ついてない日に異世界へ

波間柏

文字の大きさ
上 下
15 / 16

15.気持ちは決まっているはずが

しおりを挟む

「行くぞ。荷物はそれだけか?」
「ちょっと!」

 挨拶もそこそこにリードに抱きあげられた!まだ会話というものをしていないのに!

「ナツ様」
「あ、神官長さん。今晩は?」

 地下に位置する場では朝か夜なのか。とりあえず挨拶はしないとだし。

「おはようございます。今は、夜明け前になります」

そんな早いのに爽やかな笑顔。
あら?

「何か…変わりました?」

 元々穏やかそうだったけど。人臭くないというか実体がないのかなくらい綺麗すぎな印象だった。

「いえ、特には」

彼は不思議そうな様子だ。

「そうですよね。でも、なんか地に足がついた感じなんですよね」

 落ちついたというのか近いだろうか。

「私自身は変わらないかと思いますが。気持ちには変化があったかもしれません」

 そう呟き私を見てふっと笑った顔は悪くない。

「そうなんですね。なんか、今の方がいいと思う」
「──そうですか」


 彼は、微かに目を見開いた後、今度は晴れやかに笑った。

「おい、時間がおしい。行くぞ」
「ぎゃっ!」

 怒ったような台詞と同時に肩に担がれた。苦しいんだけど!

「また、お会いしましょう」
「えっ? ああ。またっ」

 神官長さんの綺麗な礼を逆さまに見ながら私は荷物と同じ扱いで運ばれていった。





*~*~*



「思っていたより早く着いたな」

 そうでしょうとも。あんだけ馬を飛ばし宿に寄っても仮眠のみ。あんた、私の寿命を縮めたいのかしら?

「大丈夫か?」
「……ん」

 リードは、ベッドにうつ伏せに倒れ込んだ私の髪を優しく梳いてくる。

 ずるいなぁ。そんな扱いされると文句が言えなくなる。

「で、ここ貴方が統治していた領地よね?」
「ああ」

 話がしづらいので仕方なくベッドから身を起こした。馬に乗っているわけではないのにまだ揺れている気がする。

「城の人間にナツが来る事をあまり気づかれたくなかったんだ」

 彼は、サイドテーブルに手袋やら装具を置いている。シャツのボタンをいくつか外すと此方を向いた。

「あの場所だけは知られたくない」
「そう」

何故貴方が知られたくないのか。

 ベッドに腰掛けられたせいで、私の体は、大きく揺れた。なんか、無駄に色気あるのよね。

……私は、リードの動きばっかり見ている気がする。

「大人しいな」
「疲れてるからよ」

 彼が此方に身体を傾けるので重みに引きずられ私まで傾く。手袋越しではない、素手で私の頬を撫でてくる。

「ナツが静かだと調子がくるう」

 影ができ、微かに彼の鼻があたり唇が近づいてきて。

コンコン!

「リード様! 無事ナツ様をお連れできたのですか?!」

 ノックの後に勢いよく扉が開かれじぃやさんが興奮した様子で乗り込んできた。

「…空気読めよ」

 子供のような拗ねた小さな声に思わず吹き出した。そうして気づいた。

あ、大丈夫かも。
私、まだ笑えているじゃないと。






しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

波間柏
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23

転生したらただの女子生徒Aでしたが、何故か攻略対象の王子様から溺愛されています

平山和人
恋愛
平凡なOLの私はある日、事故にあって死んでしまいました。目が覚めるとそこは知らない天井、どうやら私は転生したみたいです。 生前そういう小説を読みまくっていたので、悪役令嬢に転生したと思いましたが、実際はストーリーに関わらないただの女子生徒Aでした。 絶望した私は地味に生きることを決意しましたが、なぜか攻略対象の王子様や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛される羽目に。 しかも、私が聖女であることも判明し、国を揺るがす一大事に。果たして、私はモブらしく地味に生きていけるのでしょうか!?

外では氷の騎士なんて呼ばれてる旦那様に今日も溺愛されてます

刻芦葉
恋愛
王国に仕える近衛騎士ユリウスは一切笑顔を見せないことから氷の騎士と呼ばれていた。ただそんな氷の騎士様だけど私の前だけは優しい笑顔を見せてくれる。今日も私は不器用だけど格好いい旦那様に溺愛されています。

【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!

雨宮羽那
恋愛
 いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。 ◇◇◇◇  私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。  元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!  気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?  元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!  だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。 ◇◇◇◇ ※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。 ※アルファポリス先行公開。 ※表紙はAIにより作成したものです。

変態婚約者を無事妹に奪わせて婚約破棄されたので気ままな城下町ライフを送っていたらなぜだか王太子に溺愛されることになってしまいました?!

utsugi
恋愛
私、こんなにも婚約者として貴方に尽くしてまいりましたのにひどすぎますわ!(笑) 妹に婚約者を奪われ婚約破棄された令嬢マリアベルは悲しみのあまり(?)生家を抜け出し城下町で庶民として気ままな生活を送ることになった。身分を隠して自由に生きようと思っていたのにひょんなことから光魔法の能力が開花し半強制的に魔法学校に入学させられることに。そのうちなぜか王太子から溺愛されるようになったけれど王太子にはなにやら秘密がありそうで……?! ※適宜内容を修正する場合があります

【完結】聖女召喚に巻き込まれたバリキャリですが、追い出されそうになったのでお金と魔獣をもらって出て行きます!

チャららA12・山もり
恋愛
二十七歳バリバリキャリアウーマンの鎌本博美(かまもとひろみ)が、交差点で後ろから背中を押された。死んだと思った博美だが、突如、異世界へ召喚される。召喚された博美が発した言葉を誤解したハロルド王子の前に、もうひとりの女性が現れた。博美の方が、聖女召喚に巻き込まれた一般人だと決めつけ、追い出されそうになる。しかし、バリキャリの博美は、そのまま追い出されることを拒否し、彼らに慰謝料を要求する。 お金を受け取るまで、博美は屋敷で暮らすことになり、数々の騒動に巻き込まれながら地下で暮らす魔獣と交流を深めていく。

【完結】「聖女として召喚された女子高生、イケメン王子に散々利用されて捨てられる。傷心の彼女を拾ってくれたのは心優しい木こりでした」

まほりろ
恋愛
 聖女として召喚された女子高生は、王子との結婚を餌に修行と瘴気の浄化作業に青春の全てを捧げる。  だが瘴気の浄化作業が終わると王子は彼女をあっさりと捨て、若い女に乗 り換えた。 「この世界じゃ十九歳を過ぎて独り身の女は行き遅れなんだよ!」  聖女は「青春返せーー!」と叫ぶがあとの祭り……。  そんな彼女を哀れんだ神が彼女を元の世界に戻したのだが……。 「神様登場遅すぎ! 余計なことしないでよ!」 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※他サイトにも投稿しています。 ※カクヨム版やpixiv版とは多少ラストが違います。 ※小説家になろう版にラスト部分を加筆した物です。 ※二章に王子と自称神様へのざまぁがあります。 ※二章はアルファポリス先行投稿です! ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※小説家になろうにて、2022/12/14、異世界転生/転移・恋愛・日間ランキング2位まで上がりました! ありがとうございます! ※感想で続編を望む声を頂いたので、続編の投稿を始めました!2022/12/17 ※アルファポリス、12/15総合98位、12/15恋愛65位、12/13女性向けホット36位まで上がりました。ありがとうございました。

処理中です...