吸血少女ののんびり気ままなゲームライフ

月輪林檎

文字の大きさ
上 下
194 / 529
高く光へ昇り深く闇へ沈む吸血少女

黄昏の始祖の血瓶

しおりを挟む
「ついでに、血瓶も飲んじゃお」

 飲まないという選択はないので、すぐにアイテム欄から出す。そして、黄昏の始祖の血瓶の蓋を開けて、中身を飲んだ。すると、じわじわと身体が熱くなるような感覚がしてくる。

「大丈夫?」
「うん。今回は、全然平気。内側からぽかぽかって温まる感じ」
「温かいものを飲んだみたいな?」
「う~ん、似たような感じかな。身体に馴染むみたいな感じもする」
「始祖って、吸血鬼の始祖なのかもね」
「そうなのかな?」

 そんな話をしていると、目の前にウィンドウが現れる。

『条件を満たしたため、【真祖】の進化が可能になりました。(条件:昼の時間帯に【真祖】を使用して、三千体以上のモンスターを倒す。【真祖】のみで、千体のモンスターを倒す。昼の時間帯に【真祖】で、ボスモンスター二十体のトドメを刺す。始祖の血を口にする)』

 三千体も倒したかなって思ったけど、色々なモンスターのスキルを獲得しにいったり、雪原エリアでレベル上げをする際に、血を吸ったりと、色々とやっていた事を思い出した。三千に届く可能性は十分にある。てか、最後の条件だけ厳しいと思う。どこで手に入るかも分からないし。でも、それだけの強さはあるのかな。
 進化する先は、【始祖の吸血鬼】という名前だった。

────────────────────────

【始祖の吸血鬼】:血を吸う事でHPとMPを回復し、五割の確率でスキルを獲得が出来る。獲得出来るスキルは、血を吸う相手が持っているスキルに限られ、一体につきランダムで一つのみ。太陽光によるステータスダウンがなくなり、夜の時間帯において、ステータスが三割上がる。

────────────────────────

 えげつないスキルだ。何がえげつないって、スキルの獲得確率が五割になっている事だ。獲得出来るか出来ないかが半分半分になっているというのは、これまでの苦労を考えると本当に大きな事だった。
 さらに、太陽光によるステータスダウンがなくなるだけでなく、夜間のステータスアップが三割になっている。主に夜に活動するイメージが強い吸血鬼ならではの特徴かな。正直、かなりの壊れスキルになっていると思う。まぁ、大分進化を重ねたスキルだし、このくらいの恩恵を得られてもおかしくないのかな。

「どうだった?」
「ふふん。昼のステースダウンがなくなるみたい。これは、即行進化!」

 【真祖】から【始祖の吸血鬼】に進化させる。すると、さっきまであった倦怠感が一気に消えた。身体が軽くなった感じがするし、元気が漲ってくる。まぁ、ただ通常状態に戻っただけなのだけど。

「ふぅ、絶好調!」
「良かったね。これからは、昼間でも、モンスターに手こずる事が減るかもね」
「ね。砂漠でも、普通に戦えるのは、普通に嬉しい。でも、これって本来はどこで手に入るものだったんだろう?」
「黄昏の始祖だっけ? そんなモンスターがいるっていうのは、聞いた事ないかな。エンカウントボスの情報でも無かったし。多分、古城エリアとかかな? 何か古い大きな場所に住んでそうだし」

 確かに、吸血鬼には不老のイメージがあるし、ボロボロの屋敷とか城に住んでいるイメージはある。そう考えると、古城エリアで黄昏の始祖がいる可能性はある。
 アク姉と話していると、どこかから転移してきたアカリがやって来た。

「あっ、ハクちゃん、アクアさん、こんにちは」
「こんにちは、アカリちゃん」
「店の方は良いの?」
「うん。注文も補充も終わってるから。何の話してたの?」

 アカリは、私の隣に座る。私は、ここまでアク姉と話した内容をアカリに伝える。アカリの表情は、コロコロと変わっていて面白かった。

「うわぁ……凄い事になってたね。そのアイテム見せて」
「はい」

 アカリに守護天使の羽根と冥界の炎を渡す。

「アカリちゃんなら分かるの?」
「追加効果とかが分かるんじゃない?」
「ふっふっふ、それだけじゃないですよ。【鑑定】のスキルを取ったので、色々と詳しく分かるようになっているんです」

 得意げな顔でそう言ったアカリは、守護天使の羽根と冥界の炎を見て、目をぱちくりとさせていた。

「どうだった?」
「全然分からない。相当レアなアイテムだね。そもそも追加効果もないし」
「ないの?」
「うん。全然ない。ただのアイテムみたい。特別なクエストを受けるためのアイテムかもよ」
「なるほど。補填としては、良いものかもね。名前的にも、ハクちゃんのスキルに関するクエストかもしれないし。後は、進化に使えたりね」

 クエストを受けるために必要なアイテムって言われると、そんな感じもしてくる。もしかしたら、スキルを進化させるためのものって線も確かにあるけど。

「そういえば、ハクちゃんは海エリアの攻略は終わったの?」
「ううん。まだ海の中を調べられてないから、そこを調べたいって感じ。そうだ。アク姉、海の中って、どうやって攻略した?」

 アカリから海エリアの事を訊かれて、アク姉に訊いてみようと思っていた事を思い出した。

「船の上から攻撃してるよ。何度か海の中での戦闘もしたけど、船の上での戦闘が一番安定しているかな。ただ、ちゃんと調べられていないのは、心残りかな」
「じゃあ、水着チャンス!」
「あっ、それ駄目」

 アカリの言葉に、アク姉が即座に手を交差させて×印を作っていた。

「何で?」
「まぁ、海だから水着を着たいっていうのは分かるんだけどねぇ。ちょっと前にトラブルがあったんだよ。そこまで際どい水着は着る事が出来ないようになってるんだけど、それでもトラブルがあったから、海エリアで水着は駄目。でも、シャワールームとかだったら、湯浴み着とかから着替えられるから、そこでなら良いよ」
「じゃあ、温泉でもOKだね」
「温泉なんてあったっけ? 見た事ないけど」

 アク姉が見たこと無いって事は、あまり温泉はないのかな。師匠のところにはあったけど。

「まぁ、隠れ里にあったけど、師匠が入れてくれるかは別だと思うから、どうなんだろう。ギルドエリアの中に作れたりしない?」
「えっと……一応出来なくはないけど、海を作るのは、結構お金が掛かるみたい。五千万くらい」
「う~ん……屋敷の部屋をお風呂にするのは?」
「そっちは、海に比べると安いね。一千万くらい」
「じゃあ、水着は、それを作ってからにしよう。アカリが作ってくれた水着も気になるし」
「じゃあ、作るね」

 アカリは、すぐにメニューを操作して屋敷にお風呂を作った。行動が速すぎる。

「あっ、メイティ達も来たみたい。私は、もう行くね。良い? 海で水着は駄目。これだけは守る事」
「「は~い」」

 メイティさん達がログインしたようで、アク姉とは、ここでお別れになった。アカリと一緒に手を振って、アク姉を見送る。

「よし! 完成!」

 アク姉を見送って一分後にアカリがそう言って立ち上がった。どうやら、お風呂の用意が出来たらしい。取り敢えず、アカリに五百万G払っておく。こうして、再び貧乏になったのだった。まぁ、それは良いとして、アカリに引っ張られて屋敷に入っていく。
 そして、使われていない部屋の中に入ると、即座に湯浴み着に切り替わった。まだ脱衣所みたいな場所なのだけど、お風呂判定になっているみたいだ。ここで服を脱いで入る事を考えると、こっちの方が自然なのかもしれない。

「これがハクちゃんの水着ね」
「ん。ありがとう」

 アカリから受け取った水着を装備しようとすると、メッセージが出て、この水着を湯浴み着として扱うかと訊かれた。取り敢えず、YESを押して入れ替えると、湯浴み着から水着に切り替わった。私の水着は、黒のビキニになっていて、腰にはパレオが巻かれている。白い刺繍で蝙蝠が縫われている。パレオとかにも蝙蝠がところどころに縫われていて、結構シンプルで可愛い。
 アカリの水着は、私と色違いの白いビキニとパレオで青い花の刺繍がされている。

「ちょっとシンプルにし過ぎちゃったかな? フリルがあっても良かったかも。でも、ビキニは正解だったかな。子供っぽさがなくなって、ハクちゃんの良さが際立ってる。白い髪だから黒にしたけど、青とかでも良かったかな」
「はいはい。そういうのは良いから、お風呂の方に行こ」

 こういう時は長くなってしまうから、アカリの背中を押して中に入る。中は、お風呂とは名ばかりで、銭湯のような感じの場所だった。しっかりと頭などを洗う場所も付いている。別に身体を洗う必要はないのだけど、気分的にサッと身体を流していく。

「洗ってあげようか?」
「私は子供か。そういえば、昔、かー姉とみず姉と一緒に銭湯に行って、みず姉に洗われてたっけ」
「私は、火蓮さんに洗って貰ってた」
「まぁ、みず姉が毎回私を独り占めにしてたしね。翼さんが呆れてた」

 翼さんは、ゲルダさんの現実での名前だ。まだ家にかー姉がいた頃に、何度か翼さんとも銭湯とかに行っている。ほとんど保護者の代わりだったけど。
 そんな昔話をしながら、今度は湯船の方に移動する。結構熱めのお湯で、身体がじんじんとしてくる。アカリも私の隣に入って深く息を吐いていた。

「ふぅ……いい湯」
「ね。普段のお風呂よりも熱めに設定しておいたから、本当に銭湯気分だね」

 この温度は、アカリの設定だったみたい。お風呂って考えると熱いけど、銭湯って考えると丁度良い感じがする。不思議だ。

「でも、水着で銭湯って、どうなんだろう?」
「まぁ、変な感じだよね。でも、水着で温泉に入る施設に行かなかったっけ?」
「あ~……あれもかー姉達と行ったやつだっけ。改めて思うけど、かー姉と翼さんって、凄く面倒を見てくれてたよね」
「ね。水波さん達も一緒に遊んでくれたけど、保護者感は、火蓮さん達の方が強かったね」

 本当に昔の事を思い出すと、今以上にかー姉と翼さんの保護者っぷりは凄かった。私とアカリの前に、みず姉達がいたからっていうのもあるのかな。

「そういえば、十日くらいからかー姉とみず姉が帰ってくるみたいだけど、アカリはどうする?」
「いつも通り、何もないだろうから、私もお邪魔しようかな」
「じゃあ、お母さんに伝えとく」
「うん」

 せっかく広い湯船なのに、アカリは真横から移動はしなかった。肩が触れあうくらいの距離だから、勿体ないと感じるけど、私も嫌とは思わない。

「そういえば、師匠さんのところに温泉があるんだっけ?」
「そうそう。師匠に生気吸われながら入ったけど、良い温泉だったよ」
「それって、師匠さんと一緒に入ったって事?」
「そりゃあね。アク姉と一緒に入っているもんだよ。ちょっとどころじゃない違いはあるけど」
「ふ~ん……」

 急にお湯の温度が下がったような感じがした。アカリが、若干不機嫌になったみたいだ。何が駄目だったのか。師匠と一緒に入っていた事かな。別に、そこまで気にするような事でもないと思うけど。

「ハクちゃんは、今日はこれからどうするの?」
「夕飯も近いし、一旦ログアウトして、諸々終わらせてからスキルの確認かな」
「じゃあ、二十一時くらいにアカリエに来て。血姫の装具の強化が終わったから」
「了解」

 アカリとゆっくりお風呂を楽しんでから、ログアウトした。やっぱり、こういうゆっくりとした時間も楽しいな。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最前線攻略に疲れた俺は、新作VRMMOを最弱職業で楽しむことにした

水の入ったペットボトル
SF
 これまであらゆるMMOを最前線攻略してきたが、もう俺(大川優磨)はこの遊び方に満足してしまった。いや、もう楽しいとすら思えない。 ゲームは楽しむためにするものだと思い出した俺は、新作VRMMOを最弱職業『テイマー』で始めることに。 βテストでは最弱職業だと言われていたテイマーだが、主人公の活躍によって評価が上がっていく?  そんな周りの評価など関係なしに、今日も主人公は楽しむことに全力を出す。  この作品は「カクヨム」様、「小説家になろう」様にも掲載しています。

VRおじいちゃん ~ひろしの大冒険~

オイシイオコメ
SF
 75歳のおじいさん「ひろし」は思いもよらず、人気VRゲームの世界に足を踏み入れた。おすすめされた種族や職業はまったく理解できず「無職」を選び、さらに操作ミスで物理攻撃力に全振りしたおじいさんはVR世界で出会った仲間たちと大冒険を繰り広げる。  この作品は、小説家になろう様とカクヨム様に2021年執筆した「VRおじいちゃん」と「VRおばあちゃん」を統合した作品です。  前作品は同僚や友人の意見も取り入れて書いておりましたが、今回は自分の意向のみで修正させていただいたリニューアル作品です。  (小説中のダッシュ表記につきまして)  作品公開時、一部のスマートフォンで文字化けするとのご報告を頂き、ダッシュ2本のかわりに「ー」を使用しております。

【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。

VRゲームでも身体は動かしたくない。

姫野 佑
SF
多種多様な武器やスキル、様々な【称号】が存在するが職業という概念が存在しない<Imperial Of Egg>。 古き良きPCゲームとして稼働していた<Imperial Of Egg>もいよいよ完全没入型VRMMO化されることになった。 身体をなるべく動かしたくないと考えている岡田智恵理は<Imperial Of Egg>がVRゲームになるという発表を聞いて気落ちしていた。 しかしゲーム内の親友との会話で落ち着きを取り戻し、<Imperial Of Egg>にログインする。 当作品は小説家になろう様で連載しております。 章が完結次第、一日一話投稿致します。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

家の庭にレアドロップダンジョンが生えた~神話級のアイテムを使って普通のダンジョンで無双します~

芦屋貴緒
ファンタジー
売れないイラストレーターである里見司(さとみつかさ)の家にダンジョンが生えた。 駆除業者も呼ぶことができない金欠ぶりに「ダンジョンで手に入れたものを売ればいいのでは?」と考え潜り始める。 だがそのダンジョンで手に入るアイテムは全て他人に譲渡できないものだったのだ。 彼が財宝を鑑定すると驚愕の事実が判明する。 経験値も金にもならないこのダンジョン。 しかし手に入るものは全て高ランクのダンジョンでも入手困難なレアアイテムばかり。 ――じゃあ、アイテムの力で強くなって普通のダンジョンで稼げばよくない?

ビースト・オンライン 〜追憶の道しるべ。操作ミスで兎になった俺は、仲間の記憶を辿り世界を紐解く〜

八ッ坂千鶴
SF
 普通の高校生の少年は高熱と酷い風邪に悩まされていた。くしゃみが止まらず学校にも行けないまま1週間。そんな彼を心配して、母親はとあるゲームを差し出す。  そして、そのゲームはやがて彼を大事件に巻き込んでいく……! ※感想は私のXのDMか小説家になろうの感想欄にお願いします。小説家になろうの感想は非ログインユーザーでも記入可能です。

処理中です...