飛ばされた私は

波間柏

文字の大きさ
上 下
13 / 13

12.眠るわたし

しおりを挟む

「私は言いましたよね? まさか忘れてませんよね?たった数時間程前の事ですし」
「えっと」

怖い。

イケメンの圧が怖すぎる。な、なんだっけ?

今日の事を必死に思い起こす。

『俺の妻に』

「…あ」
「遅い」

 早い切り返しが飛んできて、今度は左の耳たぶを触られた。そうだ。さっき変な音がしていた。

「ミオリ、待つつもりだったんですよ?」

 そう言いながら、デュイさんは、私の耳たぶに触れている手とは反対の手で自分の耳に、また私が聞いた鈍い音がし、デュイさんの耳には黒く丸い石のピアスが。

「俺から離れようとした貴方が悪い」

 今つけたの? 確かデュイさんってピアスをつけていなかった。

穴を開けた?…さっきの音は。

「やっぱり!」

 デュイさんの触れている手をはがし、自分の耳たぶを触ってみたら。これ、後ろに通ってる!

「勝手に何してくれちゃってるんですか?!」

 ピアスは可愛いデザインがあるし、ずっとしたかったけれど痛いのが怖くてできなかった。

あっそういえば。

「痛くない?」
「痛みはないようにしましたよ」
「えっ、ラッキーなのかな? ありがとうございます?」

 痛みも、その後の消毒の必要もないと聞き、嬉しくなる。あっでも片方だけだ。右もお願いしよう!

「どうせなら右もお願いします!」
「よいのですか? 両方つけたら婚約ではなく婚姻を結んだ事になりますけど。勿論、俺は嬉しいですけど」

「…はい?」

このイケメン、今、何を言った?

「外して下さい」
「嫌です」

即答だ。

 それにまた、耳に手がのびてきて触られた部分が一瞬熱をもったように熱くなった。

「今、何を」
「見えないと思いますが、ミオリがしているのは俺の瞳と同じ色の石です。片方で婚約、両方つけると婚姻した証です」

 どこから取り出したのか、デュイさんと同じ瞳の色の石がついたピアスを見せられた。

ついじっくり見てしまう。綺麗な色だな。そして高そう。

「ちなみに、これはベイに特注して更に精度を上げ、ミオリが離れた場所にいてもだいたいの居場所が掴め、また強い感情を抱いた時、俺のコレに伝わるようになっています。これは両方つけると、更に感知しやすいそうです」

 デュイさんは、自分の耳につけた私の瞳と同じ黒い石を撫でた。いや、ぼーっとしている場合じゃない!

婚約も衝撃的だけど、居場所を感知?
私の感情の振り幅まで?!

「なおさら外して下さい!」
「耳、切り落とすしかないのですが」
「…え?」
「外れませんよ。一生」
「嘘?」

 デュイさんは、まるで自分が苛められているかのように悲しそうな顔をした。

いやいや!
私だよ被害者は!

「ミオリ、数時間前に決めましたよね?」
「あっ、ちょっ」

 抱えられ、縦抱き、腕に私のお尻が乗っている!それと顔も近い!

でも、バランスがとりづらくてしがみつくしかないよ!

「顔がっ近い!」
「当たり前ですよ。わざとですから」

 嫌がらせなの?! さらに睫毛が数えられるくらい近づかれ、たまらずのけ反れば、背中を固定された。

「あぁ、貴方と話をしていると何故か方向がずれてしまうんですよね。話を戻しますけど選択しましたよね?
「それは」
「私を殺さないで残る事を選んだ。すなわち私の妻になるという事ですよね?」

えっと。
そういう事になるの?
私、なんか流されてない?

「ああ、外す方法が他に一つだけあります」
「教えて下さい!」

つい大声を上げた私に、デュイさんは、もの凄く意地悪そうな顔をして。

「心の底から拒否をして下されば、俺のことが本当に嫌なら外れます。試されては?」
「…」

 私は、耳に両手で触れて「嫌い嫌い…外れて」と念じながらピアスのバックピン部分をひっぱった。

「どうですか?」
「…」

もっと力をいれてみる。
うう。
外れないよ。

「ミオリ」
「…なんでしょうか?」

 渋々返事をしたら、だいぶ放置していた為に長くなっていて目が隠れるくらいの前髪を長くて、でもゴツゴツとした指で後ろにすき流してくれた。

 遮る髪がなくなり、しっかりと目と目が合ってしまう。その視線は今までで一番優しく感じた。

「本当は、体調が回復するのを待って求婚したかったのですが貴方があっさり飛んで行ってしまいそうだったので。つい退路を塞がせてもらいました」

今度は手の甲じゃなくて掌で頬に触られた。

「外れなかったという事は自惚れてよいのでしょうか?」

うう。

駄目だよそんな目で見ないでよ。
…そうだよ。
嫌なはずないじゃない。

 一番に私の話す言葉を覚えようとしてくれた。駄目な時はちゃんと注意もしてくれて。

 ふと帰りたい気持ちが、孤独が増す時もあった。でも泣き叫ぶことも誰かにぶつける事もできなくて。

 そんな時、ただ何も言わず普段なら立って後ろにいる彼が隣に服が触れるくらい近くにいてくれた。


いつも自分はこの人に護られていた。


「…右に…両方は待ってもらえますか?」

 デュイさんを見てられなくて、彼の肩あたりに顔をうずめてみれば。自分とは違う匂いや硬さを強く意識してしまう。

「もちろん」
「聞かないの?」

 てっきり強く言われるかと思ったのに。そんな私の背中をゆっくりと大きな手が上下する。背中を撫でてもらうのって気持ちがいいな。

なんだか眠気が急に襲ってきた。

「貴方のことだから、ある程度自立してからと思っているのでしょう? 俺は受け入れて、拒絶されなかっただけで、とりあえず満足です」

…とても眠い。目を開けてられなくなってきて、とうとう目を閉じ薄れていく意識のなか。

「でも最終的に俺のものになってもらいますから」

 何か言われたようだけど、その言葉が頭に入る前に私は完全に意識を手放していた。

「あっ…ケーキ…食べてな…い」

 腕の中の俺の想い人は完全に力が抜け、スウスウと規則正しく、実に気持ちよさげに寝ている。


無理もない。ずっとろくに寝ていなかったのだから。

周りを見れば、無理やり唇を塞いだ俺に避難の視線を送っていた皆は消え部屋には二人だけ。


 彼女が寝る直前呟いた言葉でテーブルに置かれた特大のケーキに力を飛ばした。これでしばらく持つだろう。どうせ絶食に近い状態だったミオリはすぐに食べられない。

 周りも理解していたが祝いたかったのだろう。

「しかし、気になったのは俺よりもケーキか…」

長期戦になりそうだ。

 部屋のミオリの寝室に移動し彼女をベッドにできるだけ静かにおろし閉じているミオリの瞼に口付けた。

今はとりあえず。


「よい夢を」


しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろうにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

傷物令嬢シャルロットは辺境伯様の人質となってスローライフ

悠木真帆
恋愛
侯爵令嬢シャルロット・ラドフォルンは幼いとき王子を庇って右上半身に大やけどを負う。 残ったやけどの痕はシャルロットに暗い影を落とす。 そんなシャルロットにも他国の貴族との婚約が決まり幸せとなるはずだった。 だがーー 月あかりに照らされた婚約者との初めての夜。 やけどの痕を目にした婚約者は顔色を変えて、そのままベッドの上でシャルロットに婚約破棄を申し渡した。 それ以来、屋敷に閉じこもる生活を送っていたシャルロットに父から敵国の人質となることを命じられる。

【1/21取り下げ予定】悲しみは続いても、また明日会えるから

gacchi
恋愛
愛人が身ごもったからと伯爵家を追い出されたお母様と私マリエル。お母様が幼馴染の辺境伯と再婚することになり、同じ年の弟ギルバードができた。それなりに仲良く暮らしていたけれど、倒れたお母様のために薬草を取りに行き、魔狼に襲われて死んでしまった。目を開けたら、なぜか五歳の侯爵令嬢リディアーヌになっていた。あの時、ギルバードは無事だったのだろうか。心配しながら連絡することもできず、時は流れ十五歳になったリディアーヌは学園に入学することに。そこには変わってしまったギルバードがいた。電子書籍化のため1/21取り下げ予定です。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜

鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。 誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。 幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。 ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。 一人の客人をもてなしたのだ。 その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。 【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。 彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。 そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。 そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。 やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。 ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、 「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。 学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。 ☆第2部完結しました☆

処理中です...