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リアムが失踪する前日。リアムは家族の洗脳を解くため訴えたという。その訴えは考えがあったものなのか賭けに出たのか…それはリアム本人しかわからない。だがハロルドの耳に入ったという事は失敗してしまったのだろう。

ソフィアはハロルドが用意した騎士たちに報告したという。我々家族が洗脳されていると訳が分からないことを言った弟がいると。その情報はすぐさまハロルドの耳に入ったが騎士たちも洗脳されているため命令されていないことはしない。

おかしな動きをしたら捕まえろという指示なだけでおかしな動きをするかもしれないやつを捕らえろとは言っていない。そんな使えない騎士たちが行動しなかったおかげでリアムは隙をつき行方をくらました。

バレッタはおかしいと感じてもただただミッチェル伯爵の後ろを歩き皇帝の元へ向かっている。通された部屋には皇帝とは感じれないだらけた態度でふんぞりかえっているハロルドがいた。それでもこの国の皇帝。最上級の挨拶を申し上げお話を伺う。ハロルドの隣には座ることも許されないオリビアが無表情で立っている。

「バレッタ・ミッチェルと言ったか…あの反逆者と婚約して少ししかたっとらんが客観的に見ればお主は共犯者かもしれん。そのことについてどう説明する?」

バレッタは目線を落とし言いにくそうに話し出した。

「陛下…お恥ずかしながらリアム様が起こしたことにつきましても存じておらず気が付きもしませんでした。ですがなぜご家族に申し上げたことが早朝には陛下のお耳に入り反逆者として追われる身なのでしょうか?!」

「おいっ!バレッタ!!そんなことを話せとは言われてないっ!」

それでもバレッタは立ち上がって話続けた。

「リアム様はそんなことをする方ではありませ…」

話している途中にバチンッ!!と頬を叩く大きな音が響き渡り伯爵の「黙れといっているんだっ!」と叫んだ。

娘を粛清するように叩いたその衝撃でバレッタは床に倒れこむ。

「本当にパパどうしちゃったの?!殴られたこともないし殴って解決させるパパじゃなかった…もとに戻ってよっ!」

「何を訳の分からないことを…」

少し動揺し、ジンジンする叩いた赤い手を自分で眺める。手は震えていたように見えた。だが伯爵が違和感を感じ取ったのを邪魔するようにハロルドは話し出す。

「ミッチェル嬢は本当にあの反逆者を慕っていたようだな…あの反逆者にそそのかされ理解ができないのかもしれぬ。だが発言は考えて話した方が身のためだぞ。でなければ共犯者として疑ってしまう。もちろん伯爵もな…。さて…どう説明するんじゃ?」

すぐさま伯爵は身の潔白を証明するために再びバレッタを暴行するべく胸元を掴んだが怯えて涙を流す娘の瞳が目に入った。なぜか握ったこぶしを振るうことができずそのまま護衛の者に投げ渡すように娘を突き飛ばし家に閉じ込め罰を与えますと伝えた。だがその言葉に反応するようにハロルドは言う。

「身の潔白を証明するのならワシが預かろう。何も悪いようにはせぬ。ただ無礼な態度を見過ごすわけにもいかぬからのぉ。良いな?」

「はい。仰せのままに…」

バレッタはそのまま宮殿に残り牢屋とまではいかないがホコリまみれの綺麗とは言えない部屋に閉じ込められた。食事をもらうときも開かない重たい扉はバレッタを追い詰めていく。ずっと大好きだった父親に殴られたあの恐怖を忘れられない。

「パパ…リアム様…」小さなか細い声だけが部屋に響く。

「あの娘はよう働いてくれおった。洗脳をせずあの罪人にくっつけたのは正解だった。あの伯爵もダメだなぁ。洗脳されてなお殴るのを止めおって…ワシを一番に優先しなければ欲しい地位にはたどり着けぬのに…。夜会ではどんな景色が見れるのか今から楽しみじゃわい。」

豪遊し、ふんぞり返っている皇帝とは関係なく実りの雫の儀式準備や夜会の準備が進んでいる。宮殿は忙しさのピークを迎えていた。皆が皆慌ただしく走り回るも文句や話し声が一切なく指示の声しか聞こえない。もう全員洗脳をし終わっている宮殿では静かに働く奴隷のような光景が広がっていた。

全てを取り仕切っているのがオリビア。そしてその周りをちょこまかと邪魔をしているフレデリック。

休憩時間さえも与えられないまま働かされた侍女や執事たちのおかげで例年よりずいぶん早く準備が終了した。

もうじき独裁者の国になる。すべてが皇帝の意のまま。無事にオリビアとフレデリックの子が出来ることに安堵しハロルドは自分の事だけを考えていた。

実りの雫の夜会で大半の洗脳を終わらせる予定だという。そのための種はまいた。あとはその時を待つだけのハロルドは一人で高笑いしながら酒を飲み眠りについた。
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