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可愛がられる聖女

研究開発班の工房

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 アリエスを送って帰ってきたサーファと合流したクララ達は、リリンの案内で魔王城の中を進んで行く。

「目的地は、魔王城の中にあるんですか?」
「どちらかというと、魔王城の敷地内と言った方が良いでしょう」
「ああ、あそこですね」

 クララ達がどんな話をしたか知らないサーファは、リリンの言葉で自分達の目的を察した。

「サーファさんも知っている場所なんですか?」
「うん。クララちゃんは、興味津々になるんじゃないかな?」

 サーファからもはぐらかされたので、クララは頬を膨らませて不満だと伝える。だが、サーファからは可愛いとしか思われておらず、頬を軽く摘ままれるだけだった。
 そんな調子で進んで行くと、魔王城の外に出た。

「あれ? 外ですか?」
「はい。先程敷地内と言ったでしょう? 魔王城の外には出ます。ですが、門の外には出ません。そのままこちらに移動します」

 リリンの言う通り、門の外には出ず、城下と魔王城を隔てている城壁に沿って移動する。すると、魔王城程ではないが、大きめの建物が見えてきた。

「あそこですか?」
「うん。ちょっと危ないかもだから、ここからは私が抱き上げるね」

 そう言ってサーファは、クララを抱き上げる。そんなクララは、サーファの危ないかも発言で、少し緊張していた。

「大丈夫なんですか?」
「基本的には、そこまで酷い目に遭わないはずです。ですが、時折、危険な事もしているので、危ないと言えば危ないですね」

 クララは、無意識にサーファにしがみつく。そんなクララの背中を軽く叩きながら、サーファはリリンの隣を歩いていった。そうして建物の中に入った瞬間、クララの目はキラキラと輝き出す。
 そこは、様々な人が集まっていて、それぞれで何かの物作りをしていた。

「凄い……ここってどういう所なんですか?」
「ここは研究開発班の本部です。前の馬車もここで開発されたものですよ」
「へぇ~」

 クララは、リリンの話を聞きつつ、周囲のものに視線を巡らせていた。クララの中の好奇心が疼いて仕方ないのだ。その中でも一際クララの興味を引いたのは、とても大きなものだった。

「リリンさん。あれって何ですか?」
「何でしょう? 私も分かりません。ここは、本当によく分からないものを作ったりもしますので。取りあえず、ライナーを探しましょう」

 全員が共通して通路として利用しているのか、中央の一直線だけは、何も作業をしていないので、そこを歩いてライナーを捜し始めた。すると、先程クララが興味を持った大きな何かの傍にライナーがいるのを発見する。

「リリンさん、あそこにいました」
「本当ですね。ありがとうございます」

 クララ達がライナーに近づいていくと、ライナーもクララ達に気付いた。

「おお、今回は嬢ちゃんも一緒に来たのか。何か注文か?」
「ええ。薬室の器具を一式お願いします」
「器具? ああ、そういや、新しく雇ったんだったな。分かった。明後日には、届けよう」

 ライナーは、その場で紙に何かを書くと、近くにいた部下に渡す。

「小物班に、これを渡してこい」
「うっす!」

 部下は、すぐに駆けだして行った。

「他の設備の方は大丈夫か? 増やすとなれば、しばらく薬室は使えなくなるが」
「今のところ大丈夫です。その時になったら、頼みます」
「おお。任せとけ」

 リリンとライナーが話している間も、クララの視線はライナーの後ろの開発途中の物に向いていた。

「おっ、気になるか?」

 ライナーはニヤニヤとしながらそう言う。自分達の開発物に興味を持って貰えた事が嬉しいのだ。

「はい。どういうものなのか、全く予想が出来ないので」
「だろうな。今の段階だと試作品でもねぇ。これは、まだ設計段階と言っても過言じゃねぇからな」
「どういう事ですか?」

 こういった物作りの知識が疎いクララは、ライナーの言っている事をちゃんと理解出来ていなかった。
 そんなクララに呆れる事もなく、ライナーは説明をしてくれる。

「一応図面は引いているんだが、これで本当に出来るのかが心配でな。なるべく実寸大に近づけた模型を作っているってところだ。だから、これが完成しても、俺達が作ろうとしているものの形だけって事になる」
「じゃあ、これが動くってわけじゃないんですね」
「そういうこったぁ」
「へぇ~」

 クララは、そこまでして物作りをしている事に素直に感心していた。

「おっと、肝心のこいつについて説明してなかったな。こいつは、馬車に変わる輸送手段だ」
「輸送手段?」

 クララは、改めて目の前にあるものを見る。ライナーの言葉を聞く前までは、ただの塊にしか見えていなかったが、輸送手段と聞いてから見れば、気付く事があった。

「あ、車輪が付いてます。それもいっぱい。でも、御者台はないんですね?」

 全体を見ていき、車輪が付いていた事で馬車のようなものと認識したクララだったが、馬車には欠かせない御者台がない事で、首を傾げる。

「気付いたか。さっきも言った通り、これは馬車に変わる輸送手段として開発しているものだ。つまり、馬を使わない仕様なんだ。だから、ハーネスを付ける必要もねぇわけだ。だが、操作する必要がある以上、御者台のような場所は設けてるぜ」
「へぇ~」
「魔力と蒸気機関で動くように設計したもんでな。専用の道を作って、そこを走るというもんだ。動力の付いたこれに、荷台を繋げて街と街の間を移動して輸送するってわけだ」
「おぉ……凄いですね。いつ頃完成するんですか?」

 そう訊かれて、ライナーは固まり、クララ達の会話に耳を傾けていた他の職人達も固まった。それを見て、クララは、不味い事を訊いてしまったのではないかと不安になった。

「……未定だ。思いのほか、魔力と蒸気機関の合わせが、上手くいかなくてな。少し工夫しねぇと、互いに干渉しちまうんだ」

 ライナーは悔しそうにそう言った。

「片方ずつ運用するんじゃいけないんですか?」
「通常運転はそれで良いんだが、俺達が想定しているのは、魔物に襲われる事だ。計画している行路には、そこまでの危険はないが、用心に越したことはないからな。この魔力と蒸気機関を合わせる事で出力を上げ、一時的に速度を上げられないかって事だ」
「なるほど。何だか難しそうですね」
「そうなんだ。しばらくは、こいつに掛かりきりになるだろうな。ああ、嬢ちゃんの器具の方は安心してくれ。こっちとは別の班に任せているから、ちゃんと明後日には届けさせる」
「ありがとうございます」
「完成したら、嬢ちゃんも乗ってみるか?」

 ライナーからそんな提案をされたクララは、目を輝かせていた。これがどんなものなのか気になっているからだ。それに、マリンウッドの遊園地で絶叫系アトラクションを満喫した経験があるのも大きいだろう。
 だが、これにはリリンがいい顔をしなかった。

「是非、安全確認が十二分に済んだ後でお願いします」

 新しい物には未知の危険が付きまとう。いきなり試乗の段階で招待されても、事故が怖い。なので、安全確認が取れてからではないと、リリンも許可は出せない。

「おう。それはもちろんだ。さすがの俺達も安全確認が済んでいないものに、嬢ちゃんを乗せるなんて事はしねぇさ」
「それは良かったです。では、器具の方はお願いします」
「ああ、任せとけ」

 ライナーに器具の注文もしたので、クララ達は研究開発班の工房から出て行った。

「そういえば、お金はどうすればいいんですか?」
「そちらは、私の方で払っておきます。クララさんのお金の管理をしているのも私ですから」
「お願いします」

 支払いをどうして良いか分からないので、リリンがやってくれるのは、クララ的にも有り難かった。

「それにしても、かなり重要な開発をしているようでしたね。どんな風に動くのか全く分からないですが、大型の輸送手段が出来るのが良い事だとは分かりました」

 サーファは、そんな風にリリンに話しかけた。詳しい理論を聞いてもサーファには分からないが、今回話したのは、どのように使うかなので、サーファにも理解する事が出来た。

「そうですね。速い輸送手段が出来るのは、本当に良い事だと思います。それに、これは作物などの輸送だけでなく、私達の移動手段としても期待出来ますしね。安全面さえしっかりしていればの話ですが」
「そうですね。事故が起こってしまうのは、仕方ないですけど、それを極力減らせれば安心は出来ますしね。クララちゃんが乗るなら、万全にしておいて欲しいですし」
「ええ。本当にそうですね」

 二人は、クララの安全に余念がなかった。そんな二人にクララは苦笑いをしてしまうが、心の中では感謝でいっぱいだった。
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