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フレデリックの失礼な訪問にもティナは帰ってきてくれたことを喜んだ。

「フレデリック様ぁ。帰ってきてくれたんですかぁ?」

未だに泣いているティナを冷たく見下しフレデリックは言った。

「ティナ…いや、フィータム侯爵令嬢。今すぐ荷物をまとめて出ていけ。」

「えっ?フレデリック…様…?どうして?どうしてそんな冷たい目でそんなことおっしゃるのですかっ!」

「何も不思議ではない。騙した罪人になぜそんなことを気にしないといけないだ?」

「ざ、罪人だなんて!」

その言葉に返事することもなくただ冷たく睨むフレデリック。

先ほどまでは出産したばかりだからまだおいてやると言っていたのにたった少しの時間でこの変わりよう。ティナは今までのフレデリックとは思えなかった。目が合っているとは思えないほどの冷たい目。このままここに居続けようとすれば殺されるのでは?と思うほどの恐怖。ティナは本能的に受け入れるしかないと思った。

「荷物をまとめます…」

その言葉でフレデリックは無言で部屋から出ていく。侯爵家からついてきていた専属侍女はティナを心配する。

「お嬢様っ!大丈夫ですか?あぁ。お嬢様になんという仕打ちを…」
「出産したばかりなのに追い出されるなんて…お身体に負担がかかります。私たちが準備いたしますので横になっていてください。」

必死に侍女たちは心配しているが頭の中では自身の心配をしていた。皇太子殿下に罪人呼ばわりされた令嬢の専属侍女。周りに次期皇后の専属侍女だと自慢気に話してきたから余計に恥をかくことになるだろう。侍女は一生を誓う騎士たちのようにはなれない。共倒れは避けたかった。生きてここを去るために何も考えられないティナに代わって侍女たちが侯爵家に連絡をする。詳しい内容を侍女から話すことはできなかったが早急に迎えに来てもらった。ティナはショックからか何も発する事なく侯爵家に帰っていった。

ティナが宮殿を去る裏で国民には皇太子の騙されていたという発表が始まる。

「おい。1時間遅れで何かあったのかと思っていたが皇太子殿下一人だ。」

ざわつく帝都内。フレデリックは悲しそうな顔で国民に訴える。

「我が国に住む民たちよ!今日は幸せな発表が聞けると思い楽しみにしていたものたちよ。祝福してくれる用意をしてくれていたのだろう。だが、私は恥ずかしながらフィータム侯爵令嬢に騙されていたのだ!産まれてきた男児の瞳は水晶瞳ではなく私の子供ではないことが先ほど発覚した。水晶瞳を確認せず発表を決断をしたのは私だ。父上が居ない間に勝手な行動をしてしまった事を詫びたい…よって私は妻のオリビア・ウォールデンとの離縁宣言を取り消しオリビアを一生愛すと誓うことを宣言するっ!」

フレデリックは産まれた子供が水晶瞳ではなかったこととオリビアを愛する宣言だけして国民が気になっていたことの経緯は何もわからずに発表が終わった。

フレデリックの口から何が起こったのか伝えられなくても国中に噂が回る。

オリビアはその発表の音を庭園で聴いていたが話されている言葉の数々でハロルドはフレデリックを洗脳したんだと知った。作戦を練るために頭を整理しようとしたがそんな暇はなくフレデリックがオリビアのいる庭園に駆け付け見つけた瞬間に駆け寄ってオリビアを抱きしめた。

オリビアはその瞬間脳内が停止し何が起きたか理解するまで時間がかかってしまった。抱きしめられたと理解した途端表現できないほどの拒絶感に襲われる。無意識に「いやっ…」と身体を遠ざけるが引き離した手をがっしり掴まれフレデリックは言った。

「ごめんね。オリビアの事今までないがしろにして…怒って当然だ。でも許してくれるよね?オリビアはずっと一途に私を思ってくれてたんだから。これからはオリビアの事だけを愛すよ。」

背筋が凍るほどの恐怖とフレデリックとは思えない言動に引いてしまうオリビア。感情が入り乱れていても感情を隠し今後の為と思いオリビアはフレデリックを抱きしめた。その様子をハロルドが見ているとも知らずに。

相思相愛になったのを確認でき満足だったのかハロルドはニヤッと不気味に笑った。大きめの鏡の前に立ち自分が老いていないのも確認し再び笑みが漏れる。

「最初からこの仕組みに気が付くべきだったのだっ!!これで入れ替わりの事は隠せたのぉ。一時はどうなるかと思ったが子が出来るのも時間の問題じゃな。このやり方がいけるなら国民全員の洗脳も夢じゃない。最近文句を言うてくる虫も増えてきたし徐々に洗脳していくかのぉ~。」

ハロルドが帰還してから1週間がほどが経ったが大きな動きはない。帰還してからが本当の勝負だと思っていたが慎重に動くハロルド。相変わらず仕事はオリビアの所へやってくる。変わったことといえばフレデリックと同じ執務室になった事。部屋も皇宮に戻った。
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