気がつけば異世界

波間柏

文字の大きさ
上 下
35 / 64

35敵か味方か

しおりを挟む

「とりあえず身体を休めるのが先ですね」

 緑の癒しイケメン、リース君とやらが私のびしょ濡れで砂だらけの顔を見たあと提案した。

「あー? あと帰るだけだろ? それに誰だよこの小娘」

 ゴツいイケメンが私を顎あごで示しながらリース君に吐き捨てるように再度聞いた。そのやり取りの間も抜け目なく私を観察している。

 コイツ出来るわ。

 そして違う意味でも危険だ。何故ならば、ゴツいイケメンは視線が手首にはまっている腕輪にいくと。

「へ~面白いじゃないか」

ニヤリと笑った。

 同じ笑みでもリース君やラジとはまったく違う黒い笑い。

 あっ、何で今ラジが出てきた?

 関係ないじゃないとブンブン頭を振る私に心配そうにリース君が気遣ってくれる。

「大丈夫ですか? ずぶ濡れですから冷えますよね。隊長は、とりあえず大人しくしていて下さい」

 彼より10は年下であろうリース君が、ピシャリと言い放ち場を仕切り始めた。

「おいっ」
「だから隊長は黙っていて下さい。ここだと目立つので少し森の中に入ります」
「えっ、ちょっと」

 なんだか私まで勢いに押され不思議な生き物に乗せられ森の中に入ることになった。

パキンッ

 火の中から時折弾けるような音が鳴る。

 一息ついた私にリース君が話しかけてきた。

「落ち着かれましたか?」
「え? そうね。ありがとう」

  取り乱してはいないけれど、魔法で服や体を洗いたてのようにしてくれたのは本当に助かったわ。

 ぼんやりと薪から出ている煙をたどり上を見上げると木々の間から見える空は夕方だと教えてくれている。

「さて、どうしたもんかしら」

 これから夜になる。私でも流石にこれば不味い状況だと理解しているのよ。

 つい口から出た言葉に、ほどよい間隔の距離を空けて隣に座っているリース君が反応した。

「ここで夜を明かし明日、別れた者達と合流したほうが妥当かと」
「却下。俺は帰るぜ」

 リース君の言葉に被せるように、薪を挟み私の正面に座っていたゴツいイケメンが、割り込んできた。リース君は、何も聞いてなかったかのように視線は私に合わせたままゴツイイケメンに言った。

「隊長は、先に帰って大丈夫ですから」

  正直、この二人の位置関係がよく分からない。けれど聞きたいことは聞いておこう。

「なんか険悪なムードのとこ申し訳ないけど、ゴツイケメンさんのお名前と…」
「あ? なんだゴツイケメンって? 俺の事か?」

 私はそうだと頷き、一番重要な事を聞いた。

「貴方達は、私の敵? それとも味方かしら? 」

 聞いた直後、炎の中をくぐり抜け短剣が私の喉めがけて投げられたようだ。それは、光の張った防御の膜にアッサリ弾かれた。

「ダッガー!」
「まあ、神器をそんだけジャラジャラつけてりゃあ無理か」

  緊迫したリース君の声とは裏腹に短剣を投げた張本人は、かったるそうな口調だ。

 私はといえば、ああ、このゴツいイケメンの名前はダッガーというのか。うん、なんか雰囲気に合ってるわ。でも、今でこそゴツいんだろうけど、子供の頃はさぞ可愛いかったに違いない。そんな事を頭で考えていた。

『私が防ぐと安心していたのですか?』

 動揺しない私に光が言葉を頭の中に送ってきた。

 というか、ゴツイケメン、ダッガーの投げてきた短剣は速すぎて反応できなかったのよ。

 勿論警戒はしていたけど最近鍛え始めたばかりの素人の私達が、こんな筋肉の塊に敵うわけないじゃない!

「救世主殿! お怪我は?!」


 青ざめ近寄ってきたリース君に私はもの申した。

「何よその救世主って?」
「違うのですか? 神が選んだ救世主と伝え聞いてますが」

 いつからそんな事になってるの?  とりあえず訂正はしっかり今しておきたい。

「そんなんじゃないし、しかもダサいっ! 私はゆらよ。名前があるから!」
「ユラ様?」
「イケメンだからサービスで呼び捨てでいいわよ」

リース君と話していたら。

「おい、ユラ」
「あなたに呼び捨ては許可してないから」
「あんだと? 俺のが年上じゃないか」

 私の名前を呼んだダッガーを睨み付け私は一言。

「ごめんなさいは?」
「あ?」
「敵なの? 敵なら謝んなくていいわよ。ただし味方なら、剣投げたの謝って」
「あんだ…」

「代わりに謝ります。また以前の私の口のききかたも。戦場で気が立っていたとはいえ失礼な態度をとりました。」

 またもやダッガーを抑えたリース君。私はねぇ肝心な答えを聞いてないわけよ。私の顔色で頭のよさそうなリース君は察知したらしい。

「難しい質問ですが、今は敵ではありません。残念ですが味方とも言い難いです」

微妙な回答だな。

「しかし、我々はあの停戦にとても感謝しているのです。そうでしょう?ダッガー」
「…ああ」

 渋々賛同したダッガーは、ずっと二人を観察していた私に聞いてきた。

「アンタ、もしや俺に気があるのか?」


──自惚れるなと言いたいところだけど、あながち間違ってはいない。私は体育座りしている膝に肘をつきながら答えた。

「俺様で女好きで私生活はまったく駄目だけど、仕事は出来て歳上って以前の私なら、ど真ん中よ」
「分かりずれぇな」

 手放しで褒めているわけではないと分かっているらしい。リース君は何故か表情が固まっている。

「ようは、私は、遊び人で仕事ができ年上の男性が好きなの。違った、好きだったのよ。追いかけられるより追うのが好きだった」

 でも上手くいった試しがない。手には入っても結局駄目になっていく。

 私が男を駄目にしていると高校からの悪友はいうけれど。

「確かラジウスという名の騎士…あの者に愛をささやかれましたか?」

 リース君、何か魔法の水晶玉のような道具で見ていたの? 

  私の様子を見てふっと笑う姿は、先程の癒し系の笑いとは違い老獪ろうかいさがでている。この子も侮れないなぁ。

「それとは関係なく、今後は好みを変えようかな。というか今は、とりあえず男はいらない」
 
 リースとダッガー、距離はあるが話を聞いていたであろう数人の男性陣は思った。

この少女は何者なんだ?
 
 違う意味でも逆に観察されている事にまったく気づいていない彼女は、お腹を鳴らしながら呟いた。

「お腹すいたし、ノアのモフモフが恋しい~」

 だいぶ図太さに磨きがかかってきているゆらだった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

女官になるはずだった妃

夜空 筒
恋愛
女官になる。 そう聞いていたはずなのに。 あれよあれよという間に、着飾られた私は自国の皇帝の妃の一人になっていた。 しかし、皇帝のお迎えもなく 「忙しいから、もう後宮に入っていいよ」 そんなノリの言葉を彼の側近から賜って後宮入りした私。 秘書省監のならびに本の虫である父を持つ、そんな私も無類の読書好き。 朝議が始まる早朝に、私は父が働く文徳楼に通っている。 そこで好きな著者の本を借りては、殿舎に籠る毎日。 皇帝のお渡りもないし、既に皇后に一番近い妃もいる。 縁付くには程遠い私が、ある日を境に平穏だった日常を壊される羽目になる。 誰とも褥を共にしない皇帝と、女官になるつもりで入ってきた本の虫妃の話。 更新はまばらですが、完結させたいとは思っています。 多分…

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

私、異世界で監禁されました!?

星宮歌
恋愛
ただただ、苦しかった。 暴力をふるわれ、いじめられる毎日。それでも過ぎていく日常。けれど、ある日、いじめっ子グループに突き飛ばされ、トラックに轢かれたことで全てが変わる。 『ここ、どこ?』 声にならない声、見たこともない豪奢な部屋。混乱する私にもたらされるのは、幸せか、不幸せか。 今、全ての歯車が動き出す。 片翼シリーズ第一弾の作品です。 続編は『わたくし、異世界で婚約破棄されました!?』ですので、そちらもどうぞ! 溺愛は結構後半です。 なろうでも公開してます。

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない 

堀 和三盆
恋愛
 一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。  信じられなかった。  母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。  そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。  日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

チートな幼女に転生しました。【本編完結済み】

Nau
恋愛
道路に飛び出した子供を庇って死んだ北野優子。 でもその庇った子が結構すごい女神が転生した姿だった?! 感謝を込めて別世界で転生することに! めちゃくちゃ感謝されて…出来上がった新しい私もしかして規格外? しかも学園に通うことになって行ってみたら、女嫌いの公爵家嫡男に気に入られて?! どうなる?私の人生! ※R15は保険です。 ※しれっと改正することがあります。

処理中です...