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13.ルークの気持ち
しおりを挟むちゃんと会って話をしたい。今すぐにも。
ラウとの別れで俺はいてもたってもいられず、深夜にも関わらず楓がいる部屋に向かった。
非常識なんて知るか。
楓がいる部屋の扉の前に立つ若い兵士の訝しげな表情を無視し部屋に入った。外から探った気配で楓が起きているのは分かっていた。
居間から庭に出れば、楓は小さく歌っていた。
以前と変わらず低めの心地よい声。風に乗って楓から金の花びらが飛び立つと同時に草花からも光が飛びそれらは混じりあい空へ消えていく。
月明かりの中で空へ向けてゆるく手を広げている姿は儚く以前と変わっていないように見えるがどこかが違った。
楓が俺に気がつき振り向いた。
「ルークさん」
ああ。
彼女から幼さがなくなったのだ。
肩まで伸びた漆黒の髪をなびかせ何にも染まらないような瞳がより際立つ。
「わっ!」
衝動的に抱きしめれば色気のない声がする。見た目は変わったが、やはり楓だ。つい笑みを浮かべてしまう。
また何かしゃべろうとする彼女の口を自分の口で強引にふさいだ。
「ぷはっ!な、何するんですか?!」
気の済むまで塞いだ唇を離せば息を切らせて頬を膨らませている。そんな彼女の足元で俺は膝をついた。
「楓」
「ど、どうしたんですか?!」
ぎょっとしたように後退りをした彼女の腕を掴む。
「本来、騎士が婚姻を申し込む際に口にする言葉は命を懸けて生涯貴方を守り抜くと誓う」
戸惑う楓の左手をとった。
「だが、俺は違う」
騎士の誓いを変えるなんて以前の俺には考えられない事だった。
驚かさないよう、ゆるりとした動作で彼女の左手の4番目の指に指輪をはめた。
「楓、騎士として誓う。命を懸けるのではなく楓と共に生き共に死ぬまで一緒にいたい」
自分に誓う相手が現れるとは思っていなかった。唯一と言える存在。
「好きだ」
楓を見上げ視線を合わせれば。
彼女は泣いていた。
「楓?」
やはり急過ぎたか。立ち上がり楓の涙を指で拭うが黒い瞳からは涙が止まらない。
「婚約から一年後には婚姻する決まりを伝えなかったから怒っているのか? 俺は、親や友と別れる事になった楓には、時間が必要かと思っていた」
俺の地位を確立し煩い貴族どもを黙らせ、楓をなるべく自由に飛ばせてやりたい。
それくらいしか思いつかなかった。
「それこそ言ってくれなきゃ分かんないよ」
「すまん」
俺は言葉が足りないといつも言われる。楓が寄りかかってきた。
「何で指輪の事を知ってるの?」
「侍女達が教えてくれ、用意していた。婚約指輪が先だと聞いたが、気が急いだ」
なにやらシンプルな結婚指輪よりデザインや石の大きさが侍女に聞いたがよくわからなかったのもある。
「…んで」
「えっ?」
よく聞こえなかった。
「だからっ私もだよ!」
顔を覗きこめば、暗がりでも分かるほど楓の顔が赤い。
「喜んで。私も、私のがきっと、もっと好きだよ」
それは、とても小さい声だったが聞き逃さなかった。
「ちょっ!苦しいよ!」
また、強く抱き締めた。こんなにも嬉しいのは久しぶりだ。
ああ、重要な事があった。
俺は、抱き締めた腕を緩めずっと気になっていた事を聞いた。
「楓」
「苦しかった~!何?」
見上げた楓と視線が絡む。
「楓の世界にいるルークって誰だ?」
ぽかんと口を開け見上げてくる楓に更に聞く。
「男の名なのは分かるが」
この世界を、俺を選んでくれた楓だが不安は残る。
ふふっと次の瞬間楓は、笑った。
彼女表情は、いまや先程の止まらないほどの涙を流していた姿は嘘だったのではないかと疑うくらいニヤニヤとした表情をしていた。
「早く言え」
苛立ちを耐えた俺を誰か誉めてほしい。そして、もったいぶった彼女の口から出たのは。
「ルークは、猫だよ」
「ネコとは?」
「確か前に少し話をしたけど飼っている動物の名前だよ」
動物…。
俺は一気に脱力した。
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