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真冬と真夏の吸血少女

地下書庫の書物

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 ファーストタウンに転移した私は、図書館の裏に来た。そして、そこに設置されている物置の中に入って、地下書庫への扉の鍵を開ける。

「ここに来るのも久しぶりだなぁ。何か情報があると良いんだけど」

 近くにある本棚から適当に本を抜き取って、中身を見る。書いてある文字は、手書きに見える。普通の本は、文字にブレとかがないけど、この本には、そのブレがある。まるで、さっき見ていた資料みたいな感じだ。

「…………字が汚い」

 何とか読もうと思っても、全然読めない。さっきの黒塗りの方が読みやすいってどうなのだろうか。

「何だろう? 手記か何かかな。写本があれば良いのに」

 読めない本は置いておいて、適当に本を読んでいく。

「これは……銃かな。雨男が使っていたショットガンみたいなのもある。形はちょっと違うけど。雨男のやつはカスタマイズされているみたいな感じかな。てか、どこで作ってるんだろう? ラングさんでも作れないのかな? まぁ、そもそもスキルがないから、作るってならないか。そもそも鍛冶で作れるのかも分からないし」

 アカリが読めば、製造方法と作るためのスキルが手に入るかもしれない。一応、【鍛冶】も持っている事だし。
 そこから読んでいくと、ほとんどが機械に関するような本ばかりだった。工学系の論文もいくつかある。全く理解出来ないけど、何かのスキルを収得出来る鍵になっているかもしれないから、一冊一冊読んでいく。

「割と現実にある機械の情報がある。やっぱり世界観的には、科学と魔法の世界なんだろうなぁ。ん? これは機械じゃない……『闇の因子』?」

 シンプルな題名の本だけど、私は気になって仕方がなかった。その理由は、どう考えても私に関係するからだ。【吸血】【吸血鬼】【真祖】には、この闇の因子が含まれている。これは、師範が言っていた事から確かだと分かる。

『闇の因子は、闇を司る眷属に流れる力の一種である。対となる存在として、光の因子が存在し、互いに互いを破壊する。しかし、この際に互いの因子は、互いへの耐性も獲得していく。一方的に攻撃するための防衛と考えられている。ただ、この耐性が、それぞれの因子を変えるきっかけとなり、互いが互いを取り込み融合していく。この融合現象は、それぞれの因子が上位のものに進化した際に起こり得る現象である。そうして、融合した因子は魔聖因子と呼ばれ、互いの属性への完全な耐性を得る。しかし、魔法による攻撃などを無効化する訳では無く、あくまでも因子同士の耐性に留まる。闇の因子を持つスキルには、【吸血鬼】【真祖】【悪魔】【鬼】【鬼王】【鬼気】【死霊術】【閻王】【冥王】【魔血】【魔気】などがある。』

 簡単にまとめるとそう書いてあった。色々と凄いスキルがあったけど、そもそも収得条件が分からない。そこまではまとめられていなかった。

「【聖気】と逆のスキルが、【魔気】って感じかな。これを同時に取る事が出来れば、もっと早く耐性を付けられるのかな。まぁ、でも、【聖気】自体が、偶々手に入れたものだし、【魔気】をすぐに得るのは厳しいかも……って事は、耐えるしかないか。耐性は得られるって分かったし、頑張ろう」

 【聖気】に対する耐性が、どのくらいで獲得出来るのかは不明だけど、絶対に耐性を得られるとなれば、ちょっと安心する。

「光の因子の本は……あった。【聖気】【聖人】【聖血】【聖王】【天使】【大天使】【権天使】【能天使】【力天使】【主天使】【座天使】【智天使】【熾天使】など。天使多過ぎじゃない? 闇の因子をもう少し優遇してくれてもいいと思うんだけど。まぁ、どっちもなどって付いてるから、これ以上にあるかもだけど」

 この他の情報で、エルフは、精霊と繋がる種族なので、その身体には光の因子が少しだけ流れているらしい。この事から、精霊にも光の因子があると予想出来る。

「これだけ見ると、エルフが優遇されているって感じがするけど、肝心の精霊って、どこにいるんだろう? もしかして、私達が選んでいる種族的なものって、これから進化する可能性もあったりして。まぁ、ないか」

 そんな独り言を言いながら、他の本も見ていく。大体の本は機械関係だけど、段々と私の知っている範囲を飛び出していった。セキュリティ用のシステムや仕組みなんて、全然分からないよ。
 ただ、ここに書かれているという事は、これから先に似たような機械と遭遇するという事のはず。

「ん? 地下道の隠し部屋は? いや、あれは、結構アナログか」

 あの部屋は、鍵を使ったものだったので、ここに書かれているようなシステムとかを使ったものではない。だから、私もまだ出会っていないはずだ。
 次々に読み進めていると、さっきの因子の本と同じように、機械が関係ない本が見つかった。最初に読んだ手記みたいな感じだ。ただ、最初のと違って、ちゃんと読める文字だった。

「何かの記録?」

 何か情報があると良いと思いながら、ページを捲っていく。

『こんな役割を引き受けないといけないなんて……だが、弱みを握られている以上、拒否権はない。一体、いつから、こんな人道に反した事をするようになったんだ。この領主……いや、街の上層部全体が腐っている。それに対抗出来ず、こうして片棒を担いでいる私も同じだ。子供達に顔向け出来ない』
『今日も罪人を砂漠へと輸送する。だが、一人の罪人が脱走を図った。入り組んだ地下道ならと考えたのだろう。だが、この地下道の監視システムは、隅々まで把握出来る。すぐに罪人は捕まり、鞭打ちされた。いや、鞭打ちした。人の身体を鞭で打つのも慣れてきてしまった。一回打つ度に、自分の心が壊れていくのを感じる。いや、本当に壊れているのだろうか。これが、私の本性だったのではないか。そう思ってしまう。こんな姿……家族には見せられない』
『もう無理だ。あの街に財宝なんて残っているのか。そんなものどこにあるというんだ。ただ滅んだ都市じゃないか。あるのは、金のコインが何枚か。それを財宝だと喜んでいるあれは何なんだ。そのために、罪人を何人も送って、死なせて、また送って、死なせて……食費が掛からない労働力だと。ふざけるな。罪人も同じ命を持っているだろ。これでは、私達も罪人と同じような存在ではないか。最も罪深いのは、私達だ』
『等価の命などない。私達は上、あれは下。あれが死んでも、誰も困らない。寧ろ喜ぶじゃないか。だって、罪人が減るのだから』
『私は何を書いていたんだ。もう精神が参っている。辞めたい。だが、家族の命を握られている。やるしかない。私の精神が壊れるくらいなんだ。あの子達を、妻を守れるなら、それで良いじゃないか』
『お前が死ね』
『今日も一人殺した。もう何も感じない。まるで、ただ虫を殺しただけ。そんな感じだ』
『死にたい』
『家族を置いてはいけない。家族を守らねば』
『失うものは、もうない。なら、やることは一つだ。幸いな事に、同志は多い。全てを終わらせる』
『今日決行する。これは、ここに置いておく。成功しても失敗しても、取りに来る事はないだろう。過去を置き、未来へと進む。これは、私とこの街の新たなる一歩だ』

 そこから先は、全部白紙だった。日付が書いていないから分からないけど、毎日付けているようなものじゃないと思う。それに、ところどころ書き殴ったように書かれている点から、筆者の怒りも感じる。

「これは……ファーストタウンの成り立ち? そういえば、このゲームの街って、統治機構的なものがない気がする。まぁ、そもそも国ですらないからない方が正解なのかな」

 若干胸糞な部分もあったけど、私にとって重要な情報が一つ紛れていた。

「コインは、砂漠の都市にある。本当に全部クエストが、砂漠を指してる。一体何があるんだろう?」

 色々と疑問が頭を過ぎる中、急に身体から力が抜けた。

「!?」

 一体何がって思ったのと同時に、自然とHPに目が行く。

「あっ、馬鹿した」

 HPは、完全になくなっていた。ログインしてから、一度も血を飲んでいない。HPを回復していないまま、調べものに夢中になった結果がこれだ。

「ふざけんな、運営」

 因子要素なんてものをゲームに織り込んだ運営に悪態をつきながら、私は倒れた。取り敢えず、キリが良いと言えなくもないので、一旦ログアウトする事にした。
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