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第2話

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 牢屋の冷たい石の上に座り込んだまま、遥斗は拳を固く握りしめた。胸中で燃え上がる怒りが収まることはなく、深い失望と屈辱が次々と彼の心に押し寄せる。期待に胸を膨らませた異世界召喚の夢は、今や悪夢のような現実へと変わり果てていた。
 

「くそっ……」

 遥斗が異世界召喚に憧れていたのは、現実の退屈さや無力感から逃れたいという単純な欲望からだった。学校生活にも、家族との関係にも疲れ果て、彼は日々を無力に感じていた。だからこそ、異世界での「特別な存在」になれる可能性に賭けてみたかったのだ。まさかそんなものが本当にこの世にあるとは思っていなかった。もしも異世界に行けたらどうやって無双してやろうかと妄想することで、現実世界の理不尽や自分の不器用さ、不甲斐なさを誤魔化し許容しながら、なんとかくらいついて生きていた。
 
 だが、異世界はあった。そして召喚された結果は惨めそのものだった。期待された役目のようなものがあったみたいだが、挑戦すらせてもらえないまま「失敗作」として王国の人々に見限られ、こうして薄暗い牢屋に閉じ込められてしまった。
 遥斗は、先ほど胸に秘められた「秤」の力に意識を集中してみる。ほんの少しの間、先ほど感じた「真実の秤」の重みを体に感じることができたが、すぐにそれは消えてしまった。しかし、遥斗は明らかにさっき何かが起こったということは感じていた。

 その後、遥斗は牢屋で日がな一日ただ座っていることを強いられた。食事は一日一度だけで、冷たく味気ない粥が小さな鉄皿に盛られているだけだ。飢えと寒さに耐えながら過ごす日々だ。
 数日が過ぎたある日、牢屋の鉄格子が開き、二人の衛兵が遥斗の前に現れた。彼らの無表情な顔には、何の同情も見られない。

「お前にはこれから、『奴隷』として王国のために働いてもらう。役立たずな貴様にとって、それ以外の価値はない」

 衛兵の一人が冷酷な声で言い放ち、遥斗を無理やり引きずり出した。遥斗は必死に抵抗するが、力では到底勝てない。無理やり縄で縛られ、外の世界へと連れ出された。

 外に出た瞬間、遥斗の目に飛び込んできたのは広大な王宮の庭園だった。壮麗な花々や手入れの行き届いた樹木が広がり美しい景色が広がっていた。
 しかし、その美しさとは裏腹に、遥斗はこれから待ち受ける苛酷な日々を予感していた。
 遥斗はそれからというもの、毎日厳しい労働を強いられることになった。城の壁を掃除し、重い荷物を運び、貴族たちの食事を運び込むなど、肉体的にきつい作業が延々と続いた。
 ある日のこと、遥斗が王宮の庭で荷物を運んでいる最中、一人の貴族が彼に近づいてきた。貴族は遥斗を軽蔑の目で見下ろし、わざと足を引っかけて倒れさせた。

「ふん、役立たずが。異世界から召喚されてきたと思えばこの程度か」

 遥斗は痛みに顔を歪めながらも、何も言い返すことができなかった。悔しさで拳を握りしめるが、今の自分に反抗する術はないことを痛感する。
 そんな理不尽な扱いを受け続けながらも、遥斗はなんとか生きる。

 *

 ある夜、遥斗が疲れ果てて牢屋の中で眠りに落ちていたとき、再び頭の中にあの低く響く声が聞こえてきた。

『――汝が背負う怒りと悔しみ、今こそ我に示せ』

 遥斗はふと目を覚まし、周囲を見渡すが、誰もいない。しかし、彼の心には確かな感覚が残っていた。「真実の秤」とあの時いった何かだろう。
 声が告げたのは、遥斗が「裏切り者」や「嘘つき」を見抜き、彼らを罰する能力であった。今はまだ不完全であったが、遥斗はこの力を使いこなせるようになれば、自分を辱め、虐げた王国の人々に対して復讐を遂げることができるかもしれないという希望を感じた。
 それからというもの、遥斗は意図的に王国の人々がどのように自分に接し、どのような言葉を投げかけてくるのかに注意を払うようになった。
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