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8.決めた私は
しおりを挟む10秒やると言われて、彼は私の国の言葉で数を数え始めた。
三年程前、卒業式の帰り道でいつも普通にただ眺めて帰る砂浜で集団生活からおさらばできた解放感からか、はたまた大学の入学式までまだ休みがある喜びか。
一人ハイになっていた私は、海水に足をいれバシャバシャと遊んでいたら、いきなりこの世界へ飛んだ。
無事保護された私は幸運だったんだろう。
でも言葉が通じなかった。それは恐怖でしかなかった。
私は、絶望しながらも必死にこの国の公用語を覚えた。また私の周りの人も私の話す言葉を覚えようとしてくれた。
私はとても恵まれていたのだ。
「ハチ」
何回教えても変なイントネーション。
「キュー」
でも笑えない。
「ジュー」
あの腹黒魔術師長に聞かされた時から決まっていた。できるはずがない。
私は、彼の胸から手を離した。
と、同時に、また抱き締められた。
今度は優しく。
私の首筋あたりが濡れていく。
「護衛さんが泣いたら私が泣けないです」
「…代わりに泣いてあげているんです。それに私には名前があります」
名前なんてずっと前から知ってるよ。でも、呼んだら距離が近くなっちゃうから。
だから「隊長さん」と呼んでいた。私だけの護衛になってからは「護衛さん」と。
「デュイ・ノット・メルガーさん」
「デュイ」
「デュイさん」
「なんですか?」
「ありがとう」
男の人が泣いている姿を見るのは、従兄弟が小さい時にケンカして悔し涙を流していた時以来かもしれない。
静かに泣くんだな。
綺麗だと思うのは不謹慎なのかもしれないけれど。私は、頬から顎に落ちていった涙に触れながらお願い事をした。
「一緒に付き合ってもらいたい、見てほしい場所があるんです」
「それは今でないと?」
「はい」
デュイさんは、私の為に泣いてくれた。
なら、私も全てをさらけだす。
「湖へ転移してもらえますか?」
あなたは、これを知っても私を好きと、護ると言ってくれますか?
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