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高く光へ昇り深く闇へ沈む吸血少女

謎の壁

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 ラングさんの店に入ると、すぐに裏からラングさんが出て来た。扉にベルが鳴ったからかな。

「おう、嬢ちゃん」
「こんばんは。メッセージで急な変更を頼んじゃってすみません」
「気にすんな。客の要望に答えるのも、俺らの仕事だからな。それじゃあ、こいつが新しい双血剣だ」

 ラングさんが双血剣をカウンターに乗せる。

────────────────────

双血剣『白百合』:【攻撃力超上昇】【MP吸収++】【形状変化(血液)】【属性付加(光)】【浄化】【退魔】【修復】【共鳴】

双血剣『黒百合』:【攻撃力超上昇】【状態異常確率超上昇(出血)】【形状変化(血液)】【属性付加(闇)】【侵食】【退魔】【修復】【共鳴】

────────────────────

 追加効果が色々と変わっていた。【HP吸収】【竜鱗】【焔血】【霊気】が消え、【属性付加(光)】【浄化】【属性付加(闇)】【侵食】が追加された。後は、追加効果が強化されたのと黒百合に【退魔】が付けられていた。

「【退魔】を二本とも付けておいたから、両方とも魔法対策が出来るだろう。【MP吸収】は強化して付けておいた。そして、【属性付加】だが、それぞれ光と闇の属性が攻撃に追加されると考えてくれ。【浄化】は、霊体への特効と闇属性への特効。【侵食】は、打ち合った武具の耐久値を減らし、光属性への特効だ」
「【浄化】と【侵食】は、何か属性が付いていたりしますか?」
「ああ、それぞれ光属性と闇属性に該当するはずだ。【天使】と【悪魔】の範囲にも入ると思うぞ」
「なるほど」

 ラングさんに、【天使】と【悪魔】について話したので、それに合うように追加効果を調整してくれた。

「【竜鱗】も外したから、今までより状態異常にしにくくなる。そこは気を付けてくれ」
「はい。ありがとうございます」
「それじゃあ、隠密双刀の方も追加効果を強化するか?」
「じゃあ、お願いします」

 受け取った双血剣を【血液収納】に仕舞い、今度は隠密双刀の方を預ける。

「こっちは属性強化をしない形で良いか?」
「はい。お願いします」

 隠密双刀を任せて、ラングさんの店を後にする。

「さてと、ギルドエリアに戻るか……いや、バレータウンを調べる方が先かな。夜更かしし過ぎるのもあれだし」

 ファーストタウンからバレータウンに転移する。バレータウンは、谷に出来た街で中央から分断するように川が流れている。その中央にある広場に転移してきた。この広場は、川の上十メートルくらいの高さに建設されている。そして、建物は山の斜面に並んでいた。広場は、その建物がある山と山を繋ぐ中継地点を担っている。

「さてと、適当に調べるか」

 【霊峰霊視】に反応するような何かがあったら、クエストの起点になる可能性が高いので、それを見つけても良いかな。新しいスキルを手に入れるきっかけになるかもしれないし。まぁ、クエストを受けすぎても、管理が大変なのだけど。
 取り敢えず、この街にあるお店を調べて行った。やっぱり、基本的にはプレイヤーメイドに及ばない性能しかない。薬に関しても、頭痛薬とかも今は要らないし、特に必要なものはなかった。

「何だかんだで、アカリがいるから、ほとんどのものが要らないんだよね。うちには畑もあるし」

 結局、やることは、【霊峰霊視】で見つけられるもの探しになる。後は、本とかがあれば嬉しいってところかな。

「あっ、魔導大図書館の試験も受けないと。調べられる範囲も広げたいし。もしかしたら、【天使】や【悪魔】の本もあるかもしれないし」

 魔導大図書館にもあまり行けてないから、色々としたい事が溜まっている。どこかしらのタイミングで、籠もりたいとは思っている。
 そのままバレータウンの探索を進めていく。すると、【霊峰霊視】で一枚の紙を見つけた。

「おっ……物語だ……」

 『物語は天下の回りもの』の一部だろう。一体いつになったらクリア出来るのか分からないクエストなので、ちょっと嬉しい。

『連なる山々。その頂きに聖なる祭壇有り。守護天使よりの授かり物を捧げ、天よりの使いが降りん。清き心持ちし者、使いの導きを受けるだろう』

 今回の物語は、かなり短かった。それに、既にやった事だから、全く意味の無い物語だった。

「【天使】の収得方法についての物語か……【悪魔】に関しては、あの神殿の中で【霊視】か【霊峰霊視】を使えば分かるから、何もヒントがないわけじゃないんだなぁ。でも、せめて、もう少し長い物語が良かったな。【天使】のその先を知りたいし」

 この他に【霊峰霊視】で見つかるものはなかった。強いていえば、あの大聖堂がある山の上で、雲に混じって青い靄が見えたくらいだ。

「何だろう?」

 ちょっと気になったので、空を飛んで靄の方に向かった。途中でレッサーワイバーンに襲われるけど、双血剣で倒していく。

「攻撃力が上がってる。新しい追加効果は、まだよく分からないかな。属性系は、やっぱりその属性に弱い相手とかじゃないと分かりにくいのかな。まぁ、単純な攻撃力が上がるのが一番嬉しかったりもするけど」

 双血剣を色々な武器に変えて、次々にレッサーワイバーンを倒し、大聖堂の前に辿り着いた。

「靄は……まだ上?」

 大聖堂まで来たけど、青い靄は、まだまだ上の方にあった。そのまま空に向かって飛ぶ。すると、雲を突き抜けた更に先に青い靄がある。まだ【霊峰霊視】で固める事は出来ない。もしかしたら、固めるものではないのかもしれない。
 どんどんと高度を上げていく。一向に靄の元に辿り着かない。そして、とある地点で急に透明の壁にぶつかった。

「うぶっ……!? 何この壁? 高度限界?」

 軽く叩くけど、変な音がするくらいで、壊れそうな雰囲気はない。【武闘気】で、思いっきり闘気を脚に溜めて蹴る。大きな銅鑼を鳴らすような音がしたけど、透明の壁が壊れる事はなかった。

「違うか……何だろう? 速度かな?」

 今度は、少し距離を取ってから【飛翔】で加速しながら突っ込む。今度は、銅鑼のような音ではなくゴムの膜に捕らえられた。そのまま突き抜けられる事はなく、ゴムが元に戻るように弾かれた。

「うわっ……!? 駄目かぁ。でも、考え方はこっちの方が正しいみたい。必要なのは、速度か……てか、ここを突き抜けた先に何があるんだろう? 宇宙だったら笑っちゃうかも」

 このゲーム内で考えれば、天界とか天国とかになるけど、急に現実的になって宇宙に出ましたってなる可能性もなくはない。仮に宇宙だったら、外に出た瞬間死にそうだけど。

「まぁ、この先は、今以上の速度を手に入れたら行く事にしよっと」

 この後は、どこかの探索に行っても中途半端で終わると思うので、ギルドエリアに帰る事にした。途中でレッサーワイバーンが襲ってくるけど、【飛翔】で千切った。
 ギルドエリアに転移すると、アク姉達の屋敷からアク姉が出て来た。

「あっ、ハクちゃん、おかえり」
「ただいま」

 アク姉は、私を見つけると、すぐに駆け寄ってきて抱えてきた。そのままアク姉達の屋敷前にあるベンチに座る。今日は、アク姉の膝に座る事なく、膝枕をされる事になった。私としては、どちらでも変わらないのでどっちでも良いのだけど。
 視界の半分以上が埋まって空が見えないどころかアク姉の顔も見えないけど、まぁ、いいや。

「知ってる? 最近、空を飛ぶプレイヤーが出たらしいよ。悪魔みたいな羽なんだってさ」
「私?」

 自分を指さして訊くと、アク姉は首を横に振った。

「違う違う。男の人だからね。つまり、ハクちゃんの他に【悪魔】と【悪魔翼】を持っている人がいるってわけ」
「なん……いや、そうか。元々生贄で冥界の炎が完成していたのかな。だから、一番初めに辿り着いた人は【悪魔】を入手する条件を満たしたって感じ?」
「だね。でも、空を飛ぶ時間が限られているから、自由とはいかないみたいだね」
「まぁ、普通のプレイヤーはそうかもね」
「じゃあ、普通じゃないプレイヤーのハクちゃんは?」

 【始祖の吸血鬼】を持っている時点で、私は普通のプレイヤー判定は受けないと自覚している。実際、ここ最近SP無しでスキルを手に入れすぎていると思うくらいだし。

「【飛翔】のスキルで、MP消費無しで空を飛べるよ」
「へぇ~、普通の人が聞いたら、チートって言われそう」
「じゃあ、血を吸えって話だよ」
「血か……ハクちゃんを見ていたら、利点があるのは分かるんだけどなぁ……」

 色々な話を聞いているアク姉は、やっぱり忌避してしまうみたい。エグいご飯を作るアク姉だけど、別にそれが好きなわけじゃないから、好き好んで不味いものを口に含みたいとは思わないみたい。てか、多分誰でも同じ考えだと思う。
 楽しむための場所で苦行を味わうっていうのは、避けたいと思うものだし。

「ふん~……そろそろ寝る……」
「まぁ、もうすぐ日付変わりそうだもんね。おやすみ」
「おやすみ」

 ちょっと眠い気がしたので、ここでログアウトして寝る事にした。アク姉と話していたから、一気に気が抜けたのかもしれない。
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