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吸血少女と最悪な環境

師範とゲルダさんの稽古

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 双刀の隠れ里に来た私は、里の人に挨拶をしながら、まっすぐに師範の元に向かう。

「しは~ん! ハクで~す!」

 私が呼び掛けると、直後に扉が開いた。そして、師範がジッと私の事を上から下まで見ていく。

「ふむ。ここには来ていなかったが、サボっていた訳では無いようだな」

 スキルレベルを上げていたのもあって、師範の元に来ていなかった事を怒られる事はなかった。好きに来て良いって言われているから、必ず毎日来る必要はないのだけど、師範的には、毎日来て欲しいのかもしれない。
 まぁ、私が来ないと暇だろうし。

「私の他に弟子は出来ましたか?」
「いや、お前しかおらん。ここに辿り着ける者は少ないという事だ。中に入れ。どの程度強くなったのか確認してやる」
「あはは……お手柔らかに」

 私と師範は、道場に移動する。血刃の双剣を抜いて構える。師範も同じく双剣を構えた。

「では、参ります」

 高速移動で師範に突っ込んで、双剣を突き出す。私の双剣は、師範の双剣よりも刀身が短い。だから、かなり踏み込まないと攻撃を当てられない。
 師範は、私の高速移動に面食らう……なんて事もなく、平然と受け止めた。師範の身体ごと、二メートル程押し込んだ。そこで、勢いが衰えたので、私は着地して、双剣を次々に振う。私の攻撃と師範の防御は、完全に噛み合っていた。私の攻撃など、師範からしたら読みやすいものみたいだ。だから、更に加速する。デタラメには振らない。師範の虚を突くように、フェイントも織り交ぜているのだけど、師範は一切引っ掛からない。
 踏み込めないので、私の攻撃が当たらない。だから、間合いを伸ばす。双剣を振りながら、機構を使い、自身を出血状態にする。そこから【血装術】を使い、血の刃を伸ばす。

「っ……!?」

 これには、師範も眉を顰める。前からやっている事だけど、急に刀身が伸びるのは慣れないみたい。時間も限られているので、攻撃を続ける。
 隙と思える部分は、全て攻めている。でも、それすらも対応されてしまう。【双剣】の試験よりも遙かに速い。真っ向勝負は、向こうに分がありそうだ。
 一旦攻撃を止めて、師範の周りを走り続ける。それも全力で。通常では出せない速度で走る事で、師範を翻弄するのが目的だけど、師範の視線から判断するに、こっちの姿も見えている気がする。
 師範の周囲を回りながら、ヒットアンドアウェイを繰り返す。攻撃タイミングをずらしたりするけど、師範は対応してくる。やっぱり、前に使っていた高速移動での連続攻撃が出来ないのがキツいかもしれない。こういう狭い空間で戦って改めてそう思った。でも、あの速度には劣るけど、今もかなりの速度を出せているはず。少なくとも、【双剣】の入手試験よりは速い。

「ここまでだな」

 師範がそう言ったので、動きを止める。

「力を持て余しているな」
「分かりますか?」

 【神脚】を持て余している事を、師範に見抜かれた。

「見ていればな。攻撃の正確さは上がっている。そこから、双剣の鍛錬も怠っていない事は分かった。だが、まだ極意を得るまでは至っていないな。今後も励むことだ」
「はい。ありがとうございます」
「うむ」

 師範に見送って貰って、道場を出る。やっぱり、師範との稽古が、一番双剣の扱いを学べる。互いに双剣を使っているのが大きいのかな。

「この後はどうしようかな……取り敢えず、【双剣】と魔法を育てよう」

 私は、砂漠に向かって、【双剣】【血装術】【血武器】【魔法才能】【支援魔法才能】のレベル上げをする。夜だから、戦闘に困るような事はない。砂漠でのレベル上げは、順調に進んでいった。今回は、空の竜に出会う事はなかった。この前見る事が出来たのは、本当に運が良かった事みたい。
 砂漠でのレベル上げを終えて、ログアウトした。
 翌日。連休最終日。私は、少し遅めにログインした。砂漠の探索に時間を使いたかったけど、今日のお昼は少し遅めだったから諦めた。作って貰っていて、文句は言えないしね。
 時間的に何も出来ないので、先に草原に行って、いつも通りにホワイトラビットの血とスライムを吸おうかなと思いながら、ファーストタウンを出ると、急に首根っこを掴まれて、持ち上げられた。

「うぇっ!?」
「早かったな」
「態々持ち上げる必要はないでしょうに」
「あっ、フレ姉、ゲルダさん」

 私を持ち上げているのは、フレ姉だった。街の出入口で、既に待っていたみたい。

「探索を終えてから来ると思ってたが、昼が遅かったか?」
「うん」
「まぁ、それなら仕方ねぇな」
「それで、ハクの近況を聞こうかしら。急に修行を頼まれたから、あまり把握出来てないのよ」
「あっ、アク姉がすみません」

 ゲルダさんに謝っておき、私が修行をするに至った経緯を、簡単に話した。その間に、フレ姉には降ろして貰い、少し街から離れていく。

「なるほどな。デザートスコーピオンの群れは、ソロには厳しいだろう。特に、ハクのようにステータスが低下するようなプレイヤーにとってはな」
「私の他にも【吸血鬼】持ちが!?」

 私みたいにステータスが低下するような人がいると言われたら、【吸血鬼】持ちかもって期待してしまう。でも、ゲルダさんが首を横に振った事から、それはないという事が分かった。

「【吸血鬼】持ちの話は、ハクしか聞かないわ。【吸血】を取ってみたというのは、少し耳にしたけれど、ハクみたいに育てようとする人は、全然聞かないわね。それじゃあ、【格闘】系列を育てるっていう事で良いのよね?」
「はい。お願いします」
「それじゃあ、私も【爪】系統のスキルは外してあげるわ。手加減はするけど、回復は自分でやりなさい」
「はい」

 ゲルダさんは、すぐにPvPの申請をした。ゲルダさんもPvPに慣れているみたいで、素早く操作していた。

「それじゃあ、受けに回ってあげるから、どこからでも掛かってきなさい」
「はい」

 高速移動を使って、ゲルダさんに跳び膝蹴りをする。ゲルダさんは、ただ一歩横にずれるだけで避けた。まるで、私の攻撃の軌道が分かっていたかのようだった。トモエさんは、大きな盾で防いでいたので、防がれても動揺は少なかったけど、こうしてただ避けられてしまうと、驚愕してしまう。

「驚いている暇があったら、そこから攻撃に繋げなさい」

 ゲルダさんはそう言いながら、私の足を掴んで、そのまま地面に投げつけた。背中から地面に叩きつけられ、HPが三割も減る。

「こうして反撃を受けるわよ。ほら、すぐ起きる」

 ゲルダさんは、追撃をする事なく、私が起き上がるまで待ってくれた。現状、ゲルダさんに高速移動は効果がない。でも、この修行は、特に勝つ必要はない。重要なのは、攻撃を当ててレベルを上げる事だ。
 私は、昨日の師範との稽古と同じようにインファイトで戦う事にした。拳を振い、そこに蹴りも混ぜる。その悉くを、完全に防いでいた。

「遅いわよ。もっと速く振りなさい」
「はい!」

 こうしてゲルダさんと戦うのは、本当に久しぶりだ。こうした稽古的なPvPもしないし。私が攻撃を続けていると、ゲルダさんの拳が、正確に私のお腹に突き刺さった。

「攻撃だけに、意識を割き過ぎよ。明らかに隙があったら、反撃するわ。ちゃんと立ち回りなさい」
「うっ……はい!」

 ゲルダさんは、アク姉達との修行とは別の方向で厳しいものだった。一つ一つ隙を指摘されながら、攻撃を受ける。HPが半分を切ったら、ホワイトラビットから血を吸って回復する。連続での蹴りや組み合わせて隙の無いように攻撃していき、色々と頑張ったけど、ゲルダさんに、まともに当てる事は出来なかった。
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