう。
「もちろん」
「聞かないの?」
てっきり強く言われるかと思ったのに。そんな私の背中をゆっくりと大きな手が上下する。背中を撫でてもらうのって気持ちがいいな。
なんだか眠気が急に襲ってきた。
「貴方のことだから、ある程度自立してからと思っているのでしょう? 俺は受け入れて、拒絶されなかっただけで、とりあえず満足です」
…とても眠い。目を開けてられなくなってきて、とうとう目を閉じ薄れていく意識のなか。
「でも最終的に俺のものになってもらいますから」
何か言われたようだけど、その言葉が頭に入る前に私は完全に意識を手放していた。
「あっ…ケーキ…食べてな…い」
腕の中の俺の想い人は完全に力が抜け、スウスウと規則正しく、実に気持ちよさげに寝ている。
無理もない。ずっとろくに寝ていなかったのだから。
周りを見れば、無理やり唇を塞いだ俺に避難の視線を送っていた皆は消え部屋には二人だけ。
彼女が寝る直前呟いた言葉でテーブルに置かれた特大のケーキに力を飛ばした。これでしばらく持つだろう。どうせ絶食に近い状態だったミオリはすぐに食べられない。
周りも理解していたが祝いたかったのだろう。
「しかし、気になったのは俺よりもケーキか…」
長期戦になりそうだ。
部屋のミオリの寝室に移動し彼女をベッドにできるだけ静かにおろし閉じているミオリの瞼に口付けた。
今はとりあえず。
「よい夢を」
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