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第22話 突撃! 心霊スポット

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 千秋達の住む三坂市と、隣接する市の境を流れる鴨井川流域付近に心霊スポットとなった廃墟がある。肝試しにここを訪れた人間数人が行方不明となって、神隠しにあったとか悪霊によって冥界に引き込まれたなどと噂になっていた。
 
「廃墟はここを真っすぐ行ったところね・・・・・・」

 愛佳はスマートフォンの地図アプリを頼りにして歩を進める。葉の生い茂った木々が乱立する森の中、女子高生四人が歩いているというのも奇妙な光景だ。
 
「元々は金持ちの別荘だったらしい。こんな所に建てるなんて奇特な人なんでしょうね」

「きっと外界をシャットアウトして自分の時間を謳歌したかったのよ」

「あら、意外と理解できるの?」

「このストレス社会でならあり得る話でしょう?」

 千秋は美広にも仕事を忘れられる時間と空間を作ってほしいと思う。過重労働によって多大なストレスを受けているはずなのだが、家ではそのような素振りも見せず目の下にクマをつくりながらも耐えている姿は痛々しさすら感じられる。

「社会の闇は深いものね・・・もうじき目的地だし準備しておくか」

 愛佳は胸の谷間からお札を取り出し何かを唱えて刀へと変化させた。それを見た朱音は愛佳の胸を覗き込みながらふむふむと頷いている。

「前から思っていたけど、神木さんのおっぱいデカいよね」

「どこ見てんのよ変態!」

「まあいいじゃない。女の子同士じゃん」

「アンタはその女の子に手を出すじゃないの」

 片腕で胸を隠しながら愛佳は朱音を睨む。朱音の視線はスケベな男子中学生そのもののようで、あまり見られたいとは思わない。

「Dカップでしょ?」

「なんでサイズを・・・!」

「アタシは視ただけでバストサイズが分かるという特殊能力を持ってんのさ。ついでにちーちはF、赤時さんはEだね」

「アンタ嫌われるわよ」

 千秋達のサイズも正解のようで、千秋は呆れたようにし小春は顔を赤くして胸を押さえている。

「ちなみにアタシはCだよ」

「知らないしどうでもいい」

「またまた~。本当は興味深々だったんしょ?」

「アンタの胸なんかどうでもいいって言ってんの」

「あっそうか。神木さんはお尻派なの・・・」

「ケツもどうでもいいわ!」

 朱音がケラケラと笑いながらからかい、それに怒る愛佳はなんだかんだ相性がいいのかもしれない。
 そんな二人の後ろで、小春が服の中を覗きながらブツブツと呟いている。
 
「大きいと可愛いブラが少ないから、もう少し小さくてもよかったかなって・・・・・・」

「小春のはいいサイズだと思うわよ。弾力があって触り心地もいいし、枕としても申し分なくて最高よ」

「も、もう千秋ちゃんったら・・・・・・」

 可愛くむくれる小春を見て千秋の心はほっこりとする。この小動物のような愛嬌を持った少女はどこまで自分を癒してくれるのかと顔が完全ににやけていた。

「もっと大きくして、完全なるクッションへと進化させるのもアリね」

「そ、それはちょっと・・・これ以上大きくなると肩も凝るしさ」

「凝りなら私がほぐしてあげるわよ。そういえば知ってるかしら?胸は揉むと大きくなるらしいわよ」

「迷信だって聞いたけど・・・・・・」

「なら真実かガセか実際に試してみましょう」

 千秋が怪し気な手つきで小春へと迫る。こんなところでダメと小春は後ずさりするが、本心で嫌がっていないことは千秋には分かった。

「アンタ達もイチャつくなら家でしなさい。そろそろ目的の心霊スポットが見えてくるわよ」

「いいじゃないの少しくらい。小春とのスキンシップによって私はパワーアップするのよ」

「いや吸血姫の力の源は血でしょ?」

「ふっ、分かっていないわね。血は肉体的に、小春は精神的に私のエネルギー源となるのよ!」

「なんだコイツら本当に・・・あぁ見えてきたわ。アレね」

 木々を抜けた先、そこにはボロボロのいかにも廃墟然とした洋館がある。別荘として使われていたそれは三階建ての大きな物件だ。

「あっこに吸血姫がいるかもなんだな?」

「そうよ。あたしの吸血姫センサーがビンビンに反応しているし間違いない」

「んなセンサーがあるの?」

「第六感みたいなものよ・・・まあただのカンなんだけど」

 ホラーゲームの舞台にもなりそうな森の洋館を一瞥し、愛佳は大きな玄関口に手をかけた。この扉の先に待ち受けるのは吸血姫か、それとも死臭を纏ったゾンビか・・・・・・

「開けるわよ。準備はいい?」

「アタシ達はオッケーだよ。ほらほら行こう!」

「押すな押すな。なんでそんなテンション高いのよ」

「こういうヤバそうな雰囲気って、逆に興奮しない?」

「しないわ。どこまで変態なのアンタは」

「いや性的興奮とは違うから、この場合は変態という言葉は適さないと思うな」

「急に冷静になってマジレスすんな」

 愛佳はため息をつきながら扉をゆっくりと開く。ギギッ・・・と不気味に軋む音が響き、愛佳は警戒しながら首を扉の隙間に突っ込む。

「お邪魔しまーす・・・・・・」

 当然だが返答は無く、ホテルのエントランスに似ている一階玄関ホールは静まり返っている。しかしホコリの溜まった床には足跡がいくつかあり、ここ最近誰かが歩いた痕跡を見つけることができた。
 更には窓ガラスに木板や鉄板が貼り付けられて日光が遮断され、意図的に暗闇空間をつくろうとしているように見えた。

「行方不明者も見つけられればいいけど」

「傀儡吸血姫に改造される前にな」

 しかし生存者の発見は絶望的だろう。過激派に襲われたら最後、死ぬまで血を抜かれ、死体は術をかけられて傀儡吸血姫へと変化させられてしまう。そうなれば元に戻す方法は無いので倒すしかない。

「なんか見られているプレッシャーがある。どこかに敵が潜んでいるわ」

「神木さんも感じていたか」

「これでも巫女だもの。いい?密集して行くわよ。こういう時の単独行動は死亡フラグなんだからね」

 ホラーゲームで単独行動をして生き残れるのは主人公だけで、モブキャラなんかは怪異の餌食になって無残に殺されるのがオチだ。

「あっ、今なんか動かなかった?」

 小春が指さしたのは二階へ続く階段だった。薄暗いが確かに何者かが動いたのが見えたのだ。

「二階ね。行ってみよう」

 愛佳を先頭に階段を昇って広い廊下を見渡す。するといくつもある部屋の一つ、扉が少し動いたのが見えた。風などで自然に動いた可能性もあるが確認したほうがいいだろう。

「誰かいるの!?」

 バンと大きな音を立て勢いよく扉を開いた。何者かがいるとすればビビらせて萎縮させるのも手だと考えたのだ。

「気配はする・・・出てきなさい」

 人、あるいは吸血姫の気配は確かにする。愛佳は刀を構えながら室内を見渡すと、

「なっ!?」

 天井から巨大な鉄球が落下してきた。気がつかなかったが天井に大きな穴が開いており、解体工事現場で使われるような鉄球は上の階の部屋から落とされたようだ。

「危なっ!」

 愛佳と朱音は横にサイドステップの要領で回避し、千秋は小春を抱えて咄嗟に後ろに下がる。
 しかし、

「ちーち、赤時さん!」

 鉄球の直撃こそ回避できたものの、床がドカッと激しい音を立てて崩れ去り千秋と小春が一階へと転落してしまった。

「大丈夫か!?」

「ええ。私達は大丈夫よ。相田さん達は?」

「アタシも神木さんも問題ない。上がってこられる?」

「小春を背負ってジャンプするわ」

 千秋はしゃがんで小春を背負おうとしたが、

「敵っ!!」

 周囲に傀儡吸血姫が現れて取り囲まれてしまった。仕方なく刀を装備し小春を庇うように敵と向き合う。

「援護するぞ!」

 朱音も下へと飛び降りようとするも、二階にも傀儡吸血姫が出現して襲い掛かってきた。魔具であるグローブを取り出そうとするが、その前に傀儡吸血姫にタックルされて窓を突き破りガラス片と共に外へと落ちていく。

「ちょっと!」

 不意を突かれた朱音を心配するも、その愛佳もまた傀儡吸血姫に囲まれる。
 とはいえ簡単には負ける気がしなかった。何故なら今は昼であり、壊れた窓から差す日光によってエネルギーが精製されるため、夜間のように体力を気にする必要がないからだ。ゲームで例えるなら回復ポイントがそこかしこにある状態と言える。

「フン、巫女のあたしをナメんな! 太陽光さえあればお前達など・・・」

 とドヤ顔で胸を張りながら言っている間に、傀儡吸血姫が繰り出したワイヤーが愛佳の足に絡みついてしまった。これは油断が招いた失態であり、巫女なら本来このような単純な技を受けることはない。

「あっ、しまっ・・・!」

 そして傀儡吸血姫は力任せにワイヤーを振り回し、愛佳は壁に叩きつけられてしまう。

「いったぁ・・・・・・ふざけんな、この!」

 かろうじて手放さなかった刀でワイヤーを斬ろうとするが、刀を振るう前に今度は傀儡吸血姫がワイヤーを引っ張る。
 愛佳の体は床に空いた穴の上を飛び廊下に転がった。

「こんちくしょうめが・・・絶対に殺す!」

 悪役のようなセリフを叫ぶ愛佳に数体の傀儡吸血姫が迫り飛びかかってきた。廊下の窓は板が打ち付けられているので陽の光は僅かしか届かず、この状況では傀儡吸血姫側に分がある。
 先ほどの部屋に戻って有利な状況で戦おうとするが、傀儡吸血姫達の猛攻を受けて防御に徹するしかなくなってしまった。

「ったく、鬱陶しいのよアンタ達は!」

 果たしてこの劣勢を覆し、仲間達と合流することはできるのだろうか。


  -続く-
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