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真冬と真夏の吸血少女
白く染まった宝
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魔法都市に来た私は、まっすぐに魔導大図書館に向かう。相変わらずムキムキマッチョな受付の前を通り過ぎてから、ちょっと聞きたい事を思い付いたので、受付に戻る。
「すみません。一つ聞きたい事があるんですが」
「何でしょうか?」
「ここにある本って、買えたりしますか?」
「原本は不可能ですが、写本でしたら可能です。一冊十万Gになりますが」
「おぅ……」
ここで購入して、ギルドエリアに置いておくのも有りかなと思ったけど、意外と高くて変な声が出た。ただでさえ、ギルドエリアの借金などもあるのに、十万で一冊買うのはキツいかもしれない。
「分かりました。ありがとうございます」
「いえ、何か御用があれば、また声を掛けてください」
「はい」
聞きたい事も聞けたので、第一エリアに入る。まだ試験は受けてないので、ここまでしか行けない。
「さてと、まずは、拾った紙の方から調べてみよう」
【言語学】【現代言語学】【古代言語学】を装備して、席に座り紙を取り出す。
「おっ……ちょっと読める。でも、ほとんど読めないから、どのみちかな。しばらく見ていれば、レベルが上がるだろうし」
そのままレベルが上がる毎に、少しずつ読める場所が増えていく。
────────────────────────
ファーストタウンで見つけた紙
『時を知らせる鐘は鳴り響く。それは、変わらない光景。誰もが鐘の音に従って生活していた。しかし、その音は突如止まる。鐘の不調。それは、人々の生活を一変させる。リズムは乱れ、それぞれのリズムが生まれる。朝に活動する者。昼に活動する者。夜に活動する者。それぞれのリズムが、それぞれを害する。この不和は、争いを生み、街が火に包まれた。争いは、新たな時の刻み手が生まれるまで続く。無益で無残な争いを人々は残った鐘に刻んだ』
ウェットタウンで見つけた紙
『泉の中に少女が一人。その表情に苦しみはなく、ただただ無感情に沈む。辺には、祈りを捧げる者達。その祈りは空に届き、雨を降らせる。歓喜の声は、次第に曇り始める。雨は止むこと無く降り続け、街を飲み込む。それは、少女の怒りではない。神の怒り。求めぬ生贄に、神は怒り続けた。怒りに触れた者達は、全て雨に飲み込まれた。そして、神の慈悲を受けた少女は、決して消えぬ泉となり、神の力を得る』
スノータウンで見つけた紙
『白く染まる世界。その中で真紅が彩る場所があった。噎せ返るような鉄の匂い。滴る刀を握る手が震える。恐怖からではない。寒さからでもない。何故なら、私の口が弧を描いていたからだ。これは歓喜。ついに、宿願を果たしたのだ。だが、この充足感の中にあるぽっかり空いた穴は何だ。私には、もう何も無い。生きる理由も何もかも。いや、私のこの技術を伝えなければならない。それを、あの人も望んでいるのだから。私は、今一度眠りにつこう。私を起こす者が現れる事を祈りながら』
────────────────────────
それぞれ物語の方向性が違う。ただ、読んでも何も進まない事から、読むだけでは駄目という事が分かる。でも、ここからヒントを得られるはずだ。
「鐘、泉は、まだ分かる。でも、最後のやつがなぁ……ソルさんが辿り着いた刀の隠れ里に関してだよね。隠れ里に行く事が必要って感じかな。地下ってヒントはあるけど、探すのは厳しそうかな。こっちは、これで良いとして、他の資料は……なくすのが怖いからギルドエリアで調べよう。次は、ダンジョンについて調べよう」
情報の一部は判明したので、もう一つの目的であったダンジョンについての本を読み漁る。複数の本から、情報を抽出して、信憑性の高い情報を見つけていく。
「なるほどね。書いてあるマップは信用出来ない部分が多すぎる。追加エリアって認識でいる方が良いかも。モンスターは、双頭犬……オルトロスかな。二つ首の獣が襲い掛かってきたって書かれているくらいだし。でも、それだけじゃない。普通の狼みたいなモンスターもいるのかな。この感じだとケルベロスが出て来てもおかしくないかも。犬系モンスターのダンジョンかな。犬……連携がしっかりとしてそうだなぁ……」
取り敢えず、調べられたのは『深き森の双頭犬』までだった。時間的な理由もあるけど、ファーストタウンの図書館にも行きたかったという理由もある。そこで確認したい内容があった。それは、スノータウンの旧地図だ。これと、スノータウンで拾った紙に書かれた地図を見比べ、地図の場所に行けばクエストが進むはず。
ファーストタウンに戻って、早速図書館で調べる。
「ここか……街の南側。今も、一応空き地にはなっているところみたい。これなら、調べられそう。忘れない内に、こっちも調べに行こっと」
ファーストタウンからスノータウンに移動する。そして、さっき調べた場所に向かう。地図の通り空き地になっているその場所には、特に何も無かった。霊峰の霊視鏡を使っても何も見えない。
「何もない……場所を間違えた?」
そう疑いつつも、空き地の中を調べていく。雪だるまを作る時のように雪を集めてどかしながら、調べると、マンホールを見つけた。一応、一面雪をどかしたけど、マンホールは一箇所にしかない。
「ここしか怪しい場所ってないよね。これが開くように出来ていれば、正解のはず」
マンホールの取っ手に手を掛けて、一気に持ち上げる。割と簡単に持ち上がったから、重心が後ろに行きすぎて、倒れてしまった。
「痛たた……よし、取り敢えず、道は出来た」
マンホールを持って、穴の中に入る。しっかりと蓋はしておいた。誰かが入ってきたら、怖いし。梯子を伝って下りていくと、狭い通路に出た。てっきり下水道か何かに繋がっていると思っていたけど、そうではなかったみたい。
「偽装かな」
蝙蝠を出そうとしたけど、出てこなかった。
「地下道と違って、街中判定か。じゃあ、モンスターは出ないはず」
通路は一本道になっているので、迷わずに進む事が出来る。全体的に薄暗い通路だけど、奥には明かりがある。そのまま進んでいき、通路を出る。すると、そこは小さな部屋になっていた。ファーストタウンの地下道で見たような部屋に似ている。
ただ資料が散らばっている事はなく、【霊視】で見える靄があるだけだった。靄を固めると、一枚の紙になる。それは、またどこかの地図だった。しかも、街中の地図ではない。
「うへぇ……外か……」
雪原エリアの地図と見比べて、場所を特定する。他のエリアでもそうだけど、街と違って、外の変化はかなり少ない。だから、普通にマッピングした地図からでも情報を得られる。
「ここかな」
特定した場所に向かうために、スノータウンから出る。
「そうだ。試しに、スノウを喚び出してみよ。【召喚・スノウ】」
私の前にある地面に魔法陣が出て来て、そこからスノウが飛び出してきた。
『ガァ!』
スノウは、ほぼ頭突きの勢いで頭をお腹に押し付けてくる。
「うごっ……スノウ、背中に乗せてくれる?」
スノウを受け止めつつ、お願いすると、スノウが【矮小化】を解いた。その背中に飛び乗り、空を飛ぶ。地図の場所が少し遠いのと、そろそろログアウトする時間という事もあり、さっさと移動したかったので、スノウの移動速度は助かる。
「えっと……ここら辺だね。スノウ、降りて」
『グルッ!』
返事をしたスノウが降下していく。空から見た感じ、地図の場所に何かあるという事はなかった。
「ここら辺の雪を溶かしたりするのは億劫だなぁ……スノウ、羽で雪をどかす事って出来る?」
『ガァ!』
スノウは、大きく羽を動かして突風を生じさせる。雪が捲れ上がっていき、地面が見え始める。そこに、青い靄が見えた。
「スノウ、あそこに降りて」
地面に降りて、靄を固める。すると、靄が固まっていき、物ではなく人を形成した。【感知】に反応がないので、モンスターではないと思うけど、警戒はしてしまう。
現れた人は、男性の老人だった。老人は、自分の足元を指さして消えていった。
「ここを掘れって事?」
スコップとかがあれば良かったのだけど、生憎と持っていない。
「さすがに素手はなぁ……」
【血液武装】で剣を作り、地面を掘る。
「素手よりは、効率が良いはず」
少しずつ掘っていると、それを見ていたスノウが割って入ってきて、前脚で掘り始めた。私がやるよりもかなり効率良く掘ることが出来て、三十センチ掘ったところで、何か土とは別のものが出て来た。
「石で出来ているみたいだね。スノウ、もう良いよ」
スノウに退いて貰い、上の土を払う。さすがに、そこから取り出す事は難しいので、蓋っぽいものを開ける。すると、中には本が入っていた。
「……私は、本を見つける才能しかないのかな」
毎回毎回本が出て来ると、さすがに、反応に困る。嬉しいといえば嬉しいけど、クエスト名が、『白く染まった宝』なので、何かお金になるものって思っていたから、ちょっとがっかりとはした。
本を手に取ってパラパラと捲っていくと、文字は書かれていない。ただ絵だけが描かれている。絵本と言うには、ちょっと怖い感じがする。本を仕舞って、次に見つけたのは、小さな布の袋だった。これこそ、お宝だろうと思って手に取ると、お金などとは違った感じがする。中身を見ると、そこにあったのは、種だ。アイテム名は、白炎花。全く聞き覚えのない名前なので、いまいちイメージが出来ない。
最後にあったのは、一枚の紙。
「また紙か……」
次の場所を示した地図だろうと思って、手を伸ばして紙に触れると、急に紙が光の粒になっていった。
「はぁ? うっ……!?」
光が私の身体に張り込んでくる。同時に、身体の内側から痛みが走る。この感覚は、恐らく聖属性の何かを受けたものだ。一瞬、こんなところに罠を仕掛けるのかって思ったけど、これが罠になるのは私みたいな闇に属している者だけだ。
目の前にウィンドウが出て来るけど、悠長に見ている暇はない。
HPが恐ろしい速度で減っているからだ。急いで、アイテムの血を取りだして飲む。少しでも飲むのが遅れると、どんどん減ってしまうので、絶え間なく飲み続ける。スノウが心配そうな声を出すけど、安心させている暇がない。十分くらい血を飲み続けて、ようやくHPの減りが緩やかになってきた。
何でこんな事になったのか、ログを確認する。すると、原因となったものが分かった。
「【聖気】?」
────────────────────────
【聖気】:聖なる力を纏う。控えでも効果を発揮する。
────────────────────────
私にとって最悪な相性のスキルを手に入れた。
「最悪だぁ……相性も最悪だけど、控えでも発動するのが最悪だよ……」
『グルゥ……?』
「ああ、大丈夫だよ。心配掛けてごめんね」
とにかく血で回復しながら、改めてログを見る。
『クエスト『白く染まった宝』を完了しました』
何度見ても完了したという文字が見える。
「つまり、これが宝って事ね。白く染まった宝ってよりも、白く染める宝じゃん」
HPの減りは、極微弱になった。さすがに、これ以上何かあっても困るので、スノウに乗ってスノータウンに戻り、ギルドエリアへと転移してからログアウトした。
この【聖気】も、耐性が付いて、HPが減らなくなる事を祈ろう。
「すみません。一つ聞きたい事があるんですが」
「何でしょうか?」
「ここにある本って、買えたりしますか?」
「原本は不可能ですが、写本でしたら可能です。一冊十万Gになりますが」
「おぅ……」
ここで購入して、ギルドエリアに置いておくのも有りかなと思ったけど、意外と高くて変な声が出た。ただでさえ、ギルドエリアの借金などもあるのに、十万で一冊買うのはキツいかもしれない。
「分かりました。ありがとうございます」
「いえ、何か御用があれば、また声を掛けてください」
「はい」
聞きたい事も聞けたので、第一エリアに入る。まだ試験は受けてないので、ここまでしか行けない。
「さてと、まずは、拾った紙の方から調べてみよう」
【言語学】【現代言語学】【古代言語学】を装備して、席に座り紙を取り出す。
「おっ……ちょっと読める。でも、ほとんど読めないから、どのみちかな。しばらく見ていれば、レベルが上がるだろうし」
そのままレベルが上がる毎に、少しずつ読める場所が増えていく。
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ファーストタウンで見つけた紙
『時を知らせる鐘は鳴り響く。それは、変わらない光景。誰もが鐘の音に従って生活していた。しかし、その音は突如止まる。鐘の不調。それは、人々の生活を一変させる。リズムは乱れ、それぞれのリズムが生まれる。朝に活動する者。昼に活動する者。夜に活動する者。それぞれのリズムが、それぞれを害する。この不和は、争いを生み、街が火に包まれた。争いは、新たな時の刻み手が生まれるまで続く。無益で無残な争いを人々は残った鐘に刻んだ』
ウェットタウンで見つけた紙
『泉の中に少女が一人。その表情に苦しみはなく、ただただ無感情に沈む。辺には、祈りを捧げる者達。その祈りは空に届き、雨を降らせる。歓喜の声は、次第に曇り始める。雨は止むこと無く降り続け、街を飲み込む。それは、少女の怒りではない。神の怒り。求めぬ生贄に、神は怒り続けた。怒りに触れた者達は、全て雨に飲み込まれた。そして、神の慈悲を受けた少女は、決して消えぬ泉となり、神の力を得る』
スノータウンで見つけた紙
『白く染まる世界。その中で真紅が彩る場所があった。噎せ返るような鉄の匂い。滴る刀を握る手が震える。恐怖からではない。寒さからでもない。何故なら、私の口が弧を描いていたからだ。これは歓喜。ついに、宿願を果たしたのだ。だが、この充足感の中にあるぽっかり空いた穴は何だ。私には、もう何も無い。生きる理由も何もかも。いや、私のこの技術を伝えなければならない。それを、あの人も望んでいるのだから。私は、今一度眠りにつこう。私を起こす者が現れる事を祈りながら』
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それぞれ物語の方向性が違う。ただ、読んでも何も進まない事から、読むだけでは駄目という事が分かる。でも、ここからヒントを得られるはずだ。
「鐘、泉は、まだ分かる。でも、最後のやつがなぁ……ソルさんが辿り着いた刀の隠れ里に関してだよね。隠れ里に行く事が必要って感じかな。地下ってヒントはあるけど、探すのは厳しそうかな。こっちは、これで良いとして、他の資料は……なくすのが怖いからギルドエリアで調べよう。次は、ダンジョンについて調べよう」
情報の一部は判明したので、もう一つの目的であったダンジョンについての本を読み漁る。複数の本から、情報を抽出して、信憑性の高い情報を見つけていく。
「なるほどね。書いてあるマップは信用出来ない部分が多すぎる。追加エリアって認識でいる方が良いかも。モンスターは、双頭犬……オルトロスかな。二つ首の獣が襲い掛かってきたって書かれているくらいだし。でも、それだけじゃない。普通の狼みたいなモンスターもいるのかな。この感じだとケルベロスが出て来てもおかしくないかも。犬系モンスターのダンジョンかな。犬……連携がしっかりとしてそうだなぁ……」
取り敢えず、調べられたのは『深き森の双頭犬』までだった。時間的な理由もあるけど、ファーストタウンの図書館にも行きたかったという理由もある。そこで確認したい内容があった。それは、スノータウンの旧地図だ。これと、スノータウンで拾った紙に書かれた地図を見比べ、地図の場所に行けばクエストが進むはず。
ファーストタウンに戻って、早速図書館で調べる。
「ここか……街の南側。今も、一応空き地にはなっているところみたい。これなら、調べられそう。忘れない内に、こっちも調べに行こっと」
ファーストタウンからスノータウンに移動する。そして、さっき調べた場所に向かう。地図の通り空き地になっているその場所には、特に何も無かった。霊峰の霊視鏡を使っても何も見えない。
「何もない……場所を間違えた?」
そう疑いつつも、空き地の中を調べていく。雪だるまを作る時のように雪を集めてどかしながら、調べると、マンホールを見つけた。一応、一面雪をどかしたけど、マンホールは一箇所にしかない。
「ここしか怪しい場所ってないよね。これが開くように出来ていれば、正解のはず」
マンホールの取っ手に手を掛けて、一気に持ち上げる。割と簡単に持ち上がったから、重心が後ろに行きすぎて、倒れてしまった。
「痛たた……よし、取り敢えず、道は出来た」
マンホールを持って、穴の中に入る。しっかりと蓋はしておいた。誰かが入ってきたら、怖いし。梯子を伝って下りていくと、狭い通路に出た。てっきり下水道か何かに繋がっていると思っていたけど、そうではなかったみたい。
「偽装かな」
蝙蝠を出そうとしたけど、出てこなかった。
「地下道と違って、街中判定か。じゃあ、モンスターは出ないはず」
通路は一本道になっているので、迷わずに進む事が出来る。全体的に薄暗い通路だけど、奥には明かりがある。そのまま進んでいき、通路を出る。すると、そこは小さな部屋になっていた。ファーストタウンの地下道で見たような部屋に似ている。
ただ資料が散らばっている事はなく、【霊視】で見える靄があるだけだった。靄を固めると、一枚の紙になる。それは、またどこかの地図だった。しかも、街中の地図ではない。
「うへぇ……外か……」
雪原エリアの地図と見比べて、場所を特定する。他のエリアでもそうだけど、街と違って、外の変化はかなり少ない。だから、普通にマッピングした地図からでも情報を得られる。
「ここかな」
特定した場所に向かうために、スノータウンから出る。
「そうだ。試しに、スノウを喚び出してみよ。【召喚・スノウ】」
私の前にある地面に魔法陣が出て来て、そこからスノウが飛び出してきた。
『ガァ!』
スノウは、ほぼ頭突きの勢いで頭をお腹に押し付けてくる。
「うごっ……スノウ、背中に乗せてくれる?」
スノウを受け止めつつ、お願いすると、スノウが【矮小化】を解いた。その背中に飛び乗り、空を飛ぶ。地図の場所が少し遠いのと、そろそろログアウトする時間という事もあり、さっさと移動したかったので、スノウの移動速度は助かる。
「えっと……ここら辺だね。スノウ、降りて」
『グルッ!』
返事をしたスノウが降下していく。空から見た感じ、地図の場所に何かあるという事はなかった。
「ここら辺の雪を溶かしたりするのは億劫だなぁ……スノウ、羽で雪をどかす事って出来る?」
『ガァ!』
スノウは、大きく羽を動かして突風を生じさせる。雪が捲れ上がっていき、地面が見え始める。そこに、青い靄が見えた。
「スノウ、あそこに降りて」
地面に降りて、靄を固める。すると、靄が固まっていき、物ではなく人を形成した。【感知】に反応がないので、モンスターではないと思うけど、警戒はしてしまう。
現れた人は、男性の老人だった。老人は、自分の足元を指さして消えていった。
「ここを掘れって事?」
スコップとかがあれば良かったのだけど、生憎と持っていない。
「さすがに素手はなぁ……」
【血液武装】で剣を作り、地面を掘る。
「素手よりは、効率が良いはず」
少しずつ掘っていると、それを見ていたスノウが割って入ってきて、前脚で掘り始めた。私がやるよりもかなり効率良く掘ることが出来て、三十センチ掘ったところで、何か土とは別のものが出て来た。
「石で出来ているみたいだね。スノウ、もう良いよ」
スノウに退いて貰い、上の土を払う。さすがに、そこから取り出す事は難しいので、蓋っぽいものを開ける。すると、中には本が入っていた。
「……私は、本を見つける才能しかないのかな」
毎回毎回本が出て来ると、さすがに、反応に困る。嬉しいといえば嬉しいけど、クエスト名が、『白く染まった宝』なので、何かお金になるものって思っていたから、ちょっとがっかりとはした。
本を手に取ってパラパラと捲っていくと、文字は書かれていない。ただ絵だけが描かれている。絵本と言うには、ちょっと怖い感じがする。本を仕舞って、次に見つけたのは、小さな布の袋だった。これこそ、お宝だろうと思って手に取ると、お金などとは違った感じがする。中身を見ると、そこにあったのは、種だ。アイテム名は、白炎花。全く聞き覚えのない名前なので、いまいちイメージが出来ない。
最後にあったのは、一枚の紙。
「また紙か……」
次の場所を示した地図だろうと思って、手を伸ばして紙に触れると、急に紙が光の粒になっていった。
「はぁ? うっ……!?」
光が私の身体に張り込んでくる。同時に、身体の内側から痛みが走る。この感覚は、恐らく聖属性の何かを受けたものだ。一瞬、こんなところに罠を仕掛けるのかって思ったけど、これが罠になるのは私みたいな闇に属している者だけだ。
目の前にウィンドウが出て来るけど、悠長に見ている暇はない。
HPが恐ろしい速度で減っているからだ。急いで、アイテムの血を取りだして飲む。少しでも飲むのが遅れると、どんどん減ってしまうので、絶え間なく飲み続ける。スノウが心配そうな声を出すけど、安心させている暇がない。十分くらい血を飲み続けて、ようやくHPの減りが緩やかになってきた。
何でこんな事になったのか、ログを確認する。すると、原因となったものが分かった。
「【聖気】?」
────────────────────────
【聖気】:聖なる力を纏う。控えでも効果を発揮する。
────────────────────────
私にとって最悪な相性のスキルを手に入れた。
「最悪だぁ……相性も最悪だけど、控えでも発動するのが最悪だよ……」
『グルゥ……?』
「ああ、大丈夫だよ。心配掛けてごめんね」
とにかく血で回復しながら、改めてログを見る。
『クエスト『白く染まった宝』を完了しました』
何度見ても完了したという文字が見える。
「つまり、これが宝って事ね。白く染まった宝ってよりも、白く染める宝じゃん」
HPの減りは、極微弱になった。さすがに、これ以上何かあっても困るので、スノウに乗ってスノータウンに戻り、ギルドエリアへと転移してからログアウトした。
この【聖気】も、耐性が付いて、HPが減らなくなる事を祈ろう。
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