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2.休みの日は異世界へ
しおりを挟む「最近ラノベを読み漁っているんです」
「ラノベ?」
「はい。特に異世界物を」
私は誰にも言ったことがない最近では一番癒されている趣味を暴露した。
「そちらの世界では、我々の国の世界の様子が書物に書かれているという事かな?」
察しが早い金髪お兄さんに「おしい!」と対等な口調で言いそうになり口を閉じた。近寄りがたいほどのイケメンなのに私の警戒心はどんどん溶かされていくから怖い。
そしてお兄さん、私はそんな勤勉じゃないんですよ。
「えっとですね。おそらく思っているのとは違いますよ。私が読むのはあくまでも空想、そして今ではブームがだいぶ落ち着いているであろう王道物です」
でも好きなのよ。
あの安定感。
登場するメンズは、それぞれカラーの違う、でも共通しているのは皆イケメン。
「学ぶというより娯楽なのか。ちなみに王道って何かな?」
「…それは」
私が最近読んだ物語を思い出しているうちに、なにやら雲行きが怪しくなってきた。
「え、えっとですね」
くう。
そこ聞いちゃう?
恥ずかしいんですけど。
なんの罰で会ったばかりの人にイケメン大好き!騎士様に護られたいっ! リードされたい~!
──言えない。
本業であろう方の前でこんな事を。
何故か背後の青年からも興味津々な気配が漂ってきて困るんだけど。
「…分かりましたよ。馬鹿にしないでくださいよ」
私はしつこいくらいに念をおし恥をしのんでザックリとトリップした女の子が王族やら位の高い騎士様などとくっつく話をした。
話終えて思う。
──なんだろう。
仕事よりも疲れた。何かが体から抜けたような錯覚さえする。
救いはここに友達や職場の上司、同僚がいないだけ、かなりマシだ。私はセーフだと言い聞かせているのに。
「う~ん。今いる王族で年齢に近そうな未婚者がいないんだよね。 私も伴侶を得たばかりだしなぁ。理想に添えなくて申し訳ないね」
私の読んだ異世界トリップの話を真に受けてすまなさそうにするお兄さん。
だから本気にしないで下さいよ。そして、お兄さん王族なんですか?!
うん。確かにオーラは半端ないですもんね。今のうちにイケメンをじっくり堪能しよう。
「あっ」
そのお兄さん、副団長さんは、急に閃いた!とでも言いそうなくらいに嬉しそうな表情になったかと思えば、私を指さし。いや正確には私の後ろに立っている青年が、ターゲットだったようだ。
「ヴィンなんてどうかな?」
「「え?」」
見事に青年、ヴィンという人と声がはもって目がバッチリ合ってしまった。そして視線を逸らしたのは彼のが先だった。
ガーン。
親戚の少女漫画好きな叔母からかりた古い漫画にでてくる言葉が頭をよぎった。
そりゃあ美人じゃないですよ。脇役なのはわかってます。
でも、分かっていても傷つくんですよ。
だって女子だもん。
はい、最後は冗談です。いい大人が可愛い子ぶりました。
申し訳ございません。
いや真面目な話、最近は特に唯一の自慢だった肌もストレスと疲れで荒れているし、食生活もよろしくない。
手入れをして、もっと自分を磨けばいいのかもしれない。でも疲れちゃって出来ないんだよね。
「あのですね。あくまでも作り話ですから」
私は、ぐるぐると渦巻く暗い気持ちに蓋をし、とりあえず話を終わらせにかかる事にした。
「う~ん。でも働いていて忙しい貴方の時間をしばらく此方の都合で滞在してもらわないといけないし」
私は説明された話をもう一度確認する。
「あの、往き来はできるんですよね?」
「勿論。魔術師長や神官長から後程具体的な話はされると思うけど、ようは眠りについている神獣を目覚めさせて欲しいんだよ」
まさにファンタジー。いや、自分で起きてよ神獣さん。
違った。肝心な話をしないと。
「えー、私の場合仕事があるので決まった時間に私の国でいうと毎週水曜日、朝7時から2時間此方にきて、神獣を目覚めさせる儀式をすればいいんですよね」
引き受けたからには、確認はちゃんとしよう。
「本当は長く神獣に触れてくれたほうが、更に目覚めは速まるけど、向こうの生活もあるだろうからね」
おお。
わかっていますね。
お兄さんは顔だけじゃなく中身も出来る人だわ。
「で、報酬なんだけど金貨は難しいかな?」
「そうですね。売りに行って怪しまれたりしたら困るので。別にいら…そうだ」
今度は私が閃いた。
「それは構わないけれど、本当にそれだけでいいの?」
私が希望した事が意外だったらしく、もっとないのかと言われて、テーブルの上に置かれた空の器に目を留めた。
「ではお言葉に甘えまして…」
説明し始めた私の瞳はきっと輝いていたに違いない。
* * *
「おはようございます~」
「大丈夫ですか?」
「なんとか気合いで起きました」
自分が時間を指定したとはいえ辛い。
でも、せっかくの休みだから早く此方に来た方が午前中にスーパーに買い物に行ったり洗濯も出来る。
前を歩いていたヴィンさんが振り向いた。目は微妙に合わないけど、気を遣ってくれているのは伝わる。
「少し休まれてからにしますか?」
「眠いのはいつもの事だし、大丈夫です」
初日はお偉い様方がお出迎えをしてくれたけど、それ以降は、マントを貸してくれたヴィンさんが、帰るまで同行してくれているのだ。
ヴィンさんもいい声してるんだよね。
あっ声入れられる目覚まし時計が確か家にあった気が。お願いしようかなぁ。
ああ。低音ボイスの副団長さんも捨てがたい。
「では先に神獣の元へ」
「はい。お願いします」
いまだにお城が広すぎて通路も覚えられない私は、案内人がいないと何処にも行かれない。
前を歩くヴィンさんの背中を追いかけながら思う。やっぱり距離をとられていると感じるのは気のせいじゃないだろうなぁと。
でも、一気に縮まる時は突然やってきた。
「あの」
「だから脱いで下さい」
「ですから不味いで…」
先に進まない。
しびれを切らした私は、腰に手をあて更に大きな声をだした。
「つべこべ言わずに脱ぎなさい!」
やっと彼は服に手をのばしはじめた。
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