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魔法学校入学

屋上からの熱い視線

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 校庭で体力測定をしている様子を、白の君は学校の屋上から見ていた。この場所が一番生徒から見られないからだ。現在の身体と同じような子供の生徒達でも、白の君の話は親から聞いている。なので、校庭の傍で見ていれば、すぐにバレてしまい、体力測定に支障が出るかもしれないと判断し、下からは見えにくい屋上にいるのだった。仮に見られたとしても、屋上なら校庭の近くにいるよりもパニックになりにくいという考えもある。

「ふむ。塩谷蒼。確か、忍びの家系だったか。幼少期からの訓練により、身体能力に優れているはずだが、それを超える体力か」
「ここにおられましたか、白の君」

 魔力測定を終わらせた冷音は、白の君の隣に並ぶ。白の君は、横に来た冷音を横目で見上げる。

「冷音か。魔力測定は終えたのか?」
「はい。全て滞りなく」
「そうか。水琴の魔力量はどうだった?」
「常に魔力増加を行っている結果、平均値よりも遙かに多くなっています。ですが、思ったよりも少ないというのが、私の感想でしょうか」
「そうか。そこは、水琴の努力次第という事か」

 水琴の魔力測定の結果と冷音の感想を聞いて、白の君が頷く。だが、その目は水琴の方に向いていた。白の君がただ外を見ているだけではないと気付いた冷音は、白の君の視線の先を追っていき、水琴が走っているのを見つけた。

「水琴さんでしたか」
「うむ。水琴は面白いな。そういえば、本当に水琴の家系には、転生者は混じっていないんだな?」
「はい。調べさせた中では確認出来ませんでした。水琴さんの血筋が特別という事も無さそうです」
「なら、水琴の体力は自前という事か」

 体力の話をして、冷音は改めて魔法を使って水琴を見る。アリスをポンチョに入れている事に少し驚いた冷音だったが、すぐにアリスの指示だと察した。水琴に同情しながら、水琴が息切れせずに、アリスと会話をしている事に気付いた。

「水琴さんは、今のところどの程度走っているのですか?」
「三時間を超えているな」

 白の君の答えを聞いて、冷音は少しだけ目を見開いた。冷音が考えていたよりも、遙かに長い時間だったからだ。

「何だ? 嘘は言っていないぞ」
「いえ、疑ってはいません。ですが、凄いものですね。師匠がいるのもありますが、裏世界で生き残る事が出来たのも頷けます」
「ああ。あの体力に身体強化が加われば、移動時間も短縮出来るだろう。それに、魔力操作に関しても天賦の才があるみたいだからな」
「加えて、言霊もあります。様々な才を持ち、開花させる努力を怠らない。師匠が気に入るのも分かります」

 この冷音の言葉に、白の君は若干ジト目になる。

「アリスが一番気に入っているのは、見た目だろう」
「それは否定しきれませんね」
「未だに水琴に手を出していない事に、私は驚いたがな」

 それを受けて、冷音は苦笑いしてしまう。

「師匠なりの考えがあるのでしょう。今の師匠では、人の身体になる事が出来ても、子供の身体ですから」
「水琴に釣り合うような身体になるまではという事か。あいつは、いつまでも恋愛には誠実だな」
「これまで全ての直弟子に手を出していますが」

 冷音は困った様子で片手を頬に当てながら言う。それを見て、白の君は呆れたように息を吐く。

「それもお前達が許すからだろう。普通は、最愛が取られたら妬むものじゃないのか?」
「そうですね。ですが、師匠が全員を愛している事は知っていますから」
「私にはよく分からんな。まぁ、一番の問題は、水琴の気持ちだろうな」
「そうですね。上手くいけば、水琴さんを師匠に取られてしまいますね」

 微笑みながらそう言う冷音の方に、白の君の顔が向く。その表情には困惑が浮かんでいた。

「どういう意味だ?」
「おや? てっきり、白の君は水琴さんに恋をしているものかと」

 冷音の言葉に、白の君はきょとんとしてしまっていた。言われている言葉を頭の中で何度も反芻して、ようやく飲み込む事が出来た。

「恋……? アリスみたいにという事か?」
「はい」
「そう見えるのか?」
「はい」

 冷音からの即答を受けても、白の君はいまいちピンと来ていなかった。恋をするという事もなかった人生だったので、自身のそういった気持ちに疎かったのだ。白の君のその様子を冷音は微笑ましく思っていた。

「ふむ……恋か。茜に相談するが良さそうだな」
「やめてください。数が少ない選択肢の中でも、茜に相談するのは悪手です」

 冷音は、即座に白の君を止める。その表情は真剣そのものだった。

「そうか? 茜は、恋が多いと思ったが」
「師匠の駄目な部分が似てしまっていますが、相談には向きません。私か美玲にしておいてください」
「そういうものか」
「そういうものです」
「そうか……水琴は、私の事を好きだろうか?」

 ドストレートな相談に冷音は、すぐに答えを出せなかった。そもそも水琴の内心について詳しく知っている訳ではないというのもある。水琴の家系や過去を一通り調べているが、それで内心を知る事は出来ない。

「少なくとも嫌われてはいないかと。嫌いな相手とお茶はしないでしょうから」
「なるほど。そういう考えもあるのか」
「はい。態々師匠の許可を頂く事もないと思います」
「ふむ。つまり、告白しても大丈夫という事か?」
「気が早いです」
「難しいな」

 白の君は、少し唸りながら視線を水琴の方に戻した。そんな白の君の目を見て、冷音は自然と頬が緩んでいた。

(完全に恋する乙女ですね。それにしても、水琴さんからは、女性を惹き付けるフェロモンでも出ているのでしょうか。師匠、茜、白の君。既に三人を虜にしていますし。まぁ、師匠には悪いですが、私は白の君を応援させてもらいましょう。これまでの人生の中で、初めての恋ですし)

 白の君の初めての恋を全力で応援しようと冷音は心で決めた。アリスを応援するという選択もあるが、初々しいどころか、恋愛のれの字もしっかりとしていない白の君を応援したいという気持ちが勝ったからだ。

「しかし、水琴はいつまで走り続けるつもりなんだ」
「持久走の目的通り、体力が尽きるまででしょう。恐らく、師匠が課題を与えて、速度が変わってくるかと思います」
「体力測定を修行に使うつもりか。身体強化は使えんのにか」
「素の身体能力が育っていなければ、身体強化の意味も薄いですから。師匠は、基礎を大事にする方針というのもありますが」
「ふむ。水琴も大変だな」
「大変なのは、これからですよ」
「それもそうだな」

 そう言って、白の君は屋上から屋内に戻っていく。冷音も後に続く。

「もうよろしいのですか?」
「いつまでも屋上にいるわけにもいかないだろう。見ようと思えば、魔法でいつでも見られる。それに、まだ仕事が残っているだろう?」
「勝手に覗いている事がバレると、水琴さんから嫌われるかもしれませんよ」

 冷音の発言を聞いて、白の君の足が止まる。

「それは本当か?」
「覗かれていると聞いて、いい顔をする方は少ないかと。もしや、これまで何度もしていたのですか?」
「いや、学校に来てからだぞ。水琴が孤立しないように時々……」
「これからは止めておきましょう。水琴さんの傍には師匠もいらっしゃいますから」
「うむ」

 白の君は頷いてから再び歩き始めた。心なしか、その足取りは先程よりも重いように冷音からは見えていた。

(前途多難ですね)

 冷音は苦笑いをしながら、白の君に付いていった。
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