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第8話 カノン・オーネスコルピオ
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アオナが紹介した仕事の当日、マリカとカティアの姿は街の西門にあった。この巨大な門が集合場所として指定されていて、マリカ達に遅れて役所の女性と護衛の魔導士が到着する。
「待たせてしまいましたねマリカさん。私はバタム、保安課所属の者です。今日はよろしく」
「宜しくお願いします。姉のアオナから仕事内容について伺っていますが、西灯台の篝火台の修復をすればいいのですね?」
「はい。アオナさんとは古馴染でして、昨日たまたま会った時に依頼したのですよ。マリカさんのリペアスキルなら簡単に直せるとお聞きしたので、なら是非協力していただければと」
「お姉ちゃんったら私を過大評価し過ぎだな……」
リペアスキルも万能ではないので、そんな簡単に修復ができるとは限らない。
しかし姉が自分を評価してくれている事は嬉しいし、その期待に応えたいという気持ちはある。なので今日の仕事は無事に成功させようと一層の気合を入れた。
「先日の魔物の襲撃によって灯台付近で戦闘が発生し、辛うじて魔物を撃退することには成功しましたが魔導士と兵士に人的被害が発生しましてね……その際に篝火台も破壊されてしまったのです。あれは魔物の接近を知らせる大切な装置なので、すぐにでも復旧させたいのですよ」
「心得ています。体に魔力も充分蓄えてありますから、すぐに仕事に取り掛かれます」
「それは心強い。では早速向かいましょう」
門の前に準備されていた馬車に一行が乗り込み、バタムの護衛を務める魔導士が手綱を握る。マリカの四輪駆動車のほうが速いのだが、運転は疲れるのでここは任せることにした。
馬車は門をくぐりフリーデブルクの街の外に出る。見渡す限りの荒野はデコボコとして馬車の走る環境には向いておらず、車のようなサスペンションの装備されていない車輪では激しく揺れて酔いそうになる。
「あの、それでこのメイド服の方は?」
「ああ、このコはカティアです。ウチの店の新しい従業員でして、今日は私の補佐をしてくれます」
「なるほど。すごい大きなお荷物をお持ちですが、それは修復作業に必要な物なので?」
カティアが抱えているのは先日マリカが直したアンドロイド用のキャノンパックだ。街中で装備して歩き回るわけにはいかないし、馬車の座席に座るには邪魔ではあるが念のために持ってきていた。
「これはカティアの魔具ですよ。万が一魔物が現れた時の用心に」
「ご安心を。あの周囲にはもう魔物はいません。それに灯台の警備に数人の魔導士が配置されていますから、マリカさんには修復作業に集中していただけますよ」
街の外の危険性を良く知るマリカからすればバタムは楽観的なように見える。魔物とは時を選ばず襲いくるもので、今回の作業中に現れないとは限らないのだ。
「もう間もなく到着です。天候も良好で良かった」
バタムの言うように雲一つない青空が広がっているが、インドア派のマリカにしてみれば太陽が眩しすぎて少々不快ではある。
マリカが目を細めながら流れる景色を眺めていると、徐々に馬車が速度を落として停止した。目的の灯台は目の前にそびえ立っていてなんとも威圧感を感じるが、これは街の平和を守る象徴なのだ。
「派手に壊れていますね」
「それだけ激しい戦闘だったんですよ。あの上部の所に篝火台の残骸があるので、そこまで昇りましょう」
「分かりました。でもどうして上の部分だけが破壊されたんだろう…しかも灯台は堅牢な造りなのに、これほどのダメージを負うなんて……」
灯台の下部はほとんど無傷で損壊したのは上部だけなのだ。それに灯台は極めて頑丈なので簡単に壊れはしない。これらから推察するに、ここに現れた魔物は飛行タイプ、もしくは遠距離攻撃が可能な魔物であったのだろう。しかも強力な攻撃が可能でもあったようだ。
「あれ、おかしいですね…警備の者の姿が一人も見えません……」
バタムの話では数人の魔導士が灯台の警備についているはずだった。しかし周囲には人影は無く、閑散として風の音だけが鳴っている。
そこでマリカはハッとし、腰の鞘から剣を引き抜く。
「あの、先日の戦いについてですが、魔物を辛うじて撃退できたと仰っていましたね?」
「ええ、損害を出しながらも敵を退けることはできたという現場からの報告でしたが…?」
「つまり倒せてはいない…ってことは魔物は近くに潜伏しているかもしれません」
「その魔物が警備の魔導士達を全滅させたと…?」
「かもしれません。カティア、魔具を!」
マリカの指示でカティアはキャノンパックを背負って装備した。そして索敵モードを起動して警戒する。
「この振動は…まさか!」
地面が揺れたと感じた瞬間、マリカの想像通りの存在が姿を現す。突き破るように地面から飛び出した巨体はオーネスコルピオそのものだ。
「コイツは…カノン・オーネスコルピオ!?」
以前カティアと共に遭遇したオーネスコルピオよりも大きく、漆黒のボディは金属のような光沢がある。だが最も特徴的なのは尻尾で、通常のオーネスコルピオは鋭利な槍状の針が生えているのだが、カノン・オーネスコルピオの尻尾の先端は砲塔になっているのだ。しなやかに動いてあらゆる方向を狙うことが可能で、高威力な魔弾の発射を可能にしている。
「バタムさん、ここは任せてください! 早く灯台の中に隠れて!」
「こんなヤバい魔物がいたという報告は上がっていなかったのに!」
「いいから早く!!」
戦闘要員ではないバタムを逃がしてマリカとカティアが敵に対する。ちなみにバタムの護衛の魔導士も後退させているが、それは他にも魔物が現れて孤立したバタムが襲われた時の対策も講じるためだ。
「コイツが灯台の警備を全滅させたんだな……」
「マリカ様、援護します!」
「頼むね!」
マリカは駆け出してカノン・オーネスコルピオに吶喊する。それを後方から支援するのがカティアの役目だ。
「カティア・キャノン、いきます!」
キャノンパックを装備した自分をカティア・キャノンと呼び、敵に狙いを定める。
バックパックから右肩の上に伸びる一門の魔道キャノンが稼働して、カティアの思考通りに魔弾を撃ち出した。
「当たってください!」
ドッと飛び出した魔弾は真っすぐに飛翔していくが、カノン・オーネスコルピオはその攻撃を視界に捉えてサイドステップの要領で回避する。そしてカティアに魔弾の反撃を飛ばしてきた。
「おわー! 危なーい!!」
衝撃波を伴いながら迫る魔弾が近くに着弾してカティアは転倒する。重量のあるキャノンパックを背負った状態では機動力が落ちるため回避行動を取るのも難しいのだ。
「凄い火力ですね……」
着弾地点は大きく抉れて魔弾の破壊力の凄まじさを物語っている。灯台の頂上付近を破壊したのはカノン・オーネスコルピオであるのは間違いなく、そんな一撃を受けたら死は免れられないだろう。
カティアは立ち上がって魔道キャノンの照準を敵に合わせる。
「今度は直撃させます!」
再び発射された魔弾はカノン・オーネスコルピオの右手に直撃し、爆音と共に右手のハサミを粉砕することに成功した。
「ナイス、カティア!」
これなら近距離戦でのリスクも下がる。マリカは思い切って斬りかかり、漆黒の胴体に刃を叩きつけた。
「チッ! やっぱり硬いか!」
オーネスコルピオ通常種ですら表皮が硬く刃を通さなかったが、カノン・オーネスコルピオはそれ以上の防御力を有しているようだ。かすり傷すら付かず、カンと乾いた音を立てて刃が弾かれてしまった。
「やはり頭部を叩き切るしかないか……」
弱点である頭部にさえ全力の一撃を叩きこめれば勝てるだろうが、そのためには動きを鈍らせる必要がある。現状、カノン・オーネスコルピオの片腕を破壊することには成功したものの、それによって怒って機動力が増していた。
「それかカティアの砲撃でダメージを与えれば、もしくは……」
カティアの背負う魔道キャノンの威力は高く、カノン・オーネスコルピオの巨大なハサミをも粉砕できていた。その魔弾なら鉄壁の胴体部分にも致命傷を与えることができるはずだ。
しかし事は単純ではない。通常種とは異なり敵も魔弾を撃てるのだ。砲撃戦になればカティアのほうが分が悪く、しかもスピード勝負でも負けているのでカティア一人で対処することは不可能である。
「なら私がチャンスを作るしかない! 前回のように!」
以前オーネスコルピオ通常種と戦った時もマリカが敵の気を引いてカティアが魔弾で仕留めた。その戦法こそ今のマリカとカティアの典型パターンであり、最も確実と言える。
マリカは剣を構えて跳躍し、カノン・オーネスコルピオの尻尾目掛けて振り下ろした。
「待たせてしまいましたねマリカさん。私はバタム、保安課所属の者です。今日はよろしく」
「宜しくお願いします。姉のアオナから仕事内容について伺っていますが、西灯台の篝火台の修復をすればいいのですね?」
「はい。アオナさんとは古馴染でして、昨日たまたま会った時に依頼したのですよ。マリカさんのリペアスキルなら簡単に直せるとお聞きしたので、なら是非協力していただければと」
「お姉ちゃんったら私を過大評価し過ぎだな……」
リペアスキルも万能ではないので、そんな簡単に修復ができるとは限らない。
しかし姉が自分を評価してくれている事は嬉しいし、その期待に応えたいという気持ちはある。なので今日の仕事は無事に成功させようと一層の気合を入れた。
「先日の魔物の襲撃によって灯台付近で戦闘が発生し、辛うじて魔物を撃退することには成功しましたが魔導士と兵士に人的被害が発生しましてね……その際に篝火台も破壊されてしまったのです。あれは魔物の接近を知らせる大切な装置なので、すぐにでも復旧させたいのですよ」
「心得ています。体に魔力も充分蓄えてありますから、すぐに仕事に取り掛かれます」
「それは心強い。では早速向かいましょう」
門の前に準備されていた馬車に一行が乗り込み、バタムの護衛を務める魔導士が手綱を握る。マリカの四輪駆動車のほうが速いのだが、運転は疲れるのでここは任せることにした。
馬車は門をくぐりフリーデブルクの街の外に出る。見渡す限りの荒野はデコボコとして馬車の走る環境には向いておらず、車のようなサスペンションの装備されていない車輪では激しく揺れて酔いそうになる。
「あの、それでこのメイド服の方は?」
「ああ、このコはカティアです。ウチの店の新しい従業員でして、今日は私の補佐をしてくれます」
「なるほど。すごい大きなお荷物をお持ちですが、それは修復作業に必要な物なので?」
カティアが抱えているのは先日マリカが直したアンドロイド用のキャノンパックだ。街中で装備して歩き回るわけにはいかないし、馬車の座席に座るには邪魔ではあるが念のために持ってきていた。
「これはカティアの魔具ですよ。万が一魔物が現れた時の用心に」
「ご安心を。あの周囲にはもう魔物はいません。それに灯台の警備に数人の魔導士が配置されていますから、マリカさんには修復作業に集中していただけますよ」
街の外の危険性を良く知るマリカからすればバタムは楽観的なように見える。魔物とは時を選ばず襲いくるもので、今回の作業中に現れないとは限らないのだ。
「もう間もなく到着です。天候も良好で良かった」
バタムの言うように雲一つない青空が広がっているが、インドア派のマリカにしてみれば太陽が眩しすぎて少々不快ではある。
マリカが目を細めながら流れる景色を眺めていると、徐々に馬車が速度を落として停止した。目的の灯台は目の前にそびえ立っていてなんとも威圧感を感じるが、これは街の平和を守る象徴なのだ。
「派手に壊れていますね」
「それだけ激しい戦闘だったんですよ。あの上部の所に篝火台の残骸があるので、そこまで昇りましょう」
「分かりました。でもどうして上の部分だけが破壊されたんだろう…しかも灯台は堅牢な造りなのに、これほどのダメージを負うなんて……」
灯台の下部はほとんど無傷で損壊したのは上部だけなのだ。それに灯台は極めて頑丈なので簡単に壊れはしない。これらから推察するに、ここに現れた魔物は飛行タイプ、もしくは遠距離攻撃が可能な魔物であったのだろう。しかも強力な攻撃が可能でもあったようだ。
「あれ、おかしいですね…警備の者の姿が一人も見えません……」
バタムの話では数人の魔導士が灯台の警備についているはずだった。しかし周囲には人影は無く、閑散として風の音だけが鳴っている。
そこでマリカはハッとし、腰の鞘から剣を引き抜く。
「あの、先日の戦いについてですが、魔物を辛うじて撃退できたと仰っていましたね?」
「ええ、損害を出しながらも敵を退けることはできたという現場からの報告でしたが…?」
「つまり倒せてはいない…ってことは魔物は近くに潜伏しているかもしれません」
「その魔物が警備の魔導士達を全滅させたと…?」
「かもしれません。カティア、魔具を!」
マリカの指示でカティアはキャノンパックを背負って装備した。そして索敵モードを起動して警戒する。
「この振動は…まさか!」
地面が揺れたと感じた瞬間、マリカの想像通りの存在が姿を現す。突き破るように地面から飛び出した巨体はオーネスコルピオそのものだ。
「コイツは…カノン・オーネスコルピオ!?」
以前カティアと共に遭遇したオーネスコルピオよりも大きく、漆黒のボディは金属のような光沢がある。だが最も特徴的なのは尻尾で、通常のオーネスコルピオは鋭利な槍状の針が生えているのだが、カノン・オーネスコルピオの尻尾の先端は砲塔になっているのだ。しなやかに動いてあらゆる方向を狙うことが可能で、高威力な魔弾の発射を可能にしている。
「バタムさん、ここは任せてください! 早く灯台の中に隠れて!」
「こんなヤバい魔物がいたという報告は上がっていなかったのに!」
「いいから早く!!」
戦闘要員ではないバタムを逃がしてマリカとカティアが敵に対する。ちなみにバタムの護衛の魔導士も後退させているが、それは他にも魔物が現れて孤立したバタムが襲われた時の対策も講じるためだ。
「コイツが灯台の警備を全滅させたんだな……」
「マリカ様、援護します!」
「頼むね!」
マリカは駆け出してカノン・オーネスコルピオに吶喊する。それを後方から支援するのがカティアの役目だ。
「カティア・キャノン、いきます!」
キャノンパックを装備した自分をカティア・キャノンと呼び、敵に狙いを定める。
バックパックから右肩の上に伸びる一門の魔道キャノンが稼働して、カティアの思考通りに魔弾を撃ち出した。
「当たってください!」
ドッと飛び出した魔弾は真っすぐに飛翔していくが、カノン・オーネスコルピオはその攻撃を視界に捉えてサイドステップの要領で回避する。そしてカティアに魔弾の反撃を飛ばしてきた。
「おわー! 危なーい!!」
衝撃波を伴いながら迫る魔弾が近くに着弾してカティアは転倒する。重量のあるキャノンパックを背負った状態では機動力が落ちるため回避行動を取るのも難しいのだ。
「凄い火力ですね……」
着弾地点は大きく抉れて魔弾の破壊力の凄まじさを物語っている。灯台の頂上付近を破壊したのはカノン・オーネスコルピオであるのは間違いなく、そんな一撃を受けたら死は免れられないだろう。
カティアは立ち上がって魔道キャノンの照準を敵に合わせる。
「今度は直撃させます!」
再び発射された魔弾はカノン・オーネスコルピオの右手に直撃し、爆音と共に右手のハサミを粉砕することに成功した。
「ナイス、カティア!」
これなら近距離戦でのリスクも下がる。マリカは思い切って斬りかかり、漆黒の胴体に刃を叩きつけた。
「チッ! やっぱり硬いか!」
オーネスコルピオ通常種ですら表皮が硬く刃を通さなかったが、カノン・オーネスコルピオはそれ以上の防御力を有しているようだ。かすり傷すら付かず、カンと乾いた音を立てて刃が弾かれてしまった。
「やはり頭部を叩き切るしかないか……」
弱点である頭部にさえ全力の一撃を叩きこめれば勝てるだろうが、そのためには動きを鈍らせる必要がある。現状、カノン・オーネスコルピオの片腕を破壊することには成功したものの、それによって怒って機動力が増していた。
「それかカティアの砲撃でダメージを与えれば、もしくは……」
カティアの背負う魔道キャノンの威力は高く、カノン・オーネスコルピオの巨大なハサミをも粉砕できていた。その魔弾なら鉄壁の胴体部分にも致命傷を与えることができるはずだ。
しかし事は単純ではない。通常種とは異なり敵も魔弾を撃てるのだ。砲撃戦になればカティアのほうが分が悪く、しかもスピード勝負でも負けているのでカティア一人で対処することは不可能である。
「なら私がチャンスを作るしかない! 前回のように!」
以前オーネスコルピオ通常種と戦った時もマリカが敵の気を引いてカティアが魔弾で仕留めた。その戦法こそ今のマリカとカティアの典型パターンであり、最も確実と言える。
マリカは剣を構えて跳躍し、カノン・オーネスコルピオの尻尾目掛けて振り下ろした。
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