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69.残り二日。だけど
しおりを挟む最近、改めて自覚した事は、自分は、人に好かれているか、嫌われているかに敏感だということ。
あまり良くない気づきだ。
私は、母子家庭となってから、お母さんの顔色を無意識に窺っていたんだと今は思う。仕事から帰ってくるお母さんを観察し、今日は機嫌がそこまで悪くないとか。
まぁ、好き嫌いはどうしてもあるよね。
私の勝手な判断で例えば教室に30人いて、その中で1人だけでも本当に仲良くできればラッキーみたいな。
「まぁ、ですよね」
陰口だって、モヤっとはするけど、直接キライという言葉は心にくるわぁ。
「どうせ、温室育ちで表面だけの人間でおめでたい奴だからですよね? あとは、あの女の子がいなくなってしまう前に、そもそも戦争が始まる前に来なかったのかよ。ってとこですかね。正直、私だってそう思います」
「カエデちゃんてさ~、なんで自分で自分の首を絞めようとするのか不思議。死んだのは、妹だよ」
やっぱり身内だった。
「薬があれば助かったけど、戦争中で何もかもが不足していた」
しょうがないと呟きながらも苦しそうな声。
「俺は…前線にいて間に合わなかった」
こんな話をさせてるのは私。
「この国は、獣族は少ないだろ? 戦で使えるから沢山駆り出され皆死んだよ」
ため息をつき私を見る目は意外にも穏やかだ。
「カエデちゃんのことは、キライだけど嫌いじゃないよ。君の世界なら妹は長く生きられただろうなとは思ってるけどね」
「ごめんなさい」
「何が?」
「思い出させてごめんなさい」
好奇心でこの人を傷つけた。神様の次に強いなんて何の役にも立たない。
まして、私自身は何も持っていない。
暖かい。頭を撫でられていた。
「いつ帰る? もうきっと間近だろ?」
何でこの人は気づくんだろう? そして誤魔化しも効かない。
「…明日」
「だいぶ急だな~」
「奴は?」
ルークさんだよね。
「知ってる」
「アイツはバカだな」
「バカじゃないです」
「ふっ、カエデちゃんもバカだな」
頭はいいとは言えないので、否定できない。
「カエデはさ~。優等生すぎんだよ」
意味わかんないよ。呼び捨てだし。
「もっと我が儘でいいと思うよ、お兄さんは」
誰かにもそんな事、言われたな。さてと、と言い立ち上がるラウさん。
「寒いし入ろっか」
「はい。フブッ」
前を歩いていたラウさんが、いきなり立ち止まったので鼻をラウさんの背中にぶつけた。
「リラ」
「え?」
ラウさんは、顔を私に半分向けた。
「リラ。リラージュが妹の名前だよ。花の名前でさ」
私は、また歩き出したラウさんの背中に言った。
「私の短所は、臓器は覚えられるのに人の名前は覚えられないんです。でも、リラちゃんの名前も顔も一生忘れませんから」
「うん、有り難う」
ラウさんの顔は見えないけど、きっと穏やかな表情をしている。
そんな気がした。
***
その夜。
私は、淡い光の中手紙を書いていた。まだ習っている途中の為、単語の羅列で電報みたいになっちゃう。
「は~」
なんとか書き終わりベッドに転がるも。
「寝れない」
……もー、いっか。残り1日も2日も同じかな。
「よし」
ベッドから起き上がり、クローゼットを開け漁ってみれば、それは隅にあった。
私は、この世界に来たときに着ていたスーツに着替えるも、なんだか馴染まないと感じる自分がいる。
そんな思考を中断させた。
音や気配でばれるなら、転移だなと居間から出れる庭に転移した。
外は雨が降っていて音が消えてちょうどいい。
念のために部屋に入れないよう力を扉に放つ。ついでに外の護衛の人が感じないように感度はゼロと念じる。
「結構降ってるな」
素足で踏む石は冷たくて雨が体を濡らしていくけど舞い始めた。お披露目で舞ったものと同じ動きと言葉を口ずさむ。あの時とは違い棒はないけれど、できる気がした。
最後の円を膝をつき両手で結ぶ。
直後、描いた陣が光り暗闇の中に金の光の柱が空へ突き抜け。
──ヴィラが現れた。
「楓」
ヴィラが私の名前を呼ぶ。
「カエデ!」
後ろから声がした。
振り向くと居間の庭に出る扉は開いていて。そこにはルークさんだけでなくシャル君やラウさん、マリーさん達までいた。
何故?
防御は完璧なはずだった。全ての人を拒否する防御をかけたのに。
こないで、見たくないの。聞きたくないのに。
何故いるの?
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