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41.のらりくらりな私
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「いやぁ、いてよかったよ。往生際が悪かったから不在の可能性も視野にいれていたんだけど」
「プライバシー!常識から学び直しなさいよ!」
レイルロードことレイちゃんは、性懲りもなくバスルームに現れた。
「カナは手癖をなおしなよ。あっ!やめてよ!濡れたじゃないか!」
手桶を本気で投げつけたが余裕で躱されるのを想定してお湯入りである。運良く身体にかかったらしくご立腹だ。
「いや、怒るのはこっちでしょ! 只でさえ狭いんだから出なさい!」
私にも恥じらいはあるのだ。
***
「で、迎えは深夜じゃなかったの?」
「待ち切れないらしいよ。いい歳して子供だよね」
「非常識な場に毎回出没するレイちゃんも同類にしか思えないんだけど」
「俺は虫じゃない!その呼び方もやめろ!」
プンスカ怒ってますけどね、私だって準備っていうものがあるのよ。
「へぇ、良い香りじゃないか。まともな物もあるんだ」
れたレイちゃんは、私の抱えている花束の香りが気に入ったらしい。
「まともはともかく嫌いじゃないわ」
お供え以外で花に触れるのはいつぶりか。長年勤めていた場所だけに急すぎる退職は周囲にとってかなり驚かれた。
上には以前に体調不良は伝えていたし、ちゃんと引き継ぎも終えたのだから優秀ではなかろうか。
「とりあえずコップにいれるか」
あちらの世界に移り住む際にいくつか条件があった。その中には、動植物は持ち込み不可、また荷物は最小限との事。
「陛下らしい」
なるべく異物を入れたくないのだろう。異世界に対して嫌悪している筈の彼が私の永住を認めたというのが今でも驚きだ。
「悪いけど花は持ち込めないから」
「はいはい」
ただぼんやりと眺めていただけよ。
「じゃ、気が変わらない内に行くよ」
「ま、まっ」
少しぐらい感傷にひたらせてくれてもいいじゃないの!
私の抗議の声も虚しく何度目かの光に包まれた。
***
「それで、いつまで我が妃の部屋にいるのかな?」
「私は、ずっとカナにいて欲しいですわ。なにより子供達が、とてもカナに懐いてますもの」
「くっ」
王子様、悔しそうに私を見るのはヤメテ。
「確かに長居しすぎよね」
「メリルが楽しそうだから本当は居てもらって構わないが、毎日のように二人が押しかけてきてるのも事実だねぇ」
どうやら王子様の仕事にも支障が出始めているらしい。彼らは何やってんだか。
「というか、私が逃げてんのよね」
会議の時間だと呼ばれた王子様が去り、静けさが戻ったせいで、独り言の声が大きく感じる。
「カナ、石を変える頃ですわ」
「本当だ。まだ酷い色だわね」
雫型の魔法が練り込まれているというペンダントは、貰った時の透きとおるような水色の面影はなくどす黒い色へと変化している。
「ここまでの色とは。今も辛いですわね」
「いや、かなり楽になってる。嘘は言わないわよ」
ジトッと睨まれても、ふっくら頬に真ん丸な蒼い目のお姫様は、可愛いとしか言えない。こんな可愛らしい子が二児の母とは、子供からしたら自慢な母だろう。
「石を変えたら手をお貸しください」
「いや疲れちゃうわよ!」
「このくらい何の影響もございません」
意外にも強い力で半ば強引に握られた手からさっそく暖かいお湯が流れ込んでくるような感覚をうけた。
怠く冷えきった身体は指先から温度を取り戻していく。そのなんとも言えない優しい暖かさに目を閉じれは、フリルちゃんは、穏やかに、しかしキッパリと言い切った。
「カナは、元の健やかな身体に戻ります」
一日に何回も言ってくれるその言葉になんとかなりそうかもと思えてきたのよね。
「うん。悪いけど体が落ち着くまでここにいさせて」
「まぁ! 完治後もいて欲しいですわ!」
ごめんと謝れば、謝るなと本気で怒られた。にこにこしているお姫様の怒りはなかなか迫力である。
「じゃあ、甘えちゃお」
体が弱ってると心も不安定になる。そんな姿をランクルとギュナイルには見せたくないんだよね。
手から腕へと温かさが全身に廻り始めたので、それに身を任せながら奏はゆっくりと本格的な眠りへと落ちていった。
「プライバシー!常識から学び直しなさいよ!」
レイルロードことレイちゃんは、性懲りもなくバスルームに現れた。
「カナは手癖をなおしなよ。あっ!やめてよ!濡れたじゃないか!」
手桶を本気で投げつけたが余裕で躱されるのを想定してお湯入りである。運良く身体にかかったらしくご立腹だ。
「いや、怒るのはこっちでしょ! 只でさえ狭いんだから出なさい!」
私にも恥じらいはあるのだ。
***
「で、迎えは深夜じゃなかったの?」
「待ち切れないらしいよ。いい歳して子供だよね」
「非常識な場に毎回出没するレイちゃんも同類にしか思えないんだけど」
「俺は虫じゃない!その呼び方もやめろ!」
プンスカ怒ってますけどね、私だって準備っていうものがあるのよ。
「へぇ、良い香りじゃないか。まともな物もあるんだ」
れたレイちゃんは、私の抱えている花束の香りが気に入ったらしい。
「まともはともかく嫌いじゃないわ」
お供え以外で花に触れるのはいつぶりか。長年勤めていた場所だけに急すぎる退職は周囲にとってかなり驚かれた。
上には以前に体調不良は伝えていたし、ちゃんと引き継ぎも終えたのだから優秀ではなかろうか。
「とりあえずコップにいれるか」
あちらの世界に移り住む際にいくつか条件があった。その中には、動植物は持ち込み不可、また荷物は最小限との事。
「陛下らしい」
なるべく異物を入れたくないのだろう。異世界に対して嫌悪している筈の彼が私の永住を認めたというのが今でも驚きだ。
「悪いけど花は持ち込めないから」
「はいはい」
ただぼんやりと眺めていただけよ。
「じゃ、気が変わらない内に行くよ」
「ま、まっ」
少しぐらい感傷にひたらせてくれてもいいじゃないの!
私の抗議の声も虚しく何度目かの光に包まれた。
***
「それで、いつまで我が妃の部屋にいるのかな?」
「私は、ずっとカナにいて欲しいですわ。なにより子供達が、とてもカナに懐いてますもの」
「くっ」
王子様、悔しそうに私を見るのはヤメテ。
「確かに長居しすぎよね」
「メリルが楽しそうだから本当は居てもらって構わないが、毎日のように二人が押しかけてきてるのも事実だねぇ」
どうやら王子様の仕事にも支障が出始めているらしい。彼らは何やってんだか。
「というか、私が逃げてんのよね」
会議の時間だと呼ばれた王子様が去り、静けさが戻ったせいで、独り言の声が大きく感じる。
「カナ、石を変える頃ですわ」
「本当だ。まだ酷い色だわね」
雫型の魔法が練り込まれているというペンダントは、貰った時の透きとおるような水色の面影はなくどす黒い色へと変化している。
「ここまでの色とは。今も辛いですわね」
「いや、かなり楽になってる。嘘は言わないわよ」
ジトッと睨まれても、ふっくら頬に真ん丸な蒼い目のお姫様は、可愛いとしか言えない。こんな可愛らしい子が二児の母とは、子供からしたら自慢な母だろう。
「石を変えたら手をお貸しください」
「いや疲れちゃうわよ!」
「このくらい何の影響もございません」
意外にも強い力で半ば強引に握られた手からさっそく暖かいお湯が流れ込んでくるような感覚をうけた。
怠く冷えきった身体は指先から温度を取り戻していく。そのなんとも言えない優しい暖かさに目を閉じれは、フリルちゃんは、穏やかに、しかしキッパリと言い切った。
「カナは、元の健やかな身体に戻ります」
一日に何回も言ってくれるその言葉になんとかなりそうかもと思えてきたのよね。
「うん。悪いけど体が落ち着くまでここにいさせて」
「まぁ! 完治後もいて欲しいですわ!」
ごめんと謝れば、謝るなと本気で怒られた。にこにこしているお姫様の怒りはなかなか迫力である。
「じゃあ、甘えちゃお」
体が弱ってると心も不安定になる。そんな姿をランクルとギュナイルには見せたくないんだよね。
手から腕へと温かさが全身に廻り始めたので、それに身を任せながら奏はゆっくりと本格的な眠りへと落ちていった。
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