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大魔女と魔王:01
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魔王が王城を占拠してから月が一周した。
城の外壁に沿って張られた結界は確認されているが、特に目立った動きはない。
二つ名を与えられた名うての騎士や魔導士を集めた少数精鋭の征討部隊は、王都に残る民に盛大に見送られて、魔王を討つべく静かな城に向かった。
―――先頭の魔女が結界に近づくと、彼女以外の全員が、そして彼女も消えた。
と、後方に控えていた王軍の斥候は報告した。
さらに月が一度周った。
王家が他国から呼び寄せた魔導士が魔力で城内を探査するが、魔王と人…恐らく消えたはずの盾役の魔女の気配を僅かに感じることしかできない。
魔王を討伐するために召集された、少女にしか見えない無口な魔女は出自を語らず、高い魔力以外は信用されていなかった。
王族は、城に向けて魔法の伝書鳥を飛ばすよう魔導士に命じた。
小鳥に姿を変えた書簡は、魔力に引き寄せられて魔女の元に届くはずだ。
――要生存確認
――身命を賭してでも魔王を抑え隙を見て殺せ
――使用人棟の使用は許すが王宮への立ち入りは禁ず
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「…ん?」
ある朝洗濯場で敷布を洗っていると、知らない誰かの魔力を感じた。
空を見上げていると、小さな何かがひらひらと舞いながら落ちてきた。掌で受ける。
以前森の奥で眠っていた私に届いたものと同じ、魔法の書状だ。
魔王の結界を通ることができるほどの高度な魔法が付与されている。
「ふんふん、なるほど~」
魔王は倒せない。魔法は封じられている。心得もない武器や体術で勝てるとは思えない。
支給されて着ていた服は、仕立てはいいものの少々動きづらかったので、探し出した使用人の仕着せを勝手に借りている。
これを見つけたのが使用人棟か。ここから近く、炊事場もある。
主に王宮の客間で過ごし、寝台も既に使っている。ここを生きて出ることがあれば、罰を受けるだろうか。仕方ない。
調理場の食料品は魔物に荒らされていて、塩は充分にあったので助かったが保存食の類は少なく、城内の樹になる実や畑の香草などでしのいでいた。魔王が近くの川で魚を捕ってくることもあった。
狭い書面に指で「食料希望」「生存」と書くと、燃え上がって消えた。
差出人に伝わっているはず。
「…じゃあ移ろうかな」
独り言と共に腰を上げた。洗い上げた洗濯物を干し、雲ひとつない空に満足して歩き出す。
そもそも、客間の寝室を使う事にしたのは魔王だ。寝台が何度も転がれるほど大きく寝心地も格別なのは魅力だが、いかんせん調度品も壁紙も豪奢すぎて煌びやかで落ち着かない。
運良く使用人棟の一室が空いていたので、小さな窓を開けて風を通し、物置部屋から寝具を拝借してきた。
古い寝台と机と収納家具で手狭な部屋は薄暗いが、決して居心地は悪くない。
掃除をしたいが、睡気に逆らわずに眠ることにした。
「お前何でこんなとこで寝てんだよ」
「…んん~…もー夜~…?」
「さっき日が沈んだ」
「あ、食べ物の差し入れがあるかもしれないから見つけたら取ってきてね…」
「何の話だ」
寝転んだままの体勢で届いた手紙について話すと、魔王は無造作に丸めた敷布を差し出しながら鼻で笑った。
「従う必要ねえだろ、お前弱みでも握られてんのか」
「あ、洗濯物ありがと。え、王家の言うことは絶対じゃないの?」
森にいた私に届いた手紙に宛名はなかったが、魔力が高い者の魔王征討軍への参加は勅令で至上命令で逆らうことは許さないとかなんとか書かれていた。城が魔王に制圧されたとその時に初めて知った。
無視してもよかったのなら、きっと今ここにはいないのに。
「まあ、魔王は関係ないか…」
「ねえな」
きっぱりと言い切ると、時と場合と場所を選ばない魔王がのしかかってきた。
ギシッ
ギシ…ギシギシ…ギシッ…ギシ…
「ん、んん…ん、う、ううぅ~」
「集中しろ」
やっと唇を解放した魔王がそう言うが、私は寝台のどこからか鳴り続ける音が気になってそれどころではない。
先程までひとりで床に入っていた時にもあったきしみは些細なものだった。
魔王の重みで壊れてしまわないかと不安になる。
「む、無理~~」
「…しょーがねえな」
「わ、あっ!」
ギシッ
膝の裏を掴まれ腰が浮き、性急に挿入された。
同時に一際大きく響いたきしみ音に焦る。
魔力を纏う、深い口づけと夜着替わりにしている借り物の開襟シャツをめくり素肌を撫でる不埒な指だけで、準備ができてしまっていた。
「は、あ、う、動くと壊れちゃう…かも…っ」
「腕、首に回せ」
上半身を起こして言われるまま首元に腕を絡めると、私の脚の間にいた魔王は掌を膝裏から臀部に移動させて私ごと膝立ちになった。寝台がまた悲鳴を上げる。
そして、床に降りた。慌てて首に縋りついく。
――私は、寝台の上で魔王と繋がったまま抱き起こされ、今はその寝台の脇にいる。
立ち上がった魔王に、太ももに当たる腕と尻臀を掴む手で持ち上げられている。広げられた脚は膝から先が浮いて、心許ない。
手を離されたら、首に回した両腕の力では足りずに落下してしまうだろう。魔王は長身なので、高さもそれなりにある。
「や、これやだっ」
「動き辛ぇ…」
「じゃあ降ろしてよ~~~」
そのまま難なく数歩進んだかと思うと、壁に背が当たった。
「え、あ、」
足は床につかないまま背中を壁に押しつけられて、中のものがゆっくりと抜き差しされる。
「あ、あっ、やっ」
「おい、見てみろよ」
「や…やだぁ」
繋がっているところを見せようとしたのか少し上体が離されてしまったので、必死で首にしがみつき、引き寄せた。
「も、やだって言ってるのに…っ」
「イヤが多い。イイ時はイイって言えよ」
「い、いいときなん、てっ、あ、」
囚われた当初は倒錯的な交わりを強要されていたけれど、いちど泣いて激しく抗議をしたせいか近頃は普通…普通に…普通ってなんだろ…
壁に貼りつけられて、魔王の物がずるずると中を擦っていく。
こんな体勢なのに、体重がかかって苦しいことはない。
何度も奥を突かれて、徐々に追い立てられていく。
「っ、あ、あっ、ん…んっ」
「ここがいいのか?」
「あ…、ん、そう、あっ、」
すっかり覚えてしまった、頭の中が白くなるような感覚を、目を閉じて追う。
「ん、あ、ああ…っ、~~~っ」
魔王の痺れるような重たい魔力を注ぎ込まれて、身体中が痙攣する。
私の両腕の力が緩んでも、落ちることはなかった。
寝台に下ろされて聞こえたきしみ音にぱっと意識が浮上した。反射的に身を固くする。
脇に立って私を見下ろす魔王があきれたように言った。
「お前はここがいいのかもしれねえけど、元の部屋に戻るぞ」
「………あ」
「ここがいいのか」の『ここ』は、この部屋のことだったのか。
―――私は、何だと思った?
こんな狭くて小汚い部屋の何がいいんだなどとぶつぶつ言っている魔王に、思わず薄い枕を投げつけた。(届かなかった)
城の外壁に沿って張られた結界は確認されているが、特に目立った動きはない。
二つ名を与えられた名うての騎士や魔導士を集めた少数精鋭の征討部隊は、王都に残る民に盛大に見送られて、魔王を討つべく静かな城に向かった。
―――先頭の魔女が結界に近づくと、彼女以外の全員が、そして彼女も消えた。
と、後方に控えていた王軍の斥候は報告した。
さらに月が一度周った。
王家が他国から呼び寄せた魔導士が魔力で城内を探査するが、魔王と人…恐らく消えたはずの盾役の魔女の気配を僅かに感じることしかできない。
魔王を討伐するために召集された、少女にしか見えない無口な魔女は出自を語らず、高い魔力以外は信用されていなかった。
王族は、城に向けて魔法の伝書鳥を飛ばすよう魔導士に命じた。
小鳥に姿を変えた書簡は、魔力に引き寄せられて魔女の元に届くはずだ。
――要生存確認
――身命を賭してでも魔王を抑え隙を見て殺せ
――使用人棟の使用は許すが王宮への立ち入りは禁ず
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「…ん?」
ある朝洗濯場で敷布を洗っていると、知らない誰かの魔力を感じた。
空を見上げていると、小さな何かがひらひらと舞いながら落ちてきた。掌で受ける。
以前森の奥で眠っていた私に届いたものと同じ、魔法の書状だ。
魔王の結界を通ることができるほどの高度な魔法が付与されている。
「ふんふん、なるほど~」
魔王は倒せない。魔法は封じられている。心得もない武器や体術で勝てるとは思えない。
支給されて着ていた服は、仕立てはいいものの少々動きづらかったので、探し出した使用人の仕着せを勝手に借りている。
これを見つけたのが使用人棟か。ここから近く、炊事場もある。
主に王宮の客間で過ごし、寝台も既に使っている。ここを生きて出ることがあれば、罰を受けるだろうか。仕方ない。
調理場の食料品は魔物に荒らされていて、塩は充分にあったので助かったが保存食の類は少なく、城内の樹になる実や畑の香草などでしのいでいた。魔王が近くの川で魚を捕ってくることもあった。
狭い書面に指で「食料希望」「生存」と書くと、燃え上がって消えた。
差出人に伝わっているはず。
「…じゃあ移ろうかな」
独り言と共に腰を上げた。洗い上げた洗濯物を干し、雲ひとつない空に満足して歩き出す。
そもそも、客間の寝室を使う事にしたのは魔王だ。寝台が何度も転がれるほど大きく寝心地も格別なのは魅力だが、いかんせん調度品も壁紙も豪奢すぎて煌びやかで落ち着かない。
運良く使用人棟の一室が空いていたので、小さな窓を開けて風を通し、物置部屋から寝具を拝借してきた。
古い寝台と机と収納家具で手狭な部屋は薄暗いが、決して居心地は悪くない。
掃除をしたいが、睡気に逆らわずに眠ることにした。
「お前何でこんなとこで寝てんだよ」
「…んん~…もー夜~…?」
「さっき日が沈んだ」
「あ、食べ物の差し入れがあるかもしれないから見つけたら取ってきてね…」
「何の話だ」
寝転んだままの体勢で届いた手紙について話すと、魔王は無造作に丸めた敷布を差し出しながら鼻で笑った。
「従う必要ねえだろ、お前弱みでも握られてんのか」
「あ、洗濯物ありがと。え、王家の言うことは絶対じゃないの?」
森にいた私に届いた手紙に宛名はなかったが、魔力が高い者の魔王征討軍への参加は勅令で至上命令で逆らうことは許さないとかなんとか書かれていた。城が魔王に制圧されたとその時に初めて知った。
無視してもよかったのなら、きっと今ここにはいないのに。
「まあ、魔王は関係ないか…」
「ねえな」
きっぱりと言い切ると、時と場合と場所を選ばない魔王がのしかかってきた。
ギシッ
ギシ…ギシギシ…ギシッ…ギシ…
「ん、んん…ん、う、ううぅ~」
「集中しろ」
やっと唇を解放した魔王がそう言うが、私は寝台のどこからか鳴り続ける音が気になってそれどころではない。
先程までひとりで床に入っていた時にもあったきしみは些細なものだった。
魔王の重みで壊れてしまわないかと不安になる。
「む、無理~~」
「…しょーがねえな」
「わ、あっ!」
ギシッ
膝の裏を掴まれ腰が浮き、性急に挿入された。
同時に一際大きく響いたきしみ音に焦る。
魔力を纏う、深い口づけと夜着替わりにしている借り物の開襟シャツをめくり素肌を撫でる不埒な指だけで、準備ができてしまっていた。
「は、あ、う、動くと壊れちゃう…かも…っ」
「腕、首に回せ」
上半身を起こして言われるまま首元に腕を絡めると、私の脚の間にいた魔王は掌を膝裏から臀部に移動させて私ごと膝立ちになった。寝台がまた悲鳴を上げる。
そして、床に降りた。慌てて首に縋りついく。
――私は、寝台の上で魔王と繋がったまま抱き起こされ、今はその寝台の脇にいる。
立ち上がった魔王に、太ももに当たる腕と尻臀を掴む手で持ち上げられている。広げられた脚は膝から先が浮いて、心許ない。
手を離されたら、首に回した両腕の力では足りずに落下してしまうだろう。魔王は長身なので、高さもそれなりにある。
「や、これやだっ」
「動き辛ぇ…」
「じゃあ降ろしてよ~~~」
そのまま難なく数歩進んだかと思うと、壁に背が当たった。
「え、あ、」
足は床につかないまま背中を壁に押しつけられて、中のものがゆっくりと抜き差しされる。
「あ、あっ、やっ」
「おい、見てみろよ」
「や…やだぁ」
繋がっているところを見せようとしたのか少し上体が離されてしまったので、必死で首にしがみつき、引き寄せた。
「も、やだって言ってるのに…っ」
「イヤが多い。イイ時はイイって言えよ」
「い、いいときなん、てっ、あ、」
囚われた当初は倒錯的な交わりを強要されていたけれど、いちど泣いて激しく抗議をしたせいか近頃は普通…普通に…普通ってなんだろ…
壁に貼りつけられて、魔王の物がずるずると中を擦っていく。
こんな体勢なのに、体重がかかって苦しいことはない。
何度も奥を突かれて、徐々に追い立てられていく。
「っ、あ、あっ、ん…んっ」
「ここがいいのか?」
「あ…、ん、そう、あっ、」
すっかり覚えてしまった、頭の中が白くなるような感覚を、目を閉じて追う。
「ん、あ、ああ…っ、~~~っ」
魔王の痺れるような重たい魔力を注ぎ込まれて、身体中が痙攣する。
私の両腕の力が緩んでも、落ちることはなかった。
寝台に下ろされて聞こえたきしみ音にぱっと意識が浮上した。反射的に身を固くする。
脇に立って私を見下ろす魔王があきれたように言った。
「お前はここがいいのかもしれねえけど、元の部屋に戻るぞ」
「………あ」
「ここがいいのか」の『ここ』は、この部屋のことだったのか。
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