上 下
161 / 365
真冬と真夏の吸血少女

実質一択?

しおりを挟む
 フレ姉にメッセージを送ってすぐに、返信が来た。

『取り敢えず、街には入るな。雪原の北西の端にいろ。そこなら、人はあまり来ない』

 竜をテイムしたって言ったら、こうなるのも仕方ない。フレ姉に言われた通り、北西の端でスノウと戯れながら待っていると、フレ姉とゲルダさんがやって来た。二人とも、いつもの服と違って、かなり厚着の服装になっている。

「……その竜が、雪原の氷炎竜なのかしら?」
「はい。スノウって名前です。【矮小化】ってスキルで、小さくなれるみたいで、このくらいになりました」
「まぁ、それでも、十分でけぇけどな。寒ぃが、この状況じゃ仕方ねぇ。最初から聞かせろ」

 二人にスノウをテイムするに至った経緯を話す。勿論、あの東洋竜が出て来た事も全部含めてだ。全部話し終えると、二人は難しそうな表情をしていた。

「そんな状況は、初めて聞くな。掲示板でも出回ってないだろ」
「そうね。今、検索してみたけど、その状況もクエストもないわね。そもそもEXクエストも聞いた事が無いわ」
「まぁ、クエストの事自体は、他の誰にも言わなければ広まる事もないだろ。一番の問題は、そいつだな」

 フレ姉の視線がスノウに向く。当事者であるスノウは、近づいてきていた雪熊をボッコボコに倒していた。同じ氷属性なのに、スノウの方が遙かに強い。元ボスモンスターだから、当たり前と言えば当たり前なのかな。

「ボスモンスターのテイムは珍しいよね?」
「珍しいってか、聞いた事がねぇ」
「そもそも、テイム自体確率が低いのよ。それこそ、【吸血】と同じくらいって言われているわ。ハクは、テイムの条件を知っているかしら?」

 ゲルダさんの確認に首を横に振る。突然テイム可能って出たから、テイムしただけなので、詳しい条件とかは知らない。

「一つは、モンスターに餌を与える事。一定量の餌を与えると確率でテイム出来るというものよ。もう一つは、モンスターを倒した時にポリゴンにならず残ったモンスターに対してテイムをするというものよ。それも確率で決まるわ。さっきも言ったけど、この確率は、かなり低い。ハクは、街の中でモンスターを見た事はある?」
「……ないですね」

 言われてみれば、モンスターが街の中を歩いている姿は一度も見た事がない。私がいないタイミングで、街の中に来ていたとしたら、見た事がないのも頷けるけど、そんな偶然が何度も続くとは思えない。

「私も一回しかないわ。その時は、ホワイトラビットを連れていたわね」
「ホワイトラビット……」

 スノウは、【矮小化】した状態でも、私の半分の大きさがある。いつもの平原にいるホワイトラビットの何倍もの大きさだ。

「やっぱり目立つよね」
「だな。庭付きの家が必要になる。そこにいてもらうだけなら、家が目立つだけで済むだろ。後は、ギルドエリアを手に入れるかだな」
「ギルドエリア?」

 初めて聞く言葉に首を傾げる。名前から考えるに、ギルドが関係しているのは間違いない。

「簡単に説明するなら、ギルド専用のエリアだな。既存エリアとは別エリアになっているから、ギルドメンバーしか入る事が出来ない。うちでもテイムは成功していねぇから、確かな事は言えねぇが、ギルドエリアも庭付きの家くらいにはカウントされるだろ」
「そうね。可能性はあると思うわ。問題は、ギルドエリアを作るには、ギルドを設立する必要があるのと、結構なお金が掛かるって事ね」
「具体的には、いくらぐらい……?」
「一億よ。ギルドメンバーが、ある程度いると、割と早く貯まるけど、一人じゃ難しいと思うわ」

 ボスエリアみたいに、別エリア扱いの場所でギルドエリアと呼ばれるものがあるみたいだけど、それを使うには、ギルドを作って一億貯めないといけないという長い道のりが必要みたいだ。

「普通の庭付きの家って、いくらぐらい?」
「五千万から一億だな。ファーストタウンにもあるが、空き家は見てねぇな。ファーストタウンの家は、ギルドやパーティーで買ってる可能性が高いからな。スノータウンの屋敷も有りだが、ギルドエリアよりも高ぇからな。海エリアにあるポートタウンが狙い目だな」

 ツリータウンと魔法都市が候補に挙がらなかったのは、そもそも庭付きの家がないからだと思う。探索した時に、そんなものを見た覚えもないし。

「まぁ、ボスも倒した……倒した?」
「話を聞く限り倒してはねぇな。まぁ、ある意味じゃ攻略完了ってところだろ」
「事だし、海に行くのも有りかな」
「それはそれで良いと思うが、こいつを街でどうするかが問題だろ」
「うん。連れて歩いて大丈夫かな?」

 これが本題だ。街の中でスノウを連れて歩いて大丈夫そうかどうか、一番判断出来る人がフレ姉だと思ったから呼んだ。ゲルダさんも来てくれたのは、嬉しい誤算だ。

「大丈夫かどうかで言われれば、テイムモンスターだから大丈夫だけどな。別の意味では、駄目だろうな。何か方法があれば良いんだが」
「この子は、そこまで高く飛べないのかしら?」

 ゲルダさんからそう訊かれて、スノウの方を見る。移動の時には、スノウも飛んでいたけど、それがどのくらいの高さかって訊かれると、まだ試していないので分からない。

「スノウ、おいで」

 少し離れて、右往左往していたスノウを呼び戻す。名前を呼んだら、スノウはすぐに帰ってきた。ボスモンスターの面影は、見た目にしかない。今は、可愛いドラゴンになってしまっている。

「スノウは、どこまで飛べる?」
『グル? ガァ!』

 スノウは、少し首を傾げた後に、元気に返事をして飛び上がった。そのままどんどんと高度を上げて、雲の中に突っ込んだ。

「……」
「……」
「……」

 三人揃って何も言えず、スノウの消えた雲を見ていた。

「なぁ」

 最初に口を開いたのは、フレ姉だった。

「さっきまで、あの馬鹿でけぇ竜がいたんじゃなかったか?」
「!! スノウ!」

 東洋竜は帰った後だと思うけど、雲の向こう側までは、私も見えるわけじゃない。あそこに待機している可能性もなくはなかった。
 すぐに名前を呼ぶと、雲の中からものすごい勢いでスノウが降りてきた。そして、急ブレーキを掛けながら、私の目の前に着地する。

「良かった……取り敢えず、空は安全みたい」
「そうか。取り敢えず、街中にいる時の対処法は見つかったな」
「うん。スノウ。街の近くにいる時は、空の高いところで待機。私が呼んだら、降りてくる事。約束出来る?」
『ガァ!』

 スノウは元気に頷く。ちゃんと意思疎通は出来ているから、これも理解してくれたと思うけど、ちょっと心配ではある。

「それにしても、ハクが見つけた『東方の守護者』ってのは、気になるな」
「EXだから?」
「それもあるが、クエスト名がな。東方の守護者を倒せとかになっていれば、あの竜を倒せば良いと分かるんだがな。『東方の守護者』ってだけだと予想も何も出来ねぇだろ?」
「そうだね。このゲームだと、クエストで次にどこに行くとかないもんね。これまでやってきた事がまとめられているだけだし」

 このゲームは、他のゲームと違って次の目標とかが書かれていないから、どこに行けば進むのかとかが分からない。自分で見つけろっていうのが多すぎると思うけど、それが楽しいというのもあるから、こっちはこのままにして欲しいかも。

「私達も受けたいな。【竜血】を手に入れるなら、【吸血】を取るしかねぇか」
「でも、改悪されたって聞いたけれど」
「うん。アク姉の料理よりも酷くなったよ?」
「終わりだな。他のアプローチを探すぞ」

 フレ姉が【吸血】を諦めた。こうして、【吸血】は皆から嫌厭されていくのだろう。私だって、最終的に泥とか砂も飲んでいるし、嫌がる人が多いのも理解出来る。

「そうね。ギルドでも何人か取ったけど、全員から無理って報告を受けてるわ」
「アクアの実験料理を完食出来るだけあるな」
「我慢すれば良いだけだよ?」
「我慢には限界がある」
「そうね」

 私が我慢強いだけみたいになってしまった。まぁ、それはそうかもしれないので、これ以上は何も言えない。

「まぁ、取り敢えず、ハクはどの方向で進めていくつもりなのかしら? 庭付きの家? それともギルドエリア?」
「う~ん……どちらかと言うとギルドエリアの方が魅力的なんですよね。スノウも自由に動けるかもしれませんし」
「それはそうね。広さで言えば、スノータウンの一番でかい屋敷以上はあるから」
「問題は、家が用意されているわけじゃないから、自分達で造らないといけないのよね」
「あっ、一億の他にお金が必要になるタイプ……」
「そうよ。幸いな事に、建築をしろってわけじゃないから、そこだけは有り難いけれど」

 ゲルダさんの話を聞くに、ギルドエリアは、箱庭ゲーム的な感じで物を配置して作るものなのかもしれない。ちょっと魅力的かもしれない。自分の自由に出来るのであれな、他にもテイムモンスターが出来た時に助かるかもだし。まぁ、ギルドエリアが、庭付きの家と同じ役割をしてくれるか分からないから、無駄に終わる可能性もあるけど。

「取り敢えず、庭付きの家を目標にします。ギルドエリアは、ちょっと考えてみます」
「そう。ギルドは、最低二人いないと設立出来ないから、気を付けなさい」
「……」

 ギルドエリアは諦めた方が良いかもしれない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

トロイメア・オンライン! 〜ブラコンでロリ巨乳の私は、クソザコステータス『HP極振り』と残念魔法『自爆魔法』で、最強で快眠な女子になります〜

早見羽流
SF
不眠症治療のための医療用VRデバイス『トロイメギア』を病院で処方された女子高生――小見心凪。 彼女が『トロイメギア』でプレイするのはサービス開始したばかりのフルダイブ型VRMMOの『トロイメア・オンライン』だった! よく分からずとりあえずキャラエディットで胸を盛ってしまった心凪。 無自覚のうちで編み出した戦法は、脱衣からの自爆魔法という誰も見向きもしなかったかつ凶悪千万なもの! 見た目はロリっ子、中身はハイテンションJKの心凪が、今日も元気に敵と仲間を巻き込みながら自爆するよ! 迷惑極まりないね! 心凪は果たして自爆魔法で最強になれるのか! そして不眠症は治るの? そんなに全裸になって大丈夫なの!? 超弩級のスピード感と爽快感で読者のストレスをも吹き飛ばす。ちょいエロなVRバトルコメディー! ※表紙、挿絵はリック様(Twitter→@Licloud28)に描いていただきました。

【野生の暴君が現れた!】忍者令嬢はファンタジーVRMMOで無双する【慈悲はない】《殺戮のパイルバンカー》

オモチモチモチモチモチオモチ
SF
 昔は政府の諜報機関を司っていた名家に生まれ、お嬢様として育った風間奏音(かざまかのん)はしかし、充実感の無い日常に苛立ちを覚えていた。  そんなある日、高校で再会した幼馴染に気分転換にとVRMMOゲームを勧められる。この誘いが、後に世界一有名で、世界一恐れられる"最恐"プレイヤーを世に生み出す事となった。  奏音はゲームを通して抑圧されていた自分の本音に気がつき、その心と向き合い始める。    彼女の行動はやがて周囲へ知れ渡り「1人だけ無双ゲームやってる人」「妖怪頭潰し」「PKの権化」「勝利への執念が反則」と言われて有名になっていく。  恐怖の料理で周囲を戦慄させたり、裏でPKクランを運営して悪逆の限りを尽くしたり、レイドイベントで全体指揮をとったり、楽しく爽快にゲームをプレイ! 《Inequality And Fair》公平で不平等と銘打たれた電脳の世界で、風間奏音改め、アニー・キャノンの活躍が始まる!

超リアルなVRMMOのNPCに転生して年中無休働いていたら、社畜NPCと呼ばれていました

k-ing ★書籍発売中
ファンタジー
★お気に入り登録ポチリお願いします! 2024/3/4 男性向けホトラン1位獲得  難病で動くこともできず、食事も食べられない俺はただ死を待つだけだった。  次に生まれ変わったら元気な体に生まれ変わりたい。  そんな希望を持った俺は知らない世界の子どもの体に転生した。  見た目は浮浪者みたいだが、ある飲食店の店舗前で倒れていたおかげで、店主であるバビットが助けてくれた。  そんなバビットの店の手伝いを始めながら、住み込みでの生活が始まった。  元気に走れる体。  食事を摂取できる体。  前世ではできなかったことを俺は堪能する。  そんな俺に対して、周囲の人達は優しかった。  みんなが俺を多才だと褒めてくれる。  その結果、俺を弟子にしたいと言ってくれるようにもなった。  何でも弟子としてギルドに登録させると、お互いに特典があって一石二鳥らしい。  ただ、俺は決められた仕事をするのではなく、たくさんの職業体験をしてから仕事を決めたかった。  そんな俺にはデイリークエストという謎の特典が付いていた。  それをクリアするとステータスポイントがもらえるらしい。  ステータスポイントを振り分けると、効率よく動けることがわかった。  よし、たくさん職業体験をしよう!  世界で爆発的に売れたVRMMO。  一般職、戦闘職、生産職の中から二つの職業を選べるシステム。  様々なスキルで冒険をするのもよし!  まったりスローライフをするのもよし!  できなかったお仕事ライフをするのもよし!  自由度が高いそのゲームはすぐに大ヒットとなった。  一方、職業体験で様々な職業別デイリークエストをクリアして最強になっていく主人公。  そんな主人公は爆発的にヒットしたVRMMOのNPCプレイヤーキャラクターだった。  なぜかNPCなのにプレイヤーだし、めちゃくちゃ強い。  あいつは何だと話題にならないはずがない。  当の本人はただただ職場体験をして、将来を悩むただの若者だった。  そんなことを知らない主人公の妹は、友達の勧めでゲームを始める。  最強で元気になった兄と前世の妹が繰り広げるファンタジー作品。 ※スローライフベースの作品になっています。 ※カクヨムで先行投稿してます。 文字数の関係上、タイトルが短くなっています。 元のタイトル 超リアルなVRMMOのNPCに転生してデイリークエストをクリアしまくったら、いつの間にか最強になってました~年中無休働いていたら、社畜NPCと呼ばれています〜

VRゲームでも身体は動かしたくない。

姫野 佑
SF
多種多様な武器やスキル、様々な【称号】が存在するが職業という概念が存在しない<Imperial Of Egg>。 古き良きPCゲームとして稼働していた<Imperial Of Egg>もいよいよ完全没入型VRMMO化されることになった。 身体をなるべく動かしたくないと考えている岡田智恵理は<Imperial Of Egg>がVRゲームになるという発表を聞いて気落ちしていた。 しかしゲーム内の親友との会話で落ち着きを取り戻し、<Imperial Of Egg>にログインする。 当作品は小説家になろう様で連載しております。 章が完結次第、一日一話投稿致します。

ビースト・オンライン 〜操作ミスで【アバター:兎(もふもふ)】を選んでしまった俺が、拳とジャンプのみで最強になるまで〜

八ッ坂千鶴
SF
 普通の高校生の少年は高熱と酷い風邪に悩まされていた。くしゃみが止まらず学校にも行けないまま1週間。そんな彼を心配して、母親はとあるゲームを差し出す。  そして、そのゲームはやがて彼を大事件に巻き込んでいく……!

VRMMOを引退してソロゲーでスローライフ ~仲良くなった別ゲーのNPCが押しかけてくる~

オクトパスボールマン
SF
とある社会人の男性、児玉 光太郎。 彼は「Fantasy World Online」というVRMMOのゲームを他のプレイヤーの様々な嫌がらせをきっかけに引退。 新しくオフラインのゲーム「のんびり牧場ファンタジー」をはじめる。 「のんびり牧場ファンタジー」のコンセプトは、魔法やモンスターがいるがファンタジー世界で スローライフをおくる。魔王や勇者、戦争など物騒なことは無縁な世界で自由気ままに生活しよう! 「次こそはのんびり自由にゲームをするぞ!」 そうしてゲームを始めた主人公は畑作業、釣り、もふもふとの交流など自由気ままに好きなことをして過ごす。 一方、とあるVRMMOでは様々な事件が発生するようになっていた。 主人公と関わりのあったNPCの暗躍によって。 ※ゲームの世界よりスローライフが主軸となっています。 ※是非感想いただけると幸いです。 ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。

採取はゲームの基本です!! ~採取道具でだって戦えます~

一色 遥
SF
スキル制VRMMORPG<Life Game> それは自らの行動が、スキルとして反映されるゲーム。 そこに初めてログインした少年アキは……、少女になっていた!? 路地裏で精霊シルフと出会い、とある事から生産職への道を歩き始める。 ゲームで出会った仲間たちと冒険に出たり、お家でアイテムをグツグツ煮込んだり。 そんなアキのプレイは、ちょっと人と違うみたいで……? ------------------------------------- ※当作品は小説家になろう・カクヨムで先行掲載しております。

『ライフで受けてライフで殴る』これぞ私の必勝法

こまるん
SF
『すべてライフで受けちゃえば、ゲーム上手くなくてもなんとかなるんじゃない?』 「Infinite Creation」 株式会社トライアングルが手掛ける、最新のVRMMOである。 無限の創造性という謡い文句に違わず、プレイヤーたちを待ち受けるのはもう一つの世界。 この自由度の高いオープンワールドで、主人公「桐谷深雪(PNユキ)」は、ある突飛な遊び方を思いついた。 配信者デビューしたユキが、賑やかなコメント欄と共にマイペースにゲームを楽しんでいくほんわかストーリー。今ここに始まる。 何をどう間違ったのか。ただいま聖女として歩く災害爆進中!!

処理中です...