89 / 143
狛犬のケンカ
20
しおりを挟む
◇◇◇
「んっ……」
鳥がさえずる音が聞こえ、徐々に覚醒していく頭。ゆっくりと目をあけると、もう見慣れた天井が目に入った。
「起きたか、あやめ」
ふと隣から聞こえてきた声に視線をやると、紫苑がそこにいた。私が体を起こして起き上がると、水を差し出してくれたのでありがたく受け取り、それをぐいと飲む。随分と体が重い。
「……私、また倒れたの?」
記憶を辿ってみると、鬼神と呼ばれていた男が退散して以降の記憶がない。
「多分、鬼神の気に当てられたんだろうって、白哉様が。白哉様たちは、いま屋敷の結界を強化しに行ってる。終わったら、こっちに来るだろうけど……」
紫苑の説明をぼんやりと聞いていると、目に入った紫苑の首元。鬼の爪が当たったのか、傷跡が残っているのを見つけてしまい、私は慌てて側に寄る。
「紫苑、ごめんなさい、その傷……っ」
謝罪した私に紫苑は一瞬、目を丸くしていたけれど、「別にこれくらい、すぐ治るし」と何でもないことのように返された。もしかしたら、あやかしの治癒力は人間に比べると早いのかもしれないけれど、それでも私は誰かが傷つくのは嫌だった。そう思っていると──。
「……それに、あやめだって俺を助けようとしてくれただろ」
ぽつりと呟かれた言葉に目を見張る。
「『大事だから守りたい』って教えてくれたのは、あやめの方じゃないか」
続いた言葉に、さらに驚く私。まさか紫苑にそう言われるだなんて。目をぱちぱちとさせ動きが止まった私を、紫苑は怪訝な表情で見つめていた。
「なんだよ」
「……私のこと、大事だって思ってくれるんだ」
私がそう尋ねれば、途端に顔を赤らめる紫苑。
「べ、別にめちゃくちゃ大事だとか、そんなんじゃないからなっ!」
ごにょごにょと何か言っている紫苑の姿に口元が緩んだ。ぶっきらぼうな言い方だけれど、その言葉から紫苑の優しさが伝わってくる。そっぽを向いてしまった紫苑に茶化しすぎただろうかと反省して、私は「紫苑」とその名を呼んだ。
「……こういうときは『ごめん』じゃなくて、『ありがとう』って言えばいいのよね」
私がにこりと微笑みかければ、目をパチパチさせる紫苑。それから「そうだな」と、ゆっくりと頷いてニッと歯を見せて明るく笑った紫苑に、私の胸もなんだかほっこり。
「紫苑っ!あやめ様っ!」
と、そのとき、開いたままの障子戸の向こうから現れたのは、御膳を持った天音君だった。
「んっ……」
鳥がさえずる音が聞こえ、徐々に覚醒していく頭。ゆっくりと目をあけると、もう見慣れた天井が目に入った。
「起きたか、あやめ」
ふと隣から聞こえてきた声に視線をやると、紫苑がそこにいた。私が体を起こして起き上がると、水を差し出してくれたのでありがたく受け取り、それをぐいと飲む。随分と体が重い。
「……私、また倒れたの?」
記憶を辿ってみると、鬼神と呼ばれていた男が退散して以降の記憶がない。
「多分、鬼神の気に当てられたんだろうって、白哉様が。白哉様たちは、いま屋敷の結界を強化しに行ってる。終わったら、こっちに来るだろうけど……」
紫苑の説明をぼんやりと聞いていると、目に入った紫苑の首元。鬼の爪が当たったのか、傷跡が残っているのを見つけてしまい、私は慌てて側に寄る。
「紫苑、ごめんなさい、その傷……っ」
謝罪した私に紫苑は一瞬、目を丸くしていたけれど、「別にこれくらい、すぐ治るし」と何でもないことのように返された。もしかしたら、あやかしの治癒力は人間に比べると早いのかもしれないけれど、それでも私は誰かが傷つくのは嫌だった。そう思っていると──。
「……それに、あやめだって俺を助けようとしてくれただろ」
ぽつりと呟かれた言葉に目を見張る。
「『大事だから守りたい』って教えてくれたのは、あやめの方じゃないか」
続いた言葉に、さらに驚く私。まさか紫苑にそう言われるだなんて。目をぱちぱちとさせ動きが止まった私を、紫苑は怪訝な表情で見つめていた。
「なんだよ」
「……私のこと、大事だって思ってくれるんだ」
私がそう尋ねれば、途端に顔を赤らめる紫苑。
「べ、別にめちゃくちゃ大事だとか、そんなんじゃないからなっ!」
ごにょごにょと何か言っている紫苑の姿に口元が緩んだ。ぶっきらぼうな言い方だけれど、その言葉から紫苑の優しさが伝わってくる。そっぽを向いてしまった紫苑に茶化しすぎただろうかと反省して、私は「紫苑」とその名を呼んだ。
「……こういうときは『ごめん』じゃなくて、『ありがとう』って言えばいいのよね」
私がにこりと微笑みかければ、目をパチパチさせる紫苑。それから「そうだな」と、ゆっくりと頷いてニッと歯を見せて明るく笑った紫苑に、私の胸もなんだかほっこり。
「紫苑っ!あやめ様っ!」
と、そのとき、開いたままの障子戸の向こうから現れたのは、御膳を持った天音君だった。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
冤罪から逃れるために全てを捨てた。
四折 柊
恋愛
王太子の婚約者だったオリビアは冤罪をかけられ捕縛されそうになり全てを捨てて家族と逃げた。そして以前留学していた国の恩師を頼り、新しい名前と身分を手に入れ幸せに過ごす。1年が過ぎ今が幸せだからこそ思い出してしまう。捨ててきた国や自分を陥れた人達が今どうしているのかを。(視点が何度も変わります)
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
拝啓、許婚様。私は貴方のことが大嫌いでした
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【ある日僕の元に許婚から恋文ではなく、婚約破棄の手紙が届けられた】
僕には子供の頃から決められている許婚がいた。けれどお互い特に相手のことが好きと言うわけでもなく、月に2度の『デート』と言う名目の顔合わせをするだけの間柄だった。そんなある日僕の元に許婚から手紙が届いた。そこに記されていた内容は婚約破棄を告げる内容だった。あまりにも理不尽な内容に不服を抱いた僕は、逆に彼女を遣り込める計画を立てて許婚の元へ向かった――。
※他サイトでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる