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1.私のガソリン
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「明日は休み!あぁ、休みの前日の開放感はハンパない」
何年働いてんの? そうね、かれこれ三年目ですが、なかなか人間は進化しないのよ。
「いやいや、一人芝居をしている場合ではない。さて、今日は何にしようかな」
1LDKのアパートは、物を取る時は可動域が少なく済むので便利である。
「う~ん、疲れてスーパーに寄らないからスカスカだわ」
帰宅し、速攻で風呂を済ませて冷凍の米とこれまた作り置きしておいたロールキャベツを平らげたので冷蔵庫の中身は既に把握している。
「甘いのか塩っぱいのか悩ましいな」
ご飯は食べているのに何を悩んでいるかというと。
「よし、読むのは時代物だからコレにしよう」
手にしたのは数日前、お母さんが、デパートへ払込ついでの帰り道、家に物資を置いていてくれた。これ、幾つか貰ったうちの一つである白くて丸く薄い物、千枚漬けである。
「漬物とくれば飲み物はコレよね」
ヤカンも電気ポットも置いていないので、小さな片手鍋で湯を沸かす。
その間にビニールのパックから数枚が重なった蕪をまな板の上に取り出していく。
「このぬるっとが独特よねぇ。もっと昆布は細くしたいのに切りづらい……」
蕪はケーキカットの様に四等分に一緒に入っている昆布は細く切るというのが私の中では定番である。というか、他の人がどのような切り方をして食べているのか知らない。
「あ、沸いた。そして毎回茶葉がこぼれんのは何故に?」
シンプルな昔からあるような赤茶色の急須に目分量で茶葉を投入するのだが、いつも茶葉が少し落ちる。
まぁ、単に私が雑だからに違いない。
「そしてお湯も零すが今日は最小限の被害で済んだし、いっかな」
鍋で急須に注ぐのが悪い。だが、なんか面倒なんだよね。もはやヤカンを買うべきなんだけどさ。
「あぁ、良い香り」
玄米茶の香りにほんわかする。パックのが楽だけど、やはり急須の方が手間でも断然良い。
蓋を閉め少ししたら、ゆらりと回して湯呑に注ぐ。ちなみに湯呑は実家にあった昔ながらの寿司屋にありそうなサイズである。じいちゃんの名前が彫ってあるから、もしかしたら本当に寿司屋のかもしれない。
「生きているうちに聞いておけばよかった」
いなくなってから聞きたい事や知りたい事、行きたかった場所とか出てくる。
そんなモノなのかもな。
「あ、忘れてた」
いつか忘れたが、ガラクタ市で購入した古伊万里の小皿にまな板の上に放置してしまった蕪と昆布を移動させて。
「邪道なのかもしれないけど、コレは譲れん」
その真っ白な蕪に醤油をひとたらし。それで終わらず冷蔵庫からマヨネーズを取り出し、端に絞り出す。
「アチチ」
取っ手がない湯呑は、非常に熱いし、疲れている私は注意力も低下している為、慎重に運ばねばならない。
「ん?修だ」
チカチカとお知らせしてくれているスマホを開けば高校からの腐れ縁の修からだ。彼とは最近、休日に会うようになった。用件は明日の夜が空いていたらご飯を食べないかという内容である。
「たまにはいっか」
給料日前の外食は避けたいが、彼のチョイスする店は私好みでハズレがない。悩んだのは数秒であった。
「お茶が冷めちゃう」
簡素に行くといれスマホは彼には悪いがサイレントにしてしまう。
「これから浸りたいからすまんのう」
私のガソリンの一つは、本を読みながら何かをつまむという事。
玄米茶を一口啜り、箸で薄い蕪を摘んで、ちょこんとマヨネーズをつけて口に放り込む。
「んー、最高!」
お茶の鼻に抜ける香り、蕪の酸味が口に広がる。
「さて、読みますか」
本の後ろの解説によると今夜は、江戸の町で起こる事件を貧乏侍と飯屋の看板娘が解決するらしい。
「飯屋かぁ。お腹空きそう」
夏目 凛は、本の世界に没頭し始めた。
何年働いてんの? そうね、かれこれ三年目ですが、なかなか人間は進化しないのよ。
「いやいや、一人芝居をしている場合ではない。さて、今日は何にしようかな」
1LDKのアパートは、物を取る時は可動域が少なく済むので便利である。
「う~ん、疲れてスーパーに寄らないからスカスカだわ」
帰宅し、速攻で風呂を済ませて冷凍の米とこれまた作り置きしておいたロールキャベツを平らげたので冷蔵庫の中身は既に把握している。
「甘いのか塩っぱいのか悩ましいな」
ご飯は食べているのに何を悩んでいるかというと。
「よし、読むのは時代物だからコレにしよう」
手にしたのは数日前、お母さんが、デパートへ払込ついでの帰り道、家に物資を置いていてくれた。これ、幾つか貰ったうちの一つである白くて丸く薄い物、千枚漬けである。
「漬物とくれば飲み物はコレよね」
ヤカンも電気ポットも置いていないので、小さな片手鍋で湯を沸かす。
その間にビニールのパックから数枚が重なった蕪をまな板の上に取り出していく。
「このぬるっとが独特よねぇ。もっと昆布は細くしたいのに切りづらい……」
蕪はケーキカットの様に四等分に一緒に入っている昆布は細く切るというのが私の中では定番である。というか、他の人がどのような切り方をして食べているのか知らない。
「あ、沸いた。そして毎回茶葉がこぼれんのは何故に?」
シンプルな昔からあるような赤茶色の急須に目分量で茶葉を投入するのだが、いつも茶葉が少し落ちる。
まぁ、単に私が雑だからに違いない。
「そしてお湯も零すが今日は最小限の被害で済んだし、いっかな」
鍋で急須に注ぐのが悪い。だが、なんか面倒なんだよね。もはやヤカンを買うべきなんだけどさ。
「あぁ、良い香り」
玄米茶の香りにほんわかする。パックのが楽だけど、やはり急須の方が手間でも断然良い。
蓋を閉め少ししたら、ゆらりと回して湯呑に注ぐ。ちなみに湯呑は実家にあった昔ながらの寿司屋にありそうなサイズである。じいちゃんの名前が彫ってあるから、もしかしたら本当に寿司屋のかもしれない。
「生きているうちに聞いておけばよかった」
いなくなってから聞きたい事や知りたい事、行きたかった場所とか出てくる。
そんなモノなのかもな。
「あ、忘れてた」
いつか忘れたが、ガラクタ市で購入した古伊万里の小皿にまな板の上に放置してしまった蕪と昆布を移動させて。
「邪道なのかもしれないけど、コレは譲れん」
その真っ白な蕪に醤油をひとたらし。それで終わらず冷蔵庫からマヨネーズを取り出し、端に絞り出す。
「アチチ」
取っ手がない湯呑は、非常に熱いし、疲れている私は注意力も低下している為、慎重に運ばねばならない。
「ん?修だ」
チカチカとお知らせしてくれているスマホを開けば高校からの腐れ縁の修からだ。彼とは最近、休日に会うようになった。用件は明日の夜が空いていたらご飯を食べないかという内容である。
「たまにはいっか」
給料日前の外食は避けたいが、彼のチョイスする店は私好みでハズレがない。悩んだのは数秒であった。
「お茶が冷めちゃう」
簡素に行くといれスマホは彼には悪いがサイレントにしてしまう。
「これから浸りたいからすまんのう」
私のガソリンの一つは、本を読みながら何かをつまむという事。
玄米茶を一口啜り、箸で薄い蕪を摘んで、ちょこんとマヨネーズをつけて口に放り込む。
「んー、最高!」
お茶の鼻に抜ける香り、蕪の酸味が口に広がる。
「さて、読みますか」
本の後ろの解説によると今夜は、江戸の町で起こる事件を貧乏侍と飯屋の看板娘が解決するらしい。
「飯屋かぁ。お腹空きそう」
夏目 凛は、本の世界に没頭し始めた。
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