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33.奏は急ぐ
しおりを挟む「くわ~」
「お食事はどうされますか?」
「勿論いただくわ」
シエナちゃん、今日はツインテールのリボンが似合ってるわ。可愛いわねぇと揺れるピンクの髪を眺めながら二回目のあくびを辛うじて手で塞ぐ。
私の行儀の悪さは悪化してきているようだ。いや、このお屋敷って本当に居心地が良いのよね。
「あれ? 今日は、あの騒がしいのがないわね」
「ギュナイル様がいらっしゃらないと寂しいですね」
「いや、平和が一番でしょ」
この子は何を言っているのか。
コンッ コンッ
「あら、見覚えのある鳥さんね」
その小鳥は、レイちゃんこと魔術士レイルロードが操る生き物だ。
『おい、用件は二つだ』
「つぶらな瞳もレイちゃんの俺様仕様で台無し」
『そんな生意気な口を叩いているのも今だけだ』
「あっそ。なら早く言いなさいよ」
相変わらずブレない捻くれ口調のレイちゃんの報告内容は、確かに目を覚まさせてくれた。
「君は、心配をするほうじゃなくてさせる役なはずなのにさ」
私は、急遽着替えもそこそこに城に向かった。
* * *
城内だが、かなり離れた場所に建つシンプルなアイボリー色の建物に一歩踏み入れると、まず鼻が薬品の匂いに反応した。
臭いまではいかないけど、色々な匂いが混じっていてなんともいえない。
「此方です」
案内人は騎士から医官に引き継がれた。空色ー色の制服の背を歩幅を広くしながら遅れをとらないよう追いかけ奥の角部屋に到着した。
「痛み止めが切れる時間なので目を覚まされるかと」
怪我をしたの? レイちゃんの伝達では魔力切れとしか聞いていない。
無意識に足を忍ばせ近づけば、彼のみなれた銀色の髪は見えた。だけど彫刻のような顔の半分は隠れて見えない。
顔色は良いとはいえないけど、魔力切れとやらなら補充すれば良いのよね?と背後にいる医官に質問しようとして振り向き際に見えた違和感。
「急な魔力切れは急を要する場合のみ、似た性質を持つ者から補給は可能です。ですが、ギュナイル様の魔力の質に合う方がいないのです。また、毒を含む攻撃を受けた影響で左腕はやむなく……」
ギュナイルの左側、肘あたりから袖がくしゃりとシワだらけだった。
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