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第一章 異世界の獣人女性

冒険者登録とバニー先輩

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 ユナとディナーデートをした翌朝、俺はギルドに来ていた。昨日のガイズベアーを1匹だけ換金する為だ。
 金が無い訳じゃないが「今は冒険者登録する気は無い」と言いながら、何日も経ってないのに、今度は「冒険者登録したい」とは言いにくい。冒険者登録する切っ掛けが欲しい。

 ギルドに入ると買い取りカウンターにはアイリスがいた。あのハーフエルフ職員なら、俺が収納魔法を使える事を知っている。
 どうでもいいが「アイリ」と「アイリス」、似た名前だな。この世界ではありふれてるのかな?

「また剥ぎ取り場で魔物を査定してもらいたい」

「あの⋯もう少し間を開けてもらうよう、お願いしたはずですが⋯」

「いや、今日は1匹だけだ。それなら大丈夫だろ?」

「⋯⋯はい」

 アイリスとギルドの裏の剥ぎ取り場へ行く。剥ぎ取り台の上に、昨日のガイズベアーの首を落として倒した分を収納から出した。

「こいつを頼む」

「ガイズベアー。あの⋯以前もですが、ガイズベアーをどうやってこんな倒し方されたのですか? 身体を傷付けずに首を落とせるような魔物ではないはずですが⋯」

「一刀両断ですよ、こんな弱い魔物」

 俺はわざと強いアピールをして、アイリスを煽った。

「い、一撃ですか? しかもガイズベアーを弱いって⋯。いったいどんな武器を?」

「まあ、その辺は秘密で」

「は、はい⋯」

 いつものように番号の書かれた木札を渡され、ギルドの待ち合い場のソファーで査定を待つ。
 すると、またバニーが隣に座って来た。暇なんかこいつ。今日は胸に鎧を着けて剣を腰に挿している。

「よう。また会ったな、タカシさん」

「やあバニー。俺の事は呼び捨てでいいよ」

 こいつは見た目は悪いがいいヤツそうだし、ユナの知り合いだ。仲良くしといて害は無いだろう。俺もこの世界にきて、獣人女性とイチャイチャしているが、1人くらい男の知り合いが欲しい。

「そうかい。じゃぁ遠慮なく」

 俺にギルド周りの盗賊に気をつけるよう忠告してくれるいいヤツのなのに、なんでこんな胡散臭いのか。

「今日も朝から依頼?」

「ああ、冒険者だからギルドの依頼を受けないと食ってけないぜ。タカシはいいな。また買い取りだけで大儲けか?」

「まあ魔物の買い取りだけど、今日は冒険者登録をしようと思ってるよ。それよりもう依頼は受けたのか?」

「いや、もうすぐ依頼貼り出しの時間だから待ってるんだよ。俺が受けるランクの依頼は早い者勝ちだからな。朝早く来ないと、すぐ無くなっちまう」

「1人みたいだけど、パーティーは組んでないのか?」

「ああ、俺はCランクだがあんまり強い魔物討伐はやらないんだ。冒険者とはいえ、命あっての物種だからな。だからパーティーは組んでない。パーティーを組むと強い魔物討伐に行かされるからな」

 ミーシャは昨日の指名依頼報酬と、俺が渡したガイズベアーの素材で儲けたから、今日はギルドには行かないと言っていた。
 今日は冒険者登録したら、バニーと依頼を受けるのもいいかもな。

 バニーと話していると、俺の木札の番号が呼ばれたのでカウンターへ行く。

「こちらが査定額の金貨110枚と銀貨75枚です。ご確認ください」

 俺は金貨が10枚づつ積まれた物が11個あるのを目で数え、銀貨は数えずに新たに作った収納財布に入れた。
 バニーが後ろのソファーでまた、査定額にビックリしているのが見ないでもわかった。

「確かに」

「あ、あの⋯冒険者登録は、やはりされませんか?」

「う~ん、まあ冒険者登録についての話だけでも聞いてみようかな」

「本当ですか!! では詳しく説明させて頂きますので、また応接室の方へ」

 凄い喜びようだな。俺がどれだけ強いか、実際には知らないだろうに。

 それから応接室に行き、冒険者について説明された。冒険者ランクがE~SSまであるなど、以前資料室にあったパンフレットの内容と同じだった。
 しかし最後に、俺がガイズベアーを一撃で倒せるくらい強いなら、普通は受けれない高ランクの魔物討伐依頼をお願いできないかと言われた。その依頼を達成してくれれば、一気にランクアップさせてもいいという。何が狙いなんだろう?

「ちなみにその依頼のランクと討伐する魔物は?」

「これは掲示板に貼り出されない、S又はSSランクの冒険者の方にお願いする依頼になります。討伐対象はプラチナドラゴンで、この魔物の死体を持ち帰るまでが依頼内容です。国からの依頼で、成功報酬は王金貨2枚となっています。収納魔法が使える貴方なら、魔物を倒して持ち帰りも可能かと思いまして。ランクアップは特別処置です」

 どうするか⋯。この事態は考えてなかったが、一気にランクアップすれば軍隊への勧誘がすぐに来るだろうし、高ランクの指名依頼が来そうだ。
 とりあえず保留だな。村が襲われて死人が出てるとかじゃないみたいだし。

「その依頼に関しては、ちょっと考えさせてくれ。とりあえず冒険者登録を頼む」

「わかりました。冒険者登録ありがとうございます♪」

 なんでそんなに嬉しそうなんだろう? それに頬を赤く染めて、俺を見つめているような視線が気になる。ユナ達が欲情してる時のような顔だ。ユナがハーフエルフも人間男性に欲情すると言っていたが⋯まさかな。
 軍隊の勧誘をするような職員なのに、そんな訳ないだろう⋯⋯⋯たぶん。

 冒険者登録は、名前と、魔法が使えるなら使える魔法種を登録し、最後に渡されたナイフで指先を切って、血を1滴ギルドカードに垂らすと完了した。住所を聞かれたらユナの家と言う訳にもいかず、どうしようかと思ったが聞かれなかった。

 後で分かったが、冒険者は宿屋暮らしの者も多く、依頼で違う街に行く事もあるので、住所を登録する意味がないらしい。
 電話もないし住所も分からない冒険者に、どうやって指名依頼するんだろうと思ったが、ギルドに高ランクの冒険者が来るのをずっと待っているという。
 連絡手段がないこの世界では、仕方ないのかも知れない。
 しかしそうなると、ミーシャ達への危険な指名依頼は、ギルドにミーシャ達が来た時を狙って依頼しているという事になる。
 Aランクの冒険者なら他にもいるはずだ。

 俺はEと書かれた冒険者カードを貰って、バニーの所へ行き、依頼貼り出しの時間が来るまで、いろいろ話をしていた。
 俺がユナの知り合いだと言うと、人間の男がなんで獣人の女と知り合いなんだと言われたので、当然エッチしまくっている事は言わず、別に知り合いなだけなら変じゃないだろうという事で納得させた。
 途中でバニーが人間の女はどんなエッチをするんだ?とか聞いてきた。そう言えば獣人の男は人間の女に欲情するんだったな。
 久々に男とエロ話ができて、ちょっと楽しかった。

 依頼貼り出しが始まったので、バニーと一緒に掲示板の所へ行って、依頼をチェックする。俺はまだEランクなので、薬草採取やバイトのような雑務の依頼しかなかった。
 バニーはCランク依頼のホーンディアーという魔物の討伐依頼を、受けるかどうか迷っていた。
 魔物図鑑で見たが、確か角が大きな鹿の魔物だ。バニーに聞くと、

「角の買い取り金額が高いし、頑張れば俺でも何とかなる魔物だから受けたいんだが、数が3~5匹って書いてあるんだよ。運良く1匹づつなら倒せるが、5匹に囲まれたら俺じゃぁ無理だし、1匹づつじゃないと、角を傷つけずに倒すのは難しい」

 確かホーンディアーは肉も美味くて金になるはずだ。俺は金よりもちょっと食ってみたい。

「なら俺と一緒に行かないか? バニーと一緒に行けば、俺もその依頼受けられるだろ?」

「確かにそうだが、成り立ての冒険者のタカシを連れて行って大丈夫かな。タカシに何かあったら俺がユナに殴られるぜ」

 ユナは、こんな熊みたいなヤツを殴るのか? 想像できん。

「俺は大丈夫だって。今日の素材の買い取りは、俺が1人で倒した魔物だ。だからホーンディアーが5匹出てきたら、俺が4匹相手するから」

「ほ、本当か? そんな事できるのか? ホーンディアーだってそこそこ厄介な魔物だぜ」

「大丈夫だって。それにホーンディアーの肉が食ってみたいんだ。な、頼むよ」

「まあタカシがそう言うなら、一緒に行ってみるか。でもCランクの冒険者として言っておくが、無理はするなよ。危なくなったら逃げるんだぞ」

「ああ、約束するよ、先輩!」

「先輩か。悪くない響きだな」

 なんて単純なヤツだ。ユナがバニーは間抜けだと言ってたのが、何となくわかった。いいヤツなんだけどなぁ。

 俺とバニーは、ギルドを出て街外れにある森に向かった。ユナの家の方とは逆方向にある森だ。
 この街は森に囲まれていて、前に探索魔法で調べた感じでは、それぞれタイプの違う森のようだ。岩場が多かったり、木の実が多かったり、滝がある森だったり、生息している魔物の種類も違うようだ。

 バニーと一緒に森に入り、ホーンディアーがいるという湖へ向かう。道中またバニーとエロ話をしながら、森の道をしばらく進むと野球場くらいの大きさの湖が見えた。
 バニーと一緒に静かに近づくと、湖の水を飲んでるホーンディアーが1匹いた。角がキラキラしてて水晶のみたいに綺麗だ。

「どうやら1匹しかいないみたいだな。今がチャンスだ。俺があれを仕留めるから、タカシはここで見ててくれ」

「了解! 先輩、気をつけてな」

 バニーが先輩と呼ばれて嬉しそうにしながら、湖に口をつけて水を飲んでるホーンディアーの後ろから、足音を殺して近付いていく。

 パキッ!

 バニーが小枝を踏んだ。なんて間抜けなんだ。なんて残念なヤツだ。
 水を飲んでいたホーンディアーがバニーの方に振り返って、ピューーッ!と叫んだ。
 すると俺が隠れている藪とは違う藪から、ホーンディアーが6匹走ってきてバニーを囲んだ。バニーに向かって威嚇くしている。詰んだな。俺は藪から飛び出して、バニーに叫ぶ。

「バニー先輩は目の前の1匹を倒してくれ! 他のは俺に任せろ!」

「⋯⋯なっ!」

 俺は「遅延」と念じ、動きが止まったように遅くなったバニーの前にいる以外のホーンディアー6匹の首を、仕込み刀で全部斬り落とした。

 俺はそのまま「遅延」を解除せず、バニーが残ったホーンディアーを倒すのを見ていた。バニーがホーンディアーに剣で斬りかかったが、大きな角で吹っ飛ばされた。おいおい、1匹なら何とか倒せるんじゃなかったのか?
 吹っ飛んで倒れたバ二ーに、ホーンディアーが角を突き立ようとしたので、「遅延」を解除して、「拘束」と念じ対象指定で「ホーンディアー」を指定して動きを封じた。

「バニー先輩! 今だ!」

 俺がそう言うと、バニーが慌てて立ち上がり、動けなくなっているホーンディアーの胸に剣を突き刺して倒した。

「⋯⋯いったい何をしたんた? 知らない内に、囲んでいたホーンディアーの首が無くなってたが⋯⋯」

「俺が斬り飛ばした。全部で7匹も居たな。こりゃ儲かったじゃないか先輩!」

「何したか、さっぱり分からなかったぞ。それに俺は1匹しか倒してない。1匹でも金にはなるが⋯」

「俺は肉が食べたかっただけだから、胴体2匹分だけでいいよ。後はバニーが換金すればいい」

「いやいや、そういう訳には⋯⋯」

 バニーが自分が倒したホーンディアーの角を剥ぎ取りだしたので、

「俺が収納魔法でギルドまで運ぶから、剥ぎ取りはしなくていいよ」

「⋯⋯えっ?」

 俺は固まったバニーに構わず、首の無いホーンディアーの胴体を2体分残して、残りを収納した。
 バニーが固まったままなので、収納魔法の説明をすると、あまり理解できなかったのか、パニックになったので、収納したホーンディアーを出して、もう1度収納すると、なんとか納得した。

「なんかよくわからんが楽だな、その魔法。だから買い取り査定額が高かったのか。で、この胴体2匹分はどうするんだ?」

「それ、食べたいから、美味そうな肉だけ解体して切り出してくれないか?魔物の解体は、まだあまりわからないんだ。その代わりさっき収納した魔物は全部あげるから」

「そのくらい構わんが、いいのか? タカシが倒したのに⋯」

「いいよ。バニーと一緒だからこの依頼を受けられたんだし、金より肉と経験だ。授業料だよ、バニー先輩!」

「そ、そうか。じゃぁ遠慮なく」

 本当に単純だな。よく騙されないもんだ。いや、結構騙されてるのかも知れないが、騙されても気付かないタイプだな。

 俺はバニーが手際よく、ホーンディアーの皮を剥ぎ、肉の塊にしていくのを見ながらコツを教えてもらい、剥ぎ取りナイフを借りて、もう1体を同じように捌きコツを覚えた。

 それから肉の塊を収納して森を出た。転移で帰りたかったが、バニーに説明して理解させるのが難しいので、2人で歩いてギルドまで帰った。

 ギルドのカウンターで、アイリスに依頼完了の報告をし、バニーと2人で剥ぎ取り場に行って、収納していたホーンディアーを全部出す。討伐の証拠に依頼の角5体分の確認と査定をしてもらう。
 アイリスが言うには、俺のギルドランクはDに上がるらしい。そんな簡単に上がるのか?

 木札を受け取り、待合室のソファーにバニーと2人で座った。
もう別にバレてもいいような気がするが、収納魔法の事は内緒にするように言うと、絶対誰にも言わないと約束してくれた。
 しばらくして木札の番号が呼ばれ、カウンターに行くと、査定額は金貨55枚と銀貨30枚になった。バニーが大喜びして、

「タカシのおかげで儲かったから、俺の奢りで今から飯を食いに行こうぜ。昼間っから酒盛りといこうじゃないか!」

「いや、悪いがこの後ちょっと用事があるんだ」

「そうなのか⋯。じゃぁまた今度奢らせてくれよ。絶対だぞ!」

「ああ、今日はたくさん呑んできてくれ」

 バニーはスキップしてギルドを出ていった。俺はバニーを見送ると、再びカウンターのアイリスの所へ行った。

「さっき言ってた国からの指名依頼の詳細を教えて欲しい」

「受けてくださるんですか?」

「いや、受ける前に少し自分で調べたい。倒せるかどうかもわからないからね」

「確かにそうですね。では何度もすみませんが、また応接室の方へお願いします」


 応接室でアイリスから話を聞いた。討伐対象のプラチナドラゴンは、王都の西にあるスレイン山脈の巨大洞窟に巣があるという。スレイン山脈には他にも魔物が多く、特に毒を持つ大蛇がたくさん生息している危険地帯で、誰も近付かない場所らしい。
 確認されているプラチナドラゴンは群れから離れた1匹だけ。被害が出る前に討伐して欲しいと以前から依頼が来ていたが、国に数名いるSランクの冒険者が全員、硬くて空も飛ぶドラゴンの討伐は不可能だと断られたらしい。

「わかりました。検討してみます」

「よろしくお願いします」

 それから応接室を出て、俺はギルドの資料室でプラチナドラゴンについて調べた。
 プラチナドラゴンは、皮膚が硬すぎて剣が全く通らない。口から火を吐き、大きな翼で風を起こして攻撃してくるらしい。基本的にドラゴンは、群れで生息していて、1匹倒すと群れから狙われる事もあるので、群れにいるドラゴンには手を出さない方がよいと書いてある。依頼されている討伐対象のプラチナドラゴンは、群れから離れたヤツだから大丈夫だろう。

 王都は、この街から東の街道を抜け、馬車で3日行った所にあり、スレイン山脈は王都からさらに1日馬車で行った所にあるみたいだ。かなり遠いが1度行ってしまえば、俺なら次からは転移で行ける。とりあえず王都に行ってみよう。

 ギルドを出てユナの家に帰る。昨日の事があるから、なんか心配してしまう。

「ただいま~♪」

「おかえりなさい、タカシさん」

 キッチンで昼食を作っていたユナが、俺の所まで来て迎えてくれた。

「お昼御飯は食べました?」

「いや、まだ食べてない。俺の分ある?」

「まだ間に合いますから、大丈夫ですよ」

「ギルドの依頼で、ホーンディアーの肉が手に入ったから、収納箱に入れておくよ。俺も食べてみたいし」

「はい。じゃぁ晩御飯に使わせてもらいますね。タカシさん、今日はもう出掛けないですか?」

 ユナが欲情した顔で言ってくる。今日は寝起きにエッチな事してないから、物足りなく過ごしてたのかも知れない。俺が王都に出掛けても大丈夫かな?

「ああ、今日はもう家に居るよ。ギルドの指名依頼を受けるかも知れなくて、魔法書を読もうと思ってたから」

「じゃぁお昼御飯食べたら、ちょっとだけエッチしてくれますか?♡」

「いいよ。魔法書読みたいから、ちょっとだけね。夜にまたいっぱいしような」

「はい♡」

 ユナは、嬉しそうな返事をして尻尾を振りながら、昼食を作りにキッチンへ向かった。
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