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10.弟子のいない数日間、師匠は
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☆ちょっといちゃいちゃする程度です
私は、小さな洗濯場で、水につけるとあわあわになり汚れを落とす葉っぱで服や小物を洗いながら、シューのことを考えていた。
学校は卒業したはずなのに、呼び出し。しかも急な。
制服とは違う黒い装束で、どこからともなく現れたかっこいい翼竜に乗って行ってしまった。
守秘義務があるそうだから、言えないこともあるのだろう。
詮索はしない方がいいのかもしれない。
数日って何日だろう。いつ帰ってきてもいいようにしておきたい。
手は勝手に動いていて、気づくとあとは干すだけになっていた。
香草を煮出したもので仕上げもしてある。虫よけにもなるほのかないい香り。
日当たりのいい場所に生えている木と木の間に張った縄に1枚づつかけていく。
今日は過ごしやすい天気で、遠見をするまでもなく雨の気配はない。
畑で、辛いけど風味がよく後味が爽やかな小さな実と葉を摘んだ。
実は茹でて、葉はそのまま、真っ直ぐに裂ける樹皮で編んだ平たい籠に並べて干した。
実は表面が乾いたら塩漬けにする。蜜漬けにも少し。
肉料理に合うのだけど、シューは好きだろうか。
石鯰が吐いた石の中に魔法を留められる質のいい鉱石があったので、鎮静の魔法をこめた。
丸一日もすれば自然に回復するほどの量の魔力を、毎日少しづつ溜める。
この森は魔力が豊かで、日々取り込める量も多い。
こうして魔法をこめた石はいくつか作ってある。
森に入る時に紐でくくって下げていくと、襲ってきた獣がしばらくの間大人しくなって時間が稼げるので、改めて鎮静の魔法をかけて逃げるのだ。
食事は結局、以前のように剛毛甘瓜をかじって済ませてしまった。
名前の通り甘くて、美味しいし水分が多くて滋養があるから…うん。
いつの間にか、ここ数日は媚薬を調薬していた時間になっていた。
その気になったら調剤しようかなくらいの気持ちで薬の部屋に向かう。
背もたれのある大きな椅子に深く腰かけた。
媚薬は100本まであと、35本。
そういえば、シューが何か言っていた。私は殆ど意識がなかったのだけれど。
触れていいのは媚薬のためですか…とか。
いやらしい気持ちになるためにシューにしてもらったいろいろのことは確かにそう、媚薬のため。
――今朝したことも、そうだった?
媚薬のためになんて思ってはいなかった…ような?
シューの反応をただ見たかった…ような?
興味があった……単に触れたかった…ような?
私に欲情するシューが見たい…というのとは違った…と思う。
明るいところで見たかったとは思ったけれど、媚薬のために後で思い出したいから…ではないと思う。
「う~~~~~ん…」
考えても余計にこんがらがって、なんの答えも出そうにない。
もう寝てしまおうと、寝室に向かった。
☆・☆・☆・☆・☆
朝から一日かけて、ひたすら温室の果物を採って切って剥いて干したり煮たり蜜に漬ける作業に没頭した。
使い道のない皮や種は、ケバコや森に放している毒兎や魔羊に与えた。
少し傷んでいる部分や端の欠片をつまんで食事代わりにしてしまったけれど、食欲もなかったので…仕方ない。
蜜が少なくなってしまったので、蕾蜜や甘い木の樹液を採って煮詰めなければ。今日使った小刀も砥ごう。使った分の薪も増やしておかないと。
本格的に暑くなる前にしておくこともいくつかあるけれど、今急いでしなくてもいいか~なんて考えてしまう。
シューがいないと、生活に張り合いがない。
やはり、媚薬は調薬できなかった。
☆・☆・☆・☆・☆
家の北側で、暑さ負けの薬の材料になる葉と目についた薬効のある茸を摘んだ。
仕事を頑張りすぎた足枷丸蜂が脚につけた花粉の重みで飛べなくなり地面でひっくり返っていたので、花粉を少しちぎった。
怒られるかと思ったけれど、飛んで行ってくれた。
花粉は持ってきていた瓶に入れた。これは滋養強壮の効果が高くて重宝する。
また今日も甘瓜でいいかななんて考えながら家に入ると、人の気配がした。
籠を置き急いで探すと薬の部屋に、あの真っ黒の服ではない、いつものシューがいた。
「おかえりなさい、師匠」
「しゅ、シューこそ…おかえり…」
微笑むシューに走り寄り抱きつくと、抱きしめ返してくれた。
「………師匠、口づけてもいいですか…?」
「うん」
見上げて少しかかとを上げると、額に唇が触れた。
何故か勝手に唇と唇だと思っていたので、なんだか拍子抜けしてしまった。
「…花の香りがします」
「うん…あ」
今度はこめかみに。まだ続きがあった。
瞼に唇を寄せられたので、瞳を閉じた。
頬と、耳元にも。
耳たぶを緩く食まれて、びくりと身体が跳ねた。
「んっ」
柔らかい感触を、今度こそ唇に感じた。
音を立てて離れた…と思ったら、優しく押しつけられて、啄まれて、じわじわと身体の力が抜けていく。
「師匠…」
「ちょ、ちょっと待って…」
「………待てません…」
「ん…っ」
そう言って強く抱きしめられたけれど、すぐに腕の力を緩めてくれた。
「ごめんね、シュー」
「……いえ…」
少し不満そうなシューを置いて私は作業台に向かい、ぱぱぱっと媚薬を20本調合した。
「お待たせ、シュー」
勢いよく振り返ると、シューは笑みをこぼした。
「いやらしい気分になりましたか」
「うん。中断させちゃってごめんね…続きがあるよね?」
「あります」
近寄ると腰を抱き寄せられて、私も背にゆるく腕を回した。
密着はせず、見つめ合う。
シューを見上げてみるものの、彼の表情になんだかいたたまれなくなってしまって、目を伏せ胸に顔を埋めるとふっと笑う気配を感じた。
腰にあった手は背中と後頭部に当てられていて、片方の手は髪を梳くように撫でられ旋毛あたりに口元を寄せられている。
「ん、ふふっ、なに、くすぐったい、よ」
「…師匠」
呼ばれて顔を上げると、再び唇に口づけられた。
熱いと感じた瞬間に離れていく。
「夜、いやらしいことをするんですよね?」
「……うん」
今からしてもよかったけど。
昔誰かに、そういうことは夜にするものだと聞いたから。我慢。
――なんて考えながら、さらに5本を調薬して、軽食の時間にすることにした。
赤い花の花びらで作る酸味の強いお茶に、花粉の粒を浮かべた。甘い花の香りの小さな玉が儚く溶けていく。
「酸っぱくて甘くて美味しいです」
「疲れたときにはいちばんの組み合わせだね~」
短時間で媚薬を25本も調薬した疲れが癒えていくのがわかる。
粉と油と残りの蜜と細かく刻んだ木の実を混ぜて、まっすぐな棒で平らに伸ばして適当な大きさに切って焼いたものも勧めた。
短時間で作れる割に、食感がよくて香ばしいし美味しい。と思う。
話題は専ら昨日と一昨日の私がどうして過ごしていたかで、シューは相槌を打ったり質問したりしながら聞いていてくれた。
不意に気づいた。生活に張り合いがないとかそんなものではなく、シューがいない間、私は寂しかったんだ。
その後シューは、「離れたくないです」と言いながらも、しなくてはいけないことがあると渋々森へ出かけて行った。
私もそう思って寂しさを感じたけれど、飲み込んで夕食の支度にとりかかった。
「おいしいです…しみます…」
夕食は、ケバコの卵と細かく切った燻製肉や野菜や茸を混ぜて、浅い鍋でじっくりと焼いてチーズをかけたものと、柔らかい豆の少し酸味のあるスープに簡単なパン。
目新しい料理は用意できなかったのに、しみじみと味わってくれるシュー。
なんだか嬉しい。いつになく食が進んだ。
シューに以前のように魔法で灯りを出してもらい、柔らかに照らされた私たちは寝台の上に座って向かい合っている。
真剣な眼差しのシューがおもむろに言った。
「師匠、結婚してください」
「え、無理」
即答してしまった。
いや、だって、無理だし…
<媚薬:90本(うち35本納品)>
私は、小さな洗濯場で、水につけるとあわあわになり汚れを落とす葉っぱで服や小物を洗いながら、シューのことを考えていた。
学校は卒業したはずなのに、呼び出し。しかも急な。
制服とは違う黒い装束で、どこからともなく現れたかっこいい翼竜に乗って行ってしまった。
守秘義務があるそうだから、言えないこともあるのだろう。
詮索はしない方がいいのかもしれない。
数日って何日だろう。いつ帰ってきてもいいようにしておきたい。
手は勝手に動いていて、気づくとあとは干すだけになっていた。
香草を煮出したもので仕上げもしてある。虫よけにもなるほのかないい香り。
日当たりのいい場所に生えている木と木の間に張った縄に1枚づつかけていく。
今日は過ごしやすい天気で、遠見をするまでもなく雨の気配はない。
畑で、辛いけど風味がよく後味が爽やかな小さな実と葉を摘んだ。
実は茹でて、葉はそのまま、真っ直ぐに裂ける樹皮で編んだ平たい籠に並べて干した。
実は表面が乾いたら塩漬けにする。蜜漬けにも少し。
肉料理に合うのだけど、シューは好きだろうか。
石鯰が吐いた石の中に魔法を留められる質のいい鉱石があったので、鎮静の魔法をこめた。
丸一日もすれば自然に回復するほどの量の魔力を、毎日少しづつ溜める。
この森は魔力が豊かで、日々取り込める量も多い。
こうして魔法をこめた石はいくつか作ってある。
森に入る時に紐でくくって下げていくと、襲ってきた獣がしばらくの間大人しくなって時間が稼げるので、改めて鎮静の魔法をかけて逃げるのだ。
食事は結局、以前のように剛毛甘瓜をかじって済ませてしまった。
名前の通り甘くて、美味しいし水分が多くて滋養があるから…うん。
いつの間にか、ここ数日は媚薬を調薬していた時間になっていた。
その気になったら調剤しようかなくらいの気持ちで薬の部屋に向かう。
背もたれのある大きな椅子に深く腰かけた。
媚薬は100本まであと、35本。
そういえば、シューが何か言っていた。私は殆ど意識がなかったのだけれど。
触れていいのは媚薬のためですか…とか。
いやらしい気持ちになるためにシューにしてもらったいろいろのことは確かにそう、媚薬のため。
――今朝したことも、そうだった?
媚薬のためになんて思ってはいなかった…ような?
シューの反応をただ見たかった…ような?
興味があった……単に触れたかった…ような?
私に欲情するシューが見たい…というのとは違った…と思う。
明るいところで見たかったとは思ったけれど、媚薬のために後で思い出したいから…ではないと思う。
「う~~~~~ん…」
考えても余計にこんがらがって、なんの答えも出そうにない。
もう寝てしまおうと、寝室に向かった。
☆・☆・☆・☆・☆
朝から一日かけて、ひたすら温室の果物を採って切って剥いて干したり煮たり蜜に漬ける作業に没頭した。
使い道のない皮や種は、ケバコや森に放している毒兎や魔羊に与えた。
少し傷んでいる部分や端の欠片をつまんで食事代わりにしてしまったけれど、食欲もなかったので…仕方ない。
蜜が少なくなってしまったので、蕾蜜や甘い木の樹液を採って煮詰めなければ。今日使った小刀も砥ごう。使った分の薪も増やしておかないと。
本格的に暑くなる前にしておくこともいくつかあるけれど、今急いでしなくてもいいか~なんて考えてしまう。
シューがいないと、生活に張り合いがない。
やはり、媚薬は調薬できなかった。
☆・☆・☆・☆・☆
家の北側で、暑さ負けの薬の材料になる葉と目についた薬効のある茸を摘んだ。
仕事を頑張りすぎた足枷丸蜂が脚につけた花粉の重みで飛べなくなり地面でひっくり返っていたので、花粉を少しちぎった。
怒られるかと思ったけれど、飛んで行ってくれた。
花粉は持ってきていた瓶に入れた。これは滋養強壮の効果が高くて重宝する。
また今日も甘瓜でいいかななんて考えながら家に入ると、人の気配がした。
籠を置き急いで探すと薬の部屋に、あの真っ黒の服ではない、いつものシューがいた。
「おかえりなさい、師匠」
「しゅ、シューこそ…おかえり…」
微笑むシューに走り寄り抱きつくと、抱きしめ返してくれた。
「………師匠、口づけてもいいですか…?」
「うん」
見上げて少しかかとを上げると、額に唇が触れた。
何故か勝手に唇と唇だと思っていたので、なんだか拍子抜けしてしまった。
「…花の香りがします」
「うん…あ」
今度はこめかみに。まだ続きがあった。
瞼に唇を寄せられたので、瞳を閉じた。
頬と、耳元にも。
耳たぶを緩く食まれて、びくりと身体が跳ねた。
「んっ」
柔らかい感触を、今度こそ唇に感じた。
音を立てて離れた…と思ったら、優しく押しつけられて、啄まれて、じわじわと身体の力が抜けていく。
「師匠…」
「ちょ、ちょっと待って…」
「………待てません…」
「ん…っ」
そう言って強く抱きしめられたけれど、すぐに腕の力を緩めてくれた。
「ごめんね、シュー」
「……いえ…」
少し不満そうなシューを置いて私は作業台に向かい、ぱぱぱっと媚薬を20本調合した。
「お待たせ、シュー」
勢いよく振り返ると、シューは笑みをこぼした。
「いやらしい気分になりましたか」
「うん。中断させちゃってごめんね…続きがあるよね?」
「あります」
近寄ると腰を抱き寄せられて、私も背にゆるく腕を回した。
密着はせず、見つめ合う。
シューを見上げてみるものの、彼の表情になんだかいたたまれなくなってしまって、目を伏せ胸に顔を埋めるとふっと笑う気配を感じた。
腰にあった手は背中と後頭部に当てられていて、片方の手は髪を梳くように撫でられ旋毛あたりに口元を寄せられている。
「ん、ふふっ、なに、くすぐったい、よ」
「…師匠」
呼ばれて顔を上げると、再び唇に口づけられた。
熱いと感じた瞬間に離れていく。
「夜、いやらしいことをするんですよね?」
「……うん」
今からしてもよかったけど。
昔誰かに、そういうことは夜にするものだと聞いたから。我慢。
――なんて考えながら、さらに5本を調薬して、軽食の時間にすることにした。
赤い花の花びらで作る酸味の強いお茶に、花粉の粒を浮かべた。甘い花の香りの小さな玉が儚く溶けていく。
「酸っぱくて甘くて美味しいです」
「疲れたときにはいちばんの組み合わせだね~」
短時間で媚薬を25本も調薬した疲れが癒えていくのがわかる。
粉と油と残りの蜜と細かく刻んだ木の実を混ぜて、まっすぐな棒で平らに伸ばして適当な大きさに切って焼いたものも勧めた。
短時間で作れる割に、食感がよくて香ばしいし美味しい。と思う。
話題は専ら昨日と一昨日の私がどうして過ごしていたかで、シューは相槌を打ったり質問したりしながら聞いていてくれた。
不意に気づいた。生活に張り合いがないとかそんなものではなく、シューがいない間、私は寂しかったんだ。
その後シューは、「離れたくないです」と言いながらも、しなくてはいけないことがあると渋々森へ出かけて行った。
私もそう思って寂しさを感じたけれど、飲み込んで夕食の支度にとりかかった。
「おいしいです…しみます…」
夕食は、ケバコの卵と細かく切った燻製肉や野菜や茸を混ぜて、浅い鍋でじっくりと焼いてチーズをかけたものと、柔らかい豆の少し酸味のあるスープに簡単なパン。
目新しい料理は用意できなかったのに、しみじみと味わってくれるシュー。
なんだか嬉しい。いつになく食が進んだ。
シューに以前のように魔法で灯りを出してもらい、柔らかに照らされた私たちは寝台の上に座って向かい合っている。
真剣な眼差しのシューがおもむろに言った。
「師匠、結婚してください」
「え、無理」
即答してしまった。
いや、だって、無理だし…
<媚薬:90本(うち35本納品)>
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