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第2章 過労死した俺、リリアが顔を隠してる理由に迫る。

第20話

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 悠斗とリリーナは、色褪せた地図の指し示す方向へと足を進めた。森の奥深くへ向かうほどに、空気は冷たく重くなり、不気味な静寂が二人を包み込む。木々が不自然にうねり、日差しすら届かないその場所は、まさに「闇の回廊」という名にふさわしい異様な雰囲気を漂わせていた。

「ここが、闇の回廊ってことなの……」

 リリーナが震える声で呟いた。視線の先には、古い石の門が見え、その先へと続く暗い道が口を開けている。門の先には、洋館が立っている。その様相はとても不気味なもので、悠斗が元いた世界であったら明らかに心霊スポットになっているだろう。二人が門に近づくと、無数の刻印が石に掘り込まれていることに気づいた。

「なんの刻印だろう……?」

 悠斗は呟きながら、慎重に門の内側へと足を踏み入れた。重苦しい雰囲気に飲まれそうになるのを振り払い、悠斗とリリーナは奥へ進む決意を固めた。

「さぁて、鬼が出るか蛇が出るか……」

 二人は互いに頷き合い、館の中へと進もうとした瞬間、道の奥から微かに光が見えた。誘われるように進んでいく。石造りの道の中央には古い祭壇のようなものが置かれており、その上に黒い布に包まれたものが置かれていた。

「なんだこれ。祭壇?」

「なんかすごく物騒な感じだね……」

 二人は祭壇を見てそれぞれ感想を述べていると背後に何かの気配を感じて振り返った。

「誰かいるのか……?」

 悠斗の呼びかけに応えるように、広間の暗がりから先ほどの仮面の影使いが姿を現した。相変わらず冷ややかな雰囲気を纏い、仮面の向こうから鋭い視線を悠斗たちに注いでいる。

「待っていた」

「お前、さっきの……!お前は、リリアさんを狙ってるあの男と同じ一族なのか?」

 悠斗の問いかけに、仮面の影使いはゆっくりと頷いた。

「影の一族とは、その名前の通り生まれ持った『影の力』を操る者たちだ。例外を除いて全員家族というわけだ。なぜだか、影の力はその一族からしか発生しないものだとされていた。そして一族はリリアを裏切り者と呼び抹殺することを企んでいる」

 悠斗は息を呑んだ。リリアが「影の一族」に関わる存在であることは理解できたが、なぜ彼女が裏切り者と呼ばれるのか、そこまではわからなかった。

「裏切り者、か……。彼女が一族を裏切った理由はなんだ?」

 悠斗が問いかけると、仮面の男は一瞬、言葉を探すように沈黙した。しかし、やがて静かな声で語り始めた。

「彼女はもともと、一族の人間ではない。しかし、リリアは影の力を持っていた。ちょうど君と同じようにね」

 仮面の男は、悠斗を指差しながら言葉を続ける。

「なので、僕たち一族は彼女を仲間に引き入れた。しかしリリアは我々の掟に逆らった。ゆえに……一族から追放され、裏切り者になったんだ」

「掟に逆らった……?」

 悠斗が眉をひそめると、仮面の男は口元をわずかに歪め、静かに頷いた。

「そうだ。影の一族は代々、ファルディアの地下社会に根を張り、ファルディアの表も裏も支配してきた。その掟のもとに、影の力を悪用し、さまざまな工作活動を行ってきたんだ。だが、リリアはそれに反発した。おそらく彼女は……」

 仮面の男は一瞬言葉を区切り、視線を彷徨わせた後、鋭い口調で続けた。

「彼女は、その力を不正や悪事に使いたくなかった。だが、影の一族にとって掟とは絶対。どんな犠牲を払っても、命令に従わぬ者は処罰される。そして、彼女は影の使い手たちから追われる身となった」

 悠斗は驚きと共にリリアの覚悟を思い返し、彼女がこの過酷な状況で影の一族と対峙する決断をしていたことに胸を打たれた。

「じゃあ、あの男を筆頭に影の一族はその掟を守ろうとして、リリアさんを追ってるってことか……だけどあんたはなんでこんなこと教えてくれるんだ?あんたも影の一族じゃないのか?」

 悠斗が疑問をぶつけると、仮面の男は一瞬沈黙し、目の奥で冷たい光が揺らめいた。

「僕の名はイザーク。影の一族に潜入している、王国の密偵だ」

 リリーナが息を呑んで男を見つめ、慎重に尋ねた。

「潜入している……つまり、影の一族を追い詰めるために?」

「その通り。王国にとって、影の一族の存在は長年の懸念事項だった。奴らが王国の秩序を崩し、政治に悪影響を与えてきたことは言うまでもない。王国は影の一族を壊滅させるため、僕を送り込んだ。僕は一族ではないが影の力を使える例外だ。だから奴らに溶け込みチャンスを伺っていた。そんな時、同じく一族ではないのに影の力が使えるリリアが現れた」

 イザークは淡々とした口調で語ったが、そこにはどこか厳しい決意の色が滲んでいた。

「リリアは、一族の悪事が許せなかった。彼女が掟を破ったのは、その良心からだ。だが、影の一族にそんなものは通じない。彼女は掟を破ったことにより、殺される運命となった」

「なら、あんたはリリアさんを助けるためにここに来たのか?」

 悠斗が鋭い目で問い詰めると、イザークはわずかに表情を緩めた。

「そうだ。だが、僕はあくまで王国の命に従って動いている」

 仮面の奥から、イザークの冷徹な視線が射抜くように悠斗を見据えた。
 リリーナは不安げにイザークを見つめた。

「リリアちゃんが抱えているものが、そんなに重いなんて……」

「影の力を得ている以上、その力の使い道を選ばなければならない」

 悠斗はイザークの言葉を聞きながら、静かに決意を固めていった。

「俺はリリアさんがどんな選択をしようとも、助ける。影の一族だろうがなんだろうが、倒してやる」

 イザークはその決意を見つめ、仮面の奥で薄く微笑んだように見えた。

「ならば、お前も僕とともにこの道を進もう。リリアを助ける」

 今まで冷静な口調だったイザークだが、その言葉には熱がこもっていた。
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