上 下
52 / 63

第52話 翔べ! カティア

しおりを挟む
 旧世界にて建造された巨大な魔道艦ターミナートル。当時の最先端技術を詰め込んだ鋼鉄の塊は朽ち果て、今は荒野の中で古代遺跡と化している。
 そんな魔道艦を仕事で訪れたマリカとカティアは、コウモリに似た不気味な闇の魔物”ハンターバット”の群れに襲われていた。その数は十体程で、マリカとカティアに対して口から魔弾を放って攻撃を仕掛ける。

「飛び回る敵に対処するのはムズいなもう!」

 ハンターバットの戦闘力は特段高いというものではない。では何が厄介かというと、高度な飛行能力を有している点である。獲物の上空から魔弾で攻撃し、確実に弱らせて仕留めた上で肉薄して血を吸うのだ。
 マリカやカティアに翼は無く、自由に飛び回る敵から一方的に撃たれ続ける。一応はカティアが杖を装備しているので対空射撃が可能であるが、さすがに物量差で負けているので応戦は難しい。

「マリカ様、わたしが援護しますのでアチラの部屋に逃げてください!」

 二人が落下した場所は広い空間で、遮蔽物も無いうえに高さがある。つまり、ここは飛行するハンターバット側にとっては有利な地形となって、まさに狩場となっているのだ。
 それならば狭い部屋などに逃げ込んだ方が生存率は高く、相手に頭の上を抑えられない状況を作るべきだとカティアは判断したのである。

「カティアも続いて!」

 援護を受けたマリカは無機質な部屋の中を走り、カティアが指し示した扉を目指す。その扉には”武器庫”と書かれたプレートが打ち付けられていたが、文字など読んでいる暇は無く、勢いよくガチャッと開いてカティアを待った。
 魔弾を連射して隙を作ったカティアは手招きするマリカのもとに駆けて扉をくぐる。

「これで一安心……」

 という訳にもいかず、カティアの通過後に閉めらた扉はハンターバットの魔弾で吹き飛んだ。狩人の名に恥じない獲物への執着を見せつけ、逃げたマリカ達への追撃を諦めない。

「だったらさ!」

 近くにあった棚などを入口に移動させるが、これらも一時的な時間稼ぎにしかならないだろう。すぐさま魔弾によって破壊されてしまうのは火を見るよりも明らかだ。

「カティア、何か案はある?」

「うーんと、ええと……あっ、アレはオプションユニット!!」

 いくつかの弾頭や兵装が乱雑に散らばっている武器庫の中、見覚えのあるコネクターを搭載したユニットをカティアが発見する。これは間違いなくアンドロイド用のオプションユニットで、その近くに落ちていた付属品と共にカティアが引きずって運ぶ。

「高機動パック…戦闘用アンドロイドのために開発されたモノです。魔力を推進剤として飛翔する事ができます」

「こりゃいい。おあえつらえ向きだね、今回の敵には」

 すぐさまマリカはリペアスキルを使い、ユニットと付属品全てを修復した。
 鈍い輝きを取り戻したユニットはランドセルにスラスターを付け足した形状をして、そのスラスターから凝縮した魔力を噴射して跳躍するのだろう。

「後は、この脚部用のサブスラスターを付けて……」

 高機動パックと共に発見された一対の半円筒は、ふくらはぎに装着する装備のようだ。装甲のようになっている半円筒の側面と背部には小型スラスターが突き出ていて、これも推進器として機能するらしい。

「マズい! バリケードが突破される!」

「お任せください! これで空戦もある程度できますから、ハンターバットを蹴散らしてみせます!」

「頼むね! 私は射撃はヘタッぴだけど杖の魔弾で援護する!」

「はい! わたしは剣で近接戦を仕掛けます」

 ハンターバットによって破壊されたバリケードを乗り越え、カティアが敵の飛び回る大部屋へと乗り込む。

「高機動型カティア! いきます!」

 バックパックとして背負った高機動パックに魔力を流し、その内部で魔力が凝縮されていく。直後、眩い閃光がスラスターから噴き出して、強大な推進力を得たカティアが飛翔する。まるで旧世界におけるロケットや戦闘機の発進のようで、加速していくカティアはハンターバットと同じ高さまで一瞬で到達した。

「マリカ様に手出しはさせません!」

 素早い剣戟でハンターバット一体を両断し、鮮血を撒き散らして遺体が落下していった。
 更に脚部のサブスラスターによって姿勢制御を行い、次のターゲットめがけて滑空していき、すれ違いざまに一閃して撃破する。

「スゴイよ、カティア! これなら勝てる!」

 カティアの活躍を目の当たりにし、快哉を叫ぶマリカは魔弾で支援を行って一体を撃破した。しかしマリカの射撃能力は低く、連射の末にやっと直撃させることができて、まさに数撃てば当たるを体現した戦い方をしているので燃費が悪いにも程がある。
 カティアの強襲も相まって残るハンターバットは四体となったが、彼らは狩りを諦めることはなく、その凶暴性を表すかのように反撃に移った。生存本能よりも闘争本能が勝っているようで、とにかく獲物を喰い千切って血を吸い取ることしか考えていないのだろう。

「早く終わらせたいな…!」

 魔弾を撃ちまくったせいでマリカの魔力は少なくなっていた。このままでは魔力切れは時間の問題で、それまでに敵を殲滅しなければ死は免れられない。
 敵の数が減ったことでマリカは少し冷静になり、カティアの背後に迫ろうとするハンターバットを狙撃する。多少狙いがズレて一撃必殺とはいかなかったが、カティアが振り向いて剣で切断した。

「ありがとうございます、マリカ様!」

「残るは三体だよ。一気に勝負を決めよう」

「はい!」

 スラスターを全開にしたカティアが掴みかかってきたハンターバットの翼を切断して墜落させ、そこをマリカがトドメを刺す。これで二体二へと持ち込んだわけだが、互いを守り合いながら連携するマリカとカティアの方が優位に立っているのは間違いない。

「私が敵の動きを封じ込めるから、仕留めて!」

「了解です!」

 いくら狙い定めた攻撃が下手と言っても牽制くらいはできる。マリカは敵の進行方向に魔弾を放って急ブレーキをかけさせ、そのスピードが鈍った隙にカティアが確実に倒す。
 強い信頼と共に補い合う二人は最後の一体に集中し、挟撃してハンターバットの逃げ場を封じる。そしてカティアの強烈な斬撃が炸裂、ハンターバットは頭部から一刀両断にされて沈黙した。
 
「全部倒せた……」

「お見事です、マリカ様!」

「いやいや、カティアのおかげだよ。私だけだったら、あのコウモリ達に全身から血を飲まれていた」

「マリカ様の血液…きっと美味なのでしょうね」

「そ、それはどうでしょうね…?」

 本当の吸血姫のようなコトを言い出したカティアに苦笑いしつつ、ハッとしてマリカは上を見上げる。一応は窮地を脱することができたが、アレクシアとは離れ離れとなってしまっているのだ。

「アレクシアさんもハンターバットに襲われているだろうから助けないと」

「わたしの高機動パックなら上まで行けます。お運びしますね」

 お姫様抱っこの要領でカティアがマリカを持ち上げ、スラスターを点火して飛び立つ。そしてマリカ達が落下した大穴まで辿り着き、上の階の床へと降り立った。
 
「アレクシアさんは?」

 周囲を見渡すと、いくつかのボロボロとなったハンターバットの死骸が転がっている。
 その少し先に視線を向けると、剣を突き出してハンターバットの胸部を突き刺しているアレクシアが立っていた。その相手が最後の一体だったようで、ゆっくりと剣を引き抜くと周囲には完全な沈黙が訪れて羽音は一切聞こえなくなった。

「あら、アナタ達も無事だったのね?」

「なんとか…アレクシアさんも一人で敵を全滅させるなんて凄いですね」

「私はアンドロイドの始祖たる存在なのよ。この程度、どうという事はないわ」

 剣の刃先に付着した血肉を振り払いつつ、まさにドヤ顔で自らを誇るアレクシア。プロトタイプアンドロイドというのは聞いていたが、その性能は後の量産型アンドロイドよりも上回っているらしい。

「まあ久しぶりの戦いだったのでカンを取り戻すのに多少かかったけれども……アナタはオプション装備を見つけたようね」

「あ、はい。たまたま発見しまして、マリカ様のリペアスキルで直して頂いたのです」

「ほう…さすがのリペアスキルね。これは本物だわ」

 カティアが背負うユニットを観察し、その状態が製造直後の良好さを示していることに感嘆している。これを利用すれば自らの目的も達成できるだろうと口角を上げながら。

「アクシデントがあったけれど、仕事を続けましょう。目的の動力機関はもっと先にあるわ」

 魔具を仕舞って歩き出したアレクシアに続くマリカ達。
 魔物との戦闘はあくまで事故や災害のようなモノであり、マリカの依頼された事案はまだ解決されてはいないのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

フェイバーブラッド ~吸血姫と純血のプリンセス~

ヤマタ
ファンタジー
 吸血姫と呼ばれる存在に誘拐された普通の高校生の赤時小春(あかとき こはる)は、同じく吸血姫を名乗る千祟千秋(ちすい ちあき)によって救出された。生き血を吸って己を強化する吸血姫は人類を家畜にしようとする過激派と、人類との共存を望む者達とで絶えず争っていて、偶然にもその戦いに巻き込まれた小春は共存派の千秋に血を提供して協力すると申し出たのだが、この選択が人生を大きく狂わせることになる。  吸血姫同士の戦争は、小春と千秋の深まっていく絆はどこへ向かうのか。これは非日常に足を踏み入れた平凡な少女と、新たな日常を手に入れた吸血姫の少女の物語。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

解放の砦

さいはて旅行社
ファンタジー
その世界は人知れず、緩慢に滅びの道を進んでいた。 そこは剣と魔法のファンタジー世界。 転生して、リアムがものごころがついて喜んだのも、つかの間。 残念ながら、派手な攻撃魔法を使えるわけではなかった。 その上、待っていたのは貧しい男爵家の三男として生まれ、しかも魔物討伐に、事務作業、家事に、弟の世話と、忙しく地味に辛い日々。 けれど、この世界にはリアムに愛情を注いでくれる母親がいた。 それだけでリアムは幸せだった。 前世では家族にも仕事にも恵まれなかったから。 リアムは冒険者である最愛の母親を支えるために手伝いを頑張っていた。 だが、リアムが八歳のある日、母親が魔物に殺されてしまう。 母が亡くなってからも、クズ親父と二人のクソ兄貴たちとは冷えた家族関係のまま、リアムの冒険者生活は続いていく。 いつか和解をすることになるのか、はたまた。 B級冒険者の母親がやっていた砦の管理者を継いで、書類作成確認等の事務処理作業に精を出す。砦の守護獣である気分屋のクロとツンツンなシロ様にかまわれながら、A級、B級冒険者のスーパーアスリート超の身体能力を持っている脳筋たちに囲まれる。 平穏無事を祈りながらも、砦ではなぜか事件が起こり、騒がしい日々が続く。 前世で死んだ後に、 「キミは世界から排除されて可哀想だったから、次の人生ではオマケをあげよう」 そんな神様の言葉を、ほんの少しは楽しみにしていたのに。。。 オマケって何だったんだーーーっ、と神に問いたくなる境遇がリアムにはさらに待っていた。

異世界TS転生で新たな人生「俺が聖女になるなんて聞いてないよ!」

マロエ
ファンタジー
普通のサラリーマンだった三十歳の男性が、いつも通り残業をこなし帰宅途中に、異世界に転生してしまう。 目を覚ますと、何故か森の中に立っていて、身体も何か違うことに気づく。 近くの水面で姿を確認すると、男性の姿が20代前半~10代後半の美しい女性へと変わっていた。 さらに、異世界の住人たちから「聖女」と呼ばれる存在になってしまい、大混乱。 新たな人生に期待と不安が入り混じりながら、男性は女性として、しかも聖女として異世界を歩み始める。 ※表紙、挿絵はAIで作成したイラストを使用しています。 ※R15の章には☆マークを入れてます。

ズボラ通販生活

ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!

さくらと遥香

youmery
恋愛
国民的な人気を誇る女性アイドルグループの4期生として活動する、さくらと遥香(=かっきー)。 さくら視点で描かれる、かっきーとの百合恋愛ストーリーです。 ◆あらすじ さくらと遥香は、同じアイドルグループで活動する同期の2人。 さくらは"さくちゃん"、 遥香は名字にちなんで"かっきー"の愛称でメンバーやファンから愛されている。 同期の中で、加入当時から選抜メンバーに選ばれ続けているのはさくらと遥香だけ。 ときに"4期生のダブルエース"とも呼ばれる2人は、お互いに支え合いながら数々の試練を乗り越えてきた。 同期、仲間、戦友、コンビ。 2人の関係を表すにはどんな言葉がふさわしいか。それは2人にしか分からない。 そんな2人の関係に大きな変化が訪れたのは2022年2月、46時間の生配信番組の最中。 イラストを描くのが得意な遥香は、生配信中にメンバー全員の似顔絵を描き上げる企画に挑戦していた。 配信スタジオの一角を使って、休む間も惜しんで似顔絵を描き続ける遥香。 さくらは、眠そうな顔で頑張る遥香の姿を心配そうに見つめていた。 2日目の配信が終わった夜、さくらが遥香の様子を見に行くと誰もいないスタジオで2人きりに。 遥香の力になりたいさくらは、 「私に出来ることがあればなんでも言ってほしい」 と申し出る。 そこで、遥香から目をつむるように言われて待っていると、さくらは唇に柔らかい感触を感じて… ◆章構成と主な展開 ・46時間TV編[完結] (初キス、告白、両想い) ・付き合い始めた2人編[完結] (交際スタート、グループ内での距離感の変化) ・かっきー1st写真集編[完結] (少し大人なキス、肌と肌の触れ合い) ・お泊まり温泉旅行編[完結] (お風呂、もう少し大人な関係へ) ・かっきー2回目のセンター編[完結] (かっきーの誕生日お祝い) ・飛鳥さん卒コン編[完結] (大好きな先輩に2人の関係を伝える) ・さくら1st写真集編[完結] (お風呂で♡♡) ・Wセンター編[不定期更新中] ※女の子同士のキスやハグといった百合要素があります。抵抗のない方だけお楽しみください。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

処理中です...