会長様の受難

はる

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転校生、非王道につき

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生徒会の仕事を片付けていたらいつの間にか昼休みになっていた。
ちなみに転校生を送り届けた副会長は何やら彼に心酔している様子で会計もあの副会長が惚れるなんて……!?と興味を持ち、書記は相変わらず何を考えているか分からなかったが無表情で「俺も…………いく……」と言ったので全員で食堂に行くことになった。

何事もなく食堂についた俺たちは躊躇いなく食堂の扉を開ける。
刹那、鳴り響く歓声。芸能人でも見てるのかというレベルの歓声に耳を塞ぎたくなった。

「あ……!誠!」

そんな中副会長が転校生を見つけたらしくぱあっと顔を輝かせて駆け出していく。転校生は誠と言うのか。……それにしても、あんな顔の副会長は初めて見た。それは他の生徒会メンバーも同様で目を瞬かせている。
副会長が駆け寄った先にいる見慣れない人物に目を向ける。俺は目を見開いた。
目までかかるもじゃもじゃの髪、そして分厚い眼鏡。
……同性同士の恋愛にあれこれ口を出す気は微塵もないが、流石にあれはどうなんだ?
俺の気持ちを代弁するように会計の八城はうへーという顔をして呟いた。

「須藤ちゃんが好きな相手だって言うからどんな奴かと思ってきてみれば……何あれ趣味悪すぎでしょ…。」

須藤というのは副会長の名前だ。須藤 梓。いつも胡散臭い笑みを絶やさない腹黒野郎だったが、そいつが今は誠という転校生に照れくさそうに話しかけている。
愉快犯の双子はもちろん、八城も興味津々で転校生に近づいていく。俺もそれに続いた。

「「ねえねえ!君って今日転校してきた子でしょ?お名前なんて言うの?」」

双子が転校生にずいっと近寄って愛嬌のある笑みを浮かべる。大抵の奴は頬を赤く染めたりするのだが転校生はうんともすんともいわない無表情。

「……俺の名前を聞きたいなら先に名乗るのが礼儀では?」

凛とした低い声が聞こえた。だが低いにもかかわらずその声は良く通る。声はいいな、須藤はこの声にやられたのか……?と首を捻った。

「あ!そうだよね!ごめんね!紹介するよ!俺は大和 翔!」

「俺は大和 新!」

「「生徒会の庶務をやってるよ!よろしくね!転校生くん!」」

ウィンクして自己紹介をする双子に親衛隊は色めき立つ。だが転校生はやはり無表情だった。確かにこれは、今までのやつとは一味違うな。

「ああ、ご丁寧にどうも……俺は今日転校してきた田澤 誠だ。」

「誠くんかー。じゃあそんな誠くんにクイズだよ!」

双子がその場でクルクルと回り始めた。これはいつも初めて会う人間にやる恒例のクイズだ。

「「どっちがどっちでしょークイズ!」」

そう言って双子はじゃーんと手を上げる。ちなみに俺はさっぱり分からない。こいつらは基本ペアで行動しているので見分けをつける必要はないかという思考放棄をしたためである。
誠は少し考える素振りを見せてから指を指す。

「こっちが新でこっちが翔だろ?」

双子はきょとんとした表情をしてからキラキラした表情を見せる。

「えー!すごい!正解だよ!」

「凄いね転校生くん!」

「あ、でもまぐれかも?」

「まぐれかもね?もう1回!」

どうやら正解だったらしい。だが2分の1だ。まぐれの可能性は大いにある。双子はこの後も何度も転校生にクイズを出した。
転校生は全て正解。……凄いな転校生。どこで見分けてるんだ。俺には無理だ。

「「わあー!俺達のことを見分けてくれる人に会ったのは初めてだよ!誠くん……気に入っちゃった。」」

そう言って双子は両サイドから抱きつき両頬にキスをする。親衛隊の悲鳴が木霊した。まさか副会長に続き双子まで……これは予想外だ。

「へえー君凄いね、俺もちょっと興味湧いてきたな。どう?今夜俺の部屋で良いことしない?」

八城が興味津々で転校生の顔をじーっと見つめる。転校生は八城の放った言葉に顔をこれでもかというくらい歪めた。

「はあ?お断りだ。誰が男なんかと。俺の見えないところで勝手にやってろ。」

こいつまさか、ノンケか……!?
俺は数少ないノンケ仲間を思わぬ形で見つけてしまい、1人感動に打ち震えていた。八城はプルプルと震えだし、耐えきれなかったのか噴き出す。そしてケタケタと笑った。

「あっはっは!面と向かってここまで言われたのは初めてだよ!もしかして君、ノンケかな?いいね、俺もノンケには手を出したこと無いんだ。俄然興味が湧いてきたよ。」

そう言って八城は転校生の顎を掴み、呆気に取られている転校生を無視してその唇にキスをした。
食堂は怖いくらいシン……と静まり返った、と思った瞬間阿鼻叫喚。悲鳴が響き出す。

「はっ……会長じゃなくて、会計がキスした……!?王道くんの性格から大体察してたけどやっぱり非王道じゃないかっっぐっおおお滾る……!!」

突如、俺の下から気持ちの悪い唸り声が聞こえてきて驚きで体が強ばった。なんだ……!?と思いそちらに視線を向けるとそこにははあはあと鼻息を荒くし、眼をかっぴらいて転校生にカメラを向ける小柄な生徒。
俺はスっと視線を逸らした。
あれは俗に言う腐男子というやつだ。昔あの類に絡まれたことがあるがろくな事になった覚えがない。やれ受けだのやれ攻めだの男の恋愛を見ることを嗜好とする人間だ。俺には到底理解できない……。

ふと見るといつの間にか転校生は書記にも抱きつかれていた。どうやら全員に気にいられてしまったらしい。これは…………すごいな……。俺も異性愛者同士是非仲良くしたいなんて心持ちで転校生の前に立つ。

「おい、転校生。俺はこの学園の生徒会長の天堂 雅だ。何か困ったことがあれば生徒会か風紀に相談しろ。以上だ。」

「あれっっっ会長様キスは!?!?キスはあ!?!?くっそう会長も非王道なのか!?」

「ちょっと会長ー固すぎでしょー今は昼休み中だよーちょっとは仕事モードお休みしなよ。」

「「そうだよー頭でっかち会長ー。」」

双子と会計と腐男子が何か言っているようだが無視。俺と転校生はじっと見つめ合う。眼鏡から覗く切れ長の瞳にすっと通った鼻筋。……あれ、こいつ、眼鏡とって髪を整えたらイケメンなんじゃないか?
……訳ありって奴か。まあ俺には関係の無いことだ。

「へえ、この学園まともな奴もいたんだな。俺は田澤 誠。何かあったらその時は頼む。」

転校生は立ち上がって俺に握手を求めてきた。座っていたので分からなかったが身長は俺よりも少し低いくらいで平均よりはだいぶ高い。俺は差し出された手を握って笑みを浮かべた。

「ああ、よろしく。」

転校生は俺にも笑みを返してきた。親衛隊は文句を言っているが、俺は数少ないノンケ仲間に結構良い第一印象が残せたのではないかと満悦した。

そんな俺は、転校生に気を取られているあまり後ろから迫り来る風紀委員長に気づけなかった。
いきなり肩をぐいっと引かれた俺はバランスを崩して誰かの胸の中にすぽっと収まる。誰だ、と上を見あげると俺が今1番会いたくなかった顔。

「随分、楽しそうじゃないか。」

柊が、俺を見てそう言った。

さあ、と顔が青ざめていくのが分かった。柊は微笑みを浮かべる。周りからきゃあ、という声がいくつも聞こえた。だがそれは今の錯乱している俺の耳には入らない。
混乱している俺の腕を柊が掴み俺は皆の前から連れ去られる。
あ、あれ、なんだかこれ、デジャヴでは……っ

「お、おい!どこ行くつもりなんっ……」

「黙って着いてこい。…………酷くされたくなかったらな。」

ボソリとそう呟いた柊に、俺は口を噤むしか無かった。そして俺はまたもや柊に連れ去られてしまったのだった。
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