5 / 14
5.私は、平穏を望んでいるのに
しおりを挟む「何故だ?」
便利屋さんが去った後、彼と入れ違いのように来店したライル様に手を出してもらうようお願いしたら、案の定、警戒心が丸出しね。
「こちらへ」
ライル様に部屋の中央にある二人用ソファーへ座って頂く。私はそのソファーから少し離れたところに置いてある一人用のソファーへ座った。
もうこの際ざっと話をした方がよい気がするわ。渋々座った騎士様に、私はお茶も出さずに話始めた。
さっさと終わらせお帰り頂こう。
「以前この店は代々続く古道具屋とご説明しましたが、もう少し詳しくお話します」
ライル様を見れば聞く気はあるようだわ。
「本来この空間、この店には、必要な物がない限り入る事も、そもそもこの店を見つけることさえできません」
「だが、私は」
「はい。ライル様はこの店を見つけ入ることができました」
口を開きかけたラウル様に目でとりあえずこちらの話を聞いて欲しいと訴えた。
「私は父から最近この店受け継いだばかりで、その父が亡くなる前に私に引き継ぎの書類を渡しました」
たった一冊だけの、しかも大した厚みのない紙を束ねただけのような品。
「それには、三回必要な物もなく来店できた人物は、店にか店主に関わりがでてくる人物と書かれていました」
でも。
そこまで話をし、私は彼を見た。彼も困惑した様子で私を見つめていた。お父様が全て正しいとは限らない。間違いや偶然はゼロではないはず。
「私は、騎士様と今もこの先もご縁があるとは思っておりません」
なにより貴族なんて、迷惑このうえないのよ。
しかもこの人は魔力量がとても多い。
「──だから、なんなのだ」
苛立ちと困惑の騎士様。
無理もないわ。
私達がいる世界では魔法使いはいない。いいえ、遥か昔は存在していたらしいけれど、今は魔術のみ。でもその魔術を操る魔術士も原因は不明だけど、年々減少している。
その為、魔力が強い者は身分に関係なく産まれた時から貴重な存在でありとても大切に育てられ、いずれ戦力として城で働くと決められていた。
そしてお父様がら、これは誰にも決して話してはいけないと言われた事がある。
私の家は、とても強かった魔法使いの子孫だと亡くなる数日前にお父様から聞かされたのだ。
私はそれを聞き驚きよりも、まず納得したのよね。
ああ、やっぱりと。
普通、魔術士の素質がない限り、どの人が魔力持ちかなんて分からないと言われている。
だって魔力がなければ、それを察知できるわけないじゃない。
でも、私は子供の頃から、魔力が強い人を見分けられた。それが普通じゃないと早々に気づいた私は子供ながらに、これは誰にも話してはいけないと悟った。話したら、絶対嫌な事、大変な事が起きると気づいたのよね。
私の望むことは、昔から普通に地味に目立たず生きる事なのよ。
私はライル様に近づきお願いする。
「私はお客様に触れることにより、その方の必要としている物を探す事ができます。ライル様もこんな変な店と関わりを持つのは良くないと思います」
私は片手を差し出した。
「手をお借りしたいのですが」
信じてくれなくても構わない。それで物が見つかれば、この人との縁も切れるはず。
ライル様は、迷う様子を見せた後ゆっくり私の手に触れた。
しばらくして物が動いた。けれど。…私のポケット?
先程、便利屋さんが投げてきた物かしら。ポケットから小さな箱を取り出した。黒い箱を開けると。
「まあ! 可愛いわ」
中には指輪が一つ収まっていた。
多面体にカットされた水色の石が二石並んで配置され、その石の間と両サイドにとても小さいパールがそれぞれ三粒。中央は縦に、両サイドは三角形にちょこんと置かれている。
タダでくれるなんて、これ高価な品じゃないのかしら?
…私が欲しいくらいだわ。
あまり装飾品に興味がない、いえ、見るのは好きよ。でも身につけるのはあまり興味ないのだけど。でも、この指輪はとても惹かれるわ。かなり名残惜しいけれどライル様に差し出しお見せした。
「この品のようですが」
ライル様の反応は、今までのお客様と違い困惑の表情のみ。
「私は、女性の物は…いや、妹が近々結婚をするが」
「では、お嬢様の為なのかもしれません」
私は、すぐに断定した。
指輪は、かなり、いえ、凄く名残惜しいけれど、これで縁が切れるならいいわ!
それに、この指輪はタダだし!
「あ、ああ、そうなのか?」
「お代は、ああ、そのリボンで如何ですか?」
タダで構わないのだけど、この堅物そうな騎士様は納得しなさそうなので、髪を結んでいた紐を見てとっさに提案した。
「それは構わないが…」
まだ状況が飲み込めていないようなライル様を無視し、品物をサービスで包装紙に包み、あっそうだこれも。
「では、どうぞ」
まあ、お客様にはかわりないのである容器の中で返却不要の一番安い器に入れたおでんと共に、指輪を押し付けるように渡し、私はドアの近くへ立った。
ライル様は、何故かため息をついた後ソファーから立ち上がり、髪を結んでいた紐をほどき、そんな仕草も無駄に色気を出していたけれど、それを私に差し出した。私は受けとると頭を下げた。
「ありがとうございました」
ドアの閉まる音で顔を上げた。
手に握っていた紐を見るとそれは、綺麗な緑色をしていた。そういえば指輪の石は、ライル様の瞳と同じだったわ。
「まっ、どうでもいいわ。あーこれで平和が訪れる!」
伸びをしながら、軽い足取りで私は、カウンターの中に戻った。しかし、これで終わりではなかったのだ。
その時の私はまったく気づきもしていなかった。
売れた品
便利屋さんからもらったおまけの指輪
受けとった品
髪紐
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
帰らなければ良かった
jun
恋愛
ファルコン騎士団のシシリー・フォードが帰宅すると、婚約者で同じファルコン騎士団の副隊長のブライアン・ハワードが、ベッドで寝ていた…女と裸で。
傷付いたシシリーと傷付けたブライアン…
何故ブライアンは溺愛していたシシリーを裏切ったのか。
*性被害、レイプなどの言葉が出てきます。
気になる方はお避け下さい。
・8/1 長編に変更しました。
・8/16 本編完結しました。
【完結】記憶を失くした貴方には、わたし達家族は要らないようです
たろ
恋愛
騎士であった夫が突然川に落ちて死んだと聞かされたラフェ。
お腹には赤ちゃんがいることが分かったばかりなのに。
これからどうやって暮らしていけばいいのか……
子供と二人で何とか頑張って暮らし始めたのに……
そして………
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】
迷い人
恋愛
私、シア・エムリスは英知の塔で知識を蓄えた、賢者。
ある日、賢者の天敵に襲われたところを、人獣族のランディに救われ一目惚れ。
自らの有能さを盾に婚姻をしたのだけど……夫であるはずのランディは、私よりも幼馴染が大切らしい。
「だから、王様!! この婚姻無効にしてください!!」
「My天使の願いなら仕方ないなぁ~(*´ω`*)」
※表現には実際と違う場合があります。
そうして、私は婚姻が完全に成立する前に、離婚を成立させたのだったのだけど……。
私を可愛がる国王夫婦は、私を妻に迎えた者に国を譲ると言い出すのだった。
※AIイラスト、キャラ紹介、裏設定を『作品のオマケ』で掲載しています。
※私の我儘で、イチャイチャどまりのR18→R15への変更になりました。 ごめんなさい。
多産を見込まれて嫁いだ辺境伯家でしたが旦那様が閨に来ません。どうしたらいいのでしょう?
あとさん♪
恋愛
「俺の愛は、期待しないでくれ」
結婚式当日の晩、つまり初夜に、旦那様は私にそう言いました。
それはそれは苦渋に満ち満ちたお顔で。そして呆然とする私を残して、部屋を出て行った旦那様は、私が寝た後に私の上に伸し掛かって来まして。
不器用な年上旦那さまと割と飄々とした年下妻のじれじれラブ(を、目指しました)
※序盤、主人公が大切にされていない表現が続きます。ご気分を害された場合、速やかにブラウザバックして下さい。ご自分のメンタルはご自分で守って下さい。
※小説家になろうにも掲載しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる