吸血少女ののんびり気ままなゲームライフ

月輪林檎

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高く光へ昇り深く闇へ沈む吸血少女

第四回イベント開始

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 いつも通り広場でイベントの始まりを待っていると、後ろから重石が乗っかってきた。

「アク姉、重い……」
「最近は痩せたんだけどなぁ」
「現実とゲームは違うから。向こうでも痩せても、ゲームじゃ減らないよ」
「盲点だった……」

 そんな馬鹿みたいなやり取りをしている間も、アク姉は寄り掛かったままだった。私もステータスが上がっているから、ゲーム内なら別に大丈夫だけど重いと思うのは変わらない。

「そういえば、アク姉は予定通り帰れそうなの?」

 このイベントの二日後は、みず姉とかー姉が帰省する予定日だ。かー姉は予定通りっていうメールが届いたけど、みず姉に関しては、そこら辺の連絡が来ていないってお母さんが怒っていた。

「うん。帰るよ。楽しみで待ちきれない?」
「ううん。お母さんが返信くらいしなさいって怒ってたから」
「……やば、色々と忙しくて忘れてた」

 何が忙しかったのか分からないけど、純粋に忘れていたらしい。これは、お母さんに怒られて貰おう。私からは、どうやってもフォロー出来ないから。

「おっ、そろそろ転移だって。ハクちゃんは……基本ソロ?」
「知らない人と組みたくないし、そうなるかな。アク姉は、メイティさん達と組むんでしょ?」
「出来ればね。メッセージが使えないから、結局合流出来ればって話になってるよ。ハクちゃんと合流出来たら、ハクちゃんとパーティーを組もうかな」
「合流出来たらね」
「そういえば、アカリちゃんは?」

 周囲にアカリの姿が見えないからかアク姉が訊いてきた。

「今回はパスだって。次のイベントに備えるらしいよ」
「そうなんだ。良いところまでいけそうだけどね。殲滅戦は、どうなるかね」
「レイン達がいるから、何も問題ないと思うよ。あの子達の強さは異常だから」
「そういえば、レインちゃん達の戦いは見た事ないかも。楽しみにしておこ」

 そんな話をしている間に、転移の時間になった。視界が白く染まり、次の瞬間には前のイベントでも訪れた廃都市に立っていた。周囲に人の姿はない。

「さてと、どうやって行動しようかな」

 最初から空を飛ぶのは、悪目立ちするだけなので無しだ。それを考えると、いつも通りに走り回るのが一番かな。
 そんな風に考えている間にイベントが始まる。【雷脚】などは使わずに、普通に走る。それでも結構速く走れるようになった。そのまま適当に走っていると、急に嫌な予感がして、【電光石火】で背後に移動する。その直後、上から誰からが降りてきて、私がいた場所に攻撃をしていた。
 その人は、そのまま私を追撃しようとしてから手を止めた。その手には刀が握られている。

「あれ? ハクちゃん?」
「ソルさん?」

 一番初めに遭遇した相手は、まさかのソルさんだった。何だろうか。ノルマを達成したみたいな感覚だった。

「PvPイベントの度に会いますね」
「運命かもね。どうする? このまま戦う? それともパーティー組む?」

 かなり魅力的な提案だ。でも、一つ懸念がある。

「前々回優勝者と前回優勝者が組んで良いんでしょうか? バランス崩れません?」
「おぉ……私達が組んだら敵無しと。自信満々だね」
「そういうわけじゃないですけど……」

 私とソルさんが組んだら、周囲がよく思わないであろう事は目に見えている。それを考えると、この提案が良いことなのかどうかと悩んでしまうのも仕方ないと思う。

「大丈夫だと思うよ。普通そういうのを気にするのは運営の筈だから。ランダム転移で、私達が近くに転移されている時点で、構わないって考えていると思うかな。今は、PvPも盛んだしね」

 闘技場でのPvPが盛り上がっているから、このイベントでも色々と変わるかもしれない。そうやって運営が判断したのかな。

「じゃあ、組みますか。正直、ソルさんと戦うのは嫌なので」
「私も同じ。ハクちゃんと戦うと長引くからね。それじゃあ、パーティー申請するね」
「はい」

 こうして、ソルさんとパーティーを組んでのイベントが始まった。

「さてと、どう動く?」
「取り敢えず、走って移動しますか?」
「オッケー。じゃあ、ハクちゃんが私に合わせてくれる? 多分、私よりも速いだろうから」
「分かりました」
「よし! それじゃあ、出発!」

 私とソルさんは、エリアの中央に向けて走る。一分程走っていると、【第六感】が反応する。視界内にプレイヤーの姿は見えない。そして、【第六感】から上からの攻撃だと分かる。
 【支配(血)】で仕舞っていた双血剣を取り出して、上を見る。すると、上から火の球が複数飛んできていた。

「近くに!」

 そう言った瞬間、ソルさんは即座に近づいてきた。どれくらい近づいたか確認せずに、【火炎武装】で飛んできた火の球を操作して、私達に命中しない見当外れの場所に着弾させる。さすがに、完全に操る事は出来なかったので、お返しするとかは出来ない。
 敵の居場所は、私達の隣にあるビルの上。視界に入ったのは二人だった。ビルは五階建てなので、結構高い。そこをソルさんが、雷を纏いながら、一瞬に駆け上がった。あの感じは、私も使っているのでよく分かる。【電光石火】と【疾風迅雷】だ。

「ライトニングホースを倒したの、ソルさんだったんだ」

 ソルさんなら、普通に倒せるだろうなと思ってしまう。
 ソルさんは、こっちを見下ろしていた敵の一人の胸倉を掴んで、地面に向かって捨てた。そして、もう一人の心臓に刀を突き刺していた。そっちは任せて大丈夫だと思う。問題は、落ちてきている方だ。落下ダメージで倒せるとは考えない方が良い。このくらいの高さなら死なずにいられるはず。
 それに、その人はまだ戦う意志を失っていない。こっちに杖を向けて魔法を撃つ気満々だった。だから、【電光石火】で接近して、顔面に膝を入れる。【疾風迅雷】で溜め込んだ雷も解放して、感電させて麻痺状態にする。まぁ、さっきの頭の一撃で気絶状態になっているから、あまり意味ないけど。
 一瞬、【鳥翼】を出して、身体を制御し、気絶している敵の背中に回し蹴りを入れる。落下を加速させて、地面に叩きつける。【回転】の効果で回し蹴りの威力も上がっており、地面に叩きつけられた敵は即座にポリゴンになった。

「倒せたみたいだね」

 隣に上から降りてきたソルさんが着地した。ただ、ソルさんはふわふわとゆっくり降りていた。羽も無しに。

「…………」
「ん? ああ、【浮遊】だよ。【空歩】の先だね。ハクちゃんが使ってる羽とどっちが良いかは分からないけど、結構良いよ。MP消費が凄いっていうのを除けばね」
「へぇ~、なるほど。私は【飛翔】のスキルがあるので、羽を使えば空を飛ぶのにMPは掛からないんです」
「おぉ、良いね。でも、【浮遊】は対象外かぁ……私も羽があればなぁ」
「多分、【飛翔】は【吸血】で獲らないと手に入りませんよ?」
「よし。諦めた」

 決断の早いソルさんであった。【吸血】は、相変わらず人気のないスキルみたいだ。こんなに良いスキルなのに。味と匂いさえなければ。
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