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吸血少女の始まり

東の森のボス

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 途中で、コボルトとワイルドボアを十体程倒していると、目の前にウィンドウが現れた。

『ボスエリアに移動しますか? YES/NO』

 やっぱり、ボスエリアは通常エリアと別の場所に移動するみたいだ。他のパーティーとの鉢合わせやリポップ待ちをする必要がない。トラブルの元になるので、良い事だと思う。
 私は、迷わずにYESを押す。視界が光に包まれて、また森の景色が映る。

「場所的に一緒だけど、別空間扱いって事だよね。よし! 頑張ろう!」

 気合いを入れて、森の中を進んで行く。すると、ひらけた場所が見えてきた。そこには、大きな蜥蜴が眠っていた。名前は、フォレストリザード。自動車くらいの大きさなので、戦い方に気を付けた方が良さそう。

「尻尾攻撃と噛み付きは、どのゲームでも危ない……取り敢えず、そこに気を付けて戦おう」

 私は、フォレストリザードに突っ込む。すると、フォレストリザードは、すぐに目を覚まして、私の事を見た。そう思ったら、フォレストリザードが口を開いて、舌を伸ばしてきた。

「!?」

 即座にスライディングして、伸ばされた舌の裏側を短剣で斬る。斬り傷を付けられたら良いと思って振ったけど、舌の一部から先が飛んでいった。ダメージエフェクトが飛び散って、フォレストリザードに欠損の状態異常マークが付く。

「モンスターも欠損させる事が出来るんだ? ご自慢の長い舌がなくなっちゃったね!」

 舌が無くなって叫ぼうとしているフォレストリザードの顎を蹴り上げる。フォレストリザードの顔が上に向くので、そのまま喉元に短剣を刺し、フォレストリザードの脇を抜けて、尻尾近くまで斬り裂く。
 私が後ろに抜けた事に気付いたのかフォレストリザードの尻尾が勢いよく振られる。それを背面跳びで避ける。思った以上の高さまで跳び上がって、私もびっくりした。そのまま身体を捻って脚から着地する。
 フォレストリザードは、そのまま私の方向に尻尾を振ってきた。尻尾だから、左右に振ってくるのも予測済みだ。尻尾と地面の僅かな隙間に、身体を滑り込ませて避ける。

「その尻尾も斬り落としてあげる!」

 尻尾の付け根に向かって跳びかかり、上に乗って、短剣を突き刺す。血染めの短剣は、深々と刺さる。フォレストリザードは、私を振り落とそうと尻尾を大きく振ってくる。短剣を支えに、脚でしっかりと身体を固定する。簡単に振り落とされるかもと思ったけど、全然落ちなかった。もしかしたら、ここでも【脚力強化】が発動しているのかもしれない。

「チャンス!」

 私は、フォレストリザードに噛み付く。口の中に血の味が広がる。そして、同時に藻のようなカビのような匂いが広がってくる。どこかで水浴びでもしているのかもしれない。それならそれで清潔な状態でいて欲しい。
 苦しい気持ちになりながらも、【吸血】を続ける。フォレストリザードは、思いっきり暴れてくるけど、しっかりと身体を固定させられているので、振り落とされる事はなかった。
 フォレストリザードのHPがどんどん減っていく。短剣を刺している事による継続ダメージと【吸血】に継続ダメージが同時に掛かるのが大きいと思う。しかも、【吸血】と【HP吸収】によって、例えダメージを与えてくるような暴れ方をされても、そうそう死なないと思う。
 そう思っていたけど、相手がボスである事を失念していた。そこら辺のモンスターとは、頭の出来が違う。夜霧の執行者と同じように、周囲のものを的確に利用してくる。今回の場合は、地面だった。
 フォレストリザードが、横に転がろうとしてきた。

「うげっ!?」

 私は、すぐに短剣を抜いて、フォレストリザードから離れる。夜霧の執行者は、叩きつけだけだったから、【吸血】を続けてもギリギリ大丈夫だと思っていたから続けたけど、フォレストリザードの体重で、地面と圧迫されたら即死するのではないかという怖さがあった。
 それは、夜霧の執行者が両手剣で自分と一緒に私を串刺しにしてきた時と似ている怖さだった。死の予感だ。

「お相撲さんに、のしかかられるようなものかな。絶対内臓飛び出るわ」

 フォレストリザードのHPは、もう赤ゲージに突入していた。そこで行動変更が起きた可能性も否定出来ない。

「【執行者】を試す絶好の機会か」

 さっきまでの死の予感が消える。おかげで、心が楽になる。フォレストリザードは、私を見て、大きく咆哮した。そして、私に向かって突撃してくる。同時に、私も同じく駆け出す。

「これまでの事を考えると……出来るはず!」

 思いっきり踏み込んで、勢いよくジャンプする。フォレストリザードは、跳び上がった私を目で追ってくる。でも、そこまでで立ち上がるなどはしてこなかった。
 私は、フォレストリザードの身体に乗って、短剣を突き刺す。そのまま脇の方に降りて行く。その間も短剣は刺したままなので、斬り裂く事が出来た。そして、最後に脇腹に向かって短剣を突き刺す。
 それで、フォレストリザードのHPを削りきる事が出来た。フォレストリザードの身体がポリゴンになって消えていく。
 そして、勝利ウィンドウが私の前に現れた。

『フォレストリザードを討伐しました。称号【森蜥蜴を狩る者】を獲得しました』

 ここでも称号を手に入れた。ボスを討伐すると、称号を獲得出来るみたいだ。

────────────────────────

【森蜥蜴を狩る者】:蜥蜴系モンスターとの戦闘時、攻撃力が一・五倍になる。

────────────────────────

 称号の効果も確認したところで、一息つく。

「ふぅ……ギリギリかな。一つ間違えたら大ダメージだっただろうし」

 改めて、ドロップアイテムも確認する。落ちたのは、フォレストリザードの鱗×23、フォレストリザードの舌、フォレストリザードの尻尾、フォレストリザードの肉、フォレストリザードの核だった。

「核? 核って何だろう?」

 スライム以外で、初めて見る種類のドロップアイテムなので、後でアカリに訊いてみる事にする。スライムは分かりやすいけど、スライム以外のモンスターからは、全く落ちてない。スライムは、スライム特有のものと仮定すると、この核がなんなのか気になった。
 そして、少し気になったため、自分のスキルも確認する。

────────────────────────

ハク:【剣Lv14】【短剣Lv4】【吸血Lv21】【脚力強化Lv15】【夜霧Lv2】【執行者Lv6】
控え:なし
SP:9

────────────────────────

 スキルレベルが跳ね上がったという事はなかった。恐らく、夜霧の執行者よりもフォレストリザードの方が弱いからだと考えられる。

「でも、普通のモンスターと戦うよりは、スキルレベルは上がりやすいかな」

 そんな事を言っていると、私の視界がまた光に包まれて、元の森に戻ってきた。そして、私の前に開かれたウィンドウには、リポップまで二時間のカウントダウンが始まっていた。

「ボスは、二時間に一回か……周回は難しそうかな。でも、一日に一回は挑戦してみようかな。もう少し【吸血】を利用出来る戦い方を模索したいし」

 今回の戦いでも、夜霧の執行者との戦いでも、ワイルドボアとの戦いでも相手にしがみついて吸血するという方法で、【吸血】を使っている。コボルトのように小さい相手なら、押さえつけてから吸血するって方法を取れるけど、大きな相手や強敵相手に、もう少し違った手が欲しいところだった。

「さすがに、続けて血を吸わないといけないという事もないだろうし、短く吸って離れるって事を入れるのも有りなはず。【吸血】が発動するタイミングを検証してみた方が良いかな」

 ボス戦も終えたので、一度平原に戻って、いつも通りホワイトラビットとスライムで、【吸血】の検証を行う。今回する検証は、魔力で出来た牙が、どのくらい刺されば【吸血】が発動するのかと牙が片方だけ刺さっても発動するのかだ。
 まず、牙が少しでも刺されば、【吸血】は発動した。口が完全にホワイトラビットにくっついていなくても、血は溢れる事なく、私の口の中に入ってきたので、問題無く飲み込む事が出来た。
 次に、牙を片方だけ刺した場合は、吸える血の量が半減した。この事から、牙が刺されば【吸血】が発動するという事が分かった。
 そこから発展させて、牙を掠めさせたらどうなるかも確認した。牙が掠った場合には、ほんの少しだけ血が吸えた。この掠ったという状況でも牙が刺さった判定になるみたいだ。

「近接戦で、相手の腕が伸びた時とかに軽く噛むのを混ぜる感じかな。結構難しそう。でも、その分楽しそうでもあるかな」

 楽しみが増えたところで、私は一度アカリエに戻る事にした。フォレストリザードの素材が、防具に使えるかもしれないので、売るついでに武器の事を報告するためだ。
 アカリエに着くと、NPCの店員さんが立っていた。

「すみません。アカリっていますか?」
「店主に御用ですね。少々お待ちください」

 店員さんが裏に入ると、すぐにカウンターに戻って来た。

「裏へお入りください」
「ありがとうございます」

 店員さんにお礼を言ってから、昨日も入った店の裏に入る。すると、アカリが椅子に座ったまま出迎えてくれた。

「おかえり。良い武器は買えた?」
「うん。これ」

 私は、血染めの短剣を取り出して、アカリに見せる。

「おぉ……血の結晶を使った短剣ね……今だと十五万はするくらいにレアな短剣だね。でも、【吸血】もあるのに、【HP吸収】付きの武器なんている?」
「うん。昼間は、結構弱いから。夜霧の執行者の攻撃は、【吸血】のおかげでギリギリ耐えたみたいな感じだし。回復の隙をなるべく見せないようにするためにも、結構良いかなって」
「なるほどね。まぁ、そういう考えも有りっちゃ有りだね」
「うん。それで、試し斬りでボスを倒したんだけど、この素材って使える?」
「ボスって、フォレストリザード?」
「うん」

 アカリは、少し考え込む。作っている私の防具に使えるかどうかを考えているのだと思う。

「う~ん……ハクちゃんの防具には合わないかな」
「そうなんだ。追加効果がない感じ?」
「うん。ある程度防御力に優れてはいるんだけど、これといった追加効果はないよ。でも、一番の理由は、ハクちゃんに似合わないからかな。あっ、でも、安心して。しっかりと防御に優れたものを作ってるから」
「そこの心配はしてないよ。いつもその時の一番良い物を用意してくれるから」
「そう言われると嬉しいね。生産職冥利に尽きるよ」

 アカリは、嬉しそうにそう言った。

「それじゃあ、これ買い取れる?」
「うん。良いよ。どのみち、フォレストリザードは、武器には使えないしね」

 アカリは、私がラングさんに売りに行く事を想定していたみたい。そうじゃないと、今の言葉は出てこないからね。

「それじゃあ、防具にならないとかもあるの?」
「あるよ。ここに持ってきてくれたら、そこら辺の判別はしてあげる」
「ありがとう。そういえば、この核って何? スライムでしか見た事ないんだけど」
「ん? ああ、今のところ、スライムとボスでしか確認出来てない素材だね。今思うと、夜霧の執行者から出なかったら、多分エリアボスからだけって感じかな。核は、全部付与効果を与える時に使えるよ。てか、核に関しては、これしか使い道はないかな。他の素材は、武器とか防具に転用出来るけど、そっちの素材にならないって感じ」

 何故ボスとスライムだけが持っているのかは、まだ分かっていないみたい。そこら辺は、また先の方で分かるようになるのかもしれない。

「それじゃあ、私は、またレベル上げに行って来る。アカリとも冒険に行きたいけど、それは防具が出来上がってから?」
「そうだね。ハクちゃんの防具を、しっかりと作っておきたいから」
「了解」

 私は、再び森に向かう。しばらくの間は、スキルレベルを上げるために費やす事になりそう。
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