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第三章 拐われた獣人女性の救出

エルフと西区で商談

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 翌朝、少し早めに起きて朝風呂に入り、ユナの作ってくれた焼き立てパンやサラダで朝食を済ませる。
 やはりユナの料理の方が美味しいので、外食はあまり気が進まない。この宿屋は食事が付いてないので、忙しい俺には合っている。
 風呂も1人で入れるし、時間も気にしないでいいから、朝風呂に入れるのもいい。

 宿屋を出て南区の広場に行くと、ジェニーが待っていた。

「おはよう、ジェニー。待たせてしまったか?」

「おはよう、タカシ。大丈夫だ。俺もさっき来たばかりだから」

 宿屋や広場には日時計みたいな物があるので、ある程度時間はわかる。しかし腕時計みたいな物は無いのでちょっと困る。
 なんとかならないものか⋯。

「今日はよろしく頼むよ」

「ああ。知り合いに言ったら凄く興味を持っていたから、早速行こうぜ」

 ジェニーに付いて、南区の裏通りを歩いて行くと、小さな商店がいくつか有り、その内の一軒にジェニーが入って行ったので、後に付いて俺も入る。
 店の中には、高そうな壺や、よくわからない模様が表紙に描いてある古そうな本、他にもいろいろ年代物っぽい物がたくさんあった。骨董品屋かな?

「ようジェニー、待ってたよ。その人間が言っていた冒険者か?」

 店にはハーフエルフより耳が長い、かなりの美男子が居た。
「鑑定」すると、『ラルロンド エルフ 男 243歳 魔法種土魔法 無種魔法 アプレェィザァル』と出た。
 アプレェィザァル、「鑑定」が使えるのか! 骨董品屋なら役に立つな。

「タカシです。今日はよろしくお願いします」

 自分を「鑑定」されたら、魔法種の所にどう表示されるのか焦り、畏まってしまった。

「ああ、そんなに畏まらないで。今日は私の方が会いたかったんだから。私はラルロンド。見ての通りエルフだ。君はエルフを見るのは初めてかな?」

 そうだ! エルフだ。だから美男子なのか。
 ハーフエルフより綺麗な顔立ち。男なのに綺麗という言葉が合う。
 いやそれより、俺がエルフを見るのが初めてだと見抜かれた。表情に出てたんだろうな。

「すみません。俺、あまり他種族に詳しくなくて⋯」

「そうなのか? そう言えば俺に変な事をたくさん聞いていたような気がするなぁ⋯」

 ヤバい。俺が獣人女性好きだから、なんで獣人女性の娼館が無いんだ?と聞いて、誰が行くんだ?と言われたな。

「お、俺は、他種族の居ない国から来たから、文化がよくわからないんだ」

「そうだったのか⋯。そんな国があるんだな」

「まあこの国じゃエルフは珍しいからね。それより奥で詳しく話を聞くよ」

 3人で店の奥にあるリビングに入り、ジェニーとソファーに座ると、向かいにラルロンドさんが座った。

「早速だが、宝石を見せてもらえるかな?」

「ああ、⋯⋯これだ」

 ポケットに手を入れ、収納からユーリの宝石を出した。

「おお! 聞いた通り大きいな。それにファルレインだ」

「ファルレイン?」

「ファルレインっていうのは、この宝石の種類で、発見した学者の名前なんだ。かなり稀少で、ダイヤなんかより価値が高い。こんなに大きなファルレインは、発見されてもいないよ」

 ダイヤより価値があるのか! 
 宝石の事なんかよく知らないから、やはり専門家に聞いた方がいいな。「鑑定」を使ったのかな?

「凄いなタカシ。ダイヤより価値があるってよ!」

 ジェニーが興奮している。

「それで⋯どのくらいの価値になりますかね?」

「俺が買い取りする訳じゃないが、価値としては王金貨4枚近い金額にはなると思うよ」

 ラルロンドさんは買い取ってくれないのかな? 
 俺が不思議な顔をしたので、ラルロンドさんが言ってきた。

「うちは見ての通り、南区の骨董品屋だ。王金貨なんて払えないよ。だが仕事柄、西区の宝石商に知り合いがいるから紹介するよ。このファルレインを見たら、飛び付くと思う」

「ありがとうございます」

「しかしこんなに大きなファルレイン、どこで手に入れたんだ? 一応盗品とかだと困るから、聞いておきたいんだが⋯いいかな?」

 確かに盗品だったら、ラルロンドさんが信用を失ってしまうな。ジェニーはそこまで言っていないようだ。

「ギルドの指名依頼で魔物の討伐に行ったら、その魔物が綺麗な物を集める習性があったらしくてね。魔物の巣にたくさんあったんだ」

「た、たくさん? 他にもあるのか!?」

 ジェニーが食い付いた。あまり言わない方が良かったかなぁ⋯⋯。

「他のも是非見せて欲しいが、それより⋯。その魔物って、どんな魔物か教えてもらってもいい?」

「一応他言無用でお願いしたい。ジェニーもな」

「もちろん。約束しよう」

「ああ、絶対言わない。タカシが狙われたりしたら大変だからな」

 収納に入れてるから盗まれる心配は無いんだが、変なヤツが寄ってきそうだ。念のため、俺は部屋に「防音」をかけて話す事にした。

「ギルドの指名依頼は、プラチナドラゴンの討伐だった。プラチナドラゴンは、スレイン山脈の洞窟に巣があったんだが、倒してから数日後に洞窟を調べると、奥の横穴に宝石や魔石、それから今までプラチナドラゴンに挑んで倒された、冒険者の剣なんかがあったんだ」

「プラチナドラゴンだと! それにスレイン山脈とは⋯⋯⋯驚いたな」

「タカシはドラゴンを倒したのか?」

「まあ、なんとかね」

「バラクよりランクが上だと言っていたから、SかSSランクなんだな?」

「一応SSランクだ。プラチナドラゴンを倒してランクアップしただけだがな」

 ジェニーが驚いているが、ラルロンドさんは何か考えているような表情だ。

「ジェニー。プラチナドラゴンは、ただのドラゴンじゃない。ドラゴンの上位種で、今まで討伐に成功した冒険者はいない魔物だ」

「そ、そうなのか? タカシ、凄いな!」

 ラルロンドさんが、まだ何か聞きたそうな感じだ。秘密にしてくれるなら別に言ってもいいが⋯。

「タカシさん、もう少し聞きたいんだが、その洞窟の巣に何か変わった所は無かったか?」

 何か知ってるのかな? あそこには光の大精霊がいたが、もしかして⋯⋯。

「洞窟の壁には壁画が描かれていて、奥に行くと温泉が湧いている地底湖があったよ。更に奥に行った所の横穴に宝石があったんだ」

「やっぱり⋯⋯」

「やっぱりって、ラルロンド、何か知ってるのか?」

 エルフだし、243年も生きているなら、いろいろ知っていてもおかしくない。

「ああ。昔、俺の祖父に聞いた事がある。スレイン山脈には精霊様が居て、その精霊様を崇める民が住んでいたそうだ。世界には、精霊様が居る場所がいろいろあるらしいが、そこは神聖な場所で、近付く者を試すと聞いた。タカシさん、悪いが西区の宝石商を紹介する事はできない」

「えっ?」

 なんで? 盗んだ訳じゃないのに⋯。

「どうしてだ? タカシはプラチナドラゴンを倒して手に入れたんだし、盗んだ訳じゃないじゃないか」

「いや、その宝石は精霊様の物の可能性がある。精霊様を崇める民が精霊様に納めた物かも知れない⋯」

 盗品になってしまうって事か。賽銭泥棒みたいなもんだな。しかしプラチナドラゴンが溜め込んでいたと精霊が言っていたし、精霊がお持ち帰りくださいと言ったんだが⋯。

「それは大丈夫だよ。確かに奥に祭壇のような物があって、精霊の石像があった。でもその石像は精霊自身で、プラチナドラゴンのせいで力を封印されていたらしいんだ。俺がプラチナドラゴンを倒したから封印が解けたと精霊が言っていた」

「せ、精霊様と話をしたのか!?」

 ラルロンドさんが目を見開いて驚いている。ジェニーは固まってしまっていた。

「ああ。光の大精霊だと言っていた。封印は解けたが、精霊の力が弱まっているから石像みたいになっていたらしくて、俺に精霊の力を回復する為に助けて欲しいと言われた。どうやって助けたかは言えないが、精霊の力が戻ったら顕現してお礼を言われたよ」

「なんと⋯⋯! 凄い話だな」

「それで精霊が、プラチナドラゴンが溜め込んでいた物だから、お持ち帰りくださいって言ったんだ。だから精霊に納められた物じゃないよ」

「そ、そうだったのか⋯。普通は作り話じゃないかと疑う所だが、プラチナドラゴンを倒したのなら納得がいく。スレイン山脈は危険な魔物だらけで、誰も近付かないからな」

「なら宝石商を紹介してもらえる?」

「ああ、もちろんだ! それに今の話は誰にも言わない。良かったら他の宝石も見せてもらえるか?」

「いいよ。できれば価値を教えて欲しい。俺にはわからないから、他で安く買い叩かれたら困るから」

 俺は開き直って、2人の目の前で収納から宝石を取り出した。

「ちょ、ちょっと待て。今のは⋯⋯収納魔法か?」

「そうだ。便利だろ?」

 出した宝石の数や大きさと収納魔法に、驚き過ぎて少しパニックになっている。ジェニーはもう、訳がわからない状態だ。

「余計納得がいったよ。疑いようがないな」

「ラルロンドさんも『アプレェィザァル』は使えるだろう?」

「た、確かに使えるが、何故わかったんだ?」

「俺も使えるから」

「なっ⋯⋯! ビックリし過ぎて、おかしくなりそうだよ⋯。ちょっと飲み物を取ってくるから、待っててくれ」

 やり過ぎたか? まあジェニーの知り合いだし、ユーリの宝石の価値もちゃんと教えてくれたから、信用できるエルフだろう。しばらくすると、お盆にカフインが入ったカップを3つ乗せて、ラルロンドさんが戻ってきた。
 そのままテーブルに置いて、ラルロンドさんがカフインを一口飲んで深く息を吐いた。

「ジェニー。カフインでも飲んで、とりあえず戻ってこい」

 遠くの世界に行ってしまったジェニーに、ラルロンドさんがカフインを差し出す。ジェニーはカフインを飲んだが、まだ戻ってきた感じじゃない。

「ジェニーは置いといて⋯。凄い宝石だらけだな。中でもこれは凄すぎる。さっきの宝石の倍以上の大きさじゃないか!」

 ラルロンドさんが、俺が出した宝石の中で1番大きな宝石を見て言った。確かに大きい。ユーリも大き過ぎて、遠慮というより怖くて選ばなかった宝石だからな。

「これは価値が付けられない。西区の宝石商でも買い取れないだろう。金額にすると王金貨15枚、いやそれ以上もありえる。これを買い取っても売る相手が居ないよ」

「そうか⋯。なら持っておくよ」

「その方がいい。魔王様に献上するくらいしかない大きさだが、今はあまりお薦めできないしな」

 ラルロンドが苦々しい顔で言ってきた。他国を侵略する資金にされる可能性があるからな。王様に献上か。誰も買い取れないなら、国の宝にしようって事だな。今のこの国には献上できないが、換金できないならそれでもいい。小さく砕いて売るのは勿体ないしな。
 それからラルロンドさんが、1つ1つ宝石の価値を教えてくれた。親切だなぁ。いいんだろうかと思ったので聞いてみると、珍しい宝石をたくさん見れるだけで楽しいから、気にしないでいいと言われた。あと「鑑定」は習得したが、魔力量の関係で1日3回しか使えないらしい。

 なんとか戻ってきたジェニーを落ち着かせると、ギルドに仕事をしに行くと言うので、お礼にまた酒を奢ると約束して、ラルロンドさんと西区の宝石商へ行く事にした。3人で骨董品屋を出て、途中でジェニーと別れて西区に向かう。

 西区の高級そうな店が並ぶ通りを歩き、その中でも一際高級そうな「ファベルチェ」と書いてある店に、ラルロンドさんが入って行くので、逡巡しながらも俺は後に付いて入った。店の中にはディスプレイされた、高そうな指輪やネックレスが並んでいた。いかにも高級な宝石屋って感じだ。

「ラルロンド、どうしたんだい? 人間の坊やなんか連れて⋯」

 確かに何百年も生きてるエルフに比べたら坊やなんだろうが⋯。それよりこの人も耳が長いからエルフなのはわかるが⋯⋯美しい! エルフはこんなに綺麗なのか! 
 ラルロンドさんの知り合いらしきエルフの女性は、綺麗な金髪で、少しウェーブがかかったロング、肌の色がアイリスと同じくらい白くて美しい。スタイルはスレンダーで胸は少しだけ膨らんでいるが、全体的な雰囲気と合っていて、蒼い瞳で俺を値踏みするように見ている。イギリス人みたいな見た目だな。
「鑑定」してみると、『フィリストゥーネ エルフ 女 417歳 魔法種水魔法 無種魔法 クラックダウン』と出た。流石エルフ、25歳くらいにしか見えない。エルフの場合は性別に「女」と出るのか。無種魔法のクラックダウンっていうのは、どんな魔法なんだろう? 後で調べてみよう。

「フィリス、この人はタカシさん。宝石の売り手を探していたから連れて来たんだ」

「どうも、タカシです。よろしくお願いします」

 美しい見た目に、少し緊張して挨拶した。

「タカシくんね。私はフィリストゥーネ。長いからフィリスでいいわ。この店のオーナーよ。せっかく来てもらって悪いけど、うちは西区で1番の宝石商なの。だから安い宝石なら取引できないわ」

 美しいエルフの女性に、冷たくあしらわれ、ちょっとMっぽい気持ちになる。それに綺麗なお姉さんに「タカシくん」と呼ばれ、ちょっとドキドキしてしまった。いやいや、相手は417歳だ。冷静になるんだ俺。美しいが、俺の精子で綺麗になったユナほどではない。ユナはもはやエルフより魅力的な獣人女性だ。ユーリも次に会った時は、エルフより綺麗になっているだろう。

「まあまあ、それはタカシさんが持ってる宝石を見てからにしてくれ。きっとフィリスも気に入るから」

 フィリスさんは、半信半疑な表情で店の奥にある商談室へ案内してくれた。高級そうなソファーに向かい合って座ると、俺は一応部屋に「防音」の魔法をかけた。

「早速だけど、私が気に入る売りたい宝石っていうのは、どんな物なの?」

 紺色の布が敷いてあるトレーをテーブルに置きながら、フィリスさんが言った。宝石を乗せるトレーなんだろう。

「タカシさん、とりあえず最初に見せてくれたヤツを出してくれ」

 俺はまたポケットに手を入れ、収納からユーリの宝石を取り出した。

「これです」

 フィリスさんの表情が一気に変わり、目を大きくして驚いている。

「どうだ! 凄いだろう? 俺もこんなの初めて見たぜ」

「す、凄く大きなファルレインね。これは私も見た事ないわ」

 俺は宝石をテーブルのトレーに置き、フィリスさんの方へ押し出した。

「じゃあちょっと見せてもらうわよ?」

「はい」

 宝石を手に取り、光に翳した後、ルーペのような物を取り出して細かく見ている。

「これは純度が高いファルレインだわ。大きさも凄いのに、純度まで⋯⋯。私の所に持って来たのは正解よ。ラルロンドの紹介ってのもあるけど、貴方からは安く買い取る気にならないわ」

 何故かわからないが、それはありがたい。宝石の価値なんてさっぱりわからないし、この世界の貨幣価値も正直まだよくわかってない。
 魔法や魔道具があるから、地球の相場とまるで違う。お湯が出るだけの魔道具や冷蔵庫みたいな物が、普通の人が買えないくらい高価だったりする。
 
「一応聞いておきたいんだけど、これは何処で手に入れたの?」

「それは俺が保証する。盗品とかじゃないから大丈夫だ」

 ラルロンドさんが割り込んで言ってくれた。

「あまり詳しくは言えないんですが、ギルドの指名依頼で魔物を討伐したら、その魔物が綺麗な物を集める習性があったらしくて、巣にその宝石があったんです」

「そんな魔物がいるのねぇ。失礼だけど、タカシくんのギルドランクは? 答えたくなければ別に構わないけど⋯⋯」

「俺は一応SSランクです」

 そう言うと、フィリスさんの蒼い瞳が少し光った。魔法を使ったのかな?

「SS⋯⋯なるほどね⋯。よくわかったわ。このファルレインは、王金貨3枚と白金貨8枚で買い取らせてもらうわ。それでいいかしら?」

 ラルロンドさんが言っていた金額通りだ。俺は買い取り屋やリサイクル販売店のシステムに少し知識があるので、買い取り価格が高いか安いかだいたい納得がいく。早く買い手がつく物は高く買い取り、価値があってもなかなか売れない物は安く買い取る。そうしないと店を経営できないからだ。10円で買い取った物を1000円の値札を付けて店に並べても、売れなかったらマイナスだし、半年後に売れても、それまでの経費でマイナスになる。
 ラルロンドさんが査定した金額は、売る時の値段だ。という事は、かなり高く買い取りしてもらえるという事になる。

「こんな事言ってタカシさんには悪いが、フィリス、いいのか?」

「わかってないわねぇラルロンド。こんなに大きくて純度の高いファルレイン、高値が付くに決まってるわ。オークションならね」

「オ、オークションか⋯⋯なるほど!」

 オークションか。確かに高値が付く事もあるが、逆に安値で終わる事もある。賭けじゃないか?

「こんなに大きな宝石、店に並べてもなかなか売れないわ。それに大き過ぎてアクセサリーには使えない。これを買うのは、貴族が家宝にしたり、自分の財力を誇示する為に買うのよ。ならオークションしかないわ。絶対王金貨5枚以上の値がつく」

 王金貨1枚以上の儲けがある訳か。しかしオークションの参加費やらリスクを考えると妥当な買い取り価格だ。はやり西区の高級宝石商のオーナーなだけはある。

「納得の買い取り価格です。それでお願いします」

 またフィリスさんの蒼い瞳が一瞬光り、ニッコリと微笑んだ。「クラックダウン」という魔法が、どんな無種魔法なのかわからないが、印象は悪くないようだ。

「じゃあお金を用意するから、少し待っててくれる? お茶を持って来させるわ」

 フィリスさんがそう言って、手伝いの人を呼ぼうとしたので、俺は慌てて「防音」の魔法を解除した。フィリスさんが部屋を出ていくと、入れ替りで人間の女性が入ってきて、カップに入った飲み物をテーブルに置いた。テーブルの上の宝石を見てかなり驚いていたが、お客の前なのですぐに平静な感じに戻った。
 この世界で見た人間の中では、なかなかの美人だ。長い黒髪を後ろで束ねていて、清楚な雰囲気だが胸がなかなか大きくてスタイルもいい。「鑑定」すると、『エレン 人間 女 24歳 魔法種無し』と出た。人間も性別は「女」と出るようだ。
 確か前に魔族を「鑑定」した時もそうだったな。獣人とハーフエルフだけ「♂」とか「♀」で表示されるのは、混血種族だからかな? 
 お茶を置いて女性が出ていくと、ラルロンドさんが話し掛けてきた。

「タカシさんは買い取り価格に納得していたが、良かったの? 普通は王金貨1枚以上の儲けが出るなら吊り上げる所だが⋯⋯」

「オークションの経費なんかを考えると、妥当な買い取り価格だと思いました。それにフィリスさんは人を騙したり、人に騙されたりする人じゃないでしょう」

「ほぅ⋯。なかなか人を見る目があるね」

 ラルロンドさんが感心したような目を向けてくる。

「ラルロンドさんに、紹介料としていくら払えばいいですか? すみません。俺、その辺の事がよくわからなくて⋯」

 するとラルロンドさんがかなり驚いた顔をしていた。

「ジェニーの知り合いだし、別に紹介料なんて要らないよ。俺もいろいろ珍しい話が聞けて楽しかったし」

「いやいや、そういう訳には⋯。なら他にちょっと教えて欲しい事があるので、いくらか受け取ってください」

「う~ん⋯⋯わかった。なら金貨1枚でいい。何でも聞いてくれ」

 俺はジョーイ社長に渡す給料を考える為、平民が住む家を建てるのに、材料費以外にどのくらい金がかかるものなのか、壊れた家の修復やオーダーメイドの石像なんかを作ってもらう金額なんかを教えてもらった。平屋の家を一軒建てるのに、建築費だけなら平均金貨280枚くらい、家の修復は壊れ方にもよるが、金貨30枚~60枚、石像は職人の腕にもよるが、一体金貨15枚くらいらしい。これでだいたいジョーイ社長に払う報酬が計算できる。

「ありがとうございます、助かりました」

「どういたしまして。家を建てるのか?」

「いえ、ちょっと今、腕のいい建築屋の人を雇っていて、給料を俺が決めないといけないので、それで知りたかったんです」

 そう言って、俺は金貨2枚をラルロンドさんに渡した。少し遠慮していたが、素直に受け取ってくれた。

「タカシさんはSSランクの冒険者なのに、建築屋の社長でもあるのか?」

「いえいえ、凄く腕のいい建築ができる人が居るんですが、安い給料で働いていたので、その人をとりあえず俺が雇って、少ししたら独立させてあげようと思いましてね。腕がいいのに勿体なくて⋯」

「金は持ってるだけじゃ勿体ないから、そうやって投資をするのがいいよ」

 投資をする訳じゃないんだが、あまり詳しく言えないので、そういう事にしておこう。
 ラルロンドさんと話していると、黒いトレーにお金を乗せて、フィリスさんが戻ってきた。

「これが買い取り金額の王金貨3枚と白金貨8枚。お確かめください」

 フィリスさんは支払いの時だけ敬語になった。お客様扱いなんだろうな。俺はお金を収納財布に入れた。

「ありがとうございます」

「こちらこそ、いい取引だったわ。ありがとう。他にも売りたい宝石があったらまた持ってきて。魔物が集めていた物って宝石だけなの? うちは宝石専門だけど、他の物もあるなら店を紹介できるから言ってね」

「ありがとうございます。他は魔石や武器なんかです。まあ武器は冒険者なので、売らないで持っておきます」

「魔石もあるの? うちは魔石も扱ってるから、良かったら見せてもらえる? 今日じゃなくてもいいから、また持って来て欲しいわ」

「タカシさん、他の宝石はどうするんだ?」

 ラルロンドさんが俺にそう言うと、フィリスさんが驚いていた。他の宝石の事をすっかり忘れていた。

「他にもあるの? 是非見せてもらえる?」

 う~ん⋯どうするか。これ以上金が必要な訳じゃないが、持ってても仕方ない気もする。しかし収納から出さないと、ポケットから出すには無理がある量だ。

「ちょっと売るかどうか、まだ考えてないので、見せるだけなら⋯。ただ、今から使う魔法の事は、他言無用でお願いします。あまり知られたくない魔法なので」

「魔法? 他の宝石とどう関係があるのかわからないけど、お客様の情報は他人に話す事は無いわ。信用が大事な商売だからね」

 そうか。西区の高級宝石商なら、買い手は貴族や金持ちばかりだ。だから個人情報をペラペラしゃべる訳にはいかない。ラルロンドさんが俺を見て無言で頷いたので、俺は収納魔法を使って他の宝石を出した。

「しゅ、収納魔法!? 凄い魔法が使えるのね! それにしてもこんなにたくさん⋯。中でもこれは⋯⋯ちょっと大き過ぎる!」

 フィリスさんの目が輝いている。魔法を使って光っているのではなく、目の前の宝石に魅了されているようだ。宝石は全部で13個。それと魔石が11個だ。ラルロンドさんの査定では、宝石は値段が付けられない1番大きな物以外12個全部で、王金貨8枚くらいにはなるらしい。魔石を見たラルロンドさんも驚いている。宝石と魔石の違いは、見た感じではわからないが、触ると魔力を感じるのが魔石だとユナが言っていた。

「ちょっと1つずつ見せてもらうわよ」

「いいですよ。どうぞ」

 フィリスさんがルーペのような物で、宝石を順に見ていく。「凄い!」とか「こんなの見た事ない!」とか小さな声で言っている。しばらくして全部見終えたフィリスさんが、俺を見て口を開いた。

「この1番大きな子は、どうしようも無いわね。大き過ぎて買い手が付かないわ。他の子達だけど、中でもこの子はピンクダイヤで、私が今まで見た中でも1番大きい。これはアクセサリーに装飾すれば、王金貨1枚と白金貨6枚にはなるけど⋯⋯、ちょっと個人的に欲しいくらいだわ」

 いや、俺を見つめて言われても困る。一応今は売らない方向でいこう。フィリスさんは宝石を「この子」と言っている。我が子のような物なんだな。

「魔石もかなり珍しいわ。これなんか見た事ないから、どんな効果があるか調べてみないとわからないけど、もし新種なら大発見よ!」

 フィリスさんが虹色の魔石を持ってそう言った。新種の可能性もあるのか。ユナも知らないのかな? そんな事は言ってなかったが、あの時はエッチの後で冷静じゃなかっただけかも知れない。

「今は売る気は無いのよね? 残念だけど、お客様の意思は尊重するわ。でも気が変わったら、この子だけでも私の所へ。他に持って行っちゃ嫌よ」

 ちょっと誘惑するような目で言われ、ドキドキしてしまった。

「まあ、売るならこの店に持ってきますから、安心してください。俺は収納魔法が使えるので、普段は魔物を倒してギルドに売って稼いでいます。だから今はこれ以上お金が必要じゃないので、必要になったら売りに来ますね」

「そうねぇ。冒険者が王金貨なんて持ったら、遊んで暮らせるものね」

「だからタカシさんは投資をしたりしてるんだ。資産を上手く運用してるよ」

「そうなのね。なかなかいい若者じゃない」

 ちょっと目を付けられたかも知れないが、美人なエルフに気に入ってもらえて悪い気はしない。417歳だろうが美人は美人だ。
 それからお茶を飲みながら話をしていると、西区の店で買い物ができるように、フィリスさんが紹介状を書いてくれた。今日のお礼らしい。後でラルロンドさんに聞いたが、商売上手だから俺を贔屓にしていて損はないと思ったんだろうと言っていた。西区の店で買い物ができるのはありがたい。服とか見てみたいし、武器屋にミーシャを連れて行ってあげられる。

 そろそろ帰る事にして、ラルロンドさんと商談室を出て、フィリスさんと店の店員に見送られながら店を後にした。
 西区の店には後日行くとして、南区にラルロンドさんと帰り、ちょうど昼前なので一緒に昼食を食べに飯屋へ入った。昼食は俺の奢りだ。

「今日はありがとうございました。西区に伝手ができて良かったですよ」

「いいよ。俺もタカシさんと知り合えて良かったし。それより俺の事はラルロンドでいい。俺もタカシって呼ぶからさ。仲良くしてくれ」

「喜んで、ラルロンド」

 握手をして、2人で笑いあった。エルフだから見た目は若いが、243歳の人を呼び捨てでいいのかと思ったので聞いてみると、エルフは長寿だけど見た目通りの感覚だから、あまり年上という感じが無いらしい。人間の俺にはよくわからない感覚だな。
 ただ魔法使いのエルフの女性は、口の聞き方に注意した方がいいという。気難しい人が多いそうだ。

 それから獣人やハーフエルフの事を聞くと、エルフは他種族を差別する事は無いらしい。獣の耳が生えてようが、獣人は良い種族だと言っていた。
 あとエルフをあまり見掛けない理由は、商売をしているエルフ以外は、森に住んでいるらしい。エルフは森と共に生きる種族で、水魔法や土魔法が使え、魔力量も多い種族なんだそうだ。
 なぜラルロンドが「鑑定」を1日3回しか使えないかというと、無種魔法は魔力消費量が多くて、3回使えるだけでも多い方らしい。俺の魔力量は異常だな。女神チートだから何回でも使える。たぶん「転移」なんて相当な魔力量がいるんだろうな。
 最後にトランプを作ってもらう為、丈夫な紙に印刷みたいな物をしてカードを作ってくれる所を聞くと、西区にそういう店があると、紙屋を教えてくれた。

 昼食を食べ終わって、店の外でラルロンドと別れた。今度はジェニーと3人で夜に酒を呑みに行こうと言っていたので、それも楽しみだな。
 そう言えばバニーとも呑みに行く約束をしていたな。バニーは元気だろうか? 間抜けだから魔物に殺られてなければいいが⋯。バニーは獣人の男だから、人間の女性に欲情する。なら人間女性の娼館に行けばいいんじゃないか? 相場は金貨3枚くらいだったから、冒険者のバニーなら金が無い訳じゃないだろう。
 なんで行かないんだろう? 客だからチンポが小さくても相手してくれるんじゃないか? また会ったら聞いてみよう。


 まだ昼過ぎだから、さっき教えてもらった西区の紙屋に行ってみる。面倒なので西区の人の居ない場所に転移して、紙屋へ向かう。この紙屋は名刺みたいな物やポスターなんかも作っているので、トランプくらい作ってくれるだろう。
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