吸血少女ののんびり気ままなゲームライフ

月輪林檎

文字の大きさ
上 下
80 / 529
吸血少女と進展?

ちょっと良い事?

しおりを挟む
 あれから一時間程洞窟を進んで、何度か戦闘があった。洞窟の奥に近づいているからか、どんどんとシャドウ達の数が増えていた。
 現在では、一度の戦闘に現れるシャドウの数は、最低十体から最高二十体までいる。一番多いのは、十四体で現れる事だった。パーティー上限が六人だから、二パーティーフルでいても、相手の方が二体多くなる。苦戦させる気満々の設定だって、フレ姉も言っていた。

「ここって、本当に攻略させる気あるのかな?」

 強気な設定にしているのもあって、運営は、ここを攻略させようとは思っていないのではと思い始めた。そんな私の頭を、アク姉が撫でてくる。

「大丈夫だよ。二回目の運営主導イベントなのに、攻略出来ないエリアを態々作ったりしないと思うから」
「そうですわね。攻略の難易度を上げても、攻略出来ないとまではしないと、私も思いますわ」

 アク姉とカティさんの考えは同意見だった。確かに、運営主導のイベントと考えれば、攻略させないなんて設定にはしないかな。でも、パーティー前提でやられると、ソロ派の人達は困ると思う。

「ソロで攻略出来るようにすると、パーティーの人達とのバランスが取りにくいのかな?」
「だろうな。バランス調整は、かなり難しい。散々アプデさせられて発狂している奴もいたからな」
「そうなんだ」

 探索イベントをソロ対応するには、ソロ専用探索イベントでも開かないと無理そうだ。そんな攻略に関係ないような会話もしていると、分かれ道の向こうに宝箱があるのを見つけた。

「フレ姉。あそこに宝箱あるけど、取らないの?」
「あ?」

 フレ姉は、私が指している方向を見るけど、首を傾げている。すると、同じようにゲルダさんも分かれ道の先を見た。

「本当ね。微かに見えるわ」

 光源があるとはいえ、普通は、外と同じように見えるわけじゃない。私の眼は、ほぼほぼ外と同じように見えているから、他の人よりも見つけやすいみたい。
 私達は、宝箱の方に進んで行く。そして、先頭を歩いていたフレ姉が止まって、私を見た。

「ハクが見つけたんだから、ハクが開けろ」
「良いの?」
「何が入っているか分からねぇからな。開けたプレイヤーに合わせて変えているとかだったら、見つけた奴が取るのが良いだろ。実際、ハクとアカリのパーティーで開けた時には、二人に関係するものだったんだろ?」
「そうだけど……アク姉達は?」
「良いよ。姉さんと同じ考えだから」

 アク姉がそう返事をすると、メイティさん達も頷いた。皆、私が開ける事に賛成みたい。このイベントの中で三回目の宝箱だ。
 私はゆっくりと宝箱を開ける。すると、中身は空っぽだった。

「何も無い。ハズレ?」
「これまで色々な場所で宝箱を見てきたが、ミミックはいれど、ハズレはなかったぞ」
「そうね。アクア達はどうかしら?」
「中身が無いことはなかったかな」

 通常エリアでは、これまでハズレの宝箱が出て来た事はないみたい。他の誰かが取ったという事はないはず。それは、私とアカリが手に入れた血と裁縫道具が入った宝箱が消えた事からも明らかな事だからだ。

「ハズレって事に意味があるのかな?」

 私と同じものを見てきたアカリが、そう言葉にした。ハズレである事に意味がある。つまり、何もない事に意味があるという事だろう。だったら、箱の内部に何かしらの仕掛け的なものがあるのかもしれない。
 そう思い、宝箱の中を触っていく。すると、底の一箇所に、感触が違う場所があることに気付いた。

「仕掛けみたいなのがある」
「全員警戒しろ」

 フレ姉がそう言った事で、空気が締まる。

「押して良い?」
「ああ。押したら、すぐにトモエの後ろに下がれ」
「うん」

 私は、そこの仕掛けを限界まで押して、すぐにトモエさんの後ろに逃げた。直後、変化が訪れる。地面が揺れて、宝箱が消える。そして、宝箱があった場所から下り階段が生まれてきた。

「……隠しエリアか、順路か」
「どちらにせよ、かなり深いわね。ハク、奥は見えるかしら?」

 ゲルダさんに言われて、出て来た階段を覗く。でも、私の目でも底は見えなかった。

「見えないです」
「本当に深いみてぇだな。アクア、ここを下りるが構わねぇか?」
「勿論。新しい場所に行けるのに、断る理由がないよ。皆も良いよね?」

 アク姉の確認に、皆が頷く。

「よし。トモエが先頭だ。最後尾は、私が行く」

 先頭を硬いトモエさんが担当して、後方からの襲撃を警戒して、フレ姉が最後尾を担当するみたい。階段が一人分の幅しかないので、必然的に一列となって下りていく。フレ姉が階段を下り始めて、少し経った瞬間、入口が閉じた。

「あっ……」
「大丈夫よ。完全に閉じ込めるような設計にはしないはずだから。そんな牢屋みたいな設計にしていたら、滅茶苦茶荒れるだろうから」

 若干心配になっていると、アメスさんがそう言って安心させてくれた。確かに、探索型イベントで、閉じ込めるような仕掛けを用意されたら、不満が噴出すると思う。
 これで、背後からの奇襲はなくなった。後は、この階段が、どこまで続いているかだ。折り返しを何度か繰り返して下っていく。奥が見えなかった理由は、折り返しの壁が黒いせいで、まだ続いていると錯覚したからみたい。私の眼でもそう見えたのだから、他の人からもそう見えておかしい事はない。

「意外と長いね」

 私の前を歩いていたアカリがそう言う。ため口という事は、私に話しかけているという事だ。

「今、四回目の折り返しだから、学校の二、三階分くらい下りた感じかもね」
「もしかして、地下の空間も地上と同じくらい広いのかな?」

 学校の校舎二、三階分と言ったけど、実際には、もう少し長く下りていると思う。それを考えると、地下の空間が縦にも広い場所だと想像する事が出来る。アカリもそういう風に考えたのだと思う。

「もしそうだとしたら、このイベントで全てを探索するなんて事、夢のまた夢になるわね」

 アカリの考えに、ゲルダさんがそう答えた。確かに、地上部分だけでも、全部回るのは、ほぼ不可能に近いのに、地下まで同じ規模になったら、確実に無理だ。
 そんな話をしながら、もう一つ折り返しを通り過ぎると、階段下に光が見えてきた

「ようやく出口だ~」

 皆が思っていた事をアク姉が声に出して言った。

「想像以上に長い階段だったな。これで何も無かったら、運営を恨むぞ」

 フレ姉の意見には、全面的に同意だ。これで何も無かったら、ここまで来させられた意味がない。ハズレ道にしても悪質過ぎる。最低でも、頂上のように宝箱があるはずだ。
 そう信じながら、光の下に向かう。すると、見えてきたのは、予想とは違う光景だった。

「大きな扉?」

 メイティさんがそう呟く。私達の正面に現れたもの。それは、メイティさんが言った通り、大きな扉だった。周囲の壁は、洞窟のような剥き出しの壁から、堅牢な石造りに変わっていた。

「十中八九ボスだな。隠しボスか通常のボスか。それによって、強さは変わるだろがな」
「どの道、挑まないなんて選択はないでしょ? 姉さんは、戦闘狂だから」
「うるせぇ。こんなところで引き下がれるか。ゲーマーの名が廃るわ」

 アク姉は、フレ姉に思いっきり頭を叩かれた。

「痛っ!? あれ? ダメージがない?」
「自動でレイド設定されたのかもしれないな。このゲームでは、初めてのレイドボスってところか。扉には近づくな。ここには、階段と扉に続く通路しかない。幸い、モンスターも出てこねぇみてぇだからな。一度、二時間の休憩にする。見張りは、私とゲルダで交代しながらする。テントを張れ」

 ここからボス戦が始まる可能性を考えて、休憩にするみたい。皆、指示に従ってテントを張っていく。石畳だけど、普通にテントを張る事が出来ていた。

「ハ~……ぐえっ……!?」
「お前は、こっち」

 アク姉が、私と一緒に寝ようと近づいて来たけど、サツキさんに首根っこを掴まれて、別のテントに連れて行かれた。その後ろを、鎧を脱いだトモエさんが付いていき、私に手を振ってから、テントに入っていった。
 私も手を振り返して、アカリと一緒にテントに入る。

「ふぅ……何だか凄い事になったね」
「まぁ、こんな早くボスと戦うかもしれなくなるとは思わなかったかな。というか、フレ姉達が強すぎなんだよね。私達と攻撃力が段違いだもん」
「だね。ゲルダさんも相性が悪いって言いながら、私達よりもダメージを与えられてるしね」
「【血装術】に、魔法属性が付けばなぁ」
「そこはレベルが上がったら、変わるかもよ」
「そうなったら、他のモンスターにも対応しやすくなるかな」
「どうかなぁ」

 アカリがにやにやとしながらそう言うので、頬を摘まむ。私よりも先に進んでいるアカリは、この先で出て来るモンスターの事も知っている。だから、私が悩んでいる事の答えも知っている。それを訊きたいとは思わないけど、優越感に浸られるとムカッとくるので、お仕置きの意味も込めた。なのに、アカリは、ちょっと嬉しそうにしている。
 お仕置きの意味がないので、アカリの頬から手を離して、寝袋に入る。アカリも頬を擦りながら寝袋に入っていった。

「それにしても、回復魔法が使えないとはねぇ。【吸血鬼】のデメリットばかり判明してくるよ」
「【吸血鬼】になっても、不人気スキルって部分は変わらなさそうだね」
「スキル獲得のメリットに対するデメリットとしては、納得出来なくはないんだけど、正直、もう少し装備したままにしやすくして欲しいよ」
「確かにね」

 アカリはそう言いながら、私に近づいてくる。デメリットが分かって、また私が落ち込んでいると思ったのかな。まぁ、またデメリットかとは思ったけど。

「これで、まだ二日目だし、他に良い事があるかもしれないよ。ほら、打って付けのものがあるじゃん」
「なるほど。【霊峰の加護】か。もしかして、ここを見つけたのも【霊峰の加護】?」
「……偶々宝箱を見つけて……中を探ったらスイッチを見つけて……確かに、ちょっと良い事が起こっているかも……」

 思わぬところで、【霊峰の加護】の効果を味わったかもしれなかった。実際、あれが良い事なのかどうか判断が出来ないけど、その可能性はあると思う。

「まぁ、そこら辺の検証も、今度やらないとね」
「そうだね」
「取り敢えず、今は、フレ姉に言われた通り寝よう」
「うん。おやすみ」
「おやすみ」

 私達は、二時間の休憩に入る。この後は、あの扉の向こうに向かう。一体何があるのか。結構楽しみだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最前線攻略に疲れた俺は、新作VRMMOを最弱職業で楽しむことにした

水の入ったペットボトル
SF
 これまであらゆるMMOを最前線攻略してきたが、もう俺(大川優磨)はこの遊び方に満足してしまった。いや、もう楽しいとすら思えない。 ゲームは楽しむためにするものだと思い出した俺は、新作VRMMOを最弱職業『テイマー』で始めることに。 βテストでは最弱職業だと言われていたテイマーだが、主人公の活躍によって評価が上がっていく?  そんな周りの評価など関係なしに、今日も主人公は楽しむことに全力を出す。  この作品は「カクヨム」様、「小説家になろう」様にも掲載しています。

VRおじいちゃん ~ひろしの大冒険~

オイシイオコメ
SF
 75歳のおじいさん「ひろし」は思いもよらず、人気VRゲームの世界に足を踏み入れた。おすすめされた種族や職業はまったく理解できず「無職」を選び、さらに操作ミスで物理攻撃力に全振りしたおじいさんはVR世界で出会った仲間たちと大冒険を繰り広げる。  この作品は、小説家になろう様とカクヨム様に2021年執筆した「VRおじいちゃん」と「VRおばあちゃん」を統合した作品です。  前作品は同僚や友人の意見も取り入れて書いておりましたが、今回は自分の意向のみで修正させていただいたリニューアル作品です。  (小説中のダッシュ表記につきまして)  作品公開時、一部のスマートフォンで文字化けするとのご報告を頂き、ダッシュ2本のかわりに「ー」を使用しております。

【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。

VRゲームでも身体は動かしたくない。

姫野 佑
SF
多種多様な武器やスキル、様々な【称号】が存在するが職業という概念が存在しない<Imperial Of Egg>。 古き良きPCゲームとして稼働していた<Imperial Of Egg>もいよいよ完全没入型VRMMO化されることになった。 身体をなるべく動かしたくないと考えている岡田智恵理は<Imperial Of Egg>がVRゲームになるという発表を聞いて気落ちしていた。 しかしゲーム内の親友との会話で落ち着きを取り戻し、<Imperial Of Egg>にログインする。 当作品は小説家になろう様で連載しております。 章が完結次第、一日一話投稿致します。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

家の庭にレアドロップダンジョンが生えた~神話級のアイテムを使って普通のダンジョンで無双します~

芦屋貴緒
ファンタジー
売れないイラストレーターである里見司(さとみつかさ)の家にダンジョンが生えた。 駆除業者も呼ぶことができない金欠ぶりに「ダンジョンで手に入れたものを売ればいいのでは?」と考え潜り始める。 だがそのダンジョンで手に入るアイテムは全て他人に譲渡できないものだったのだ。 彼が財宝を鑑定すると驚愕の事実が判明する。 経験値も金にもならないこのダンジョン。 しかし手に入るものは全て高ランクのダンジョンでも入手困難なレアアイテムばかり。 ――じゃあ、アイテムの力で強くなって普通のダンジョンで稼げばよくない?

ビースト・オンライン 〜追憶の道しるべ。操作ミスで兎になった俺は、仲間の記憶を辿り世界を紐解く〜

八ッ坂千鶴
SF
 普通の高校生の少年は高熱と酷い風邪に悩まされていた。くしゃみが止まらず学校にも行けないまま1週間。そんな彼を心配して、母親はとあるゲームを差し出す。  そして、そのゲームはやがて彼を大事件に巻き込んでいく……! ※感想は私のXのDMか小説家になろうの感想欄にお願いします。小説家になろうの感想は非ログインユーザーでも記入可能です。

処理中です...