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16.調子、狂うじゃんか
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なんか、もう面倒だな。会話が長引くと億劫になるのは自分の改善すべき箇所だけど、こればっかりは無理だ。
「それとも、ダックスではなく元の世界の想い人が忘れられませんか?」
しかも見当違いな事ばかりでゲンナリする。そうだとしたら、貴方に何の影響があるの?ないでしょ?
「逆にそちらはどう思ってきたんですか?奥さんを犠牲にして私が存在しているという現実について」
……あぁ、やってしまった。踏み込みすぎたと思った時には手遅れだ。
「すみ」
「謝る必要はありません。我が国は、マリエル様の命と夏様の未来を犠牲にして救われました」
淡々としている表情は逆にとても仲が良かったんだろうか。私は、お姫様について、とても美しく聡明だったという、いわゆる教科書に載るような表面的なモノしか知らない。
「マリエル様は、隣国に想う方がおりましたが、情勢が不安定だったのもあり安定してから婚約を公表する手はずだったのです。ですが、王位争いに敗れた王子は毒殺されました」
ドラマではなく実際にあった過去の出来事というのが冷たい言い方になるけれど、現実味がない。
「表向きには、病死となっています」
この国だけではなく、他国も弱肉強食だなぁ。
「随分前から、それだけ切羽詰まっていたのか」
小国の場合、特殊な魔法石など採掘場や特産品あれば潤うだろうが、それだっていつかは枯渇するだろうし。最終的に戦になれば自給率が高い国がより生き残れるだろう。
まぁ、武力もないと一瞬で支配されるか。あとは国の位置も重要だよね。攻めやすいか、攻めにくいか。
「ついでに近隣諸国しか知りませんが、貧富の差が激しい国ほど一気に崩れていくなとは感じますね」
他国との国取り合戦より内乱が多発し、それは自滅に繋がる。
「というか、何の話をしていたんでしたっけ?」
この押し倒されている状況を除けばまるで勉強会のようになっている。
「私達の今後についてですよ」
「うわ」
「重かったですね」
いきなり抱き起こされ、膝の上に座らせられた。しかも、こっちのが余計に密着している。
「夏様、マリエル様の為にもお伝えしたいのですが、彼女とは書類上のみで
互いに触れ合うという事はありませんでした。また、既に婚姻時には体調が悪化しており手の施しようがなかった」
何処か具合がわるかったという話は知らない。
「以前、夏様には、召喚の際には膨大な魔力が必要になると言いましたが、そもそも魔力とは後から得られるモノではない。普通は、その身に合う魔力量を持っているのです。ですが、稀にいるのです。少ない分には問題ありませんが」
お姫様は、自身の魔力に耐えきれなかった。
「そうです。マリエル様は、魔力を吸収する魔石を常に身につけておりましたが、所詮気休め程度。成長に伴い内側から傷つき始めた頃、彼女は国庫に眠っていた召喚について記された古書を見つけました」
自分の命と引き換えに強い者を喚ぶことが出来たなら、泥沼化していた戦に終止符が打てるかもしれないと。
「召喚の時、その身が指先から砂になりながらマリエル様は笑みを浮かべていました」
そう言いながら彼の口角が微かに上がった。
「彼女は、最期まで王女でした」
誇らしげのように聞こえるけれど、眼の前の彼は、どう見ても悲しんでいた。
「納得、してないんですね」
伏せ気味だった紫の目が此方に向いた。
「王女が、幼い時から苦しんできたのを間近で見てきました。ですが、自ら進んで砂になる姿を見たくなかった。勿論、止める事も出来ました。ですが……今も正しかったかは、分かりません」
彼は、会った頃とブレることなく迷いなく判断する。何十人、何百と隣国の捕虜の処分を下し顔色を変える事はない。
その彼がと意外だった。
「グレードさんにとって、マリエル様は大事な人だったんですね。あ、今もだろうけど」
うーん、気の利いた言い回しとか私にはハードルが高い。
「お姫様は、幸せだと思いますよ。おそらくですが、まぁ、一緒になれなったけれど王子様のような本気で好きな人がいた。グレードさんみたいに、ずっと記憶してくれている人がいる。この世界に来て思ったんですが、生きるって長さじゃなくて、濃さな気がします」
充実度っていうのかな。
「まぁ、考え方は人それぞれだけど、フグっ」
背中に回された腕の強さが一気に増して呼吸が苦しい。あ、言い方が気に入らないとか?
「あの、私に素敵な言葉を期待するのは無理だから」
「有難うございます」
え?
「貴方に…夏様に会えた事をマリエル様に心から感謝しています」
……泣くのは自由だけど、なんか調子狂うからやめてよね。
肩に乗っかってきた、ちょっと重いけどサラサラと指通りの良い髪を感じながら頭をナデナデしてみた。
うん、お上品な大型犬のようだ。
撫で疲れた頃、やっと肩から重みが消えたと思えば。
「夏、納得されたと思いますので、あの婚姻届の用紙に名前を記入してもらえますか?」
「それとこれとはわけが違うっ!」
調子に乗り過ぎだ!
「それとも、ダックスではなく元の世界の想い人が忘れられませんか?」
しかも見当違いな事ばかりでゲンナリする。そうだとしたら、貴方に何の影響があるの?ないでしょ?
「逆にそちらはどう思ってきたんですか?奥さんを犠牲にして私が存在しているという現実について」
……あぁ、やってしまった。踏み込みすぎたと思った時には手遅れだ。
「すみ」
「謝る必要はありません。我が国は、マリエル様の命と夏様の未来を犠牲にして救われました」
淡々としている表情は逆にとても仲が良かったんだろうか。私は、お姫様について、とても美しく聡明だったという、いわゆる教科書に載るような表面的なモノしか知らない。
「マリエル様は、隣国に想う方がおりましたが、情勢が不安定だったのもあり安定してから婚約を公表する手はずだったのです。ですが、王位争いに敗れた王子は毒殺されました」
ドラマではなく実際にあった過去の出来事というのが冷たい言い方になるけれど、現実味がない。
「表向きには、病死となっています」
この国だけではなく、他国も弱肉強食だなぁ。
「随分前から、それだけ切羽詰まっていたのか」
小国の場合、特殊な魔法石など採掘場や特産品あれば潤うだろうが、それだっていつかは枯渇するだろうし。最終的に戦になれば自給率が高い国がより生き残れるだろう。
まぁ、武力もないと一瞬で支配されるか。あとは国の位置も重要だよね。攻めやすいか、攻めにくいか。
「ついでに近隣諸国しか知りませんが、貧富の差が激しい国ほど一気に崩れていくなとは感じますね」
他国との国取り合戦より内乱が多発し、それは自滅に繋がる。
「というか、何の話をしていたんでしたっけ?」
この押し倒されている状況を除けばまるで勉強会のようになっている。
「私達の今後についてですよ」
「うわ」
「重かったですね」
いきなり抱き起こされ、膝の上に座らせられた。しかも、こっちのが余計に密着している。
「夏様、マリエル様の為にもお伝えしたいのですが、彼女とは書類上のみで
互いに触れ合うという事はありませんでした。また、既に婚姻時には体調が悪化しており手の施しようがなかった」
何処か具合がわるかったという話は知らない。
「以前、夏様には、召喚の際には膨大な魔力が必要になると言いましたが、そもそも魔力とは後から得られるモノではない。普通は、その身に合う魔力量を持っているのです。ですが、稀にいるのです。少ない分には問題ありませんが」
お姫様は、自身の魔力に耐えきれなかった。
「そうです。マリエル様は、魔力を吸収する魔石を常に身につけておりましたが、所詮気休め程度。成長に伴い内側から傷つき始めた頃、彼女は国庫に眠っていた召喚について記された古書を見つけました」
自分の命と引き換えに強い者を喚ぶことが出来たなら、泥沼化していた戦に終止符が打てるかもしれないと。
「召喚の時、その身が指先から砂になりながらマリエル様は笑みを浮かべていました」
そう言いながら彼の口角が微かに上がった。
「彼女は、最期まで王女でした」
誇らしげのように聞こえるけれど、眼の前の彼は、どう見ても悲しんでいた。
「納得、してないんですね」
伏せ気味だった紫の目が此方に向いた。
「王女が、幼い時から苦しんできたのを間近で見てきました。ですが、自ら進んで砂になる姿を見たくなかった。勿論、止める事も出来ました。ですが……今も正しかったかは、分かりません」
彼は、会った頃とブレることなく迷いなく判断する。何十人、何百と隣国の捕虜の処分を下し顔色を変える事はない。
その彼がと意外だった。
「グレードさんにとって、マリエル様は大事な人だったんですね。あ、今もだろうけど」
うーん、気の利いた言い回しとか私にはハードルが高い。
「お姫様は、幸せだと思いますよ。おそらくですが、まぁ、一緒になれなったけれど王子様のような本気で好きな人がいた。グレードさんみたいに、ずっと記憶してくれている人がいる。この世界に来て思ったんですが、生きるって長さじゃなくて、濃さな気がします」
充実度っていうのかな。
「まぁ、考え方は人それぞれだけど、フグっ」
背中に回された腕の強さが一気に増して呼吸が苦しい。あ、言い方が気に入らないとか?
「あの、私に素敵な言葉を期待するのは無理だから」
「有難うございます」
え?
「貴方に…夏様に会えた事をマリエル様に心から感謝しています」
……泣くのは自由だけど、なんか調子狂うからやめてよね。
肩に乗っかってきた、ちょっと重いけどサラサラと指通りの良い髪を感じながら頭をナデナデしてみた。
うん、お上品な大型犬のようだ。
撫で疲れた頃、やっと肩から重みが消えたと思えば。
「夏、納得されたと思いますので、あの婚姻届の用紙に名前を記入してもらえますか?」
「それとこれとはわけが違うっ!」
調子に乗り過ぎだ!
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