上 下
76 / 122
聖女の旅行

ようやくの休み

しおりを挟む
 宿に戻ったクララは、ソファに座り込んだ。

「ふぅ……ちょっと疲れました」
「結構魔力を使ったみたいだし、また魔力暴走を起こすかもね」
「それって、この旅行中に起きますかね……?」
「う~ん……どうだろう? クララちゃんの成長次第かな。取りあえず、今日はもう寝ちゃいな。あ、その前にお風呂に入ろうか。汗でベトベトだもんね」
「は~い」

 クララは、サーファと一緒にお風呂に入ってから、大人しくベッドに入って眠りについた。クララの頭を撫でながら、その寝顔を見ていた。

「今日はよく頑張ったね。クララちゃんのおかげで、死者は一桁だって。この規模の噴火で一桁台の被害で済んだのは、初めてみたいだよ。本当にお手柄だね」

 静かな寝息を立てているクララを起こさないくらいに小さな声で、サーファは喋り掛けた。クララはそれに反応するという事はなかった。

「…………」

 サーファは、キョロキョロと周囲を見回して、誰もいない事を確認する。そして、そっとクララの頬、それも唇に近いところに、そっとキスをした。

「お疲れ様……」

 サーファはそう囁いてから寝室を出て行った。

────────────────────────

 一方で、リリンは土砂崩れを起こした場所の通行止め解消を行っていた。最初の土砂崩れへの対処で、コツを掴んだので、こちらの土砂崩れは二時間半で解消出来た。

「はぁ……もう夜になりますね……」

 なるべく早く戻りたいと考えていたリリンは、近くに水路に流れる土砂が、まだまだある事に気が付き、また深いため息を零す。リリンは、水路と道に沿って移動していく。すると、三つ目の土砂崩れを見つけた。ただ、ここの土砂崩れは、他の二つと違って、ほとんど土砂がなかった。その理由は、単純だった。地上職員が撤去をしていたからだ。
 職員の一人が、リリンに気が付き近づいて来た。

「もしや、リリン様ですか?」
「そうですが、様付けはいりません。その様子だと、メイリーから話を聞いているようですね」
「はい。もし合流する事があれば、協力して事に当たるようにと仰せつかっています」
「分かりました。ここに来るまでにあった土砂は撤去しておきました。事が終わったら、確認しておいてください。他に、何か手伝う事はありますか?」
「では、消火の手伝いをお願いします。西側にある街で、かなり延焼しているらしいので。火山灰も酷いですから、布などで口元を覆ってください」

 職員はそう言って、一枚の布をリリンに渡す。

「分かりました。消火に回りましょう」

 布を受け取ったリリンは、南に大回りして西へと回っていった。先程の街の西側には、溶岩が流れていたので、大火事になっていた。だが、リリンが今来た場所は、溶岩では無く噴石が大量に降り注いだ結果、火事になっているようだった。
 避難は完了しているので、後は消火するだけだ。消火の手が回っていない理由は、単純に人数不足からだった。
 リリンは、誰も手が付けられていない箇所から、消火を始めた。周囲に人がいる可能性も考えて、窒息消火ではなく水魔法での消火をしていた。
 その消火作業も三時間程で、完了する。その頃には、もう日も沈んで、夜になっていた。リリンは、職員と合流する。

「ご協力ありがとうございました! おかげさまで、この街の火災は鎮火しました」
「お力になれたようで良かったです。他に、火災で困っているところはありませんか?」
「今のところは大丈夫なはずです。こちらに、その手の報告は来ていませんから」
「そうですか。では、私は避難所に向かいます」
「はい。ゆっくり休んで下さい。本当にご協力頂きありがとうございました」

 職員からのお礼にリリンも頭を下げて答える。そして、避難所の方へと向かって行った。先程の大回りで、避難所の大体の場所は分かっている。急いで避難所に向かいたいところだったが、ここまで働き通しで、肉体的にも精神的にも疲労しているので、歩いて避難所まで移動した。
 一時間で避難所に着いたリリンは、真っ先にクララとサーファを探し始めた。

「別のところを手伝っているのでしょうか?」

 クララ達の姿を確認出来なかったリリンは、二人がこことは別の場所で手伝いをしているのでは無いかと考えた。
 そんなリリンの元に、見覚えのある猫族がやってくる。

「あなたは……あの街にいた看護師の」
「あ、はい。ニャミーと申します。もしかして、魔聖女様達をお探しですか?」

 リリンの顔を覚えていたニャミーは、クララ達を探していると察して、駆け寄ったのだ。

「はい。どちらにいるかご存知なのですか?」
「はい! 魔聖女様達は、宿に戻って休むとおっしゃっていました」
「そうですか。教えて頂きありがとうございます」
「いえいえ、魔聖女様達には、お世話になりましたので」

 ニャミーのこの言葉で、クララ達がしっかりと仕事を熟したのだと分かる。

「では、私は、宿に戻ります」
「は、はい! お疲れ様でした!」

 ニャミーに軽く頭を下げた後、リリンは宿へと向かっていった。宿の居間に到着すると、本を読んでいたサーファが、気が付いた。

「リリンさん。お疲れ様です。遅かったですね」
「ええ、消火の他に土砂の撤去などもしていましたから」
「ああ、だから、泥も付いているんですね。先にお風呂に行っちゃってください。その間に簡単なご飯の用意をしておきますので」
「そうですか。では、お言葉に甘えましょう」

 リリンは、サーファの言葉に甘えて、お風呂に入った。火事と土砂崩れに対処したリリンは、煤と泥にまみれていた。

「服も洗っておきましょう」

 仕事着であるメイド服も同様に汚れてしまったので、ついでに洗濯もしていく。クララ達の服は、クララが眠った後で、サーファが洗っておいた。
 身体も服も綺麗にしたリリンは、ゆっくりと湯船に浸かって身体を休めた。
 お風呂から出たリリンは、まっすぐ居間に向かうのでは無く、一度寝室に寄った。サーファが居間に一人でいたという事は、クララは寝室で寝ているだろうと考えたからだ。
 クララは、相変わらずしずかに寝息を立てながら眠りについている。リリンは、クララを起こさないように細心の注意を払いながら、ベッドに近づき、クララの寝顔を覗きこむ。クララのあどけない寝顔に、頬を緩ませると、クララの頬に軽くキスをした。それは、サーファがしたところとちょうど反対側だった。
 クララの様子を見終わった後は、サーファが作ってくれたご飯を食べに居間に戻る。サーファが作ってくれたのは、少し薄めのパンケーキだった。

「随分と可愛らしいものを作りましたね」
「えっ、そうですか?」
「てっきり、ステーキか何かが出て来るものかと」
「さ、さすがに、この状況でステーキは焼きませんよ」

 サーファは、少し顔を赤くしながらそう言った。

「これもあなたらしいといえば、あなたらしいのかもしれませんね。では、頂きながら互いに報告し合いましょうか」
「はい」

 リリンとサーファは、パンケーキを食べながら、手分けした後の報告をし合った。

「そうですか。魔力回復薬を……それは、改めてお礼を言わないといけませんね」
「クララちゃんが起きたら、避難所に向かいますか?」
「いえ、その前にクララさんの説教をします。また無理をしたということですから」
「それもそうですね。後は、今後の予定ですけど」

 アローナ火山が噴火した影響で、当初の予定は全て白紙になった。最悪の場合は、このまま帰路につくという事もあるだろう。そのため、改めて予定を練り直す必要があるのだ。

「そうですね……正直、今後の動き次第というところでしょうか。火山の噴火は治まったようですが、ここの施設が元の通りに営業するかどうかは分かりませんから。その辺りは、明日メイリーに確認しましょう。もしかしたら、まだ復興を手伝う事になるかもしれません」
「貴重な労働力ですしね。それは仕方ないと思います」

 この状況下では、三人の労働力が必要になる可能性が高い。そうなれば、三人とも断るような事はないだろう。

「これを食べたら、私達も休みましょう。サーファも、寝てはいないのでしょう?」
「あはは、バレましたか? 帰ってきた時に、何があったかを説明しておかないとって思いまして」
「それに関しては助かりました。ありがとうございます」
「いえ、気にしないで下さい。それじゃあ、洗い物も私がしちゃいますので、リリンさんは先にお休みになって下さい。一番疲れているんですから」
「その言葉にも甘えましょう。おやすみなさい、サーファ」
「はい。おやすみなさい、リリンさん」

 サーファに洗い物を任せて、寝室に入った。そして、クララと同じベッドの中に入る。クララを起こさないようにそっと入ったのだが、クララは薄目を開ける。

「リリンさん……?」
「すみません、起こしてしまいましたね。ただいま帰りました。まだ夜ですので、寝ていて大丈夫ですよ」
「むにゅ……」

 クララはもぞもぞとしながら、リリンに近づいてぴったりと寄り添った。リリンは、優しく微笑みながら、クララに布団をかけ直して一緒に眠りについた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

兎人ちゃんと異世界スローライフを送りたいだけなんだが

アイリスラーメン
ファンタジー
黒髪黒瞳の青年は人間不信が原因で仕事を退職。ヒキニート生活が半年以上続いたある日のこと、自宅で寝ていたはずの青年が目を覚ますと、異世界の森に転移していた。 右も左もわからない青年を助けたのは、垂れたウサ耳が愛くるしい白銀色の髪をした兎人族の美少女。 青年と兎人族の美少女は、すぐに意気投合し共同生活を始めることとなる。その後、青年の突飛な発想から無人販売所を経営することに。 そんな二人に夢ができる。それは『三食昼寝付きのスローライフ』を送ることだ。 青年と兎人ちゃんたちは苦難を乗り越えて、夢の『三食昼寝付きのスローライフ』を実現するために日々奮闘するのである。 三百六十五日目に大戦争が待ち受けていることも知らずに。 【登場人物紹介】 マサキ:本作の主人公。人間不信な性格。 ネージュ:白銀の髪と垂れたウサ耳が特徴的な兎人族の美少女。恥ずかしがり屋。 クレール:薄桃色の髪と左右非対称なウサ耳が特徴的な兎人族の美少女。人見知り。 ダール:オレンジ色の髪と短いウサ耳が特徴的な兎人族の美少女。お腹が空くと動けない。 デール:双子の兎人族の幼女。ダールの妹。しっかり者。 ドール:双子の兎人族の幼女。ダールの妹。しっかり者。 ルナ:イングリッシュロップイヤー。大きなウサ耳で空を飛ぶ。実は幻獣と呼ばれる存在。 ビエルネス:子ウサギサイズの妖精族の美少女。マサキのことが大好きな変態妖精。 ブランシュ:外伝主人公。白髪が特徴的な兎人族の女性。世界を守るために戦う。 【お知らせ】 ◆2021/12/09:第10回ネット小説大賞の読者ピックアップに掲載。 ◆2022/05/12:第10回ネット小説大賞の一次選考通過。 ◆2022/08/02:ガトラジで作品が紹介されました。 ◆2022/08/10:第2回一二三書房WEB小説大賞の一次選考通過。 ◆2023/04/15:ノベルアッププラス総合ランキング年間1位獲得。 ◆2023/11/23:アルファポリスHOTランキング5位獲得。 ◆自費出版しました。メルカリとヤフオクで販売してます。 ※アイリスラーメンの作品です。小説の内容、テキスト、画像等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

【宮廷魔法士のやり直し!】~王宮を追放された天才魔法士は山奥の村の変な野菜娘に拾われたので新たな人生を『なんでも屋』で謳歌したい!~

夕姫
ファンタジー
【私。この『なんでも屋』で高級ラディッシュになります(?)】 「今日であなたはクビです。今までフローレンス王宮の宮廷魔法士としてお勤めご苦労様でした。」 アイリーン=アドネスは宮廷魔法士を束ねている筆頭魔法士のシャーロット=マリーゴールド女史にそう言われる。 理由は国の禁書庫の古代文献を持ち出したという。そんな嘘をエレイナとアストンという2人の貴族出身の宮廷魔法士に告げ口される。この2人は平民出身で王立学院を首席で卒業、そしてフローレンス王国の第一王女クリスティーナの親友という存在のアイリーンのことをよく思っていなかった。 もちろん周りの同僚の魔法士たちも平民出身の魔法士などいても邪魔にしかならない、誰もアイリーンを助けてくれない。 自分は何もしてない、しかも突然辞めろと言われ、挙句の果てにはエレイナに平手で殴られる始末。 王国を追放され、すべてを失ったアイリーンは途方に暮れあてもなく歩いていると森の中へ。そこで悔しさから下を向き泣いていると 「どうしたのお姉さん?そんな収穫3日後のラディッシュみたいな顔しちゃって?」 オレンジ色の髪のおさげの少女エイミーと出会う。彼女は自分の仕事にアイリーンを雇ってあげるといい、山奥の農村ピースフルに連れていく。そのエイミーの仕事とは「なんでも屋」だと言うのだが…… アイリーンは新規一転、自分の魔法能力を使い、エイミーや仲間と共にこの山奥の農村ピースフルの「なんでも屋」で働くことになる。 そして今日も大きなあの声が聞こえる。 「いらっしゃいませ!なんでも屋へようこそ!」 と

聖女としてきたはずが要らないと言われてしまったため、異世界でふわふわパンを焼こうと思います!

伊桜らな
ファンタジー
家業パン屋さんで働くメルは、パンが大好き。 いきなり聖女召喚の儀やらで異世界に呼ばれちゃったのに「いらない」と言われて追い出されてしまう。どうすればいいか分からなかったとき、公爵家当主に拾われ公爵家にお世話になる。 衣食住は確保できたって思ったのに、パンが美味しくないしめちゃくちゃ硬い!! パン好きなメルは、厨房を使いふわふわパン作りを始める。  *表紙画は月兎なつめ様に描いて頂きました。*  ー(*)のマークはRシーンがあります。ー  少しだけ展開を変えました。申し訳ありません。  ホットランキング 1位(2021.10.17)  ファンタジーランキング1位(2021.10.17)  小説ランキング 1位(2021.10.17)  ありがとうございます。読んでくださる皆様に感謝です。

神によって転移すると思ったら異世界人に召喚されたので好きに生きます。

SaToo
ファンタジー
仕事帰りの満員電車に揺られていたサト。気がつくと一面が真っ白な空間に。そこで神に異世界に行く話を聞く。異世界に行く準備をしている最中突然体が光だした。そしてサトは異世界へと召喚された。神ではなく、異世界人によって。しかも召喚されたのは2人。面食いの国王はとっととサトを城から追い出した。いや、自ら望んで出て行った。そうして神から授かったチート能力を存分に発揮し、異世界では自分の好きなように暮らしていく。 サトの一言「異世界のイケメン比率高っ。」

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

処理中です...